アレン幼少期
第6話 へぇ~、そんな事があったのか・・・
???
「誰だ?」
豪華なソファーに座っている人物が怪訝な表情で呟いた。
しかし、とても広い豪華な部屋にはその人物1人しかいない。
「気のせいか・・・、誰かの気配を感じたのだがな・・・」
警戒して腰を屈め立ち上がろうとしていたが、再び安堵の表情に戻り座り直そうとした。
「いや・・・、気のせいではない!」
スクッと席を立ち、何も無い目の前の空間に手を伸ばした。
ポゥ
その人物の伸ばした掌に黒い光が集まった。
その光が凝縮し1つの大きな宝石が出来上がる。
「これは?」
魔王ダリアがジッと掌にある宝石を見つめた。
「これはブラックダイヤモンドの魔石?妾の体内にある魔石がなぜ?それに2つに割れ半分しかないだと?分らない事ばかりだ。」
カッ!
魔石が黒い光を放つと少しずつ黒い光に包まれ始めた。
「そうか・・・」
そう呟き一滴の涙を流した。
「未来の妾よ・・・、とうとうこの呪われた運命に終止符を打ったのだな。やっと・・・、やっと・・・、妾もこの閉じた世界から解放されるのか・・・」
そしてうっとりとした視線を天井へと向けた。
「しかも、妾と一緒になりたい男もいるとな。ふふふ・・・、ふはははははぁあああああああああああああああ!やっと!やっと!妾にも春が来たか!独身生活5000年以上!ずっと恋に憧れていた妾がとうとう!」
大声で笑い出したかと思いきや、半分に割れてしまったブラックダイヤモンドをそっと自分の豊満な胸に当てる。
「こうしてはいられないな。妾も早急に準備をしないと、あのクソ〇〇(自主規制)に感づかれてしまっては、バラ色になる妾の未来を潰されてしまっては元も子もない。それにだ!未来の妾よ、このままだと今の妾と対消滅してしまうから、妾の権能に吸収させてもらうぞ。何が起きたのか詳しい事も覗かせてもらうぞ。」
宝石が黒い光に包まれ魔王の胸の中へと吸い込まれてしまった。
その光景を見届けニヤリと笑う。
「これで良し。未来の妾と同化出来たな。」
しかし、突然ポロポロと涙を流し始める。
「アレン・・・、妾の愛しき勇者よ・・・」
そう呟いた瞬間、ギリギリと目を吊り上げギュッと拳を握り締めた。
「ゆ、許さん・・・、あのク〇ビッ〇聖女もどきのグロリアに、魔王セドリックよぉぉぉ~~~~~!妾の未来の為には確実に滅ぼさないとな!」
忌々しそうに自分の拳を見つめる。
「だが・・・、いくら未来の妾によって枷を外してもらおうが、〇ソ〇ッチグロリアはまぁ、速攻で潰せるが、クソ〇〇は妾だけの力ではどうしようもならん。巻き込みたくは無かったが、やはりアレンの力が必要になるな。」
ゆっくりとソファーに座りため息を吐いた。
「アレンよ・・・、すまない・・・、お主を回帰させる為に妾の力の半分をお主に与えてしまった。お主は人間で勇者の卵には間違い無いが、半分は妾と同じ魔王の資質を備えてしまった。自らのスキル以外にも妾の権能も使えるようになってしまっている。その力をお主は受け入れてくるか?」
そっと自分の掌を胸に当てた。
「だけどな、アレン・・・、お主のスキルも妾と共有しているのだよ。お主と妾・・・、運命共同体となってしまったのだ。妾にとってはこれ以上ない幸せなのだが、お主はどうかな?」
キラッと目が光った。
「どれだけ2人で人里離れた場所に隠れ住もうが、いつかはあの2人・・・、特に尻軽偽聖女に居場所を突き止められる可能性は高いな。探知系の魔法はヤツの最も得意とする魔法だし、魔王の魔力は絶対に消せず残滓が残るからな。妾は消せても、アレンから漂う魔王の魔力は消せないだろう。月日が経ちアレンが成長すれば徐々にその魔力を纏うようになってくるはず。ならば・・・」
再びソファーから立ち上がった。
「ならば!妾とアレン、2人で鍛えるだけ鍛え、セドリックに拮抗出来るようになれば良い!奴等以上に強くなって消し去ってやれば良い訳だ。幸い、アレンのスキルはその可能性もあり得る程に強力だからな。そう考えれば簡単な事だったよ。20年までとは言わないが、それくらいの期間なら妾の力でも残滓の痕跡は消せるはずだ。リミットは20年、それまでに特にアレンは徹底的に鍛えないとな。」
ニヤリとダリアが笑った。
「ふふふ・・・、未来が分かっているとこうも楽に先手が打てるとは笑いが止まらんよ。魔王セドリックに偽聖女グロリア、首を洗って待っておれ。妾とアレンが貴様等の首を刈ってやるからな。」
「さて・・・」
ぐるりと部屋を見渡す。
「ここから去る事になってしまったが、何も感じないな。このダンジョンの管理者となって5000年もいたが、ここは妾にとっては単なる牢獄だったと改めて実感するな。さすがにずっとここに籠っていては世間知らずになってしまうし、外に寄依り代を設けて定期的に外の世界を散策していたが、この依り代が役に立つとは予想もしていなかったぞ。」
ブン!
ダリアの前に半透明な板が浮き上がり何人かの名前が出てくる。
「どの依り代にするか?今回の依り代が最後になるし、妾もこの依り代と同化してしまうからのぉ・・・、ずっとアレンと一緒にいられるとなると同じくらいの年の依り代がベストだろう。今のアレンは赤ん坊に間違い無いし、だったらこれだな。」
ポチッと1人の名前の場所を押した。
「この依り代も赤ん坊だが問題は無いだろう。当分は何も知らない子供のフリをして人間として育てば良いしな。それに、妾の依り代としてのベースだ、成長率も成長限界も人間では最高のスペックとなっている。そのスペックにアレンのスキルを融合させれば・・・」
ニヤリと口角が上がる。
「くくく・・・、これでアレンに匹敵する依り代が出来たぞ。この依り代に融合すれば最後、妾は魔王から只の人間になるだろう。しかし、後悔はしていない。それどころか、将来のアレンとの楽しい結婚生活を考えると・・・」
ジュルッ!
「涎が止まらん・・・、まぁ、その前に学園生活もあるし、アレンに纏わりつく蠅退治も妾の仕事だろうな。そして、早い段階であのクソの国から救い出さなくてはならん。色々とやる事が山積みだな。だが・・・、この依り代の家柄なら問題ないだろう。」
徐々にダリアの姿が薄くなっていく。
「さぁあああああああ!妾の新しい門出が始まる!」
「おっと!」
おもむろに右手を前に突き出すと、掌に黒い光の玉が出来上がる。
「アレンの中に眠っている妾の分身よ。妾が再び出会うまでのアレンの世話を頼んだぞ。アレンのナビゲーターとして導いてくれ。」
フワ・・・
ゆっくりとダリアの掌から浮き上がり点滅を繰り返してから空気に溶け込むようにして消えてしまった。
「では、頼んだぞ。」
ダリアの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「それでは、妾も人間に転生しないとな。今回は依り代に憑依ではなく、完全に妾も人間に生まれ変わる事になる。当面は不自由な生活になるだろうが、まぁ、これもアレンと添い遂げる為の準備にだから仕方ないな。」
ペロリと舌なめずりをする。
「ナビゲーターでアレンの事は逐一状況は分かるが、さすがに10年ちょっと会えなくなるのはなぁ・・・、だが、再び会った時は覚えているのだな。妾のこの胸にため込んだお主のへの愛、存分に堪能させてやるぞ。それまでは絶対に他の女にうつつをぬかすなよ・・・」
スゥゥゥ・・・
魔法陣の光が消えた時にはダリアの姿も消えていた。
ガタッ!
「何だと?」
国王の姿をしたセドリックが、急に椅子から立ち上がった。
「父様、どうしたのですか?」
真っ赤なドレスに身を包み、一緒に食事をしているグロリアが不思議そうに尋ねる。
「ダリアが・・・、ダリアのリンクが切れた・・・」
ガシャン!
グロリアの手に握っていたフォークが床へと落ちた。
「す、すみません!父様!はしたない真似を・・・、しかし、魔王のリンクが切れるとは、如何に?」
グロリアの後ろに控えていたメイドが何食わぬ顔で落ちたフォークを回収し、さりげなく新しいフォークをグロリアへと差し出した。
このメイド達はもはや人間ではなく、魔王セドリックの忠実な人形と化している。
「余にも理由が分からん。リンクが切れる事は、魔王の死、それ以外に無いはず・・・、しかし、あのダンジョンへは今期は誰も挑んでいないはずだ。」
「何があった?」
すぐにセドリックとグロリアが魔王ダリアのダンジョン、通称南のダンジョンへと転移したが、ダリアの私室には姿も無かった。
魔力の残滓も感じられずに、ダリアの行方は完全に不明となる。
『ダリアが消えた!』
この事は他のダンジョンにいる魔王達にも激震が走ったが、まぁ、人間達には何も関係はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(へぇ~、そんな事があったのか・・・)
横になっている俺へともたれかかっていたダリアが、ここまでの状況を簡単に説明してくれた。
(それで、今のダリアは何者なんだ?)
『妾か?』
今の俺は赤ん坊なので普通に喋る事も出来ない。
声を出そうとしても「おぎゃぁあああ!」と泣き喚く事しか出来ないんだよな。
そんな事をすると、母さんは俺が『お腹が空いた』か『おしめの交換?』かと思って、お乳を飲ませたり、おむつを交換させられたりする。
見た目は赤ん坊だけど・・・
中身はちゃんとした大人なんだよ!
どれだけ羞恥で心がズタズタにされると思って・・・
そんな俺の事をダリアは喜んで見ていたりする。
本人曰く、
『将来、アレンと妾の子供が生まれた時の勉強だ!』
と高らかに宣言されてしまったが、既に俺とダリアの結婚はダリアの中では決まっているようだった。
(ダリアがお嫁さんならそれも悪くないな。)
俺もそう思っている。
しかしだ!
今の妖精みたいな姿のダリアは誰にも見ていないみたいだ。
俺のすぐそばで浮いていたりしているのに、父さんも母さんも全く気が付いていない。
赤ん坊の俺はまともに会話が出来ないのに、ダリアとなら心に思った言葉がお互いに通じているのか、普通に会話が出来るのだよな。
『詳しい説明は省くが、今、目の前にいる妾は、お主の体内にある妾の魔石が見せている幻影に過ぎん。だからお主以外には見えないし、その魔石のおかげで直に会話が出来るのだよ。」
(う~ん・・・、俺の体の中にダリアの魔石が?)
『そうだ、あのブラックダイヤモンドの魔石だ。お主を回帰するのにお主をその魔石に吸収させたのだよ。そして、この時代に戻り母親の胎内の中にいるお主に憑依した訳だ。』
(・・・、何を言っているのかよく分からん・・・)
『まぁ、そうだろうな。人間が魔族の事が分かるはずはないからのぉ~~~』
少し難しい顔をしていたが、笑顔に戻り俺の胸をポンポンと叩いた。
『ま!気にするな。一つハッキリしている事は、お主と妾は一心同体、お主が死ねば妾も死ぬ。そして、妾のスキルもお主が使えるという事だ。今はまだこんなナリだが、大きくなったら否応なしに鍛えてあげようぞ。覚悟しておれ。』
ニヤリとダリアが笑ったが、ダリアってこんなに感情が豊かだったのだな。
ただでさえ綺麗なダリアだけど、こんな表情のダリアも凄く可愛いな。
そう思っていると・・・
ボンッ!
いきなりダリアの顔が真っ赤になった。
『お主・・・』
何だ?はぁはぁと言いながらうっとりとした目で俺を見つめている。
『お主の心の声がダダ漏れで聞こえるぞ!う~~~~~~、実体が無い今の妾の状態が悔しい!今すぐお主を・・・』
(ん?)
ダリアの顔が俺の顔に近づき頬にキスをされた。
(あれ?)
どうしてだ?今のダリアは実体が無いのだろう?何でキスされた感触がある?
『ほんの少しの間なら、妾も実体化が可能だ。だが、魔力を使い過ぎるからしばらくは表に出られなくなってしまうのだ。しばらく休むから、戻ったらずっと妾と添い寝だからな。分かったか!』
そう叫んでダリアの姿が消えてしまった。
(我が家に可愛い同居人が増えたようだよ。でも、これでずっとダリアと一緒にいられるのだな。)
俺も思わずクスッと笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます