第26話 どうしてこうなった?

「思い知ったか?バカ親父め・・・」


両足を父親の股間に喰い込ませていたが、軽く膝を曲げ跳躍し父親から離れる。

その時、ピクピク!と一瞬痙攣していた姿が見えた。


(死んでいないようで良かったぁぁぁ・・・)


「これでしばらくは大人しくなるだろうな。」


晴れやかな笑顔でダリアが俺に微笑む。


「神官殿。」


ダリアが声をかけると神官がピクッと震える。


「ダ、ダリア様・・・」


神官が恐る恐るダリアへと近づいた。


「私の父がご迷惑をおかけし大変申し訳ありません。ちょっと脱線してしまいましたが、残りのスキルの儀を執り行いましょう。」


ダリアが貴族の見本のような華麗な仕草で謝罪を行い、再開の提案をしている。


「わ、分かりました。そのように手配を行います。」


しかし、その神官だけど、例の割れた水晶球をジッと見ていた。


「あ、あのぉぉぉ・・・」


「どうしました?」


「あの鑑定球を後世に残しておきたいのです。新たなるスキル【魔王】の顕現の証として!どうでしょうか?」


ダリアのこめかみがピクッと動く。



「却下!」



ズズズ・・・


割れた水晶球の間に漆黒の球体が出現する。


バキバキィィィ!


粉々に砕け、その破片が漆黒の球の中に吸い込まれていき、台座ごとそこにあった物全てが消滅してしまった。


「こ!これはブラックホール!闇の上級魔法を!しかも無詠唱で・・・」


「私はあまり目立ちたくないの。お分かりでしょう?」


すっごい威圧を神官に向け微笑んでいるダリアだけど、どこが目立ちたくないって?もう十分過ぎる程に目立っているよ!


「わ、分かりました・・・、それでは予備の鑑定球をお持ちします。」


凄く萎れた感じで神官達が下がっていく、あの水晶球が本当に欲しかったのだろうな。

可哀想に・・・

ちょっと同情してしまう。





「まだだ・・・」


(ん?)


「まだ私は敗れていない・・・、どんな目に逢わされようが、泥棒猫にダリアは絶対に渡さん!」


おい!

まだダリアパパの声が聞こえるぞ!


股間を押さえながらゆらりとダリアパパが起き上がる。

だけど、相当に股間が痛いのだろう。

思いっきり内股で膝もガクガクしている。


それ以前にだ!


股間にトドメを刺したのはダリアだぞ!

俺じゃないんだ!

そこまで目の敵にされているなんて誤解だよ!


ダリアがスタスタと父親の前まで歩いていく。


「おぉぉぉ~~~、可愛い愛しのダリア、お前なら分かってくれるよな?この父の気持ちを・・・」


しかしだ!

そのダリアがまたもや父親をゴミを見るような目で見ている。


「父上・・・」


「ダリア・・・」



「しつこい男は嫌われますわ。それにですよ、私はもう12歳、私の好きな人は自分で決められます。いつまでの父上の言いなりの娘だとは思わないで下さい!」



「何を言っているんだ?私は可愛いダリアが喜ぶだろうと思ってずっと頑張ってきたのだよ。だから、いつもみたいに『父上大好き!』って言ってくれないのかな?」


(うわぁぁぁぁぁ~~~~~)


思った以上にダリアパパはダリアにベタ惚れだったよ。

ダリア愛が重過ぎ!

確かにあの可愛さならあり得るだろう。

誰にも渡したくないし、独占したい気持ちも分からないではない。

だからといって可愛がり過ぎだ!

小さい時ならまだしも、年頃のダリアが嫌がる気持ちも良く分かる。

まぁ、俺と同じで赤ん坊の時から中身は大人なんだけどね。

そんな状態でしつこくベタベタされたら堪ったものではいないよ。

俺でも母さんの激しいスキンシップに恥ずかしさで堪らないのに、いくら父親でもベタベタやスリスリは拷問だっただろう。

だからといって、あまりツンツンする訳にもいかないし、たまには父親といえゴマスリも必要だっただろうな。

それがダリアからの愛情だと勘違いしていたのだろう。


コレに関してはダリアに同情する。


「どうやらハッキリと言わないと分からないかもね?」


「ダリア、何を言っているんだ?」


「父上、ハッキリと言いますね。」


ダリアの視線がとっても鋭くなる。


「そろそろ子離れせんかい!このロリコンくそ親父がぁあああああああ!妾はアレンと添い遂げる!絶対にな!もし邪魔するなら・・・」


ズン!


さっきよりも何倍も大きな漆黒の球がホールの天井付近に浮かび上がる。


「ふふふ・・・、その名の通り魔王となってやろう・・・」


マジかい!今度はダリアが暴走したぞ!


修羅場パート2ってどういう事だよ!


誰か収拾してくれ!




「ジャッジメント!」




天井から黄金の光が降り注ぎ、漆黒の球が飲み込まれ消滅してしまう。


「誰だ!」



パァアアアン!



「は?」


いつの間にかエリザがダリアの前に立っていた。

そのエリザがダリアの頬を打っている。


ダリアが頬を押さえプルプルと震えていた。


「ガキンチョがぁぁぁ・・・」


「いい加減にしてよ!ここはどこなのか分かっているの?みんながスキルを受かるか受からないかで人生を懸けている場所なのよ!それをあんた達親子の喧嘩に巻き込まないで!それにアレンの晴れの舞台なのに・・・、何で滅茶苦茶にするのよ!巻き込まれているアレンの身になってよ!どれだけあなたがアレンが好きでも、今のあなたはアレンと一緒にいる資格は無いわ!」



「ガキンチョ・・・」



ダリアが頬を押さえ呆然としていた。


「ふふふ・・・」


突然ダリアが笑い始めた。


「どっちがガキンチョか?妾が子供に悟らされるとはな・・・、恋は盲目とよく言ったものだ。確かに今の妾の言動は子供が癇癪を起こしているのと変わらん。」


ジッとダリアがエリザを見つめた。


「エリザよ・・・、今回は妾の負けだ。だがな、妾は決してアレンを諦めないからな。次は妾が圧勝してやる。覚悟しておけ・・・」


エリザがハッとした表情になる。


「この話し方って妖精さんと同じ・・・、まさか?」


そんなエリザに対してダリアは優しく微笑んだ。


「ガキンチョ、世の中は知らない方が良い事もあるんだ。」


エリザも優しく微笑んだ。


「そうね・・・、でも、『次も』負けないわよ。」


「望むところ。」



「「ふふふ・・・」」



どういう事だ?

ダリアとエリザが仲良く笑っている。


しかし!


お互いの目が笑っていない!

一種の独特な緊張感が漂っているよ。


どうやらお互いに新しい戦いのステージに上がったのか?

だけど切に願う!


頼むから!仲良くしてくれ!




ダリアとエリザが別れ、ダリアが父親の前に立った。


「父上、今までの非礼は謝ります。」


そう言って深々と頭を下げた。


「ダリア・・・、分かってくれたのか?」


少し嬉しそうなダリアパパだった。


「ですが!」


「ど、どうした?」


ダリアの迫力に少しタジタジのダリアパパだった。


「私の婚約相手はまだ決まっていないのですよね?」


「そ、そうだが・・・」


「ではお聞きします。父上は私にどのような相手と婚姻を結ぼうとお考えなのでしょうか?正直、この国の私の歳に近い令息の釣書はほとんど我が家に来ていますよね?だけど、何度お見合いをしようがどれも父上が『気に入らない!』との事で断っていましたよね?それはどうしてです?」


「それはダリア、お前に釣り合う男がいないからだよ。この歳で全てにおいて完璧なお前に釣り合う男がいない。しかもだ、今回でお前は神にも匹敵するスキルを得たのだぞ。そんなスキルに釣り合う男なんて・・・、私はダリアの幸せしか願っていないのだ。ダリアのスキルに釣り合う男が現われれば最優先で認めよう、そんな男になれば皇族も黙ってはいないだろうが、私は皇族を押し退けてでもダリアの婚約者にさせるからな!私が願っているのはダリアの幸せ!それ以外に何もないと誓う!」


ポロッとダリアが涙を流す。


「そうですか・・・、だったら私は一生結婚出来ませんね。私のスキルに釣り合う方は今後現われるのでしょうか?伝説級の私のスキル以上なんて、今後も多分現われないでしょうから、私は一生独身を貫いて、兄上が結婚されたら奥方には五月蠅い小姑と言われ、そんな淋しい未来しかないなんて・・・、私は籠の中の鳥として一生を家の中で生きていく未来しか見えないです。」


「ダ、ダリア!泣かないでくれ!私は決してお前を泣かせるつもりなんて・・・」


あらら・・・、ダリアパパが慌てちゃったよ。


あれがダリアの貴族のお嬢様モードなんだな。

可愛いとしか言えない。

確かにアレで泣かれると、男としてはどうしようもなく慌てるだろうな。


俺にはダリアの考えている事が分かる。

『押してダメなら引いてみな』作戦だろう。

貴族って回帰前にも経験したけど、言葉にはとっても気を遣うんだよな。

自分が言った事を訂正や取り消すことは貴族としてとても恥だと思っている。

高位になれば更に顕著で言質を取られないよう、言葉はとっても回りくどいし聞いていてイライラする事も多かった。

ポロっと言った一言で言質を取られたって事で、一気に立場が逆転になったりする事も日常茶飯事だったよ。。


(そろそろ追い込みにかかる頃かな?)


「大丈夫だよダリア、釣り合う男が現われたらすぐにでも婚約させよう。そんな男だったら皇族も黙っていないだろうし、先に手を打つ事は約束するよ。」


「本当に?」


「あぁ本当だ。」


ダリアが辺境伯様にギュッと抱きついた。


「約束よ!父上!大好き!」


「パパの名に賭けて約束は守る。ダリア、私も好きだよ。」



あらら・・・、言質を取られちゃったよ。

俺にはダリアが一瞬ニヤリと笑ったのが見えた。


さて、俺も準備をしておこう。

この茶番の肝は俺のスキルなんだからな。

俺のスキルでダリアとの未来が決まる。


(リミット・ブレイクよ、お前を信じるからな。)




その後、無事にスキルの儀が再開された。


辺境伯様の寄子達の貴族の子供達やリースの街の子供達からの儀式を優先させていたので、俺の村の順番は最後の方になっていた。

まぁ、平民だけしかいない村だし、昨年鑑定したビルもベンもスキルを授からなかったから、周りの視線はあまり興味はない感じだよ。

みんな自分にスキルが目覚めるのか?と思っているやつらばかりだからな。

将来を左右するんだ、気合いが入っているのは当然だよ。

さっきのダリアの騒動もダリアの相手は俺だった?みたいで忘れ始めているみたいだしな。


「さて・・・、気合いを入れていくか。」


誰にも気付かれないようにダリアに視線を移すと目が合う。

ダリアは小さく手を振りながら微笑んでいた。


(うわぁぁぁ~~~、すっげぇ可愛いよ。)


水晶球の前に立つ。


ゆっくり息を吸い右手をかざした。



(ん?)



何も反応が無い・・・


(どういう事だ?)


タラリと汗が流れる。


回帰前は水晶球に手をかざした時はすぐに光ったけど、今回の様な反応は無かった。

今は魔法も使えるのにどういう事?


誰も声を出さない。


沈黙が痛い・・・


何か問題でもあったのかと思い水晶球を覗き込んだら・・・



「え!」



水晶球の中心から虹色の光が徐々に大きくなっていく。

あっという間に虹色の光が水晶球全体から発せられた。


慌てて手を離そうとすると、それは突然起きた。



カッ!



「目がぁああああああああああああああああああ!」


金色の光が溢れ余りの眩しさに目を開ける事が出来ない。


(目が潰れるぅううううううううううううううううううううううううう!)


一瞬だったのか?それとも長い時間だったのか?


目を焼くような輝きが収まり、俺はゆっくりと目を開ける。


周りに異常がないかグルッと見渡した。



「はい?」



(何で?)



神官が俺へと土下座をしていた。


(訳が分からない。)


急いで神官の隣に行き彼を立たせようとしたが、顔を上げると俺を見ながら止めどなく涙を流していた。


「大丈夫ですか!」


声をかけた瞬間、彼が俺の手を力強く握り顔を近づけてくる。


(おい!これは何だよ!)


何で男に迫られなきゃならん!

この神官って男色家か?



「神よ・・・」



俺の顔を見ながら蕩けるような表情で呟いた。


(はい?)


今、何を言った?


「私はこの瞬間に立ち会えた奇跡に感謝します!」


いきなり立ち上がり両手を天井へと掲げた。




「たった今!この地に神が降臨された!このお方こそが現人神でおられるのだ!」



・・・



・・・



・・・



(どうしてこうなった?)

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