第15話 私の勇者様

SIDE エリザ



最初は面白いかも?と思っていた。


「エリザ、いつも一緒なところで遊ぶのも飽きたよ。」


ベン君が私の手を握って森の方へ歩いていく。


「ベン君、森は危ないってお父さんが言っているし、行ったらダメだよ。」


そう、私の前に広がっている森はとっても大きく、お父さんだけでなく村の大人の人達から『絶対に近づいたらダメ!』ときつく言われているの。

だから私は村から外に出てもここは大丈夫だと言われているところでしか遊んでいないし、森の近くまで行くけど絶対に中に入る事はなかった。


でも・・・


「エリザ、大丈夫だよ。僕のお父さん達はウサギなどはこの森の中で狩りをしてるんだし、危なくないと思うよ。もし変ならすぐに逃げるから。」


私達の後ろにいたビル君が嫌がっている私の背中を押している。


「でも・・・、もしお父さんに森に入ったと分かったら怒られちゃうよ。」


「「大丈夫!大丈夫!」


2人がニコニコして私を森の入口へと引っ張ってくれた。


「やっぱり怖いよ・・・」


でも、今まで遊んだ事もない場所だし、森の中がどうなっているのか面白いかな?って思ってもいたんだ。


「実はね、僕とビルは何回か森の中に入っているんだよ。」


(えっ!)


ビル君がとんでもない事を言っている。

ベン君と内緒で入っているって?


「本当に大丈夫なの?」


「そうだよ。」


今度はベン君が私に笑いながら話してくれたの。


「でもなぁ~、前にアレンを誘おうとしたんだけど、絶対にダメ!って怒ったんだよな。あいついつも家の中に引きこもっているから、折角僕達が外での遊びを教えようと思っていたのにさ。」


(アレン?)


私達と同じくらい歳なのに、何でか私達と遊ぼうとしないんだよね。

それ以前に、ほとんど家から出ないし、本当に大丈夫?と思いたくなるくらいよ。


今はいない人の事は考えたらダメね。


でも・・・


アレンの言う通り入ったらダメよね?

大人の人も言っているし・・・


「それとね、エリザ・・・」


ビル君が今度はポケットに手を入れ何かを見せてくれたわ。

これは森にある木の実ね。

どれも美味しいし、私も大好きなんだ。


「この木の実も入口近くで採れるんだよ。たくさん採ってみんなにあげればお父さん達も喜ぶんじゃないかな?」


思わず涎が・・・


私の好きな木の実がたくさん食べられる。

もう迷うことは無くなってしまったわ。

だって、ビル君とベン君が何回も行ったと言ってくれているし、その言葉で安心してしまった。



私も2人に連れられてルンルン気分で森の中に入っていく。


少し歩いたけど、何か怖くなってきた。

森の中って意外と暗いわ。

段々と怖くなってきたけど、2人が私の手をしっかりと握ってくれていたので安心してきた。



キュイ!



何か鳴き声が聞こえた!


鳴き声が聞こえた方を見ると、木々の間から子ウサギが顔を出しているわ。


(か!可愛い!)


思わずウサギへと駆け出してしまう。

だって、可愛いのよ。もっと近くで見たいじゃない。


だけど私が近づくとウサギがピョンピョンと跳ねて私から離れてしまう。

だけど、少し離れただけで止まり、またジッと私を見ているわ。


(今度こそ逃げないでよ。)


ゆっくり近づいても近くまでくると、また逃げてしまう。


もう!こうなったら意地よ!


だけどやっぱり捕まえることが出来なかったわ。


ビル君のベン君も私のうしろを歩いてくれていたけど、何だろう?とっても不安そうな感じになっていたわ。


ハッと私も気が付いて周りを見たけど・・・


(ここってどこなの?)


私達の周りは高い木ばかりで薄暗く森のどこなのか分からなくなってしまった。


(これって迷ってしまったの?)


そう気が付いた瞬間、胸がドキドキして息をするのもつらい。

私の後ろに一緒にいた2人もガクガクと震えている。


(どうしよう・・・)


そう思った時に私の周りで『ガサッ』と音がした。

しかも音が一つでなくていくつも聞こえる。


「嘘・・・」


それは突然現れた。


木々の間から私達を値踏みするような感じで現れてくる。


「ブラックウルフだ・・・」


ベン君がガクガクと震えへたり込んでしまい顔が真っ青になってしまった。


「に、逃げなきゃ・・・」


そう思って後ろを振り返ると、別のブラックウルフが木の陰から出てきた。


「い、いや・・・」


私も思わず後ずさりをしてしまう。


「うわぁあああああああああああああああああ!」


ビル君が叫んでしまったけど、少しづつブラックウルフの数が増えてきている。


「お母さん・・・」

「もうダメだぁぁぁ・・・」


ビル君もベン君もズボンを濡らしてしまいへたり込んでしまって、もうどうしようもない雰囲気になってしまった。


こんなの・・・

私だって腰が抜けて立っていられない。


気が付けば2人とも気絶している。


もう駄目だと思った。


怖い狼に囲まれて動くことも出来ない。


『死にたくない!』


そう思って『神様助けて!』とずっとお願いをしていたら、何でだろう?狼達が近寄ってこなくなった。


でも・・・


私はもうダメ・・・


このまま食べられちゃうんだ・・・


涙がポロポロと出てくるし、何だろう?今までの楽しかった思い出が頭の中をグルグルと回っているわ。


(私・・・、死んじゃうんだ・・・)


もうダメって諦めた時!



ダン!



誰かが私の前に立っていた。

いえ!空から飛んできて私の前に降りてきてくれたんだ!


神様?


違う!


「エリザ!ビル!ベン!大丈夫か!」


その声はアレンだ!

でもどうして?


アレンが私達を助けに来てくれた?

どうやってここに?

だけど、私の前にいるアレンはとても大きく見える。

私のパパよりも・・・


そう思った瞬間、また涙が止まらなくなってアレンに抱きついてしまった。

でも、アレンの背中がとても落ち着く。


そして、私は信じられない光景を見てしまった。


アレンに飛びかかってきたブラックウルフがいきなり地面にめり込んでしまった。

そのままペシャンコに潰れてしまった。


それをアレンがジッと見ているけど、少し笑っていたのに気付いた。


まさか?アレンは魔法を使っている?

私と同じ9歳なのに・・・


アレンって実は神様?


そう思っていると、急に重苦しい感じがして息をするのも辛くなってくる。

「目を閉じろ。」と言われていたけど目を開けて周りを見てしまった。

すると信じられない光景が目に入ってきたわ。


全てのブラックウルフ達が地面に縫い付けられたようにブルブルと震えていた。


それ以上に凄い光景が目に入ってきたわ。


アレンが上を向いたので私も上を向いてしまう。


(そ・・・、そんなの・・・、信じられない!)


ブラックウルフの上に信じられないくらいの尖った細長い氷がたくさん浮いていたの。

確か「アイスジャベリン」ってアレンが喋っていたのが聞こえた。


(これって本当に魔法なんだ!)


まるで夢の中にいるようで、あれだけ怖かったのに、アレンに抱きついているととっても安心する。

私と同じ歳なんだよね。

本当に信じられない!


アレンはお父さんやお母さんから聞いたおとぎ話に出てくる勇者様みたい。



そしてあっという間に狼達を倒してしまった。

魔獣の怖さは知っているけど、アレンの方がとっても強いって分かる。


それにもっとビックリした事があった。


アレンの傍に妖精さんがいる!


(本当にいるんだ・・・)


背中の翼も髪の毛も真っ黒だけど、その妖精さんはとっても綺麗なの。

こんなに綺麗な女の人って初めて見たわ。


しかもアレンって妖精さんとも仲良しだし、どういう事なの?

私が一緒にいるのによ、まるで私がいないみたいに2人だけの世界に入っているみたいなの。


信じられない!



だけど、妖精さんとも仲良しのアレンって本当は神様の生まれ変わりなの?


助かったと思って安心してしまった。

改めてゆっくりアレンの顔を見るとドキドキが止まらない。

そしてこのドキドキの気持ちは何でなのか分かるわ。


私・・・


アレンが好きになったみたい・・・


いえ・・・、好きになってしまったの!


そう思うと恥ずかしくてアレンの顔をジッと見れなくなってしまう。

見るたびにドキドキする。


だってよ!

もう死んじゃう!って思ってしまった時によ!カッコ良く現れたじゃない!


しかも!

まるで物語に出てくる勇者様のように魔法を使って助けてくれたんだ!


そんなカッコいいアレンが好きにならない訳がないじゃない!


それに妖精さんもアレンと一緒にいるくらいなんだし、アレンって本当に凄すぎる。

アレを見たらどんな女の人でもイチコロに間違いないわ。


でもね、アレンが妖精さんと仲良くしているとね、胸がムカムカしてくる。

とっても嫌な気持ちになってくるの。


だったら、私がアレンと離れられないようにすれば良いのね。



アレンとずっと一緒にいればいいのよ。




妖精さん以上にね・・・



そう思っていたら、アレンが私の顔をジッと見ていた。

そして今、アレンがした事は絶対に言わないで欲しいって言われた。


(何で?)


アレンの話を聞いていると理解出来たわ。

確かにアレンが魔法を使えるってみんなが知ったら大変な事になるわね。

子供の私でも村が大騒ぎになるのは分かるわ。

だってそんな事が出来るのは勇者様以外にあり得ないんだしね。

そうなると、お貴族様がアレンを迎えに来てしまって、必ずこの村から出ていかなくてはならないでしょう。



だからアレンとの約束は絶対に守る。

私がずっとアレンと一緒にいる為にもね!


それによ!


ふふふ・・・、妖精さんはどんなに仲良くてもアレンとは結婚出来ないよね。アレンは人間なんだし、アレンと結婚するのは・・・



絶対に私なの・・・



それにね、アレンと約束したから。

私はアレンとの約束は絶対に守るわ。

だから私もアレンに約束してもらったの。


『私のお願いを叶えてくれる』ってね。



私のお願い・・・

今は恥ずかしくて言えないけど、約束は約束だから必ず私と・・・





結婚してね・・・






私の勇者様・・・











「モテる男は違うな。」


エリザと別れ転移で自分の部屋に戻ってきた。


後はエリザが俺との約束を守ってくれるか心配だけどな。


「アレン、心配するな。」


俺の気持ちを分かってくれたのか、グッと親指を立てながら俺に微笑んでくれる。


どこからそんな自信が出てくる?不思議だ。


「あのガキンチョは多分大丈夫だろう。アレンの嫌がる事は絶対にしないと思う。それだけお前に心酔していると思うな。あの目は間違いない・・・」


だけど、ダリアが俺を見ている目が何故か少し怖い。

目の奥に何だろう?一瞬だけど、どす黒い炎がチロチロと燃えているような光景が見えた。


(幻視?目の中に炎なんて見える訳がないのにな。)


ビシッと人差し指を俺に向ける。


「だけどな、妾以外の女は認めない!」


(はい?何を言っている?)


「昔から力のある勇者は【英雄色を好む】と言われ、無節操にハーレムを作る傾向にあるが、アレンよ・・・、妾は絶対ぃぃぃぃぃぃに!!!ハーレムは認めないからな。」


さっき以上に怖い視線を俺に向けている。


うわぁ~、ダリアがめっちゃ機嫌が悪いよ。


「ダリア、そもそも俺はモテない男なんだし、ハーレムを作る事自体が不可能なんだからな!」


「はぁ?」


何故だ?ダリアがとても信じられない顔で俺を見ている。


「無自覚・・・、それはそれで手強いな。いや、最も質が悪いかもな・・・」


う~ん・・・、ダリアが何を言っているのかよく聞こえなかった。


そして視線を外して、「あのガキンチョも大変だな。」とニヤニヤ笑っていたよ。


ダリアの機嫌が良くなったからよかった。

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