第7話 泣き言は許さんから覚悟しろ

『さて・・・』


妖精バージョンのダリアが俺の顔の前で浮いているが・・・


(ち!近い!)


『どうした?目が泳いでいるが、何かあったか?』


近いってものじゃない!

もう少しでダリアの唇が俺の唇に触れるところまで近くにいるんだぞ!

それに!今のダリアは小さいから、いくら赤ん坊の俺の顔でもダリアの顔よりも遥かに大きいんだよ!

妖精みたいなサイズだけど、ダリアの姿はちゃんとした大人の姿だ。

黒の薔薇の花をモチーフにしたような膝上の長さのドレスを着ている。スラッとした足もとてもキレイだし、キュッとくびれた腰もねぇ・・・

非の打ち所の無い程の美貌とスタイルを誇っているけど、それ以上に俺の目のやり場を困らせているのがとっても大きな胸だよ。

回帰前の俺は女性との付き合いは全く無かったし、学院時代も女っ気は無かったからこんな美人に対しての免疫は全く無い!

こんな赤ん坊の体じゃなくて思春期の頃の体だと、興奮し過ぎて鼻血の海に沈んでいたかもしれない。


そんなダリアが俺の顔を上目遣いで見てくるし、今の状態のダリアが可愛くて性欲を感じない俺でもとてもドキドキしている。


(これって、絶対にワザとだよな?)


『ふふふ・・・、妾を女として認識しているとはマセた赤子だな。それにだ、お主と妾はお互いにキスをした仲だぞ。今更、恥ずかしがるとはのぉ・・・』


(いやいや!あの時とコレは別だよ!)


『この反応だとどうやらお主は女を知らないみたいだな。回帰前の勇者時代によくあの尻軽偽聖女のグロリアの毒牙にかからなかったものだ。あの女は使える男と見れば見境なくベッドに連れ込んで・・・』


しかしその途端、ボンッ!とダリアの顔が真っ赤になった。


『まぁまぁ・・・、その先は妾もよく知らないし、想像するだけでも・・・、ゴニョゴニョ・・・』


もしかしてダリアって?


こんなにも積極的に俺に迫って来るけど・・・・


『これ以上は言うなぁああああああああああああ!』


更に真っ赤な顔ではぁはぁ言いながら少し涙目で俺を見ているよ。


(ダリア・・・、お互いに焦らなくてもな。無理して焦って関係を進める必要は無いと思うけどな。それこそ今の俺は赤ん坊だし、先は長いんだよ。ゆっくりと俺達の絆を深めていけばいいんじゃないか?俺はダリア以外に好きなる人は作らないって決めているからな。俺もこんな状態なのもあるし、もっと大きくなってから、お互いに生身で会ってからでも遅くないと思うぞ。)


『そうか・・・、妾も少し焦り過ぎていたかもな。』


(それまでに俺も頑張って強くなって、ダリアに相応しい男になるようにするからな。)


『アレン!』


ダリアが俺の頬に抱き着きスリスリしているよ。

今度の俺は絶対にダリアを守る!

そして、あの真の魔王でもあるセドリック・・・


絶対に借りを返すからな!


しかしだ!今の赤ん坊の状態では何も出来ない。

体すら満足に動かせない状態だし、せめて自由に動ける歳になるまで鍛錬はお預けだよな。

あの『リミット・ブレイク』のスキルがあるのに、今の状態では宝の持ち腐れだ。


(強くなる事か・・・・)


焦らずにと思うけど、あのセドリックに殺された感覚は今でも忘れていない。

そして、グロリア王女にも騙されていた。

王女からのあの不意打ちが無ければ、瀕死にもならなかったし少しは戦えたかもしれない。


(今となってはもう遅いけどな。)


この国のからくりは分かったのでもう騙される事は無いだろうが、やはり魔王に匹敵、いや、それ以上の存在が相手になるだろう。

回帰前の鍛錬ではそれ以上に強くなれない。


(俺があの時、急激に強くなったのは?)


多分だけど、ダリアとの死闘が俺の成長を促したと思う。

ただ漠然として鍛えていた経験値と違い、格上の相手との死と隣り合わせでの戦いが、大幅なレベルアップを促したのだろうな。


俺が更に強くなれる希望を持てたが、今のこの俺の状態では何も出来ない。

この状態では剣を持つ事も、いや!立てる以前に自力で座る事すら出来ない!


赤ん坊の体って何て不便なんだろう。

もどかしいったらありゃしない。

最低でも普通に歩けるようになる2歳くらいまではどうしようもないな。

そもそも、2歳児にまともな鍛錬が出来るものなのか?


(こうして精神だけが大人なのは歯がゆいな。この体でも十分に鍛えられる何かはないのか?)



『すぐにでも強くなりたいのか?』



真面目な表情のダリアがジッと俺を見つめていた。


(そうだ、俺はあの時よりも強くなりたい。)


お互いジッと見つめ合う。


さっきまでの甘々な雰囲気ではない。

ダリアと戦っていたあの時のようなピリピリした空気が漂っている。


突然、ダリアがフッと笑った。


『良かろう・・・、しかし、泣き言は許さんから覚悟しろ。』


(分かった。)


コクンと俺は頷く。



ダリアが俺の横に立っている。

今の俺は寝ているだけしか出来ないが、そのダリアが俺の顔の横に立っているんだよな。


(一体何を?)


『今のお主は肉体的な鍛錬は全く無理だ。だから、体が満足に動かせるようになるまでは徹底的に魔力を鍛える事になるだろう。魔力なら年齢や運動能力は関係ないからな。いまからすぐにでも始められるぞ。』


(魔力?)


『そうだ。』


ニヤリとダリアが笑った。


(俺に魔法が使えるのか?)


回帰前の俺はスキルが『上級剣士』との事で、スキルを授かってからは剣技ばかりを鍛えてきた。

12歳にスキルを授かるし、死ぬまでの6年間で鍛えた訳だ。

今からならその期間の約3倍だ。

本当に魔力が鍛えられるなのなら、どれだけの強さになれるのだろう?

俺は魔法を使った事は・・・


(はっ!)


『どうやら思い出したようだな。お主は妾との戦いの際、魔法に目覚めたのだよ。しかもだ、あの魔法は初級のファイヤーボールではない!妾も驚いたが、アレは超高密度の魔力の炎だった。妾の魔力の鎧を砕く程に強力な力を秘めた魔法なのだよ。』


(そんな力が俺に?)


『そうだ、これがリミット・ブレイクの恐ろしいところだ。既存の魔法でさえも限界を超え、全く新しい強力な魔法を生み出すようだな。本体の妾もまだお主と同じ赤子の状態だが、さっそく魔法の鍛錬を始めているぞ。』


(ダリアの本体?)


『そう、妾も人間に転生し、今は赤子の状態だ。だから、この姿の妾がお主のサポートに回っているのだよ。まぁ、ずっとお主と一緒にいたいのもあるからな。この妾の感覚は本体とリンクしている。だからな、こうしてずっと寄り添っているとな、本体の妾も嬉しい・・・』


う~ん・・・、またもやダリアが赤くなってモジモジしているよ。

普段の態度はかなり尊大だけど、根は恋愛慣れしていないみたいだよな。

俺も恋愛なんてしたことが無いから、ダリアの態度はそうなのか分からないけど・・・


『おほん!ちょっと話が逸れてしまったな。まずは、お主に魔法の知識を教えるのが先だ。まぁ、時間はたっぷりある、納得するまで丁寧に教えてあげようぞ。』



『お主が後で後悔しない為にもな・・・』



(ん?)


ダリアが何か呟いていたが、何を言っていたのか分からなかったよ。



そしてダリアから魔法の基礎知識を教えてもらった。


魔法にはまず4つの属性魔法がある。

 火、水、土、風

の4属性だ。

この魔法が基本となって魔法を行使する。

大体の人は1属性しか使えない。まれに2属性を使える人もいるが、それこそそんな人が『○○魔法の勇者』として呼ばれているのだと。


この4属性の上位に

 氷、雷

の属性がある。

この属性は2つのうちどちらかの属性しか使えない。

人間に限っての話だが、魔王になると基本の4属性とこの2属性も使えるとの事だ。

確かに、あの時はダリアは多数の属性の魔法を使って俺達を圧倒していたのを思い出した。


そして、この6属性の他に魔王や聖女、勇者の中でも特に選ばれた者だけが使える魔法がある。

 光、闇、聖

の3属性だ。

この属性からも分かるが、光属性は勇者専用、闇属性は魔王専用、聖属性は聖女専用の属性魔法だろう。

魔王や上位の勇者になると合計9属性のうち数種類は使えるのだそうだ。


その魔法以外にも各4魔王には真の魔王セドリックから固有魔法も授けられている。

他の魔王の事は気にもしていなかったからか、『よく分からん』との答えだったよ。


(ははは・・・)


そして、ダリアの固有魔法は時空を司る魔法との事だ。


(時空魔法?)


『そうだ、妾以外にはセドリックとグロリアしか使えん。しかも、あの2人は転移とアイテムボックスのみで、時間を操る事は出来ん!アレンと妾がこうして回帰出来たのも妾の時空魔法のおかげだよ。しかしなぁ、回帰の魔法はもう2度と使えないだろうな。これ以上の使用は多分、いや、間違いなく妾は消滅してしまうだろう。それだけ嫌忌の魔法だって事なのだ。』


(そんな魔法を俺に?)


『そうだ!アレン、お主がやり直しを願ったのだぞ。妻になる妾がお主の願いを叶えない訳が無い!だからな、そう気にするな。妾が好きでやった事だ。妾も々もう一度お主とやり直したかったからな。』


ギュッとダリアが俺の指を握ってくれた。

実体が無いはずなのに、今のダリアからは温かさを感じる。

これがダリアの気持ちなんだろうな。


(ありがとう・・・、それなら尚更気合が入ったよ。今度こそは絶対にアイツに負けない!次に会う時は俺がアイツを滅ぼす!)


『違うだろうが・・・』


(ん?)


『お主と妾、2人であのクソ野郎をぶっ潰す!』


ニコッと微笑んでいるけど、えらく物騒な言い方だよ。

でも、俺もダリアの気持ちは分かる。


(だよな。)


『そうだ!その意気だ!』


グッとダリアが拳を掲げた。




『それではお主の魔法の適性を鑑定するぞ。あの時の事から考えれば、お主は最低でも炎魔法の適性があるのは確実だろう。』


ダリアのルピーのような美しい赤い瞳が金色に変化した。

この姿のダリアも神秘的だよ。


しばらくすると・・・



『やはりかぁ・・・、だが、これはまるで・・・』


おいおい・・・、ダリアさんやぁ~~~、一体何を言っているのかな?

まるで俺が人間じゃないみたいな言い方だよ。


(ダリア、何があった?俺は普通の人間だと思うけどな。)


『可能性として考えていたが、これほどまでとは・・・』


(勿体ぶらずに教えてくれ!俺に何があった?)


『お主は妾の魔石と融合しこの時代に回帰した。その事から妾の力も使えるのは分っていたのだよ。そして妾の本体は元々の妾の権能にリミット・ブレイクが追加された。妾の身に起きる変化の事は予想していた。だがな、お主の変化が予想を超えてデタラメになっているのだ。』


(デタラメ?)


『そうだ、お主の魔法適性は妾の権能の1つでもある時空魔法が使えるのは当然だが、それ以外に全ての属性魔法の適性があるのだ.そんな存在は聞いた事も無い。お主のスキルであるリミット・ブレイクの仕業だと思うが、まさか属性の限界まで突破するとは思わなかった。これはまるで・・・』


(はい?俺って・・・)


まさかの全属性魔法の使い手だって?

ダリアの言う通り、そんな存在なんて聞いた事が無い。



『くくく・・・』



(何だ?ダリア、どうした?)


『これが笑わずにいられるか。偶然にしてもあり得ない!確かにセドリックがこのスキルを欲しがる訳だ。だがな!絶対に渡しはしない!』


嬉しそうにダリアが俺を見つめている。


『アレンよ!妾の全てを使ってお主を鍛え上げてやろう!ふはははははぁあああああああああああああああ!楽しみだよ!アレンがどこまでの高みに上っていくのか?』


今のダリアを見ていると、なぜだろう?赤ん坊の体なのに背中に冷や汗がダラダラと流れる。

命の危機を感じるのは気のせいか?

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