第10話 お主は本当に人間か?
あれから2年が経った。
今では元気に走り回る事も出来るようになった。
まだ体が出来ていないので、大人のように動き回るのは難しいけどね。
そして・・・
「やってしまったな・・・」
「あぁ・・・、妾の予想を遙かに越えてな・・・、アレン、お主は本当に人間か?」
「生物学的に俺は間違いなく人間だと思う。」
(多分な・・・)
目の前の光景に俺が人間である事の自信がぐらつく。
「お主、妾の後を継いで魔王になるか?今のお主の可愛らしい外観で、その名も『幼児ショタ魔王アレン』・・・、もしかして需要があるかもしれん。ファン第一号は妾がなってやるぞ。」
ライトの魔法消費量だと、俺の天井知らずに増えている魔力の総量を全然消費出来なくなってしまった。魔力を枯渇状態に近くするには他の魔法を使うしかなくなってしまったけど、属性魔法だと室内で使用するには危険過ぎる。
そんな訳でダリアの固有魔法でもある『時空魔法』で魔力を鍛える事にした。
ダリアの言う通り俺も時空魔法が使えた訳だが、どの魔法も魔力消費量はハンパなく今の俺の魔力では使えるものではなかった。
その中で唯一『アイテムボックス』だけが使える魔法と教えてもらった。
この魔法は時空魔法の中では特に魔力消費量が少ない。
ただし、最初だけだ。
それでも他の魔法に比べて周りに与える影響は無いし、中級の鍛錬には最適だと言っていたよ。
そんな訳で空間魔法の基本である『アイテムボックス』の魔法をひたすら鍛えた。
この魔法は魔力が上がれば上がるほど、収納可能な空間の容量を増やす事が出来る。
最初は鍋一杯分くらいの容量しかなかったが、2年経った今ではどれくらいか?ダリアに鑑定してもらったけど、今、俺が住んでいる村が2つか3つほどの大きさの土地がスッポリと収まるほどではないかと言われた。
『将来的にはこの星が全て収まるのも夢ではないな。』と、ダリアがボソッと呟いていたが・・・
(正直、実感が湧かないが、完全に化け物の領域に入っていないか?)
その呟きは聞かなかった事にておこう。
気にしたら負けのような気がする。
容量が小さいうちは収納空間を拡張するのに魔力はそう多く必要なかったけど、容量が増える度に魔力が倍々と必要になってきた。
確かに魔力を鍛えるに最適な魔法だよ。
やっと歩けるようになる1年で魔力だけはとてつもない数値だと実感していた。
その頃になると、体の中の魔力を循環させる事も意識せず出来るようになったよ。そのおかげで眠っている間も鍛える事が出来た。
ダリア曰く、『完全に人間の域を超えた魔力お化け』の俺が、とうとう他の時空魔法を使う事になった。
かなりの種類があったが、その後の1年の間に少しずつ身に付けて大体は使えるようになった。
その中でも転移魔法は特に魅力的な魔法だよ。
なんせ遠く離れた場所まで一瞬で移動出来るのだ!
ただし条件があって、今までに行った場所でないといけないのだけど、その点は生まれ変わった俺には回帰前の体験がある。
父さんや母さんの目を盗んでは回帰前の知っている場所に色々と行ってみた。
もちろん2歳ちょいの俺が人前に出る訳にいかないから、練習として森の中や山、海岸とか限定だったけどな。
転移魔法も使えるようになったし、今日は周りに迷惑がかからない場所まで転移し、鍛えに鍛えた魔力で使用を封印していた属性魔法を使う機会が出来たって訳だ。
今回、初めて属性魔法を試す為に『普通』に上空に撃ち出した炎魔法が、『たまたま』遙か上空にいたレッド・ドラゴンに命中した。普通ではあり得ない射程と威力の魔法が『たまたま』レッド・ドラゴンを黒焦げにしてしまう程だった訳だ。
その『たまたま』に撃った炎魔法だが、俺としては『普通』のファイヤーボールを撃ったつもりだったけど、なぜかその炎の玉が異常な程に巨大になってから火の鳥に変化し、凄い勢いで上空へと飛んで行っただけだ。
その火の鳥がレッド・ドラゴンを呑み込み黒焦げにしてしまっただけなんだよな。
(俺は余計な事は何もしていないぞ!)
そんなレッド・ドラゴンが黒焦げの状態で地面に落ちて死んでいる。
俺の家よりも大きなドラゴンがだ!
だけどね、香ばしい匂いがしてとても食欲をそそるのだが、2歳児の俺にとってはまだ食べるのは無理だろう。
(しっかし!たったの一撃で倒すとはねぇ・・・)
普通ならドラゴン種なんて国の騎士団や勇者達が総出で対応しなければならない程の高レベルのモンスターだ。
それでも場合によっては国が亡びる事態もあり得る。
特にレッド・ドラゴンやブラック・ドラゴンなんて最高ランクの災害級のモンスターだったりする。
それを一撃なんだよ。
しかも、レッド・ドラゴンは炎耐性が特に高いし、通常だと水や氷などの弱点を突かないとダメージすら与えられない。
そんな存在をしかも耐性のある炎で倒してしまったりするのだよな。
そんな訳で冒頭に戻る、
(ダリアが呆れてしまうのも分かる。)
「あの時、これを受けたら流石の妾も危なかったかもしれん。未完成で助かったわ。」
しかし、ダリアが俺を見てニヤリと笑った。
ソクッ!
(何だ?何か嫌な感じがする。)
「そういえばだ・・・」
そう言いながらジッと俺の右手を見ている。
「お主はあの時、妾の胸に触れたな?それで妾の胸はどうだった?」
「はぁ?」
その言葉に思わずダリアの胸を見てしまう。
妖精サイズに小さいダリアだけど、見た目は成人のとても美しく、しかも!『とっても』スタイル抜群なんだよ!
特に胸がかなり・・・、いや!男なら誰でも視線を釘付けにしてしまうだろう大きな胸だったりする。
その大きな胸を両手で挟んでブルン!ブルン!と揺らして俺に見せつけてくる!
(2歳児の俺に何て事をする・・・)
「あんな激しい戦いでそんなの分かる訳がないだろうが!それにな、あの分厚い鎧を纏っていたのだぞ。まさか女の人とは思わなかったくらいだったしな。」
「だけどな、妾の初めての男だったのだぞ。ちゃんと責任をだな・・・」
ズン!
ダリアの頭に軽くチョップする。
実体化しているからちゃんとダメージは与えたみたいだな。
「こら!乙女の頭に何をする!パワハラで訴えるぞ!」
痛そうに頭を押さえているが、目は笑っているしダメージなんて無かったようだ。
俺にちょっかいを出されて喜んでいるだけみたいだ。
こんなに小さい体でも頑丈さは人間を軽く越えているし、流石は魔王だけある。
「このセクハラ魔王が!言葉の使い方が変だぞ!そんな言い方だと誤解されてしまうわ!それにな!そんな悩殺ポーズ!幼児にやっていい事じゃないだろうが。教育に悪いわ!」
「何をぉおおおおお!実質20歳の童貞男が何が教育じゃ!」
そう言いながら俺の左肩に腰掛けた。
この場所がダリアの定位置になってしまったのだよな。
そして俺の頬にキスをしてくる。
「暴言を吐いてスマンの。妾も心配なのだ・・・、今の妾はこの様な姿でしかお主と触れ合えん。本体の妾と会うまでの間に、どこかの泥棒猫にお主をかっ攫われてしまうかと思うとな・・・」
そんなダリアの頭を優しく撫でてあげると、幸せそうに俺の頬に寄り添ってきた。
「ダリア、心配するな。俺はダリア以外には絶対に好きになる子はいないからな。それ以前に、回帰前の俺はモテない男だったしな。ダリア以外の女の人は絶対に近寄ってこないさ。」
「ならいいが・・・」
「どうした?まだ心配か?」
「いや・・・、お主は回帰して人生をやり直しているが、前の人生とは全く違う生き方をしている。だからな、前の人生の事はあまり参考にならないと思うのだ。お主は妾から見てもいい男だと思う。いや!最高の男だ!何せ、妾が惚れた男だからな。」
「それは買いかぶりすぎだよ。俺はそんな立派な男じゃないさ。」
「いや、将来のお主は最強の勇者として有名になるだろう。それは妾が保証する。しかも、今でもその片鱗は現れ始めているのだぞ。目ざとい女共はそんなお主に近寄ってくるだろう。妾以上に良い女がいるかもしれん・・・」
「それでも俺はダリアを選ぶ。必ずな!」
「ア!アレン!」
ダリアが嬉しそうに俺の頭の上でうつ伏せになって乗っている。
普段は左肩に座っているが、嬉しい時やスキンシップをしたい時は頭の上に乗るのだよな。
まぁ、重さも感じないし自由にさせてはいるが・・・
(ただねぇ~~~)
柔らかい2つのマシュマロの感覚が頭皮にダイレクトに伝わるのだ。
(コレって絶対にワザとやってるな。)
ちょっとドタバタした初の属性魔法の練習だった。
『レッド・ドラゴンを狩ったし、そのままにしておくのは勿体ないな。収納魔法に収めたのなら時間経過は無いからずっと新鮮なままに保管しておけるぞ。頃合いを見て出せば問題無いだろう。』
そうダリアに言われたので、試しに収納魔法に入るよう念じると・・・
スッと音も無くレッド・ドラゴンの姿が消え、そして脳内に『レッド・ドラゴン×1』の文字が浮かんだ。
「おぉおおおおおお!」
(とっても感動だよ!)
今までなんか『枕』『毛布』『椅子』など部屋にある小さい物しか入れられなかったし、あれだけの大きなドラゴンを収納出来るなんてな。
本当に便利だし、回帰前にもこの魔法が使えたらどんなに便利だったか・・・
(まぁ、過ぎた事は仕方ないな。)
時間もそう取る事が出来ないから今日はこの辺で切り上げて戻る事にした。
後日、時間を見てまた転移で戻り、色々と魔法を試してみた。
その他の属性魔法も信じられない新魔法を作り出していて、あの唖然とした表情のダリアは忘れられないよ。
(そんなダリアも可愛いって思う俺もかなりかもな?)
両親のうち父さんは普段は畑仕事や森の狩りで日中は家にいない。
母さんも畑仕事をしたり、買い物やご近所さん達のお手伝いなどで家にいる時間が段々と減っている。
俺は2歳児のわりには物分かりが良い(中身は大人だから当たり前だけど)と思われているので、2歳だけど家で1人で留守番をしている事が多い。
まぁ、それも狙って大人しく聞き分けの良い幼児を演じているけどな。
そのおかげでコッソリと転移で村の外まで出かけて魔法の練習が出来るのだ。
ある日の事・・・
「ダリア、2時方向に父さん達の反応だ。距離は約500mかな?」
俺の肩に座って目を閉じていたダリアが目を開けた。
「アレン、合格だ。方向も距離も完璧に把握出来たな。妾も同じ結果が出ているぞ。」
ダリアがニッコリと微笑んでくれる。
今、俺が行っている事も魔法の練習だ。
ダリアの時空魔法は属性魔法以上に種類があり、しかも、戦闘だけでなく日常にも役に立つ魔法が多い。
転移も収納もそうだし、俺が今、練習しているのは『サーチ』の魔法だ。
魔力をとてつもなく薄く広く俺の全周囲に張り巡らせ、その魔力に触れた者を察知する魔法だ。
魔力量が増えれば増える程に索敵範囲も広がっていく。
今の俺の魔力量なら半径10kmまで広げることが出来るが、ダリア曰く『水平方向だけでなく上空も含めての索敵を目指せ。』とな。
コレばっかりは魔力量ではなく魔力操作だから、なかなか苦戦している。
まだ2歳だから慌てずゆっくりと覚えれば良いと言われている。
ただ、今日はサーチの魔法の練習だけで村の外に転移した訳ではない。
あのレッド・ドラゴンの処分をする為だ。
いくら時間が経過しない収納魔法だけど、ずっと入れているのもなぁ・・・
明日はちょうど村のお祭りだから、俺からの内緒のサプライズとしてドラゴンをプレゼントする事にした。
さすがに俺から直接父さんにあげる訳にもいかないから、偶然に父さん達の前に空から落ちてきた事にしようと考えてみた。
「ゲートオープン」
俺が念じると、狩りから帰っている父さん達の上空に次元の穴が開いた。
「ドラゴン投下!」
ヒュルルルゥゥゥ~~~
ドシャ!
「よし!父さん達の前に落ちた!もう死んでいるドラゴンだし、みんな喜んで持って帰ってくれるかな?」
が!
「「「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」」」
父さん達がパニックになって、必死に村へと走って行ってしまった。
「「・・・」」
俺とダリアの間に気まずい空気が漂う。
「ダリア・・・」
「アレンよ・・・、どうやら妾達の感覚はかなりズレているのでは?妾達の常識が普通の人間には非常識になっているようだ。人前では更なる自重をしなければならないようだな。」
「俺もそう思った。普通の人だったらドラゴンが現われたらパニックだよ。逃げるのに必死で、目の前のドラゴンなんか生きているか死んでいるかも確認するどころではないな。」
ドラゴンを再び収納魔法に収め、父さん達が村に戻る前に転移で先回りで部屋に戻った。
父さん達が必死な形相で村に戻り、ドラゴンが出たと騒いでしまった。
その日は村は大パニックになってしまい、、明日からの祭りどころではなくなってしまった。
「みんな・・・、スマン・・・」
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