アレン学院編
第24話 うちの可愛いダリアに万が一の事はあるまい
回帰前の歴史と全く違う歴史を歩み始め、俺は12歳になった。
かつての俺は村が滅びてしまい、村のあった領地にある領都のリースで両親と一緒に暮らしていた。
そこでの生活は決して裕福ではなく、慣れない土地での生活でもあり苦労していた記憶が残っていた。
セイグリット王国はスキルを得た勇者や勇者の卵にはとても手厚い生活保護を受けられるようになっている。
その為、他国からのスキルを持った人間の移民も多かった。
ただ、それはセドリックが新たなスキルを獲得する為の方便だったと、ダリアから教えてもらった。
今の俺は王国と決別しているし、王国のような勇者になってからの生活保護も期待出来ない。
まぁ、今の両親は村の村長夫婦になったし、村も聖女を輩出した村との事で、向こう10年は無税との褒美までもらってしまったので、村全体は王国時代よりも裕福になったと思う。
だからといって、いつまでも両親に甘えてはいられない。
これからはダリアに釣り合う男になっていかないとな。
「うわぁ~、結構な人がいるよ。」
俺は両親に連れられ領都リースの教会本部に来ている。
ここで12歳になった時に行う『スキルの儀』でスキルを授かる事になるのだ。
一応、12歳になれば誰でも教会で儀式を受ける事は可能だけど、スキルを授かるのは全体で1割もいるかいないかの確率で、スキルを授かれば自動的に学院へは無償で通える事にもなるし、将来は勇者として国に仕える可能性もある。
自分の将来を左右するとも言われる儀式でもあった。
回帰前は俺も『上級剣士』のスキルを授かり学院へ通い、卒業後はセイグリット王国の騎士団へ入団となり、最終的には勇者パーティーの一員となった。
スキル自体はそう強力なスキルでもなくありきたりなスキルだった。
それでも平民にとっては夢のような話で、国に仕えた事で生活は楽になったけどな。
今の俺はスキルは確実に授かっているし、俺の中でスキルはかなり変化しているようだ。
ダリアの鑑定で教えてもらおうとしたけど、そのダリアは笑って誤魔化され鑑定はしてくれなかった。
実際に儀式でどんなスキルが現われるのか楽しみだと言われたが・・・
そのダリアも自分のスキルを教えてくれず、ダリアのスキルも謎のままだったりする。
何となくだけど、1つは思い当たるものがあるんだよな。
それ以外でも、俺もダリアも隠しスキルであるリミット・ブレイクを持っているのは確実なんだけどな。
いつもならスキルの儀はダリアの父親が治める辺境伯領都のウエストランドだったけど、今年は聖女であるエリザのお披露目もあり、エリザのいるこのリースの教会での儀式となった。
エリザを巡っては予想通り帝国と教会がエリザの取り合いとなった。帝国が先手を取って貴族にして教会が手を出せないようにしたけど、教会も黙っていなく、エリザの治める領都に巨大な教会を建て、聖女信仰の拠点としてしまった。
教会の本気度はさすがで、教会の建設における膨大な建設費や人件費、街へと訪れる信者や建設に携わる労働者が殺到し、リースの街はかつてない好景気に沸いた。
これにはさすがに帝国も無視出来ず、エリザの無理のない範囲内ならと、お祈りなどのお勤めを許可した。
そんな権力争いの中に巻き込まれてしまったエリザだったが、一段と俺やレナさんに甘えてくるようになったのは仕方ないだろうな。
話を戻すが、それにしてもかなりどころかとんでもない大きい教会だ。
回帰前のセイグリット王国の王都にあった教会よりも大きい。
俺がいる大ホールには数百人の俺と同じ12歳の子供と親が集まっている。
帝国全体ではないにしろ、辺境伯の領地の子供だけでも相当な数だな。
ザワザワしているホールがピタッと静かになった。
ホールの一段高いステージのような場所に直径30㎝はある巨大な水晶球のようなものが台座に置かれている。
その台座に向かって1人の少女がゆっくりと近づいていた。
(エリザのお披露目か・・・)
真っ白なシスター服を着たエリザが水晶の前に立つ。
右手の掌を水晶球の上に乗せた。
カッ!
水晶球が白く激しく輝いた。
その光がホール全体を照らしていく。
「「「おぉおおおおおおおおおおおお!」」」
余りにも神々しい光景にホールの人達が次々と手を組み祈りを始めた。
「この光はまさしく聖女!この地に聖女が舞い降りた!」
台座の隣に立っていた鑑定士の神官が涙を流し叫んでいたけど、本当にエリザが聖女だと確信し感激していたのだろうな。
一昨年前に行ったエリザのスキルの確認は教会ではなく、教会に主導権を握らせたくないから帝国の魔道士部隊が鑑定をしていたからな。
結果だけを教会に連絡しただけだった。
目の前で教会が自ら証明が出来、真の聖女の出現は帝国民にとって衝撃的な出来事だった。
だけど俺は知っている。
みんなの前でニコニコと微笑んでいるエリザだけど、心の中では心臓が破裂しそうな程に緊張している事をな。
後で俺とレナさんに甘えまくる姿が想像出来てしまい思わず笑ってしまった。
エリザが下がって、その後は次々と儀式が進んでいる。
しかし・・・
今年はエリザの儀式以降まだ誰もスキルに目覚めていなかった。
平民から儀式を始めているのもあるかな?
基本的に平民は元々が潜在魔力が低く、儀式でスキルに目覚める者は少ない。
かつての俺や今のエリザのような、儀式前から目覚めた事例はかなり珍しい。
皇族や貴族に関しては過去から魔法やスキルを得ていた人達が婚姻して子供を産んでいたので、血統というか潜在的にも魔力が高くスキルも顕現しやすい傾向だ。
貴族は平民と違うという事を見せつける意味もこのスキルの儀には含まれているけどな。
そんな中でダリアが水晶球の前まで歩いて行く。
どうやらダリアの力を見せつけ、貴族階級の凄さをアピールする狙いだろう。
貴族達はダリアが既にスキルに目覚めているのは知っているしな。
ザワザワしていたホールがダリアの登場で一気に静かになる。
ダリアのあまりの美しさに、全員が目を奪われている。
『傾国の美女』と言われるだけある。
ある意味、エリザ以上に全員の注目を浴びていたが、そのダリアは全く気にしているような雰囲気もなく、優雅に水晶球に手を添えた。
その瞬間!
透明な美しい水晶球が一気に真っ黒に変化する。
予想外の変化に会場にざわめきが起きた。
パキ・・・
真っ黒に染まってしまった水晶球にヒビが入り直後に真っ二つに割れてしまう。
その光景を隣にいた鑑定の神官が真っ青な顔でダリアを見ていた。
「どうかしました?」
優雅に首を傾け鈴が鳴るようなキレイな声で鑑定官へ声をかけた。
俺の前だけに見せる素のダリアとは正反対の貴族のお嬢様といった感じだよ。
あまりの猫かぶりの態度に思わず吹き出しそうになってしまう。
それにしても水晶球がこんな事になるなんて想像もしていなかった。
真っ青な顔になっている神官は、ダリアにどんなスキルを見てしまったのだ?
スキルの儀では本人にスキルがあれば確実に水晶球が輝く、その後で神官がスキルの鑑定を行うのだが、ダリアのスキルは神官の想像を超えていたのだろう。
「し、信じられません・・・、私は頭がおかしくなったのか?こんな人間は見た事が・・・」
視線が定まらなくガクガクと震えている。
「神官殿よ!どうされた?」
豪華な貴族服に身を包んだ父さんよりも若く見えるイケメン男性が、来賓席から立ち上がり神官へと近づいている。
「父上・・・」
ダリアが呟いたのが聞こえた。
(へぇ~、この貴族様がダリアの父親である辺境伯か・・・)
「クリストファー辺境伯様・・・、実はご息女様の鑑定結果が信じられない結果で・・・」
「どういう事だ?」
ギロッと辺境伯様が神官を睨んでいる。
「私の鑑定に間違いが無ければ、ご息女様は歴史上初めてのお方になります。それ以前に、この鑑定球が割れる事自体もあり得ないのですが・・・」
「今回は前代未聞だらけという事か?」
「左様です・・・」
神官が深々と頭を下げ、どうすれば良いか目で訴えているようだ。
「ふむ・・・、うちの可愛いダリアに万が一の事はあるまい。正直に申せ。」
「それでは正直に申し上げます。」
そう言って神官がダリアに視線を移した。
「ご息女様のスキルは・・・
剣聖 剣術(極) 」
そのまま黙ってしまう。
「剣聖だと・・・、このようなスキルは帝国初ではないか・・・、これはこれで快挙だが、ダリアは既に魔法を使えるのだぞ、何でそんなスキルが現れる?」
今にも神官を射殺すのでは?と思えるほどに冷たい視線を辺境伯様が神官へ向けてしまう。
「へ、辺境伯様!これだけではないのです!この次が信じられないのです!」
「だから何なのだ?と言っているだろうが!ちゃんと話せ!」
縋るように辺境伯様を見ていた神官だったけど、意を決してもう一度ダリアを見つめた。
「次のスキルは・・・」
「まさか魔法も使えるダブルのスキル持ちなのか?」
辺境伯様もダリアをジッと見つめる。
スキルは基本的に1つしか身に着ける事しか出来ない。
まれにスキルを2つや伝説では3つ保有している人も存在していたが、そんな人はとても希少なスキル持ちとなり、尊敬の目を向けられる。
そんな人物がダリアだったとはな・・・
「次のスキルは『魔王』・・・、こんなスキルは見た事も聞いた事もありません。」
(やっぱりぃいいいいいいいいいいいいいいいい!)
そんな予感はしていたんだ。
あの水晶球が真っ黒になるんだぞ!完全にこのスキルのフリだ!
まさか生まれ変わり前の自分の存在がスキルになるなんて!
そんな事ってあるの?
「魔王だと?そんな戯言を言って、ダリアを侮辱するのも大概にしろ・・・」
辺境伯様から大量の殺気が溢れ腰の剣へ手を伸ばし、今にも神官へ切りかかろうとグッと腰を屈めた。
「実際に名称が魔王となっているのです!ですが!名称よりもそのスキルの中身が問題なのです!」
「中身だと?」
「そうです。スキル魔王は
炎魔法(極)
水魔法(極)
風魔法(極)
土魔法(極)
4大属性魔法全てが使え、しかも(極)です!
その上!
雷魔法(極)
氷魔法(極)
上級属性魔法も(極)レベルまで行使出来ます!
おまけに!
闇魔法(極上)
時空魔法(極上)
無属性魔法(極上)
召喚魔法(極上)
聖魔法と光魔法以外は全て使用可能なのです!
それもどれもが(極)か(極上)と最上級クラス!
しかもです!
神々にしか使えないと言われています伝説の時空魔法まで使えるのですよ。
こんな人間は歴事上見た事も聞いた事もありません!
魔王というスキルは『魔法の王』を表しているに違いありません。
ご息女は間違いなく神の生まれ変わりでございましょう!」
上手い具合に勘違いしてくれて良かった。
かつての魔王ダリアの権能そのままを引き継いだのは間違いないよ。
改めて思うけど、こんな一人軍隊みたいなダリア相手に俺はよく勝てたと自分でも驚きだ。
それと、リミット・ブレイクとダリアの固有能力の魔眼は隠しスキルとして神官レベルの鑑定では分からないのは回帰前と同じだな。
これらは表に出てこないスキルなので、今回もセドリックにバレないだろう。
さて・・・
ダリアのスキルが分かったけど、その父親はどうなのか?
神官の説明を聞いて完全に硬直してしまっていた。
そうだろうな、自分の娘が伝説どころか神に匹敵する存在だったのだ。驚かないはずがない!
「ダリア・・・」
父親である辺境伯様がやっとフリーズ状態から解放されたが、とてもぎこちない動きで首をダリアへと向けた。
次の瞬間!
まるで瞬間移動のようにダリアの前に移動し抱いて持ち上げた。
「ダリア!私の可愛い天使!ダリアは天使じゃなくて神様だったんだね!パパは嬉しいよ!天使のような可愛いダリアが更に神々しくなるなんて!もう離さない!」
うわぁぁぁぁぁ~~~~~
親バカ全開だよ。
だけどねぇ~~~
俺には分かる。
父親がダリアを抱きながら持ち上げていて、ダリアの頬に自分の頬を擦り付けグリグリしている。
仮にもダリアは年頃の女の子なんだし、親子だろうが公衆の面前でこんな事をされてしまっては・・・
「こ”ら”ぁあああああああああああああああ!いい加減にしろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ぶへりゃぁああああああああああ!」
ダリアの怒りの右拳が父親の顎に吸い込まれ、綺麗な放物線を描いて飛んでいき頭から床に落ちた。
「はぁはぁ・・・、このセクハラクソ親父が・・・、気持ち悪いから金輪際近寄るな!」
ゴミを見るような目で吹っ飛んでいった父親を睨んでいた。
が!
ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ホール中の視線がダリアに集中していた。
「あっ!」
どうやらダリアはその視線に気が付いたようだ。
「おぉほほほぉぉぉ~~~、ゴメンあそばせ!」
口に手を当て笑いながら必死に誤魔化していた。
「ダリア様・・・、もう色々と手遅れですよ・・・」
俺の近くにいたクロエさんが額に手を当て、俺が今まで見た中でも最大級のため息を吐いていた。
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