第8話 この鍛錬を甘く見るな!

『さて・・・』


(ん?)


前回と同じ始まりのような気がする。


『アレンよ・・・、細かい事は気にするな。そんな細か過ぎる事ばかリ気にすると若いうちに禿げてしまうぞ。』


そ、それは勘弁して欲しい!


『冗談はさておき・・・』


ダリアがジッと俺を見つめている。


『確かにお主の才能は宝の山みたいなものだ。この才能が全部開花すれば神にも匹敵するだろうな。お主を鑑定して初めて思った感想が、この世で一番神に近い存在では?なのだよ。』


それでか、俺の鑑定をしていた時にダリアが固まってしまっていたのは。


(そんなに凄いのか?)


『お主も勇者の端くれだっただろう?上位ランクの勇者の強さはスキル自体の強さもあったが、複数のスキルを組み合わせ更に技として昇華するのだよ。特に、剣技や体術に魔法を組み合わせると相当なものになるぞ。まぁ、それでも妾には遠く及ばなかったけどな。』


ニヤリとダリアが笑った。

確かにあの時のダリアの強さは異常と呼べるほどだった。

剣技と魔法の組み合わせで俺とグロリア以外はあっという間に殺されてしまったしな。


『そんな妾を剣技だけで追い込んだお主も異常と言えば異常だったぞ。』


(確かに言われれば・・・)


『まぁ、その時はお主のスキルで剣技も身体能力も人間を超えてたし、最後には妾も抜かしてしまったからな。多分だが、あの尻軽聖女の不意打ちが無ければ、下手すればセドリックといい勝負をしたかもしれん。あくまでも可能性だけどな。』


ビシッと俺を指差した。


『それでだ!今回は確実にセドリックを凌駕するようにお主を鍛える!体が普通に動かせるまでは、ひたすら魔力の上昇に集中するのだ。』


(魔力の上昇?)


『そうだ、最後の最後にお主は魔法に目覚めたから、魔法について知識もほとんど無きに等しいはず。まずは前提としての話だが、魔法に適性があるのと実際に魔法を行使出来るとは違う。どれだけ魔法に適性があろうが肝心の魔力が無いと使い物にならん。肉体派のお主に分かるように例えれば、いくら剣の技術を身に付けようが、肝心の肉体が虚弱で体力も無ければ、体が追い付いていかないと宝の持ち腐れだろう?魔法も同じようなものだ。』


(ダリアの言いたい事は分かった。魔力を鍛えるにはどうすれば良いのだ?)


『ひたすら反復鍛錬だけだ。』


(はい?これだけ?)


『だがのぉ、この鍛錬を甘く見るな!』


またダリアがニヤッと笑う。


『ただ闇雲にやっても効果が無い!それに種族限界の壁があって、早々に限界を迎えてしまうのもあったしな。』


ダリアが掌を上に向けるとポン!と小さな黒い球が出来上がった。


(これは?)


『妾は4大属性魔法に氷魔法が使える。その上位魔法として闇の魔法も使えるのだが、今、お主に見せているのが、闇魔法の基本であるダークボールだ。基本であっても疎かに出来んぞ。この魔法にどんどんと魔力をつぎ込み魔法自体を圧縮していけば、最終的に上級のブラックホールまでに変化するのだ。この圧縮作業をどれだけ迅速に行えるかも課題にしないといけないがな。』


(すげぇ~~~~~)


実際この目でハッキリと魔法を見たのは初めてだよ。

俺は基本的にはソロで勇者活動をしていたし、魔法使いとは縁がなかったしな・・・

回帰前の最後の攻略になったダリアのいる南のダンジョンは、グロリアに最初に声をかけられあいつらとパーティーを組んだ。

まぁ、今から考えれば俺はあいつらの肉の盾のような位置付けだった気がする。

ダリアとの戦いはたまたま俺が生き残っただけであって、当時のダリアとグロリアの手によって全員が殺されるはずだったのだよな。


『アレンよ・・・』


(どうした?何か難しい顔だけど?)


『そう自分を卑下するな。妾との戦いでお主だけが生き残った。まぁ、グロリアは案内役みたいな位置付けだし、妾と戦う事が無いのは最初から決まっていたしな。しかし、グロリア以外で生き残った上に妾を倒したのだぞ。偶然でも運でも無い!お主の実力だ!分かったか?』


(ん?)


ダリアが熱っぽい目で俺を見つめている。

ちょっと恥ずかしい。


『だからな、いまから妾が教える方法はかなりの苦痛を伴うが、お主なら必ずや乗り越えると信じているぞ。妾の本体の方も同じような鍛錬を始めている。お主の隣に立って戦えるようにな!』


(分かった!だからさっそくやろう!)


『まぁまぁ落ち着け。本体は今の妾のように闇魔法で鍛錬を行っているが、お主は闇魔法は危ないな。一歩間違えれば、自分が生み出したブラックホールに呑み込まれてしまうからな。これは闇魔法を極めた妾しか無理だろう。』


そういう事か・・・

だったら俺はどの属性を使えばいいのか?


『ふふふ・・・、悩んでいるな。お主は最初は光魔法が合っているだろう。光魔法の初級にはライトなる魔法がある。殺傷能力は全く無いから制御が出来ないお主にはピッタリだろうな。魔力の制御が出来るようになれば更に高度な魔法を教えるぞ。妾の説明をしっかり聞くのだな。』


(どうすれば?)


『まずは掌を前に出し上に向けろ。』


今の俺は仰向けか横向きに寝るかしか出来ない。

そんな状態だが、ダリアへ向かい横になる。

なかなか上手く体が動かせないが、ダリアに向けて手を伸ばした。


そして掌を上に向けた。


『さて、これからが本番だぞ。まずはイメージするのだ。掌の上に小さな小さな光が灯るように・・・、その光が徐々に集まり大きくなるように・・・、体の中から小さな流れが起き、全身を巡りながら少しずつ掌に集まる、そんなイメージをするのだ。』


ジッと俺は自分の掌を見つめる。



・・・




・・・




・・・




(うわぁあああああああああああああ!ダメだぁああああああああああああ!)


どんなに頑張っても光の玉のようなものも出来ない!

それよりも体中を巡る魔力というものすら全く感じないよ!



『そう焦るな。』


ダリアが優しく俺の頬に手を置いた。


(温かい・・・)


今のダリアは具現化して俺に寄り添ってくれているのか?


『いきなり出来れば妾も自信を無くすぞ。全く基礎が無いお主があの時いきなり出来たのも異常なのだ。だけどな、思い出してみろ・・・、魔法を始めて撃ったあの時の事をな・・・』


ダリアの手の温かさが俺の頬を中心にして全身に広がっていく。

これはダリアの魔力か?

その魔力と同じ波動が俺の中から感じる。


(これは?)


心臓の近く?いや、俺の心臓?

その俺の心臓が脈打つ度に何だろう?温かいものが体中を巡り回る・・・、そんな感じがする。


(もしかして、俺の心臓とダリアの魔石は?)



カッ!



意識が俺の心臓へと向いた瞬間、掌から眩い光の玉が出現する。


『こ、これはぁあああああああ!』


ダリアが叫んだ。


『アレン!ちょ!ちょ!ヤバいぞ!その光の玉を消すんだ!今すぐに!』


何だ?ダリアがとても慌てているぞ!



だけどだ!消し方なんて知らん!




(どうしよう?)




カァァァ!



(眩しいぃいいいいいいいいいいいいいいいい!目が!目が!目が潰れるぅううううううううううううううううううううううううううう!)



あまりの眩しさに目を開けられなくなってしまう。



そして・・・



一瞬で意識を失った。






(は!)


ダリアが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


『アレンンン!』


どうしてだ?

ダリアが泣きながら俺の顔に抱き着いた。


(ちょ!ちょ!ダリア!胸が!お前の胸がグイグイと当たっているぞ!)


不思議だ、ダリアが実体化して俺の頬に抱き着いているなんて・・・

実体化するだけでもかなり大変なはずでは?


しばらくして泣き止んだダリアが俺を見てニヤニヤしていた。


『アレンよ、妾の胸はどうだった?ふふふ・・・、とても嬉しそうだな。』


(い、いやぁ~~~、それどころでは・・・)


『そう照れるな。妾の良さを再認識したのだろう?』


またもやグリグリと胸を押し付けてくる。


(ダリア!勘弁してくれ!そんな痴女のようなダリアを見ると軽蔑するよ。)



『なっ!』



ショックを受けたような顔でダリアが固まってしまう。


『あ、あ、あ、あ、あ・・・、アレンに・・・、アレンに嫌われてしまう・・・』


涙目になりながら俺の腕に抱き着いてくる。


『アレンよ!スマン!妾が調子に乗り過ぎた!だからな、頼むから妾の事を嫌いにならないでくれ・・・』


こんな姿のダリアを見ていると流石に可哀想になってきた。

少し言い過ぎたかもな。


(ダリア、俺こそスマン。ちょっと言い過ぎた。お前の事は絶対に嫌いにならないから安心してくれ。)


『本当にか?』


(あぁ、本当だよ。)


『そっか・・・』



チュッ!



(へ!)


ダリアが嬉しそうに俺の頬にキスをしてくれた。

その表情、そして仕草がとても可愛い!

俺も思わずドキドキとときめいてしまったよ。


『アレンよ、済まなかった。ちょっと調子に乗り過ぎたな。次からはお主に嫌われないように注意する。嫌われたら生きる気力も無くしてしまうからな。』


おいおい、ちょっと大げさ過ぎないか?

だけど、少しは大人しくなった方が話が進むのは間違い無いだろう。

ちょっとは助かったのではないのかな。


(そう気にするな。別に怒っている訳じゃないから。ただな、俺って今まで女の人と付き合った事が無いから、どうすればいいか分らなかっただけだよ。それにな、ダリアのような美人に迫られるとはずかしくてな・・・)


『そっかぁぁぁ~~~』


ダリアの顔が少し赤いが、嬉しそうに俺の横に座りもたれかかってきた。


『やっぱり妾はアレンの初めての女になるのだな。』


(おいおい、言い方がちょっと変だぞ。せめて彼女と言ってくれ。)


『細かい事は気にするな。ふふふ・・・、やる気が出たぞ。まぁ、アレはちょっと予想外だったが、お主の指導方針は大体決まったぞ。』


アレってやっぱりアレだよな?

気を失いう直前のアレだな?


(さっきの異常に眩しい光は何だったのだ?それに気を失うって?)


『それは順番に説明する。まずはあの光だが、ライトの魔法が暴走した結果だ。』


(暴走?その魔法は暴走しないって言ってなかったか?)


『普通はな、だがのぉ、お主は妾の魔石を取り込んだ段階で規格外の存在となっているのだ。妾もその事は予想していたが、かなり下に見積もっていたものだから、ここまでとは思わなかった。本当にすまん。』


(ここまでって?本当に何があった?)


『あの光の玉だが、あまりにも眩しくなってな、お主よりも大きな光の玉となったのだ。その時はすでにお主は気を失っていたが、その光の玉がみるみると小さくなって、今のお主の手でも握られる程になってな・・・』


何だ?

ダリアがチラッと横を見たが・・・


(はい?)


壁にいくつも穴が開いているぞ。何かが刺さったような感じではない。その部分だけが消滅したかのように穴の開き方がとてもキレイだった。


(コレって?)


『そう、あの光の玉から細い光が飛んでな、壁を貫通したのだよ、この壁だけじゃなくて隣の部屋の外壁も同じように穴が開いている。さすがに外壁は板を張って補修はしてあるけどな。まさかライトから中級の魔法であるレイに昇華してしまった、いや、この威力はレイを越えている。全く新しい魔法を創造してしまったのだよ。』


(新しい魔法だって?)


『そうだ、この魔法は後々検証するが、まずは親を安心させるのだな。』


(どういう事だ?)


『お主は2日間も気を失っていたのだぞ。お主がベッドで気絶し意識が無い上に原因の分らないこの部屋に開いたいくつもの不審な穴。その穴も隣の部屋もそうだが外壁も貫通しているしな。親が心配しない訳が無い。今回は妾のミスで迷惑をかけてしまい本当に申し訳なかった。』


(そっか・・・、父さんも母さんも心配していたか・・・)


自分が強くなる事ばかりしか考えていなかったよな。

回帰して赤ん坊の体になってしまったが、中身は大人の俺だ。

父さんも母さんもとても俺の事を大切にしてくれているのは実感している。

回帰前はこんな事も気付かなかったのか・・・


「おぎゃぁあああ!おぎゃぁあああ!」と声を出すと、部屋の外からドタドタと音が聞こえる。

あの足音は母さんだな。

たまたま今は俺から離れていたのだろう。



バン!



ドアが勢いよく開けられた。


「アレン!やっと起きたの?」


走ってきた母さんに勢いよく抱きかかえられる。


「あぁあああ!アレン!良かったぁぁぁ・・・、アレンに何かあったらお母さんは・・・」


母さんが涙を流しながら俺をギュッと強く抱きしめた。


(母さん、ゴメン・・・、)



・・・



・・・




・・・




(!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)



(母さん!息が!息がぁあああああああああああああああああああああ!)



母さんの大きな胸に俺の顔が埋もれている!


(ヤバい!ヤバい!母さん!マジで意識がぁああああああああああああ!)

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