第18話 ふふふ・・・、計算通りだな・・・

あれから1年が経った。


俺の周りは至って普通だった。

危惧していたダリアとエリザの関係は悪くなく、俺から見ている限りは良好な関係に見える。

完全に師匠と弟子のような関係だな。

毎日ではないけど、数日おきにエリザが俺の家に遊びに来て、転移で村の外へ移動し修業を行っている。


それにしても・・・


エリザの素質はとんでもないものだったと感心させられている。


この1年、エリザの魔力は人間の域を超え魔王に匹敵するのでは?のレベルまで上昇していた。

これが本当の聖女の資質であり、借りものの力を得た偽聖女のグロリアと比べると次元が違うのだと教えてもらった。

聖属性の魔法を色々と使いたかったけど、さすがに俺自身色々と体を傷だらけにする訳にもいかず、ヒール系は今後の検証となった。

試しに俺が自分で腕を傷付けようとしたが、2人から全力で止められてしまった。

あの時の半泣きの顔を見てしまったら、罪悪感で申し訳ない気持ちでいっぱいになったのは秘密だ。


ただ、結界魔法に関しては十分過ぎるくらいまで練度が上がり、村全体だけでなく隣の畑がある場所まで結界で覆う事も出来るようになった。それだけの結界が張れるならばと、実は村に魔獣が入り込まないよう継続的に結界魔法をかけていた。

おかげで魔獣による農作物の被害が皆無となり大人達が大変喜んでいたので、エリザも満更でない表情だったよ。

しかも結界維持に魔力をかなり使うので、魔力を鍛えるのに最適だとの事で更にエリザの魔力が上がったのには驚きだ。


さすがレア中のレアスキルである聖女だけあるな。


今は表沙汰に出来ない治療魔法に関しては今後、冒険者ギルドで覆面をしながら臨時の治療師として治療を行った方が身バレもしないだろうし、そう焦る事も無いだろうと結論づけられた。






さて・・・



そろそろ例の日が近づいている。

アレを知っているのは俺とダリアだけで、エリザには余計な心配をかけたくないから伝えてはいない。



ところがだ!



「母さん、アレって?」


母さんが心配そうに家の窓から村長さんの家を覗いている。


「どこの貴族様なのかな?こんな田舎に来るなんて何があったの?」


「さぁ~」


俺はそう惚けたけど、実は事情は全部知っていた。

ダリア経由でな。

だけど、話してくれたのが昨日なんだぞ、しかも夜の寝る直前だ!

俺の驚く顔が見たいからって内緒にするって・・・


ダリアは帝国の貴族の娘だというのはチラッと教えてもらったが、それ以上に細かい事は教えてくれなかった。


再び村長さんの家を覗いた。

そこには立派な馬が十数頭と、それはまたゴージャスな装飾を施した馬車が止っていた。


(あの家の中にダリアがいるんだよな。どんな姿なんだ?)



「ん?」



どうしてだ?

村の外からも多くの人がここに向かっている反応を感じる。


父さんが慌てて家の中に入ってきた。


「母さん!大変だぞ!ここの領主様もこの村へ来られたぞ!どうやら村長さんの家で休んでいるお貴族様のご令嬢を待ちきれずにお迎えに来られたようだ!」


「何ですって!村長さん達はお貴族様のお相手をしているから、私達で領主様をお迎えに行かなくては!」


2人が慌てて家から出て行った。


「ふふふ・・・、計算通りだな・・・」


俺の隣に浮いているダリアが真っ黒な笑顔を俺へと向けた。


「本体には悪い事をしたな。あんな豚領主に詰め寄られる役を回してしまったからな。まぁ、全てはこの村を手に入れる為の芝居だ。あっちの有責で賠償金代わりにここの土地をもらう手筈は整えてある。」


この村は前にも説明したが、王国と帝国との国境付近にある。

しかも位置が不自然で、この村の辺りだけが帝国領に飛び出している状態だ。

今は王国領となっているが、過去に何度か帝国領になったりと不安定な場所だったりする。


今回はこの村を完全に帝国領として統合させる計画だ。


まぁ、ここの領主は2年前に両親が魔獣に襲われ亡くなってしまい、領地経営の基礎も知らないうちに領主になってしまったからな。

多少は同情の余地があるかもしれないと思ったけど、領地経営をする為に必要なお金も自分で自由に出来るお金と勘違いし、贅沢三昧の生活を送っていたようだ。

今の領地の経営が行き詰まり、回帰前の事件でもある、何も考えずに森を燃やしての強行な農地拡大を図ったんだよな。

そのおかげでこの村は・・・


ここの領地の台所事情はダリアの方で調べがついているし、今回の事もダリアが計画していたことだ。


「あの豚はたかが男爵のくせに、辺境伯令嬢の妾と婚姻を結ぼうと思う事自体が不敬だと思わないのか?まぁ、そのように仕向けた事すら気付かないとは、頭の中も豚に間違いない!」


ニヤリとダリアが笑っているけど、まさかのハニートラップを仕掛けていたとは思いもしなかった。


そのハニートラップなのだが・・・


ダリア自身は帝国の貴族だと聞いていたのはさっき説明したが、まさかのまさか!俺達の村の隣、帝国の辺境伯の長女だった!

まぁ、ダリアの上と下には男子がいるから家を継ぐ事はないが、ダリア自身の美貌と魔法が使えると1年前に表ざたにした事で、ダリアと婚約したい貴族令息から引く手あまたの状態だった。

しかし、誰にも興味を持たず全ての話を断っていたが、ダリアの噂を聞きつけたここのバカ領主が見合いの釣書を送ってきた。

国は違えども領地が隣同士だから情報が簡単に伝わるんだな。

「お隣さん同士仲良くしましょう。」の意味合いだろうが、その噂すらダリアの陰謀だったりする。

しかも、ダリアがこの村に聖女らしき存在がいるとダリアの父に内密に話したので、父である辺境伯も聖女を何とかして帝国へと取り込みたいとの思惑も重なり、今回の計画に繋がった。


ダリア曰く


「いやぁ~~~、最初父にアレンの事をバラそうかと思ったけど、あのガキンチョのおかげですんなり事が進んだわ。父も聖女をこの地に取り込むメリットは計り知れないと感激していた。聖女ブランド恐るべしだな。」


すっごい怪しい笑顔を浮かべたダリアはかなり怖かった。


昨夜、ダリアが今の本体の肖像画を見せてくれた。

領主の手に渡るようにこっそりと手配してあった肖像画だ。


(マジかい・・・)


ここに天使がいた!


これなら10歳以上の歳の差でも自分のものにしたいと思うだろう。

ダリアの現在の姿は美少女の中の美少女で、黒髪はとても神秘的で見た目以上に大人びた雰囲気だ。


(肖像画でコレとは・・・、実際のダリアはどれだけなんだ?)


「ふふふ・・・、本体の妾を見て惚れ直すなよ。」


腕を組んでのけぞりながら勝者の笑みを浮かべているダリアが横に浮いていた。



再び村長さんの家を窓から覗くと、数頭の馬と少しみずぼらしい馬車が新たに停まっていた。

多分、領主が村長さんの家に入っていったのだろう。


しばらく動きはなかったが、馬車と馬達がゾロゾロと村の出口へと動き始めた。

最初にいたダリア達の馬車も一緒に移動を始める。


「アレン、作戦開始だ。」


ダリアが呟くと俺もゆっくりと頷いた。


馬車や馬が村の外に出たのを確認してから村長さんの家へ向かう。

家の玄関に着くと、真っ赤な顔をしたエリザが半分意識ここにあらずといった雰囲気で立っていた。


「エリザ!」


返事が無い。


「エリザ!」


もう1回呼ぶと、ハッとした表情になり俺に気づいたようだ。


「あ!アレン!」


「どうした?」


俺が尋ねるとエリザは胸に手を組み、またもやうっとりとした表情になる。


「あれが貴族様なのね・・・、あんな綺麗で可愛い人、初めて見た。天使様って本当にいたのね・・・」


(ははは・・・)


10歳ダリアって同姓でも虜にしてしまうのだな。

毎日のように妖精ダリアを見ているエリザでも気づかないのか?

子供ダリア恐るべし・・・


チラッと横を見ると、またもやダリアがどや顔でふんぞり返っていた。


(見なかった事にしよう・・・)



トリップ状態のエリザの肩をガシッと掴む。


「エリザ・・・」


「な、何・・・、アレン・・・」


更に顔を赤くしたエリザが俺を見ている。


「今すぐに家に入って出るなよ。村の外が少し騒がしくなるからな。」


村に被害を出すような事はするつもりはないが、万が一の事もある。

だけど、今から俺がする事は村の人には内緒だ。

分かる訳もないし、変にパニックになっても困る。

ただ、エリザだけは・・・

事情を知らなくても危険な目に逢わせたくない。



「嫌!私も一緒に行く!」



(弱った・・・、まさか付いて行くって言うとは・・・)


だが、これから起きる事はとても危険だ。

一緒に連れて行くことは絶対に出来ない。

下手すればエリザが死んでしまう。


「ダメだ、頼むから俺を信じて待っててくれ。」


しばらくエリザが俺の目をジッと見つめている。


そして深くため息を吐いた。


「分かったわ。アレンの嫌がる事はしたくないし・・・、だからね・・・」


ギュッと俺に抱きつく。


「絶対に帰ってきてよ。絶対にね・・・」


そういってエリザが離れたが、頬に温かい感触を感じる。


(!!!)


エリザにキスされた?


真っ赤にとても恥ずかしそうな顔のエリザが俺を見つめている。


「行ってらっしゃい。」


そう言って手を胸の前で小さく振っていた。


「あぁ、言ってくる。」



次の瞬間、目の前の景色が変わった。






「ここか・・・」


「そうだ・・・」


鬱蒼と生い茂る森の中に俺は転移した。

しかし、ここはただの森の中ではない!

周りに生えている木々はどれも巨大で、上を見上げても木の先端が見えない程に高かった。

ここまで高い木々が生い茂っているから、周りの景色は昼間だと思えないくらいに薄暗かった。

ここは魔の森の最深部だ。


その薄暗い森の中、俺の視界の先に木々が生えずその一角だけ明るい場所が広がっている。

上からはまるで光のカーテンのように日光が優しく降り注いでいた。



「こいつが休眠中の災厄・・・」



「そうだ、我ら魔王と同格の魔獣だ。動き出せば国が滅ぶほどに巨大な存在だな。」



俺の目の前には全長は30メートルは下らない巨大な獣が目を閉じ眠っている。




「魔獣の王・・・、『ベヒーモス』・・・」




俺は勝てるのだろうか?


いや!


これからの為にもこいつに勝たなくては・・・


こいつに勝てなければダリア以外の3人の魔王とも戦えない!

魔王はこの魔獣以上の存在だろう。




そして、セドリックに勝つためにも!

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