第11話 良くやった!

あれから3年が経ち、俺は5歳になった。


ブン!


ザッ!


「ふぅ~~~~~」


木剣を握り型稽古を続けていた。

一通りの連携技を行い残身を取って、今の型の出来栄えをダリアに見てもらう。


「まだまだだな・・・」


ダリアの容赦無い感想が俺の胸にグサッと刺さる。


「基本は悪くない。確かに現状では悪くはないが、アクセラレーターを併用するとまだまだ無駄な動きが多いから、途中から体が技に振り回される事になるな。」


「やっぱりそうか・・・」



回帰前の俺の剣技は力任せの剣技で戦っていた自覚はあった。

あの時、魔王のダリアとの戦いはダリアの剣術に翻弄され、俺以外のメンバーは殺され、俺だけが辛うじて戦えたようなものだった。

あの時は身体能力が限界突破し、力と素早さがダリアを追い越しただけで掴んだ勝利だろう。


(ハッキリ言えば運が良かっただけ・・・)


このままではセドリックには勝てないと言われ、魔法だけでなく剣技をもっと磨く為に頑張っている。


だけど、魔法に関してはこれ以上は魔力量を増やすのはマズいと言われた。

現状でも魔王クラスの魔力量を誇っており、この王国ではそろそろ自重しないと魔力探知に長けているグロリアに勘付かれる可能性があるとの事だ。

ダリアの本体はこの国の隣にある帝国にいるので、この国さえ出てしまえばどれだけ増やそうが王国は何も言えなくなるし、それまでは我慢するようにと言われている。


「ふふふ・・・、セドリックよ、貴様の王国が最強でいられるのはそう長くないからな。10年後をみておれ・・・、帝国に全てをひっくり返され、屈辱に歪む貴様の顔を楽しみにしているぞ。」


ダリアがとっても悪い笑みになっているが・・・


それ以前にだ!

ダリアの本体は帝国にいるのか?

俺は王国の人間だし、どうやってダリアは俺を帝国へと呼ぶのだろう?


「まぁ、今は黙って鍛錬に励め。時が来れば事情は説明するからな。」


そう言ってはぐらかされてしまったが、何か方法を考えているならそれ以上は聞かないでおこう。


(今は剣技を鍛えるだけで手一杯だしな。)



ダリアの剣技は普通の剣技と違っていた。

いわゆる、魔法を併用しての剣技だ。

あの目に見えない神速の剣技は、ダリアの時空魔法を使い身体能力を向上しての剣技である。


時空魔法の中に『アクセラレーター(加速)』と『スロウ(減速)』の魔法がある。

どちらも自分や相手にかける魔法だが、アクセラレーターはバフ、スロウはデバフの魔法と考えれば良い。

加速を自分へとかけると動きはとてつもなく速くなるが、武器の遠心力も増大し、普通に木剣を振るだけでも動きが変になってしまう。

木剣でこうなると、鉄で出来た本物の剣は振る事すら無理だろうな。

剣を振った瞬間、俺の体ごと剣と一緒に飛び出すだろう。


「無駄な動きが多いからそうなるのだ。」


そうダリアに何度もダメだしを喰らって、その度にダリアの手本を何度も見せてもらっている。

本当は俺との手合わせで技を教えたいと話していたが、肝心のダリアがこんなサイズだしな。

俺とのサイズが違い過ぎて、正直、手合わせにもならない。


それだけだと修行にならないので・・・


「ほれほれ、どうした?こんな事じゃ一生かけても妾を捕まえる事は出来んぞ!」


俺の周りを飛んでいるダリアにタッチするだけの修行も追加しているが、全く掠りもしない。

ダリア自身、そんなに動きが素早くないのにだぞ!

俺の手が触れる瞬間、いきなり消えたように移動されてしまう。

まるで瞬間移動のような動きだ。

ダリアの講釈では剣術も体術も基本は同じだ。どちらも無駄な動きをどれだけ抑え、合理的な体裁きを身に付けるかだ。


こうして剣術の練習と併用してこのように体術の練習も行っていた。


「さて、もう一度おさらいだな。妾の剣捌きばかり目に行きがちだが、それ以上に足裁きも重要な要素だぞ。」


ダリアが自分のサイズに合わせた剣を片手で正眼に構える。



シュッ!



一瞬、腰を屈めたと思った瞬間、同時に右足と剣を握った右手を突き出す。

そのまま踏み出した右足を軸にクルッと回転し、水平方向に剣をなぎ払った。と、思いきや、左足を横に大きく広げ腰を屈め、掬い上げるように剣を切り上げた。

手首を返し今度は一気に袈裟切りを行う。

その後は、まるで舞踊のような華麗な剣技を続けている。


(何度見ても見惚れてしまう。)


全ての動作に無駄が無く流れるような動きだ。

しかも、ダリアの動きを見ていると、まるで本当に相手がいるように見えてしまう。

その相手はダリアにバラバラに刻まれている姿しか見えないが・・・


ハラリ・・・


1枚の木の葉が木から舞い落ち、ハラハラとダリアの前に落ちて来た。

ダリアが木剣を腰に当て抜刀の姿勢をとった。


一瞬だが、ダリアの前に一筋の光が見える。


スパッ!


いきなり木の葉が空中で真っ二つになって地面へと落ちた。



(凄い・・・)



あの時はよくこの動きを見極められたものだと、思い出すだけで背筋が寒くなる。


それにだ!ダリアは木剣で木の葉を切り裂いているのだぞ。

ダリアの今の大きさからすれば、木の葉でもかなりの大きさだ。それを刃の無い木剣を使って、まるで鋭い刃の剣で切ったように、切り口も鋭利に切り裂かれている。

どんな技術を使えば真剣のように切る事が出来るのだ?


「何度見てもマスター出来る気がしないよ。その木剣で真剣のように切れ味が出せるの信じられないよ。」


俺の言葉にダリアがニヤリと笑った。


「それはそうだ。そう簡単にお主に真似されたら妾の立場が無くなるわ。全てはスピード、タイミング、角度が揃わなければならない。だけどな、今のお主ならこの剣技を受け継げると思うぞ。」


「何度も練習しているけど、なかなかなぁ・・・」


「そう心配するな。今のお主の体だからこそ習得出来ると思うな。こんな子供の体なんだ、どう頑張っても、例えリミット・ブレイクだろうが、自然の摂理には勝てん!今の力のない体なら余計な動きを気にせず修練出来るのだぞ。かつてのお主の剣技は力任せだったし、それではそれ以上に力を伸ばせないからな。逆に今のタイミングで学べる事は喜ばなければいけないのだぞ。」


「それは分かっているけどな。」


再び全身の力を抜いて剣を構える。


ダリアの言っている事と俺が行っている事の違いくらいは分かる。


『脱力』


そう言われるが、実際にやってみるのでは全く違った。


単に力を抜くだけではダメだ。

全身を水のようにイメージし、力を全身に均等にさせる修行をずっと行っているが、いまだにその感覚すら身に付いていない。

水は傾けると一気に高い所から低い所へと流れる。

その力の流れをスムーズに行わないと、あのような一瞬で最大加速まで体を動かす事は出来ない。

余計な力が入ればそれだけ力の移動も歪になり、結果的に無駄な力の配分になって速度も劣ってしまうのだと・・・


(体で覚えと言われてもなぁ・・・)


目を閉じさっきのダリアが木の葉を切った動きをイメージしてみる。


余計な力を全身から抜く。



(あれ?)



目を閉じているのにどうしてなのか周りの景色が見えるように感じた。


(どういう事だ?)


しばらくすると、木の葉がヒラヒラと俺の前に落ちてくる気配を感じた。。


いつもなら右足をザっと前に踏み込むのだが、体の方が先に倒れ始め自然と足が前に出てくる。

そうなると、今度は剣を握った右手も自然と前に出てきた。



シュッ!



「え!」


何だろう?剣の重さも感じる事も無く素直に剣が振れた。



パラ・・・



木の葉が真ん中から縦に真っ直ぐに切れて2つになって落ちていく。



「出来た?」



「良くやった!」


ダリアが嬉しそうに俺の肩に乗り、スリスリと頬摺りしてくる。


「これがダリアの剣?」


「そうだ。だがな、まだまだ入り口に立っただけだぞ。今の感覚は絶対に忘れるな。次もそう上手く出来ないからな。」


そう言われて再度剣を振って見たが、ダリアの言う通り同じように出来なかった・・・


(確実に出来るようになるにはどれだけかかるやら・・・)


だけど、、一歩前進した実感は俺の中ではとても自信になったと思う。




こうして剣の練習に集中しているだけでなく、魔法も一緒に鍛える事は忘れない。


ちなみに俺やダリアの使っている木剣は俺の手製の剣だったりする。


そうだろう、田舎の町にこんな5歳児が使うような剣がある訳が無い。ダリアの使っているままごとサイズの木剣なんかもっての外だ。


だから、自分で剣を作る事にした。


さすがに鉄から剣を作るのは無理だし、それ以上に材料が無いからな。

だけど、木は鉄と違いどこでもゴロゴロ転がっている。

その木を使って剣を作った。


単に木を削って作るだけではそんなに耐久力も無いし、しかも、木が渇くと反ってしまいまともな剣として役に立たない。

本来の騎士や冒険者の練習に耐えられる木剣に使うような木はここにも無いし、どうやってそのような木を手に入れたのか?

まぁ、別に特別な木を使った訳でもないし、それは魔法を併用して作成した。


森に行けば木なんてゴロゴロと転がっているから、適当な長さの木を見つける。

その木に重力魔法を徹底的にかけ木を圧縮させていくと、余分な水分も抜け木の繊維がより密集し石のように固くなる。

この方法で木の棍棒を作ってみたけど、固いのなんのって!

まさか、木の棒で石を砕いてしまうとは予想もしなかった。

剣を作る時は重力のかかり方を調整し、剣の形になるよう圧縮していく。

この細かい魔力操作がとても大変で、理想の剣の形にするのにどれだけ失敗したやら・・・


このようにして木剣を作ったのだが、まさか、岩まで切り裂ける程になってしまったのには、さすがにやり過ぎだったと反省したよ。


『鉄よりはるかに軽いのに、鉄並みの強度を誇る木剣・・・』


俺とダリア専用にして里の誰にも見つからないようにしないとな。

余計な騒ぎが起こっては遅いだろう。




魔法に関しては魔力量は増やさずに操作を徹底的に鍛えた。


それには理由がある。


今の俺は制限なく魔力量を上げる事は可能だが、さすがにやり過ぎると魔力探知に長けるグロリアに勘付かれる可能性があるという事だ。

12歳でスキルを授かる前に先天的にスキルを持っている事にすれば問題はないだろうが、桁違いの魔力量に使える属性まで調べられてしまうと、確実にセドリックとグロリアの監視下に置かれるだろう。下手すればすぐにでも殺されスキルを奪われるかもしれない。


そんな訳で、今は量より質を重視して鍛える事にした。

『スキル授与の儀』の前にはこの王国からダリアがいる帝国へと移り住む予定だ。

そうなれば自重することなく鍛える事は可能だとな。

帝国は王国と違って実力主義だし、帝国でダリアと一緒に頭角を現すのも悪くないと思っている。


それに魔力操作を鍛える目的はちゃんとある。


俺は体内にあるダリアの魔石のおかげで魔法を最初から無詠唱で放てる。魔王であるダリアの力を共有して使える事だ。しかし、世間では魔法は詠唱をしなければ発動せず、高度な魔法ほど詠唱時間が長くなってしまう。

その為、戦いになると魔法使いは後ろに下がり、前衛の戦士などは魔法を発動するまで護衛として戦うのが一般的だった。


だが例外もあり、魔法剣士は魔法を使えるが前衛でも戦える。

その魔法だが、無詠唱とまではいかないが、魔法の詠唱を極限まで短縮する事により、短時間での発動をして剣技に魔法を併用し勇者の中でも別格の強さを誇っている。

ただし、そんなに都合の良いものでもなく、魔法に関しては上級の魔法は使えないみたいで、基本魔法や中級でも威力の弱い魔法までしか使えない制約もある。


詠唱の短縮も魔力操作の延長線上のようなもので、例え無詠唱でも魔力操作が向上すれば、発動までのタイムラグを縮め戦いに有利になるという事だ。

俺は魔法剣士でもないし魔法使いでもないが、剣を使っての接近戦と遠くからの魔法を使った遠距離攻撃も出来る。

また、聖女などのように自分でも回復も出来るし、バフをかけて身体能力を上げて戦うのも可能だ。


俺のスキルはそんな事を全て行える可能性が高い。

魔王以上の存在にな。


そう考えると、俺って本当に規格外の存在になったと思う。


回帰前にこんな勇者なんていなかったな。

ダリアの言ったように最強の勇者になるかもしれない。

だけど、この力があのセドリックに通用するのか?



いや!通用するかしないかの話ではない!


奴に絶対に勝つ!それだけ考えて強くなるだけだ!






そして・・・・


俺とダリアとの物語はあのダンジョンでの始まりだけど、俺の勇者の始まりは・・・



忘れもしない、これから5年後に起きる出来事だ。

今、俺が強くなろうしている事は最終的にセドリックに勝つ事だけど、あの出来事にも関係している。




あれが俺の勇者としての始まりだったと思う。



今度こそは・・・





父さん達を守る!

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