第3話 プロローグ③
ズシャッ!
「が!」
「レックスゥウウウウウウウ!」
パーティーメンバーのレックスが死んだ・・・
首を刎ねられ即死だった。
屈強な勇者だろうが首を刎ねられてしまえば、どんな回復魔法もポーションも効果は無い。
俺の隣にいるヒーラーのグロリア王女様が青い顔で俺を見ている。
彼女を含め俺と2人だけしか生き残っていなかった。
「アレン・・・、撤退しましょう。魔王の強さは予想外だったわ。王国最強の勇者パーティーのメンバーがこうも簡単に破れるなんて・・・」
「王女様、撤退は王女様だけで!王女様が持っています転移石があれば王城まで戻れるはずです。転移石の魔法が発動するまでの時間稼ぎは俺がします!」
俺はグッと剣を構えた。
「で!でも!」
王女様が涙を流しながら俺を見つめていた。
「俺は魔王を倒す勇者になる為に死に物狂いで頑張ってきました。平民でも勇者になれば両親に楽をさせられるから、王国から勇者と認められその報奨金で両親の生活も楽になりましたよ。だから・・・、その恩を返すまでは絶対に帰れません!」
剣の切っ先を魔王へと向ける。
だが!その魔王は・・・
全身が漆黒の鎧で覆われ身長は2メートルは下らないだろう。
しかも!
自分の身長程もある漆黒の刀身の大剣を肩に担ぎ立っている。
無防備に立ってるように見えるが、全く隙は無く、近づいただけで一瞬の剣捌きで首を刈られてしまう。
今、殺されてしまったレックスもあっという間に殺された。
そして、あまりにも動作が素早く動きが全く見えない。
まるで瞬間移動するかのように俺達の前に現れ、魔法で焼かれるか惨殺されるかのどちらかだった。
レックスを含めた戦士が2人、斥候が1人、魔法使いが1人と次々と魔王に殺された。
7人のパーティーだったが、今では俺と王女様の2人しかいない。
(ここまで差があるなんて・・・)
ギリギリと奥歯を噛みしめてしまうが、何も手立てが無い。
(これで俺も終わりか?)
絶望がひしひしと俺の心を塗り潰していた。
「いや!」
こんなところで死にたくない!
だけど・・・
どうせ死ぬなら!
「思いっきり足掻いてやる!」
『フフフ・・・、良イ面構エダナ。貴様ハ他ノゴミトハ違ウヨウダ。』
今まで構えもしていなかった魔王がグッと大剣を構えた。
不思議だ・・・
覚悟を決めた瞬間、俺の体の中から力が沸き上がってくる。
死ぬ程に鍛錬しこれ以上強くなれないと思っていたけど、そんな俺の強さが更に上書きされたみたいだ。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ガキィイイイイイイイイイ!
『クッ!』
信じられないくらいに鋭くなった俺の剣閃が魔王へと迫り、その俺の剣を魔王が受け止める。
『ヤルナ!』
ブン!
(見える!)
あれだけ目にも見えなかった魔王の剣筋が俺の目に映った!
スッ!
目の前に迫り俺の首を薙ごうとする剣を紙一重で躱した。
ザッ!
俺と魔王がお互いに後ろへと飛び距離を取る。
『フフフ・・・、アクセラレータガ通用シナイトハ、貴様、ソノ目ハドウナッテイル?』
魔王に質問されてしまったが、俺もどうなっているのか分からないのが本音だ。
「さぁ、それは俺もよく分からないんだよ。まるで、自分の限界を超えたような感じだ。」
「「!!!」」
(どうした?)
魔王は鎧姿だし中の人がどんなのか分からないが、俺の言葉でピクっと小刻みに震え、ジリっと少し後ずさりしているし、かなり動揺してるのが俺でも分かった。
それにしても、魔王の声はなんだろう?何か細工でもしているような低い違和感のあるだみ声だ。
本当の声は何だろうと思ってしまった。
それと、俺の後ろにいるグロリア王女様も俺の言葉でワナワナと震えているみたいだ。
(魔王が動揺するのは分かるけど、王女様もなぜ動揺している?)
まぁ、その答えは後々に分かったけどな・・・
その時は既に手遅れだったよ。
『貴様ノソノ力、本物カ試シテヤロウ。』
再び魔王が剣を構えた。
「俺は死ぬ訳にはいかない!死ぬのは魔王!貴様だぁあああああああああ!」
俺が飛び出した瞬間、魔王も俺に合わせて飛び出してくる。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「はぁ、はぁ・・・」
(何とか生きているな・・・)
体中が傷だらけになっているが、致命傷に至るような傷は負っていない。
それにしても、魔王は強過ぎだ・・・
奴の攻撃を躱したり受け止めるだけでやっとの状態だ。
しかし・・・
あの無敵のような魔王にも少し疲れが見えている。
だが!そんな状態の魔王だけど、まだまだ俺の剣が届かない。
途中で王女様が俺の援護をしてくれたが、魔王の剣圧で吹き飛ばされ気を失っていた。
王女様の場所からはかなり離れてしまったので、今の俺は王女様を気にせず攻撃に専念出来る。
「魔王!」
グッと剣を上段に構え叫んだ。
『ドウシタ?』
魔王も大剣を俺と同じ上段に構えている。
このまま俺が魔王へと切りかかってもリーチが違い過ぎるし、俺の方が先に真っ二つにされるだろう。
(しかし!)
不思議な感覚が俺の全身を巡っている。
魔王と剣を切り結ぶ度に俺の動きが早く、そして力強くなっている気がする。
戦えば戦う程に俺は成長しているのでは?と思う程にだ。
あれだけ死に物狂いで鍛えて、これ以上の成長は無いと思っていたが、まだ俺に成長の余地があったとは驚きだ。
「これが俺の最後の攻撃だ!これが決まれば俺の勝ち!外せば負けだ。」
『良カロウ。コノ一撃、妾モ全テヲ懸ケヨウ!』
ドン!
「う!」
魔王から今まで以上に激しい闘気を感じる。
今までは本気ではなかったのか?それくらいにプレッシャーで押しつぶされそうだ。
(ん?そういえば・・・)
確か、今、魔王は『妾』って言っていたような気が・・・
(いかん!)
今は戦いに集中だ!
俺も全身の力を剣へと集中させる。
ドクン!
(これは?)
今までの俺とは違う力が体の中から溢れてきた。
今までは限界の中の限界で力を出し切った筈なのに、まだ限界を超えるのか?
「この力なら!魔王!貴様を超える!」
ダン!
今までで一番早く踏み込めたかもしれない。
まるで光の矢のように魔王へと迫った。
慌てて魔王が剣を振り下ろす姿が目に入ってきたが、俺の方が紙一重で魔王の懐へと入り込んだ。
ズバァアアアアアアアアア!
剣を上段から切り下ろす。
しかし!
キィイイイイイイイイッン!
魔王の肩口に喰い込んだ俺の剣が漆黒の鎧の途中まで切り裂いた。しかし、いきなり剣が折れてしまった。
(くそ!ここまできて剣が限界を迎えたなんて!)
だけど、今の俺は諦める事をしない!
そのまま魔王をすり抜け、背後に回る。
「まだだぁあああああああああ!」
振り向いた魔王の胸に右手の掌を添えた。
どうしてか分からなかったが、なぜか体が自然に動いた。
俺の掌から真っ赤な炎の玉が飛び出す。
魔法なんて今まで使えた事が無かったのに、どうして急に使えるように?
ドォオオオオオオオオオオオオン!
激しい爆発音が響き、魔王が吹き飛んだ。
しかし、魔王は俺の魔法に耐えた。
吹き飛んではいたが、転がるようにではなく、魔法を受け止めた体勢のまま後ろに下がった。
「これでも届かないのか・・・」
もう全て出し切った。
これ以上は戦えない。
全身の力が抜けていくのが感じられた。
だが!
勝利の女神は俺に微笑んでくれたようだ。
魔王がガクっと片膝を床に付ける。
『妾ノ負ケダ・・・』
バカッ!
魔王の漆黒の全身鎧が粉々に砕けた。
その鎧の中にいた人物は・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます