第25話 心配するなクソガキ、殺すのは貴様だけだ
ホール中の視線がダリアに集中している。
外向けにはお淑やかなイメージを保っていたダリアだったけど、公衆の前での父親の過剰過ぎるスキンシップで我慢の限界がきてしまった。
もう後は勢いで父親を殴ってしまい、言動も素のものとなってしまった。
みんなに素のダリアを見られてしまい、必死に笑って誤魔化していたがそろそろ限界になったようだ。
羞恥の限界が訪れ我慢出来ずにキュッと唇を噛みしめ涙目になってしまう。
そんなダリアが俺へと顔を向けた。
おい!
かなり距離が離れているんだぞ!
しかも、人も大勢いるのにピンポイントで俺に気付く?
いや・・・
ダリアならそんな芸当も可能だろうな。
俺を見ながらプルプルと震えている。
(確実に俺の場所を分かっているよな?)
そんなダリアが駆け出し俺へ迫ってきた。
「アレェエエエエエエエエエエエン!」
衝撃波が発生するのでは?と思える程に凄まじいスピードで走り俺へ抱きついた。
「ふぇええええええええええん、恥ずかしいよぉぉぉ~~~、もうお嫁にいけない・・・」
「分かった、分かったから落ち着け・・・」
泣きながら抱きつくダリアの頭を優しく撫でてやると落ち着いてきたのだろう、抱く力も弱くなって頬を俺の胸にうずめてくる。
ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今度は俺に周りからの視線が集まった。
父さんは俺を見ている態勢のまま完全に石化していた。
当然だろうな。
母さんは、
「アレン、いつの間にダリア様を誑し込んだのよ?隅に置けないわね。孫はいつになるのかな?うふふ・・・」
口元に手を当てとっても嬉しそうな顔でニヤニヤした目で見ているよ。
その姿って、井戸端会議で噂話をしているおばちゃん達と同じ目つきと仕草だよ!
「ダ、ダリア!ちょっと!みんなが見ているんだぞ!離れないと・・・」
「ダメ・・・」
更に抱きつく力が強くなってきた。
「妾の傷付いた心を癒してくれるのはアレンしかいない。もう離れない・・・」
(勘弁してくれぇええええええええええええええええええ!)
どんな羞恥プレイなんだよ!
助けを求めようとクロエさんに声をかけようとしたが・・・
(いない・・・)
いつの間にかメッチャ遠くまで移動しているよ!
しかも!『自分は他人だから関係ありません!』オーラが尋常じゃないくらいに出ている!
(レナさんは?)
いたぁあああああ!
ちょっと離れているけど上手く見つけた!
しかぁあああああああああああっし!
とてもにこやかに微笑んでグッと親指を立てている。
(何で?)
離れているので言葉は聞こえないけど、口の動きで何を言っているのか分かった。
『アレン様とダリア様、おめでとうございます。末永くお幸せに。うふふふ・・・』
(何てこったぁああああああああああああああああ!)
味方が誰もいなくなった!
(万事休す!)
しかもだ!運が悪い時には悪い事も重なる。
ゾワッ!
俺の背に冷や汗が流れた。
かなり離れているのに殺気が俺のところへ飛んでくる。
しかも2方向からだ!
1つは・・・
エリザかい!
今にも血の涙を流しそうな鬼のような形相で俺を睨んでいる。
エリザは俺に気があるのは知っていたけど、俺にはダリアがいるからな!知らないふり&必要以上に仲良くしないようにしていたが・・・
ダメだ・・・
エリザの嫉妬の炎が目に見えるくらいになっているのが見える。
(生きて帰れるかな?)
それくらいエリザの迫力が凄かった。
そしてもう一方は・・・
(ヤバいよ!ヤバいよ!)
エリザ以上に殺気を全開にしているダリアパパの辺境伯様だ!
さっきの言動を見ても分かるけど、辺境伯様のダリアの可愛がり方は尋常ではないだろう。
そんな可愛くて堪らないダリアが見知らぬ男と抱き合っているのだ。
しかも!
俺はダリアを元気づけようとして頭も撫でていた。
それだけ親密になっている状態を見て、娘大好きな父親の精神が普通にいられる訳はない!
「貴様ぁああああああああああああ!天使で愛しのダリアに何をしているぅううううううううううううううううううううううううううううううう!」
やっぱりそうなったのね。
何でスキルの儀が修羅場に変わらなければならないのだ?
(神様、俺に恨みでもあります?)
スチャ!
おい!こんなところで剣を抜くな!
ダリアパパが鬼の形相で剣を抜き構えている。
「ダリアをかっ攫う泥棒がぁあああああああああああ!成敗してくれるわ!」
血走った目でズカズカと近づいてきた。
(おい!)
今の俺にはダリアが抱きついているんだぞ!
その状態で剣を振りかぶる?
もう剣の間合いまでダリアパパが接近してしまった。
「辺境伯様!落ち着いて下さい!このままだとダリアも巻き込んでしまいます!」
しかし、俺の言葉を聞いたダリアパパが更に凶悪な殺気を放つ。
「貴様のような馬の骨にダリアを呼び捨てにされるとは・・・、万死に値する!」
(しまったぁあああああ!)
俺もさすがに焦ってしまっていたから、思わずダリアの事を呼び捨てに言ってしまった。
マズい!マズい!マズい!
火に油を注ぐなんて俺はバカだ!
だけど、今の状況でダリアパパはどうするつもりだ?
剣を振りかぶってしまったけど、このままじゃダリアも一緒に斬られてしまうぞ!
そこまで気が回らないほどに頭に血が上ってしまったのか?
「心配するなクソガキ、殺すのは貴様だけだ。ちゃんとダリアを避けて斬ってあげるからな。」
おい!
俺の心を読むとは、以外と冷静じゃないか!
だけど!このままだと俺の命が本当にヤバい!
「アレンよ・・・」
ダリア、どうした?
今の俺の状況を助けてくれるのか?
「お主の実力ならあのバカ親父は相手にもならんだろう。妾が許す、バカを徹底的に潰してやれ。2度と妾達の邪魔をさせない為にもな。」
(そんなの出来るか!)
そんな事をしたら肉体的には無事かもしれないが、社会的に完全に抹殺されるのは確実だぞ!
「ぐふふふ・・・、この泥棒猫のクソガキ、この私のスキル『剣豪』の奥義、牙突であの世に送ってやるわ・・・」
剣を目の高さで水平に右手だけで構え、左手は真っ直ぐ掌を俺へと向け、剣の腹を左手の親指と人差し指の間に置き剣先を俺へと向ける。
「これなら貴様の眉間だけ狙えるからな・・・、安心しろ、痛みを感じる間もなくあの世に送ってやる。」
グッとダリアパパの腰が少し沈んだ。
「さっさと逝けぇええええええええええええええええ!」
(まじかぁあああああああああああ!)
本気で殺しにかかってきたよ!
親バカもここまでくると笑うしかないよ。
(はぁ・・・、仕方ないな・・・)
いつもクロエさんのため息を見ていたからか、クロエさんと同じため息が出てしまったよ。
(殺される訳にいかないしな。)
ダリアパパさん、すみません・・・
スッ・・・
「死ねぇえええええええええええええ!」
剣の切っ先が俺の眉間へと迫る。
さすが『剣豪』のスキル持ちの剣だ。
神速のスピードで剣が迫ってくるが、狙いが正確だから対処もやりやすい。
おもむろに右手を上げる。
ビタァアアアアア!
「何だとぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
ダリアパパの絶叫が響いた。
俺の眉間を狙って放たれた突きは正確に眉間を狙っていたが、その剣を俺は受け止める。
素手で片手で剣を受け止められるかって?
俺なら出来る!
何故か体が自然と動くんだよな。
多分、スキルが自動的に防御反応をしてくれているのだろう。
俺の顔の目の前で右手の人差し指と中指で剣を挟み止めている。
ダリアパパが剣を押しても引いても左右に動かそうとしてもビクともしていない。
そこまで俺の力は凄いものなのか?
正直、俺の筋力は既に大人の力の限界を超えている。
これもリミット・ブレイクの恩恵だ。
鍛えれば鍛える程に俺の身体能力は天井知らずに上がっていく。
見た目は細マッチョなのでそんなに力があるように見えないのだけど・・・
「う、動かない!貴様!何のイカサマを!」
剣がビクともしないので真っ赤な顔でダリアパパが叫んでいる。
俺の胸の中にいるダリアの視線がスッと鋭くなった。
シュン!
パキィイイイイイイイイイイイイン!
甲高い音が響く。
「ぐぁああああああああ!」
ダリアパパがいきなり後ろへと転がってしまった。
「な、何が起きたのだ?」
地面に座り込み信じられない顔で自分の剣を見ている。
その剣は半ばで綺麗に折れてしまっていた。
何でそうなったか?
ダリアが左の裏拳を剣の腹にぶち当て、剣をへし折ってしまった。
たったそれだけなんだけど、ダリアの身体能力も俺に近い状態でもある。
剣を折るくらいなら朝飯前なんだよな。
しかも!
俺が剣を指で挟み止めていたけど、ダリアパパは剣を何とかしようとしていても、俺の力の方が遥かに強かったのでビクともしない状態だった。
剣を引き抜こうと思いっきり後ろへと力を入れた瞬間を狙ってダリアが剣を折ったものだから、勢い余って後ろへと転がってしまったんだよな。
「そ、そんな馬鹿な・・・、皇帝陛下より賜られた剣が・・・、こうも簡単に折れてしまう?」
ブルブルと震えながら信じられない表情で折れてしまった剣を見ているよ。
(皇帝から下賜された剣だって!)
これは悪い事をしてしまった。
そう思うと同時に背中に嫌な汗が流れてしまう。
これって俺が貴族に対する不敬罪や器物破損で断罪されるパターン?
剣を直接折ったのはダリアだけど、受け止めたのは俺だし、あの状態ならダリアなら簡単に折れるからなぁ・・・
そう思うと余計に汗が噴き出てしまう。
「アレンよ、心配するな。」
ダリアが俺の顔を見てニコッと微笑んでくれた。
「悪いのは全てこの馬鹿親父のせいだ・・・」
(うん!俺もそう思う。)
床に尻もちをついたままのダリアパパをダリアがとっても冷たい目で見降ろしているよ。
ゆっくりと俺から離れ父親へと近づいていく。
「少し躾をしてやらんといかんな・・・」
ダリアが呟く声が聞こえる。
(うわぁぁぁぁぁ~~~~~、完全に怒っているよ。)
もう俺では止められない。
心の中でダリアパパの冥福を祈った。
ゆらりとダリアが動くと一気にジャンプをする。
高く舞い上がりグッと両足を揃えて曲げる。
「アレンに対する数々の無礼!もう泣いて謝っても許さん!」
(おい!それって父親に対する言葉かい?)
曲げた両足を真っ直ぐに伸ばし、落下の勢いをつけて父親へとジャンピング・ドロップキックを叩き込んだ。
「あぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
聞くに堪えない悲鳴がホール内に反響する。
そして、このホールにいる男達全員が自分の股間を押さえ真っ青な顔になっていた。
俺も目の前の光景を見て思わず股間をガードし震えてしまう。
俺の目の前の光景は・・・
ダリアの両足が尻もちをついて床に座り込んでいたダリアパパの股間に深く食い込んでいた。
これは喰らった本人しか分からない痛みかもしれないが、男として絶対に味わいたくない痛みだ!
想像するだけでも体がガクガクと震える。
これだけの仕打ちを実の父親にしてしまう程にダリアの怒りは凄まじいものなのか?
このホールにいる男達全員が思ったであろう。
【ダリアを絶対に怒らせたらダメだ!】
男達全員の心が一つになった瞬間だった。
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