第13話 最悪の状態だな
あれから4年が経ち、俺は9歳になっていた。
10歳の時にこの村に起きる悲劇まであと1年になった。
父さん達にこれから1年後に起きる事を説明しても理解してくれないだろう。
誰も信じずに笑い者にされるのがオチだろうな。
そもそもこの村は平和でのどかな場所だった・・・
あの悲劇が起きる事は誰1人想像もしていないはず。当時の俺もそうだった。
だから俺は1人であってもこの村を守ろうと決めていた。
だが・・・
今の俺の強さはどうなのか?
あの村を襲った災厄に俺1人で対抗出来るのか?
回帰した事により歴史が変革した可能性もあるとダリアとは相談していたが、事の発端は俺と直接関わる事がないから回避不可能、決まった将来になるだろうと結論づけられた。
ダリアは「そう焦るな。妾の本体の方も手を打ってあるからな。」と言われているが、やっぱり不安だよ。
「お主は少し考え過ぎだ。ちょっとは子供らしく遊ぶ事もしないとな。このままだと村の子供達の中でもお主は孤立してしまうぞ。」
確かにそうだけど?
中身が大人の俺が今更子供の中で遊ぶのもなぁ・・・
すっげぇ抵抗感がある!
しかもだ!
元々が人の少ない村なんだから、子供自体が少ない。
俺と同世代の子供なんて・・・
男の子が2人、女の子が1人とこれだけしかいないんだ。
そして、もうこの3人は既に仲良しで、今更俺が入る余地なんてないんだよな。
完全に1人取り残されてボッチ生活だった。
回帰前は俺もその中に入って一緒に遊んでいた記憶があったよ。
(俺にはダリアがいるから寂しくはないんだ!)
そんな状態で悶々とした日々を過ごしていたんだけど、ある日、その3人が村の近くにある草原に遊びに行ってしまって帰ってこないと大騒ぎになった。
「アレン、これは前の時もあった事件か?」
ダリアが尋ねてくるが、これは俺の過去の記憶にもない。
完全に過去の歴史とは違っていた。
草原なら見晴らしも良いし子供でもすぐに帰ってくる事が出来る、もし遊びに夢中で帰るのが遅くなっても大人が迎えに行けばすぐに見つけられるはずだ。
だが・・・
村の人が草原を見に行っても誰もいなかったと騒いでいる。
(もしかして?)
父さん達の話をジッと聞くと・・・
「おい、まさかとは思うが魔の森に行ったのか?」
「俺達でも入り口付近しか狩りで入った事がないし、奥は俺達でも手に負えない魔獣がいるんだぞ。」
「これだけ探してもいないとなると・・・」
「村長はどうする?娘さんのエリザちゃんも行方不明なんだし・・・」
そう、その1人の女の子は村長の娘なんだよな。
俺と同じ歳で、回帰前はよく一緒に遊んでいた記憶がある。
(どうする?)
俺の肩に乗っているダリアを見ると目を閉じ額に人差し指を当てていた。
どうやら俺が考えている事を察知してくれたようだ。
「アレン、最悪の状態だな。」
目を開けジッと俺を見つめる。
「妾のサーチに奴らの反応があった。まだ生きているが、魔の森の奥へと少しづつ進んでいるぞ。どうやら完全に迷っているようだな。これ以上奥になると魔素が濃くなって妾でも追いきれんぞ。」
魔の森
村の隣にある草原を挟んだところにあり、セイグリット王国の辺境にある俺達の住む村と、隣のハルモニア帝国辺境伯の領地との国境を跨ぐ巨大な森だ。
森の入り口付近はそんなに強い魔獣がいないので、大人達は狩りを行いウサギやイノシシなどの肉を取ってきてくれるが、奥に行けば行くほど強力な魔獣がいる。
最深部には魔王に匹敵する災厄と呼ばれる魔獣がいるとの伝説があったが、1年後にその伝説の魔獣が現れ村が滅んだ。
このまま手をこまねいていても、段々と奥へと進んでいる子供達が、強力な魔獣に食い殺される未来しか見えない。
俺はあの奥にいる災厄を知っているから、あの日までは出来るだけギリギリまであの森を刺激しないように気を付けていたのに・・・
まぁ、1年後にはここの領地を治めている若い領主が伝説を信じなくて、農地を広げようとして森に火を点けてしまい、厄災を刺激してしまって最悪の事態になってしまったけどな。
だからといって、このまま子供達を見殺しにする訳にはいかない。
それに現状では俺だけしかみんなを助ける事が出来ない。
「くそ!」
俺の気持ちが分かったからか、ダリアがニコッと微笑んだ。
「さすがはアレンだ。回帰をしても勇者の本質は変わっていないな。アイツらの位置は把握している。急ぐぞ!」
ダリアが俺の肩に乗った。
村の大人達に見つからないように部屋の中で転移を行い、森の入り口まで移動する。
「さて、ここからだな。ダリア、頼んだぞ!」
「任せろ!子供達の場所は把握済みだ。あっちへ真っ直ぐ飛べ!」
そう言って森の奥を指差した。
「分かった!」
フワッ!
俺の体が空へと舞い上がる。
重力魔法の応用で俺は空を飛べるようになった。
正確には空へ向かって『落ちる』と言った表現が正しいかもな。
俺の体にかかる重力を打ち消し、俺が移動したい方向に重力を発生させ、そこに落ちていくようにすれば飛ぶことが出来るようになった。
落下する方向を色々と変えれば自在に空を縦横無尽に飛べるようになったけど、それには細かい魔力操作が必要だった。自分の思ったように自在に飛べるようになるまで本当に苦労したよ。何度も地面に墜落したか・・・
しかも、速く飛べば風が強く息が出来なくなってしまう。
それを防ぐ為に風除けの障壁を前に張り続けなければいけないし、属性の違う魔法の同時使用の離れ業も覚えてしまった。
全てはダリアの知識から教えてもらった。
魔王というのは力だけでなく、知識も人間を遙かに陵駕していると実感したよ。
でも、味方にすればこれほど心強い存在だと改めて思った。
(ダリアに感謝だな。)
「アレン!急げ!どうやらマズい状況になっている!」
横にいるダリアの表情が少し焦っている感じだ。
「何があった?」
「そう深くない場所だが、子供達が集まって動いていない。しかもだ!その周りには魔獣の反応がいくつもある。囲まれているぞ!」
「何だと!」
確かにマズい状況だ。
(急がないと!)
「あそこだ!あの高い木の下に子供達がいる!」
だけどダリアの様子が変だ。
「アレンよ・・・」
(ん?)
どうした?
ダリアが眉間にシワを寄せ神妙な顔で俺の肩に乗っている。
(何があった?)
「魔獣の動きがどうも変だ。しかもこれは!」
ダリアが信じられない表情で子供達のいる方向を見ている。
「何が起きているんた?」
「魔獣の反応はブラックウルフに間違いないが、子供達の反応が変だ、何で聖魔法の障壁で守られている?分からない事ばかりだな。」
「聖魔法?誰かが魔法を使える大人がいるのか?」
「妾のサーチに間違いはない。あそこには9歳の子供が3人しかいない状況だぞ。大人はだれもいないし、子供が魔法を使うのは考えられん。アレンのように回帰し妾の魔石を取り込まない限り、そのような存在はいないはずだ。まさか?」
「まさか?って・・・」
「たまにいるのだよ、成人前でもスキルに目覚めてしまう存在がな。ブラックウルフに囲まれ絶体絶命の状況になって目覚めた可能性がある。ふふふ・・・、アレンといい、誰か分からん何者といい、この村の人材は尚更セイグリット王国に渡せんな。」
ダリアがとっても黒い笑顔になっているよ。
この笑顔の時は絶対に悪巧みをしているんだよな。
俺の為に色々と考えてくれているから、今は何を考えているのか聞かないでおこう。
「見えた!」
高い木々の隙間から子供達の姿が見える。
(あれは?)
女の子が地面に膝をつき両手を胸の前に組んで祈っている姿が見えた。
両隣にいる男の子達は気を失っているのか地面の上に倒れていた。
その周りに十数匹のブラックウルフが取り囲んでいる。
(まさかエリザが聖魔法を?)
信じられない話だけど、現時点で魔法を使っているのは意識があるエリザしか考えられない。
回帰前は単なる村長の娘で、俺と一緒に生き残った時は町の教会に入ってシスターになったが、結局は魔法が使えなかったはずだ。
回帰前の俺がダリアとの死闘でリミット・ブレイクに目覚めたのと一緒で、極限の状況に陥ってスキルに目覚めたのか?
いや!間違いなくそうだろう。
考えている間にエリザ達の真上に到着した。
重力魔法を解除し一気に落下する。
スタッ!
「エリザ!ビル!ベン!大丈夫か!」
俺はエリザ達を庇うようにみんなの前に着地する。
十数メートルの高さから飛び降りるような感じだけど、身体強化を併用しての落下だから体には全くダメージは無い。
やはり意識があるのはエリザだけで、残りの2人は気絶しているようだ。
股間が2人揃ってビショビショに濡れているし、外傷は全く見当たらないように見えるから、ブラックウルフに囲まれた恐怖で失禁しながら気絶したのだろうな。
エリザだけが気を失わず一心不乱に祈る事でスキルに目覚めたかもな?
しかも聖魔法でいきなり結界を作れるほどのスキルといえばアレしかない。
「アレン!」
そんな事を考えていたら、泣きながらエリザが俺に抱きついてくる。
「アレン!アレン!アレン~~~~~~~~!」
思いっ切り泣きながら俺の背中に抱きついているエリザだったけど、今はエリザには構っていられない。
無理矢理引き剥がすよりも、落ち着くまでそのままでいさせた方が良いと思う。
だが!
エリザの魔法は無意識だったのだろう。
必死の祈りがスキルに目覚めたのかもしれない。
今のエリザは俺の背中で泣くだけの状態で、いくら強力なスキルに目覚めても、まだ9歳の女の子だし戦いなんて絶対に無理だ。
そうなればブラックウルフを退けていた魔法も消えてしまうだろう。
「アレン!聖域結界が消えたぞ。ブラックウルフの目付きが変わった!」
俺から少し離れて浮いているダリアが叫ぶが、この展開は予想通りだ。
でも今の俺にはブラックウルフなんて魔獣は子犬のような存在だ。
周りを囲んでいるブラックウルフ達の中で、俺の正面にいる1匹が前に進み一気に跳躍し跳びかかってくる。
その光景をエリザが見てしまったのか叫び声を上げてしまった。
「いやぁああああああああああああああああ!」
グシャ!
「へ!」
何かが潰れたような音がした後、少し遅れてエリザの変な声が辺りに響いた。
飛びかかったブラックウルフが地面にめり込みピクピクと小刻みに震えている。
すぐに周りの地面が陥没し、完全にペシャンコに潰れてしまった。
潰れてしまったブラックウルフだけど、エリザのような子供には見せられないグロい光景だな。
「グラビティ」
これが本来の重力魔法の使い方だ。
相手の空間に高重力を発生させ空間ごと押し潰す。
もっと重力を重くしある一定のレベルを越えてしまうと、全てを吸い込む闇の最上級魔法の1つであるブラックホールが完成する。
系統は違うが同じ魔法があるというのは面白いよ。
ただし、この重力魔法の制御は難しく、制御に失敗すると下手すればこの魔法を中心に数百メートル、あるいは数キロもの空間が消滅してしまう可能性があるので、今の俺の実力では怖くて使えない。
今の俺の実力では、高重力で相手を一気に押し潰すか、動けないようにさせるまでしか出来ない。
それでも、今、目の前にいるブラックウルフの群れ程度なら軽く全滅させる事が出来るくらいに強力な魔法だ。
「森の中だから炎は使えないからな。悪いが楽には殺す事は出来ない。それでも向かって来るなら俺は容赦しないぞ。」
そう言ったけど、相手は魔獣だから言葉は通じないだろう。
「エリザ」
俺の背中にしがみついているエリザに声をかける。
既に泣き止んではいたけど、とても不安な表情でジッと無言のまま俺の顔を見ていた。
「もう安心だ。俺がお前達を助けるからな。ただ、ちょっと気持ち悪い光景になるから目を閉じていろ。すぐに終わらせる。」
直後、信じられない表情で俺を見ていたが、すぐに何だろうキラキラした目で俺を見ている気がした。
(何かやらかした?)
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