第27話 出来るものならな・・・

(どうしてこうなった?)


理解が追い付かない。


神官が俺の事を『神』と呼んで絶叫している。

完全にアレだ。

脳内麻薬で興奮汁がブシャーとなっている人間に似ている。

トリップしているとも言うよ。


こんな時はダリアに助けを求めるのが正解なんだろうが、今のダリアは自分に釣り合う男が出現するまでは中立の立場なんだろうな。

俺の目の前にいる神官を何とかしないと話が進まない。


「神官様!しっかりして下さい!」


ハイ状態になっている神官の肩を揺らし声をかけると、神官の目の焦点が徐々に元に戻っていくように見えた。



「神官殿!」


おっと!

再びダリアパパがちょっかいをかけてきたよ。

この人が絡むと碌な事しか起きていない気がする。

頼むからちょっかいを出さないでくれ!


「は!辺境伯様!」


ダリアパパの言葉で神官が我に返ったようだ。


「これは一体どうしたのだ?ダリアの時もそうだったが、今のはそれ以上の事だったぞ。まさか水晶球が消え去ってしまう程に光り輝くとは・・・」


(消えた?)


そういえば俺の前がやけにスッキリしていると思った。


台座の上にあった水晶球が無い!

ダリアの時のように割れたのでもないのか?


さすがにちょっと怖くなってきた。


「それで神官殿、結果はどうなんだ!これだけ前代未聞の事があって何も無かったです!とはなっていないよな?」


とっても鋭い目でダリアパパが神官を睨んでいるよ。

俺も鑑定結果がすっごく気になる!



「・・・」



「・・・」



何だ?

神官が口ごもってしまい下を向いてしまった。


「どうした!何か言えない事でもあったのか!」


ダリアパパがまた喚いているよ。

頼むから場を荒らさないで欲しい!


ほら!


またダリアがゴミを見るような目でアンタを睨んでいるよ。



「本来なら我が教会最上位の教皇様が公表しなければならないのですが、恐れながらこの私が発表させていただきます。」


(何をそんなに恭しいの?)


「それでは・・・」


コホンと神官が咳払いをすると、とても熱っぽい視線を俺に送ってきた。

何だろう?お尻が無意識にむず痒くなって、危機を感じてしまった。


「このお方のスキルは


     剣神   剣技(極大)   」


「「はい?」」


俺もダリアパパも思わず声が出てしまう。

こんなスキルは初めて聞いた。

ダリアの『剣聖』は聖女と同じく数百年に1人の確率で現れる伝説級のスキルだけど、神の名を冠したスキルの存在は回帰前の知識も合わせて聞いた事がない。

もしかして、このスキルは教会が実は把握しているのかもしれない。剣聖よりも更に上のスキルとして・・・

教会トップの教皇の存在が出てくるまで大げさになっているからな。



「神の名が付くスキルだと・・・、そんなスキルの存在は聞いた事が無い・・・」


ダリアパパは半分放心状態で呟いているよ。


「辺境伯様!」


神官が放心状態のダリアパパに声をかけると、ハッとした表情になり意識が回復したようだ。


「これで驚かれると心臓が保ちませんよ。まだ続きがあります。」


「マジ?これ以上だと本当にダリアの・・・」


(おい!)


この期に及んでまだ渋っているのか?

ダリアの視線が一気に不機嫌になったのを見逃さない。


「それでは次のスキルです。」


マジかい?

まだあるのか?


「こちらも信じられませんが・・・


     拳神   体術(極大)   」


マジ?


体術に関しても神の域に至っているのか?


(信じられない!)


確かに1年半前にベヒーモスに勝ったけど、そういう事だったのね。

それくらい俺が化け物じゃないと勝てないわな。


「実は・・・」


神官がジッと俺を見つめる。

まだ何か言いたそうな感じがして、無意識にゴクリと喉が鳴ってしまう。


「正直申しますと、あなた様はこのまま平民にしておくのには我ら教会が許さないでしょう。あなた様さえ良ければ我ら教会に帰依しませんか?その時には聖女様も私達教会の力をフルに使って帝国からぶんどります。そして聖女様と2人で我ら教会を導いて欲しいのです。」


(おい!)


何でそんな物騒な話になる?


チラッとエリザを見ると・・・


うっとりとした表情で俺を見ているよ!


反対にダリアはというと・・・



(怖~~~~~~~~~~~~~~~~~え!)



全身にどす黒いオーラを纏わして神官を射殺すような目で見ている!


俺って聖女以上に教会が手に入れたい存在なのか?


「混乱するお気持ちはわかります。あなた様は我が教会には必要不可欠な存在なのです。伝説のトリプルスキルの持ち主、そしてそのスキルが全て神を冠するスキルなのです。神がこの世界に降り立ったと私は確信しています!」


(うわぁぁぁぁぁ~~~~~!)


また神官がアレのような感じになったよ。


(ちょっと待った!)


今、トリプルスキルといったよな?

しかも神を冠する?


まだあったの?


俺の気持ちが神官に伝わったかもしれない。

神官と目が合うとにっこり微笑んで頷いてくれた。


ダリアパパはというと・・・


親指の爪をガリガリとかじりながら鬼のような表情で神官を睨んでいるよ!


ダリアに言質を取られてしまったし、俺のスキルがダリア以上だったらダリアと婚約する可能性が高い。

それほどまでダリアを取られるのが嫌なのか?

ダリアとの約束、でもダリアを渡したくない、そんな葛藤がダリアパパの中で渦巻いているのが見え見えだよ。


(頭痛がしてきた。)


「アレン様!」


うわぁぁぁぁぁ~~~~~、とうとう『様』付けで呼ばれてしまったよ!


「お待ちかねの発表です!」


待ってない!待ってない!

確かに結果は気になるけど、こんなドキドキで見世物的な発表は勘弁だよ!


「最後の神スキルは!


    魔神    です!


 長らく教会で秘匿されていた神スキル!見事にコンプしました!」


マジかい?


リミット・ブレイクさん!

この12年間、しっかり仕事をしてくれて本当に感謝しているよ!


でもね・・・


何事もやり過ぎな気がしてならない!


いくらセドリックと戦い勝つ事を目標としてしてきたけど、ここまで早くに結果を出す必要は無いんじゃないの?

後からでも伸ばす手もあったのでは?


何だろうね、どんな姿か知らないけど、リミット・ブレイクが親指を立ててニカッと笑いながら白い歯を見せている光景が頭の中に浮かんだよ。



「そして『魔神スキル』ですが、内容も神がかっています!


 スキル内容ですが


   炎魔法(極大)

   水魔法(極大)

   風魔法(極大)

   土魔法(極大)

   雷魔法(極大)

   氷魔法(極大)

   光魔法(極上)

   聖魔法(極)

   闇魔法(極)

   時空魔法(極)

   無属性魔法(極大)

   召喚魔法(極大)


 全魔法に適正を持っています。

 しかもです、極上を超えた極大までお持ちです!

 熟練度が上がるとどこまでの頂に達せられるか?

 まさに『魔法の神』!魔法に愛されし者です!

 ここまでの人はどの文献にも載っていない筈です!神です!神!まさしく神です!」


そして神官が再び俺へ土下座をした。


「アレン様!そのお力!是非とも我々教会と聖女様と共に世界の救済に!アレン様は我々の希望です!我々の手を取って共に歩もうではありませんか!」


スッと手を伸ばしてくる。



弱った・・・

俺のスキルがここまでの大事になってしまったよ。

自分でも薄々化け物スキルとは思っていたけどね。

強くなる事しか考えていなかったから、ここまでになる事は予想していなかった。


さて・・・、ダリアサイドの方はどう動くか?


ガタッ!


あれから椅子に座っていたダリアだったけど、すぐに立ち上がり辺境伯様のことろへと歩き始める。


「父上・・・」


正面に立ちジッと見つめていた。


「ダリア・・・」


そう呟きながらゆっくりと辺境伯様が俺へと視線を移す。


何だろうな、すっごく視線が痛い。

そんなところはダリアと一緒なんて、やっぱり親子なんだろうな。


「どうやら納得していないようですね。分かりました。」


その言葉を言うとダリアが深いため息をする。

直後に神官へ深く頭を下げた。


「神官殿、どうやら父は目が曇って何も見えないようです。彼の事は皇帝に報告をしなければなりませんが、確実に皇帝から彼の取り込みの打診があると思います。ですが聖女の時と違いまだ平民の身分でいますので、教会の方にもチャンスはあると思います。」


「ダ、ダリア様・・・、我々にチャンスを?」


神官が深々と頭を下げる。


「そうです。そして、私が父と一緒にいる限り、父は私に執着する事により何度も誤った判断をするですでしょう。ですから、私は父から離れようと思います。昔、ある貴族から言われたのですよ。私の存在は国を傾けてしまうとね・・・、思いたくありませんでしたが、今の父を見る限り、このままだと私達の領地はダメになるでしょうね。私に執着する限り何度も誤った判断をしてね。今の父の姿を見て確信しました。私はここにいない方が良いと・・・、あなた方教会でも僻地にある女性だけの修道院に私を入れて下さい。」


今度はダリアが頭を下げた。


(ダリア、本気か?)


「お、お前・・・、いきなり何を・・・」


ダリアの予想外の行動にダリアパパが今にも泣きそうな顔になっている。


「だって、そうでしょう?彼を認めないという事は、彼のスキルは私よりも低いとの判断ですからね。そういう事は、彼を教会の所属にしても良いとの判断と同じです。貴族ならともかく、平民だと教会にも人材を獲得出来る権利が国と平等にありますから。ここまで神官殿が手放しで褒めている人物、父上は私欲で格下だと判断し見逃したのです。私が見る限り歴代最高の勇者をね・・・・、過去誰も成しえなかった魔王を倒せる可能性のある勇者を・・・、近い将来、魔王を倒した初の功績は教会になるでしょうね。この帝国の目が節穴だった原因を作った貴族として汚名を被り続ける未来しか見えません。私がここにいる限り父上の目は曇り続けるでしょう。」


ペコリとダリアパパに頭を下げた。


「今までありがとうございました。」



うわぁぁぁぁぁ~~~~~、ダリアさんやぁぁぁぃ・・・

父親に究極の選択をさせてしまったよ。



「クロエ!」


ダリアがクロエさんの名前を呼ぶとクロエさんがいきなりダリアの隣に現れる。


「クロエもありがとうね。」


「いえ!」


クロエさんがキリッとした目でダリアを見つめている。


「私も一緒について行きます。私が仕えるお方はダリア様、唯お1人です!」


「クロエ・・・」





「・・・った・・・」


ボソッとダリアパパが呟いた。


「私が間違っていた。私の負けだよ、ダリア・・・」


フッとダリアパパが微笑む。


「私も帝国の貴族の1人だ。間違った判断はしない。私の個人的感情によって帝国の損失に繋がる事など絶対に避けなくてはならないのだ。」


「父上・・・」


「み、み、み・・・」


うわぁ~、ダリアパパの顔が凄い事になっているよ。

まさか、血の涙まで流して、表情が歪むだけ歪みまくっているし。


どんだけ言いたくないのかな?


「みぃぃぃぃぃとぉぉぉぉぉめぇぇる!」



「えぇぇぇ~~~、よく聞こえませんがぁ?」


ニヤニヤとしたダリアが耳に手を当ててダリアパパに詰め寄っているよ。


(おい!これ以上は刺激しないでくれ!)


人間、追い詰められて開き直ったら、何をするか分からないからな!



「認めると言ったのだ!」



「父上、本当にですか?」


ダリアがとっても嬉しそうに微笑んでいる。

血の涙を流しているダリアパパとは正反対の顔だよ。


「あぁ・・・、認めよう・・・、この泥棒猫との『お付き合い』をな・・・」



「はぁあああああああああああ!」



ダリアの絶叫と同時に上空に数十本も氷の槍が浮かび上がる。

このままダリアパパを串刺しにするつもりか?


だけど、ダリアの気持ちも分からなくはない。

さっきからダリアは俺との婚約を父親に迫っているのだ。

認めたと思ったら、婚約ではなくお付き合いって・・・


ダリアにとっては騙されたと思っているのだろう。


だが!


今のダリアも冷静ではないと思う。

普通に考えれば俺とダリアの婚約自体が・・・


「ダリア、冷静になって考えろ。お前は貴族の娘、そして父親である私の爵位は辺境伯だが、位の位付けは侯爵位と同等なんだぞ。そんなお前が簡単に平民である小僧と婚姻を結べるか?貴族の婚約や婚姻は皇帝に届け出を行い承認されなくてはならない。小僧の立場まで私が手を回す手助けはしない。それだけ小僧と一緒になりたいのなら、小僧の地位もどうするか?自分の力でやってみるんだな。出来るものならな・・・」


そう言って俺達に背を向け自分の席に戻った。


ダリアを見てみると・・・


目に大量の涙を浮かべジッと俺を見ている。



フワリ・・・



ダリアが浮かび上がり俺の目の前にゆっくりと舞い降りる。


そのままダリアに抱きつかれてしまった。

俺の存在を確かめるかのように頬を俺の胸に当てている。


「アレン・・・、今はお主の温もりだけを感じていたい・・・」


「ダリア・・・」



しばらくすると、ダリアが顔を上げジッと俺を見つめる。


「父上の言った通り、お主と妾の身分には差がある。でもな、お主の前ではそんなものは障害にもならんだろう。アレンよ、妾と2人でこの帝国に伝説を作ろうではないか。誰からも文句が言えないくらいに徹底的にな。」


「そうだな・・・、今から俺達の伝説が始まるんだな。すぐにダリアの隣に立てるようにするよ。」


「待っているぞ。」


ジッと俺を見つめていたダリアが目を閉じた。


1年半前の時はダリアからだったが、今度は俺からキスをする。



(もう2度と離さない・・・)






「いきなりダリアが男とキスを・・・、そんなの・・・、そんなの・・・」


目の前の2人の行動に辺境伯が頭を抱え


「あぁああああああああああああああああああああああああああああ!」


絶叫してしまった。


「ダリアが不良になったぁああああああ!」



ピシッ!



ガラガラ・・・



真っ白に燃え尽きたようになった辺境伯は、全身にヒビが入り粉々に灰になってしまった。

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