第16話 いきなり何をするんじゃぁあああああ!

う~ん・・・


この光景は何だろうな?


昨日、エリザ達が森で遭難し俺が救助した。

そして次の日、今日なんだけど・・・


「あら、いらっしゃい。エリザちゃん。」


家の入口の開いたドアの向こうにニコニコしたエリザが立っていて、そんなエリザを快く家の中に迎えている母さんがいた。


ペコリとエリザが頭を下げて家の中に入ってくる。

俺と目が合うとニコニコと微笑んでくるよ。

とっても嬉しそうにね。


その様子を見ていた母さんが俺の隣に立って肘でツンツンと突いてくる。


「アレン、いつの間にここまでエリザちゃんと仲良くなったの?あなたって畑仕事の手伝い以外はずっと家の中にいる事が多いから、もしかして引き籠りになったんじゃないかと思って心配していたのよ。友達もいないまま大人になったらどうしよう?とね・・・」


その言葉で段々と心配そうな表情になっていた母さんだったけど、エリザの笑顔を見て凄く嬉しそうにしていた。


(そうか・・・)


俺は強くなる事しか考えていなかった。

セドリックに勝つ事、そして来年に嫌でも起きるだろう災厄に向けて何とかしようとしか思っていなかった。

その災厄ついては、たまたま俺の父さんと母さんは生き延びたけど、エリザの両親やその他、ビルも村の大勢の人が亡くなってしまい、再建は無理と領主に判断され結果として村は無くなってしまった。


最終的な目標はセドリックを倒すことだったが、その前にこの村の悲劇もなんとかしようと思っていたのに・・・


それはあまりにも独りよがりだって、今の母さんの言葉で思い知らされた。

ダリアからは何回か言われていたけど、やはり母さんの言葉は重かった。

俺が村の子供達の中で孤立していることを心配していたんだな。


(母さん・・・、ゴメン・・・)


「でもね、アレン・・・、折角エリザちゃんが遊びに来てくれたのだから、部屋の中で遊ぶのは無しよ。子供は子供らしく外で遊んでらっしゃい。」


だけど、その言葉をエリザが遮った。


「アレン君の『』・・・、私、しばらく外で遊ぶのが怖いの・・・、それと1人も怖いの。だから、アレン君のそばにいさせて・・・」


俺に会ってニコニコしていたエリザだったけど、母さんの外に行かないか?との提案に反対していた。


確かにな・・・


昨日は森の中であれだけ怖い目に逢ったんだし、外だと嫌でも森の近くに行くことになるからな。

森の近くに行くことさえ怖いと思っても仕方ない。


(だけどなぁ・・・)


だからといってだな、女の子と2人っきりで部屋にいるなんて、回帰前から彼女なんていなかった俺にはハードルが高い!

どんな会話をすればいいのだ?

それと、何だろうな?

エリザの母さんを呼ぶ言葉がどうも違う気がしたと思ったけど気のせいかな?



『アレンよ・・・、妾とは生まれた時からずっと一緒だったのに、女として見ていなかったのか?』


(げっ!ダリアの声が聞こえてくる!)


何で俺の心が分かる?


今まで気にしていなかったけど、俺の中にあるダリアの魔石が俺とダリアと心で繋がっているのか?

多分そうかもしれない。


ダリアは確かに美人過ぎるくらいに美人だよ。

俺に勿体ないくらいにな。

誰もがダリアを見れば見惚れるに間違いない。それは断言出来る。

それにスタイルも抜群だし、子供の俺でも意識してしまう時もある。


でもね・・・


そんなダリアだけど、今は小人サイズなんだよ。

回帰前に会った魔王のダリアと見た目の違いはないはずなんだ。


でもね・・・


どんなに美人だろうがね、それはやっぱり・・・


『くっ!今の妾だと女として十分に見てくれないとは、薄々感じてはいたが・・・』


(すまん・・・)



「アレン、初めて女の子が遊びに来てくれたからって、そんなに緊張しなくても?、ねぇ~~~、それじゃ、2人で部屋で仲良く遊んでいってちょうだい。お母さんは近所のお手伝いに行ってくるから、くれぐれも変な事をしないようにね。うふふふ・・・」



パチンとウインクをして母さんは家から出て行った。


(変な事って・・・)


大体がお互いまだ9歳の子供同士だぞ。ニコニコして出て行った母さんは一体俺達に何を期待しているんだよ。



「ねぇ、アレン・・・」


エリザが急に俺へと近づく。


ギュッ!


「えっ!」


いきなりエリザが俺に抱きついた。


「アレン、昨日はありがとう・・・、私ね、アレンとの約束を守ったよ。昨日の事は誰にも言っていないの。だからね・・・」


昨日と同じようにエリザが真っ赤な顔で俺を見つめている。


だからって何を言いたいのだ?


「アレン・・・、私ね・・・」


何だエリザがとってもモジモジしているし、そんな仕草がすごく可愛いんだが、俺としてどんな対応をすればいいのか?

エリザも間違いなく美少女だし、そんな女の子に正面から抱きつかれてドキドキしない訳がない。

嬉しいやら恥ずかしいやらで、俺の頭の中もかなり焦っている。



「私とね・・・」





「こら!」




「「はい?」」



俺とエリザの顔の間にダリアが浮いていた。


「不純異性交遊は認めないからな。」


ビシッと人差し指を向けられてしまう。


(不純異性交遊って・・・)


俺とエリザはまだ9歳なんだぞ。

特にエリザなんかはその言葉の意味すら分かっていないのじゃないかな。


(ほら!)


エリザが『何言っているのか意味が分かんない!』って顔になっているよ。


しかし、エリザがダリアを見てニヤリと笑う。


「妖精さん・・・」


ギュッ!


「ぐえっ!」


目にも止まらない動きでエリザがダリアを両手でつかんだ。

いきなりだし、かなり強く握っているのかダリアが少し苦しそうにしている。


「いくら妖精さんでも私達の邪魔をするのは許さないわ!」


ダダダ!


いきなり玄関へ走り出しドアを開ける。


(おい!エリザ!)



「そぉおおおおおおおおおおおおっい!」



エリザが勢いよくダリアを空へと放り投げた。


「貴様ぁああああああああああああああ!いきなり何をするんじゃぁああああああああああああああ!」


ダリアが叫びながら凄まじいスピードで遠くへと飛んでいってしまった。


(はい?)


いくら何でも普通の9歳児の投げる力じゃないぞ。

大人が身体能力向上の魔法を使って初めて出来るだけのパワーだよ。

これもエリザが目覚めた聖女の力なのか?



バタン!



エリザが入口のドアをゆっくりと閉め、俺へと振り返った。


「アレン」


エリザが再び俺をジッと見つめてくる。


(何だ?)


少しエリザの様子が変だ。

見た目や仕草はさっきまでと変わりが無いように見える。


だけど!


どうしてだろう?

エリザの俺を見つめる瞳にいつものキラキラした雰囲気が感じられず、ハイライトの無い目で俺を見ている気がする。


「もう誰もいないし、やっと2人きりになれたね。」


ニィイイイ~~~~~


と口角だけを上げて俺に微笑みかけてくる。

やっぱり目が笑っていないよ!


(怖い!)


今のエリザにはそんな印象が強い。

ダリアを見ただけでここまでエリザの雰囲気が変われるものか?と考えてしまう。


ジリジリと摺り足で俺に近づいてくる。


何だろう?俺の生命の危険を感じると思うのは大げさではないだろう。


そんなエリザが近づていくる。



「よくもやってくれたなぁああああああああああああああ!」



ダリアの声だ!



フッ!



いきなりエリザの姿が消える。



・・・



う~ん・・・


弱った。


今、家の中にいるのは俺1人だけだ。

独りぼっちには慣れているけど、こんな状況で1人取り残されてしまうのは初めてだ。


エリザの姿が消えたのは間違いなくダリアの仕業だろう。


無事なのだろうか?


見た目が可愛い妖精サイズとはいえ、元々が俺達勇者でも太刀打ち出来ない魔王だった存在だぞ。


(ダリア・・・、頼むから早まった事はしないでくれよ。)


切に願う!



2人がどこにいったかも当てもないし、家の中にポツンと1人ってのもな・・・


仕方ないけど、リビングの椅子に座って時間を潰すことにした。


そう思っているとすぐに


「ただ今戻ったぞ!」


何事も無かったかのようなノリでダリアが手を振りながら俺の前にいた。


エリザの尋常じゃない馬鹿力も凄かったけど、ダリアは転移をつかえるしな、どんなに遠くへ投げられようが一瞬で戻る事は出来るはずだ。

しかし、思ったよりも戻るのに時間がかったな。


それに・・・


「エリザはどうした?」


俺の言葉にダリアがニヤリと笑い、後ろへ親指を向ける。


確かにダリアの後ろにはエリザが立ってはいたが、しくしくと涙を流しながら泣いていた。


「お前・・・、何をやった?」


「別に大した事をやっていないぞ。」


そう言って首を上に向けた。


「たかだか高度8000メートルの高さから落ちる経験をさせただけだ。別に大した事じゃないだろう。」


「おい!」


そんなの大した事だらけで、問題大あり!


「妖精さん、ごめんなさい・・・」


大粒の涙がエリザの瞳から流れている。


アレをされては心は完全に折れてしまうぞ。


俺も空を飛ぶ練習の時、一番最初にダリアにやられた。

空を飛ぶのは高いところにも慣れる必要があるって事だけど、高さが高さだよ。

正直ダリアの頭のネジが何本か抜けているのでは?と思った程だしな。

いきなり足元の感覚が無くなって、はるか下に地面が見えるんだよ。

「あっ!」っと思った瞬間から落ち始めているけど、延々と落ちる感覚はもう「死ぬ!」それ以外に感じなかった

エリザがかろうじて服が濡れていないみたいけど、俺はしっかりとチビッってしまった。


(でもなぁ~~~~~)


そんなのも慣れてくると、あの高さも悪くないと感じるようになったな。

地面がはるか下にあって、時には雲の絨毯も見る事が出来た。

周りには視界を遮るものも無く、見渡す限りの青い空にどこまでも広がる地面、高い山々でさえも見下ろす感覚は普通だと絶対に経験出来ない事だ。


拷問を乗り切った後の快楽っていうものかもしれない。


だけど、エリザにとっては最凶の拷問だっただろうな。


「私、もう意地悪しない・・・、だからもうしないで・・・、お願い・・・」


あ~~~、完全に心が折れてるわ。


やっぱりダリアは元魔王だったと再認識してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る