第17話 ちょっと待ったぁあああああ!

「ふふふ・・・、大人しくなったな。」


ダリアがニヤニヤとしながらエリザを見ている。


「妖精さん、ごめんさい・・・、ごめんなさい・・・」


まるでうわ言のようにダリアへとブツブツ言いながら謝っていた。


「ダリア・・・」


「何だ?」


あっけらかんとした表情で俺へ微笑みを向ける。


「絶対にやり過ぎたぞ。これでエリザがお前を怖がってしまったら、誰も俺の家に来なくなってしまうだろうし、それこそエリザの口からお前の事が漏れるとマズい。」



「あっ!」



ダリアが『今やっと気が付いた』って感じでポカンと口を開けていた。

顔にはダラダラと冷や汗のようなものが大量に流れている。


(ダリアもこうやって汗を流すんだな。)


「し、しまった!あのガキンチョに妾との立ち位置を分からせようと思っていたが・・・、う~~~~~~~~ん、今まで子供の相手をした事などなかったからな、ついかつての部下に対する調子で扱ってしまったぞ。」


「おい!子供の扱いを知らんて・・・」


ため息しか出ない。

だけど、ダリアは魔王だったし、普通の人間的な生き方はした事は無いのだろうな。


(仕方ない。)


俺はぐずっているエリザの前に立ちギュッと抱きつく。

今は俺とエリザは9歳なんだし、こうやって抱きついても『子供同士の事だから』と言い訳出来るしセーフだろう。

決して下心も無いしセクハラじゃなからな!


「アレンンンンン・・・」


とうとう俺の胸の中で泣いてしまったので、泣き止むまで優しく頭を撫でていた。


チラッとダリアを見ると・・・


「ぐぬぬぬぅぅぅ・・・・」と唇を噛んで羨ましそうに俺を見ていた。


「妾もこうやってアレンに抱かれたいのに、先にガキに取られるとは・・・。この体が恨めしいぞ。」


今にも血の涙を流しそうな感じだよ。

ダリアって9年間ずっと俺の傍にいてくれたけど、ダリアってかなりのヤキモチ焼きなんだよね。

母さんも俺には過剰なくらいスキンシップが激しい。

そんな激しいスキンシップを受けた時はかなり大変だよ。

俺の頭の上からずっと離れないし、たま~~~~~に母さんに悪戯する時もあるんだよな。

ダリアの事だからみんなにバレるようなヘマはしないとは思うが、万が一ってのもあるので、いつもハラハラしている。


かつて対峙した時の威厳がある魔王とは違った姿なので、こんなギャップも可愛らしいと思うけどな。


だけど、今回に関しては完全に自業自得だ。

少しはやり過ぎな自分の事を分かって欲しいと思う。


(やっぱり無理かな?)



ダリアが駄々をこねる姿が簡単に想像が出来て思わずクスッと笑ってしまった。



しばらくするとエリザが泣き止んでくれた。


そんなエリザだったが、行動が何だろう?変な気がする。



スリスリ



うっとりとした表情で俺の胸に頬摺りをしている。


(これはマズい気がする。)


そう思ってゆっくりと首を横に向けると・・・



(あいやぁああああああああああああああああああああ!)



全身から殺気を放っているダリアだった。


そんなダリアをエリザがチラッと横目で見てニヤリと笑った。

『アレンを独占しているのは自分だと』、勝ち誇ったような表情のエリザだった。


(9歳児の子供がこんな表情が出来るの?)


対するダリアは全身から漆黒のオーラを放ち、しかもだ!いくつもの黒い球が浮いて彼女の周りを回っている!


この姿のダリアはかつて1度だけ見た事がある!


回帰前にダリアのダンジョンで彼女と対峙した時だ。

あの時は漆黒の全身鎧を装着していたけど、全身から立ち上る圧倒的な強者のオーラは全く一緒だ!

しかも、ダリアの周りを周回するこのダークボールは、全ての存在を刈り取る凶悪で無慈悲な魔法だった。

あの魔法を喰らった斥候は全身が穴だらけになり、即死で早々と戦線離脱してしまったくらいだよ。

斥候が何一つ感知出来ないうちに瞬殺してしまう魔法だ!


そんなデンジャラスな魔法を家の中で放つ馬鹿がどこにいる!


この状況になっても、なぜか俺の頭の中は至って冷静だった。




(そんな馬鹿がここにいたわ・・・)




「このガキがぁあああ!アレンから離れろ!」


目が血走っているダリアが全身を周回している黒い球の全てを俺(正確にはエリザ)へと放つ!


ダメだぁ~~~~~


完全に頭に血が上っている。

もう周りを見る余裕なんか全くないようだ。


「仕方ない!」


そう思って手をかざし防御シールドを張ろうとしたが、エリザが俺から離れ両手を前に突き出した。



「「へ?」」



俺もダリアも変な声が出てしまう。



カッ!



信じられない事が目の前に起きた。

エリザの突き出した両手の掌の前には黄金に輝く光の盾が浮かび上がっていた。


ボボボッ!


自分の身長よりも少し小さいが、黄金に輝く盾がエリザの掌の前に展開されている。

その盾にダリアの放った黒球が衝突したが、黒球の方が消滅してしまい盾の方は無傷の状態で浮かんでいる。

エリザはすぐに俺に引っ着いてしまった。


「し、信じられん・・・」


ダリアがこれでもか!という程に目を見開きエリザを見つめていた。


しばらくすると黄金に輝いていた盾は消えてしまった。


それよりもだ!


「ダリア・・・」


俺はジト目でダリアを睨んだ。


「俺はあの魔法を知っているぞ。もし、あれがエリザに当たったら?いくらダリアでも今のは見過ごせない・・・」


自分でも信じられない程に殺気が出ているのが分かる。

俺に抱きついていたエリザもガクガクと震え、今にも腰が抜けてしまいそうだった。


「アレン!違う!妾はそんなつもりで・・・」


「じゃぁ・・・、どんなつもりなんだ?」


俺の一睨みで今度はダリアがガクガクと震える。


「今のこの姿の妾に人を殺す力はない。あのダークボールが当たってもピリッとくるだけで人体には全く影響がないのだ。この姿はあくまでもアレン、お主のナビゲーターの役目だけであり、魔法などは見せるだけの事しか出来ん。確かに、今の妾は大人げなかった。だけどな、そこのガキンチョの態度がぁぁぁ~~~」


(あぁぁぁ・・・やってしまったよ・・・)


ダリアが泣いてしまった・・・


俺に嫌われるのかと思ったのかもしれない。

元々が真っ直ぐ過ぎる性格のダリアだし、感情の振れ幅も大きい。

駄々をこねたりするとなぁ~~~

いつも尊大な態度のダリアもこんな状態になってしまうと、今の俺では何も出来ずオロオロとするしかない。


(弱ったなぁ・・・)


そんな困った俺に助け船を出してくれたのは以外にもエリザだった。


「妖精さん、ごめんなさい。」


またもやエリザがダリアへと頭を下げる。


「ガキンチョ・・・」


泣いていたダリアだったが、エリザの意外な謝罪で泣き止み信じられない表情になっている。


「それとね、私の名前はエリザって言うの。ガキンチョじゃないわ。」


「お、おぅ、エリザか・・・、良い名前だな。」



おぉぉぉ~~~、あのエリザがダリアへと物怖じせずに話しているよ。

頼むからこのまま平和な雰囲気で終わって欲しい!


(無理だろう。この2人って水と油のように混じり合わない空気を感じる。)


しかし、俺の心配を余所にエリザがダリアへと手を伸ばした。


「妖精さんってアレンの事が大好きなんだね。昨日からずっと一緒にいるしね。アレンが魔法を使えたのって妖精さんが教えたの?」


「そ、そうじゃ!」


エリザがいきなり優しくダリアに接しているものだから、当のダリアは困惑している様子が目に見えて分かる。


「だったらね・・・」


エリザの目が一瞬キラッと光ったのが見えた。


「私もアレンと一緒に魔法を教えて欲しいの。昨日、私の中に何かを感じるようになったの。私の体の中にグルグルとしたのが感じるのね。それが何でか分からなったけど、今ので私分かったの。私もアレンと同じで魔法が使えるってね。」


ジッとダリアの顔をエリザが真剣に見ている。


「だから私も教えて、絶対に、誰にも言わないから。お願い・・・」



「ちょっと待ったぁあああああ!」



俺はエリザの手の中にいたダリアを速攻でもぎ取り、そのまま部屋の隅に移動する。

手の中にいるダリアは顔を赤くして少しクネクネしていた。


(何で?)


「アレンよ・・・、強引だな。だけど妾はこんなシチェーションも悪くはないと思う。このまま何処か連れていてくれ。」


真っ赤で蕩けるような表情のダリアがいた。

どうもこの状況に酔っているみたいだ。

小声でブツブツと言っているが、こんな時に余裕だよ。


「ダリア落ち着け。お前、エリザがああやって言っているけど、本気で魔法を教える気か?というか、もう魔法を発動してしまっているよな。あの時の俺のように・・・、おい!しっかりしろ!」


「は!」


ダリアがやっと正常に戻ってくれた。


「確かに妾とアレンの秘密は守りたい。だけどな、聖女を味方にするのは妾としてもとっても魅力的なのだよ。あの小娘はまだガキンチョだけど、潜在能力は一級品だろうな。それこそ歴代聖女の中でもトップクラスには間違いない。」


「だけどなぁ・・・」


だからといって、エリザまで巻き込んでしまうのは俺としては避けたいと思う。


でも、今となってはエリザも俺の秘密を知ってしまっているし・・・



「1年だけだ。」



「はい?」


何が1年なんだ?


「お主の力を秘密にしておく期間だ。例のアレが起きれば、その後はこの村は帝国領になるだろう。ここの領主は馬鹿だから、こんな辺鄙な村くらいはどうでは良いと思っているからな。数年前から仕掛けておいた策にまんまと嵌っているぞ。最後に妾の本体がトドメを刺して、上手くこの地を妾の支配地域にしてやろうではないか。それまでの辛抱だな。」


(う~~~ん)


ダリアが何を言っているのか理解出来ない。

どうも策略を練っているようだけど、俺には政治的な事はさっぱりだ。


その1年後になるまではダリアの好きなようにさせよう。


「分かったよ。ダリアの好きなようにすればいいよ。」


ダリアが嬉しそうに俺の手に頬を摺り寄せている。

こんなに喜ばれると何も言えないな。


「じゃあ、エリザもお前が魔法を教えるのか?」


「もちろんだ。あのガキンチョも同じ秘密を共有しているとなると、おいそれと自分から周りに話す事はしないだろうな。」



(ん?)



何だ?背中に視線を感じる。


ゆっくりと振り向くと・・・



(ひょぇえええええええええええええええええええええええ!)



まるで幽鬼のような表情のエリザが俺を睨んでいる!


怖い!怖い!


慌ててエリザに駆け寄ると、エリザが俺に抱きついた。


「むぅ~、私を無視して妖精さんと楽しそうにしているなんて・・・」


何かブツブツ言いながら俺に抱きついていたよ。



すっごいバタバタしていたが、ダリアがエリザに魔法を教える話になって、エリザがとても嬉しそうな反応をしてくれたよ。


俺達3人の関係は秘密の関係だけあって、さすがに毎日ずっと一緒にいる訳にはいかないので(エリザは毎日押しかけると言っていたが・・・)、何とか2日おきで教える事に納得してもらった。


ダリアとエリザがニコニコしながら握手をしている姿は微笑ましいと思った。

このまま仲良くしてもらいたいと思っていた。






SIDE  ダリア


今回の事は仕方ない。

だが、聖女は絶対に王国に渡してはいけない存在だからな。

ふふふ・・・、来年はアレンが妾の本体と共にいる事になれば、あいつがいくら聖女だろうとそう好き勝手は出来んぞ。

貴族階級の怖さというものをしっかりと教えてあげようぞ。

アレンを独占するのは妾なのだからな!



SIDE  エリザ


くくく・・・、妖精さんはどんなに頑張っても妖精さんは妖精さんよ。妖精さんがどんなにアレンを好きでも人間であるアレンとは絶対に結婚は無理なのよ。結婚するのは私・・・

今は大人しく妖精さんの言う事を聞いていた方が良いわね。

でもね・・・、最後に勝つのは私よ!



アレンは無事に1年を過ごせるのか?





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


毎日更新していましたが、ストックが尽きてしまいました。


今後は週1~2回の更新になります。


申し訳ありません。

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