第4話 プロローグ④
その鎧の中にいた人物は・・・
「女?」
見た目は間違いなく女性だ。
真っ黒な長い髪に赤いルビーのように輝く瞳。
そして・・・
まるで美の結晶のようにも思える程に美しい女性だった。
あまりの美しさに一瞬だけど目を奪われてしまった。
「ふふふ・・・、妾が人間に負けるとはな・・・、がふっ!」
口からは大量に血を吐いたが、それでも美しさは損なわれていない。
俺の折れてしまった剣の刀身が彼女の左肩口から胸の半ばまで食い込んでいる。
魔王であろうが体の構造はそう変わらないだろう。
その折れた刀身は心臓の位置で止っていた。
その傷口からも大量の血が流れている。
魔王がグラッとよろけ、前のめりに倒れそうになった。
(マズい!)
一気に魔王へと飛び出した。
(???)
まただ!
さっきよりも体が軽く感じる。身体能力が更に向上していると実感している。
(俺の体はどうなっているのだ?)
身体能力もそうだが、なぜか知らないが魔法も使えるようになっていた。
「おっと!」
そんな事を考えているうちに魔王の前まで一気に移動し抱きとめる。
魔王は敵だ!
俺達人間は生れた時からそう教えられてきた。
しかし・・・
今、俺の腕の中にいる彼女はとても華奢な女性にしか見えない。
あれだけの戦いをしたはずなのに、どうしても同じ人物には見えなかった。
胸に食い込んでいる剣を抜こうとしたが、剣を抜けば一気に大出血を起こし、いくら魔王でも即死は免れないだろう。
そう考えている内に、目を閉じていた彼女が薄らと目を開ける。
そして俺に微笑んだ。
(どうして?)
「人間よ見事だ。妾を倒す者が現われるとはな・・・」
「何で笑うんだ?俺はお前を殺そうとして・・・」
「気にするな。お互いにさっきまで殺し合いをしていたのだ。それこそお互い様だろうが。」
「し!しかし!」
「妾はなぁ・・・、もう疲れたのだ。魔王として生れ5000年以上、このダンジョンで君臨してきた。数百年ごとに勇者達が妾達魔王を倒そうと各々のダンジョンへと攻めてくるのだ。妾はその勇者達を全て返り討ちにしてきた。ある目的の為にな・・・」
(目的?一体何が?)
「ふふふ・・・、不思議そうな顔だな。妾達魔王と、貴様達勇者はある目的の為に数千年も戦っていたのだよ。」
「どういう事だ!俺達勇者と魔王!何の関係があるのだ!?」
「そう慌てるな。せっかちな男はモテんぞ。少し貴様を覗かせてくれ。」
そう言った瞬間、魔王の瞳が赤色から金色へと変わった。
(何が?)
「貴様は本当に人間か?貴様の成長限界は人間を越えているぞ。妾をも陵駕するほどにな。」
そしてすぐに黙ってしまい、ジッと俺を見つめていた。
「そういう事か・・・」
魔王が納得したような表情になり、再び俺に微笑んだ。
「まさか、貴様がアイツの追い求めていたスキルの持ち主だったとは・・・、妾が負けたのも納得だ。」
「1人で納得するな!俺にも分るように説明してくれ!」
「良かろう。妾に勝った褒美だ。」
魔王がジッと俺を見つめる。
「世界の各地のダンジョンにいる妾を含めて4人の魔王は、ある目的の為に生み出された。」
(目的?)
「そう、真の魔王・・・、遥か昔に神々との戦いでこの地に落ちて魔王になった神だ。」
「か!神だと!」
「そう・・・、神が堕天し魔王となった。だがな、その魔王は神々の復讐を忘れていなかったのだ。いくら元神とはいえ、再び戦っても負ける事は明白だ。だから、その魔王は考えたのだよ。この世界の人間からスキルを奪うとな・・・」
(スキルを奪う?)
「今の世界は女神が人間にスキルを与えているのは知っているな。全ての人間が与えられるものではないが、一部の英雄や勇者と呼ばれる者が生まれた時に授けられるモノだ。そのスキルは人間だけでなく神にも適用するのだ。もちろん、妾達魔王もだがな。魔王とはいえ、さすがは元神だけあって、人々にスキルを与える事は出来ないが奪う事は出来る。そうやって、真の魔王は力を付け神々の世界へと戦いを挑もうとしているのだよ。妾達魔王もその真の魔王の先兵としてな。」
「そ、そんな・・・」
「ふふふ・・・、驚いただろう?しかし愉快よの。妾を倒した男がこうも驚く顔をしているのが・・・、魔王に敗れた勇者達は死ぬ時にスキルを奪われていたのだよ。数千年もの間ずっと・・・」
(ずっと・・・)
「そんな・・・、俺達勇者はその真の魔王とかいう奴の為に、わざわざ殺され続けていたのか?俺達は一体、何の為に・・・、そんなの・・・」
フッと魔王が自嘲気味に笑った。
「これが世界の真実だよ。残酷な真実だったがな・・・」
しかし、ギュッと口を引き締め真剣な表情で俺を見つめた。
「だが、どれだけスキルを集めようが限界があった。今までに集めたスキルでの強さではまだ神との戦いでは勝つ事が出来ない。それ以上に強くなるにはどうすれば?限界を超える事が可能なスキルがあるとしたらどうだ?そしてだ、とうとう妾は見つけた。貴様の中にあるそのスキルが奴の最も欲しがっていたスキルだとな。」
「お、俺のスキルが?そんなスキルは神殿での鑑定にも無かったぞ。俺のスキルは単に『上級剣士』だけのはずで、勇者としても最低ランクからのスタートだった。」
信じられない話だ。
俺にそんなスキルがあったとは信じられない。
(だが・・・)
魔王と戦った時、俺の体に異変が起きた事は分かっている。
今までの体の限界を超え、新しい力に目覚めた。そんな感じだ。
「心当たりがあったようだな。」
魔王がニヤッと笑った。
「妾の魔眼は神官のチンケな鑑定とは次元が違う。全ての事象を見抜く眼だ。妾の魔眼には貴様のスキルがハッキリと見えたのだよ。女神の意図なのか知らないが、巧妙に隠されていた。多分だが、真の魔王でも見抜く事は出来なかっただろうな。妾だけしか鑑定は出来ないだろう。」
(どんなスキルなのだ?)
「くくく・・・、教えて欲しそうな顔だな。良かろう、サービスに教えてやる。貴様のスキルは『リミット・ブレイク』いわゆる『限界突破』だ。貴様は人間の枠を超え、どこまでも強くなる可能性があるのだよ。まぁ、実際に人間の成長限界を超え、妾以上の存在になってしまったからな。」
「お、俺が魔王よりも上だと?」
今までも信じられない話だったが、このスキルの話が一番信じられない。
俺が人間の枠を超えた?
魔王以上の存在だと?
「そうだ、そうでもないと妾を倒した理由にならん。これでも妾は4人の魔王の中でも最強と言われているのだぞ。そんな妾を倒したのだ。このスキルは天井知らずに強くなれる。時間の制限さえなければ、いつかは神すらも追い越すかもしれん。真の魔王はこのスキルを待ち望んでいたのだよ。」
「うっ!」
魔王が咳き込み、またもや大量の血を吐いた。
「どうやら妾も終わりのようだ。まさか男の腕の中で妾の最後を看取られるとはな・・・、しかも、妾を倒した男に・・・、これで終わりなき戦いからやっと解放されるのだ。感謝する。」
どうしてだ?今の魔王を見ていると涙が止らない。
「どうした?なぜ貴様が泣いている。妾を倒したのだぞ。喜ぶ事はあっても泣く事はないだろうが。人間とはつくづく不思議な生き物だよ。」
「お前はこれで本当に良かったと思っているのか?」
何で俺はこう言ったのだ?
俺の腕の中にいる魔王は人間の敵だ!そう教えられてきた。
そして今にもその命の炎が消えそうな状態になっている。
胸に刺さっている剣を抜けば、今すぐにこの戦いに終止符を打つ事が出来る!
(だけど・・・)
俺はトドメを刺す事が出来ない!
真の魔王の命令だけを聞いて、こうして数千年に及ぶ戦いを続けてきたのだ。
それ以外の事を知らないまま・・・
「妾はこの生き方しか出来なかった。それだけだ・・・」
魔王がブルブルと震えながら両手を俺の頬へ伸ばした。
「もし、もう一度やり直せるなら・・・」
俺の頬に両手を添えられた。
「妾も普通の人間の女のように生きてみたい。妾も女だぞ、この数千年生きている間、人間の営みを見る機会もあった。どれだけ人間らしい生き方に憧れたか・・・、だが、妾は魔王、人間に恐怖を与えその憎悪を受け君臨する存在。そして、人間のスキルを吸収し真の魔王に受け渡すだけの存在・・・」
俺も泣いていたが、魔王も涙を流していた。
「だが、そんな生き方もやっと終わる。」
魔王の顔がグングンと近づいてくるが、俺は黙って魔王の行動を受け入れた。
俺の唇にとても和らかいものが当たった。
その感触は魔王の唇だと・・・
しばらくすると、ゆっくりと唇が離れた。
「これが人間でいうキスなるものか・・・、何と甘美な気持ちにさせられる。出来ればずっと一緒に・・・」
とても蠱惑的な視線で俺を見つめている。
「貴様、いやお主だからこんな気持ちになったのだろうな。お主は妾の為に泣いてくれた。お主の涙で妾はこの数千年の孤独から救われた。我が名は『ダリア』、覚えておくが良い。今のお主はもう手遅れだろうが、最後に妾が手助けをしてやろう。あんな男にお主を渡さん。」
(!!!)
どうした?
魔王の体が少しずつ消えていく!
「どうやら、妾も終わりのようだ。最後まで妾に付き合ってくれるか?お主の腕の中で最後を迎えたい。お主の名前は?妾もお主の名前を心に刻み込みたい。」
「あぁ、分かった。俺はアレン、うだつの上がらない平凡な勇者だよ。そんな俺が魔王を倒してしまうし、それにまさか、魔王がこんなにもいい女だったとは思わなかったよ。」
「妾がいい女だと?」
「そうだ、俺はお前を見た瞬間、あまりの美しさに声も出なかった。まるで女神じゃないか?ってな。」
「くくく・・・、嬉しい事を言ってくれる。尚更、アイツには絶対に渡せない。必ず妾が独占してやろう。アレンよ、お主の存在は妾の心に刻み込んだ故、絶対に妾から逃げられない、その事をよく覚えておくのだな。」
そんな事を言うなんて、魔王、いや、ダリアはどういう意味で言っているのだ?
まさか、亡霊となって俺に付き纏う気なのか?
(魔王なら何でもありかも?)
「最後にもう一度・・・」
ダリアが目を閉じ唇を突き出してくる。
これって、やっぱり?
もう一度ダリアにキスをする。
最初のキスはダリアからだったが、今度は俺からのキスだ。
お互いの顔が離れると、ダリアの顔がとても幸せそうな感じだった。
あの漆黒の鎧を纏っていた無慈悲な殺戮者の姿の魔王とは対照的だし、とても可愛いと思った。
「今はこれで許してやろう。だがな、妾はずっとお主を想い続ける。永遠にな・・・」
「あぁ、俺もお前に惚れた。お前以上の女はいないと思う。俺が生き続ける限りお前だけを愛し続ける事を誓う。」
スゥゥゥ・・・
俺の腕の中でダリアが消えた。
とても嬉しそうな顔で・・・
夢では?と思うほどに幻想的な姿の女性だった。
しかし・・・
ここにダリアがいた証が俺の手に残っていた。
「漆黒のダイヤモンド、これが魔王ダリアの魔石・・・」
とても大きなブラックダイヤモンドの宝石が俺の掌に握られていた。
「ダリア・・・、俺は忘れない・・・、君という悲しい宿命を背負った魔王がいた事を・・・」
しかし、その感傷の時間はすぐに破られてしまった。
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