第2話 プロローグ②

「アレン!」



ジークリンデが叫んだ。


「無理をしないで!ここは私達も一緒に戦うわ!」


しかし、アレンと呼ばれた男はゆっくりと首を横に振る。


「皇女様、ここは俺とダリアに任せて欲しい。この魔王には因縁があるからな。」


「そうじゃ、妾もこやつだけは絶対に許さん。妾のアレンに対する仕打ち、貴様を殺すだけでは飽き足らん!2度と復活出来ないよう、権能も全て妾が奪う!」



ビキッ!



「下等生物が何をほざく・・・、余に勝てるなどと思い上がりもいい加減にしろ。」


しかし、魔王が黒髪の女性をジッと見た瞬間、ピクッと眉が動いた。


「人間の若造など見た事もない男だが、その黒髪の女!貴様の魔力には覚えがあるぞ。18年前に忽然と姿を消した『南の魔王』、別の名を『時の魔王ダリア』、その魔力の気配を感じるな。どうして人間の姿をしている?」


「ふふふ・・・、バレてしまったか。」


アレンという男がダリアと呼んだ女性がニヤリと笑うと、床から黒いオーラが立ち上り全身に纏わり付く。


ズズズ・・・


ダリアの風貌が徐々に変化を始めた。

元々人外の美しさを湛えていたが、更に妖艶な表情になり、頭の両側から真っ黒な角が生える。

瞳も黒色からルビーのような鮮やかな赤色に変わった。

そして、背中から3対6枚の漆黒の大きな翼が生えた。


「マジ?ダリア、昔、あんたのスキルの事で実は魔王の生まれ変わりだって告白された時はね、笑えない冗談だと思って信じていなかったけど、この姿を見れば信じるしかないわね。でもね、何で魔王が敵であるはずの勇者アレンの恋人なのよ!そもそも魔王が生まれ変わる事自体があり得ない!やっぱり2人の仲は認められないわ!アレン!今すぐ私に乗り換えなさい!勇者同士が結ばれるのが物語のセオリーよ!そしてこれは皇族命令なの!」


ジークリンデが信じられない顔でダリアを見つめていたが、急に真っ赤な顔になり叫んでいる。

そんな彼女の行動をダリアが鼻で笑っていた。


「バカめ、妾とアレンは生まれる前から将来を誓い合った仲じゃ。アレンと妾の間には誰も入り込む事は不可能、ハーレムも認めん!それにだ、今の妾は貴族の娘として生きているから十分にアレンと結ばれる資格がある!貴様のようなツルベタ絶壁と化した貧粗な胸の女にとやかく言われる筋合いはないわ。」


ダリアが勝ち誇ったような表情になり、ジークリンデに見せつけるように大きな胸を反らした。


「確かにアレはあそこまでいけば兵器だよな。アレと比較される姫様はとてもとても可哀想で見てられ・・・」



スチャッ!



「何がぁぁぁぁぁ~~~~~、言いたいのかなぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~」


ジークリンデが剣の切っ先をロイの首筋に当て、今にも呪われそうなほどにドスの利いた声を出していた。



「どこまでも巫山戯た連中だ・・・」


魔力の籠もった魔王の声が響き、一帯が重苦しい気配に包まれる。


「やはり魔王ダリアだったか。」


魔王がニヤリと笑う。


「だがのぉ・・・、同じ魔王でも貴様はたかが『管理者』だ。余の『統括者』よりも下位の魔王が余に刃向かう?管理者ごときが統括者に勝てる訳がない。それを分って余を倒そうと妄言を吐くのか?」



ドン!



いきなり爆音が響く。

アレンが大剣を床へと叩き付けた。

その衝撃で床が魔王へと一直線にヒビが走る。


「御託はどうでもいい!魔王!お前は俺の事は知らないだろうが、俺はお前の事はよく知っている!あれから18年経った今でもあの時の事は忘れていない!」


アレンが叫ぶとダリアがニヤリと笑う。


「そういう事だ。いくら貴様が統括者だろうが、今のアレンと妾は手強いからな。貴様が神になり替わろうとする計画、今回も妾が邪魔をしてやろう。そして、今度はアレンに貴様は滅ぼされるのだ。」



「ダリア!」



アレンがダリアを見つめると、ダリアもアレンを見つめた。



「アレンよ・・・」


「ダリア、これが終わったら一緒にゆっくりと過ごそうな。もう戦いはウンザリだ・・・」


「そうじゃ、妾は魔王として生まれて5000年、歴代の勇者達と戦い続けてきた。全て皆殺しにしてきたがな。そんな妾の柵を解いてくれたのがアレン・・・、お前だ。魔王としてのダリアはあの時死んだ。今の妾はアレン、お前1人だけを愛する女・・・、その幸せを邪魔する輩は全て排除するのみ。」


2人が魔王へと体を向けた。


「そういう事だ!俺達2人の安心の未来の為!きれいさっぱり滅んでくれ!」

「分かったか!貴様はただ邪魔な存在なだけ!アレンと妾のイチャイチャスローライフを送るためにもな!」


一気に2人が弾丸のように飛び出した。



「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「はぁあああああああああああああああああ!」









「俺達は最初にあれだけ派手に登場してたのに、最後になったら空気か?」


ロイの寂しそうな声がボソッと聞こえた。







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ダリア・・・」


「ん?アレン、どうした?」


超絶美人のダリアが可愛く首を傾げて俺を見ている。

この世界では珍しい黒髪に黒い瞳の女性だ。


全てはダリアに会ってから俺の人生が変わった。



いや!『やり直し』の機会を貰えたのだ。





「色々とありがとう。ダリアのおかげで俺はこうして戦える。今まで表に出てこなかった『古の魔王セドリック』を引っ張り出せたしな。あの時の俺は何も知らず、単に勇者の名声に浮れていただけだった。」


「それは仕方ないだろうな。『勇者』はどの国も抱えたがっている。特にこのセイグリット王国は勇者を何人も抱えたがっていたし、待遇も世界一だったな。それは単なる罠だったけどな。」


その言葉でアレンの表情が曇った。


「歴史上、魔王に勝てた勇者はいなかった。世界の平和は歴代の勇者が魔王の侵攻をその身を犠牲にして保っていると思っていた。あくまでも勇者は魔王を牽制する為の存在だった。そんな歴史が嫌で俺が死ぬ気で頑張って史上初めて魔王を倒した勇者になりたかった。そして、とうとうダリア、お前を倒してしまったんだよな。だけど、まさか俺のスキルが奴、魔王セドリックの待ち望んでいたスキルだったとは・・・、そんな俺は奴に・・・」


「そう悲観するな」

ダリアが優しくアレンの頬を両手で挟んだ。


「そのおかげで妾はお主と結ばれたのだ。永遠ともいえる魔王としての責務、統括者であるセドリックの手足として、奴の望んだスキルを持つ者を見つけるだけの人形のような生き方を、お主の力が妾の縛られた運命から解き放ってくれたのだ。」


「ダリア、それは俺も同じだよ。ダリアのお陰で俺は『やり直し』が出来た。その代わり、あの時のお前は死んでしまったけどな。」


「それはお互い様だ。」


2人が抱き合い唇が重なる。

しばらく唇を重ね、ゆっくりと離れ見つめ合う。


「今ではこうして生身で触れ合えるようになったのだ。もう二度とお主を放さない。妾をこんな気持ちにさせた責任は取ってもらうからな。」


フッとアレンが微笑んだ。


「それは俺も同じだよ。俺のスキル、そしてダリアの権能、俺達が一緒になればどんな敵にも負けない。ダリアを倒してしまったあの時の後悔を俺は忘れない。だからな、ずっと俺と一緒にいてくれ。」


「もちろんだ。妾も今では権能が使えてもベースが人間だからな。お主と寿命はそう変わらん。死する時までずっと添い遂げる事を誓おう。」


2人が微笑み見つめ合っていたが、不意に横を向いた。


「こんな状況で話す内容じゃないな。ムードも何も無いよ。」


アレンが少し苦笑いをしている。


「仕方ないだろう。これからセドリックとの戦いだ。妾よりも遥かに上位の統括者だから絶対に勝てる保証は無い。だから、決戦前にお主の気持ちを聞きたかった。そして妾の決意をもな。」


2人の視線の先には10メートルはあろう浅黒い巨人が立っていた。

しかし、床から大量の漆黒の鎖が巻き付き、ギリギリと微かに動くだけしか出来ていないようだ。




「これがダリアの本気の力か・・・」


本当にすごい魔法だよ。伝説の巨人族でも身動きが出来ない程に拘束する魔法なんてな。


「たかが初級のシャドウ・バインドだぞ。お主なら足止めにもならんわ。」


ニヤニヤしながらダリアが俺を見てくるけど、俺でも抜け出すのは無理なんじゃないか?

さすがは元魔王、強さの次元が違い過ぎる。


「さてと、そろそろアイツらに追い付かないと、いい加減に怒られそうだ。」


「そうだな、いくら勇者達でもたかが人間だ。統括者であるセドリックの前ではゴミ虫と同然だからな。」


おいおい・・・、仮にもパーティーメンバーだぞ。辛辣過ぎるわ。


「だってだぞ、あの帝国のクソ姫はお主を狙っているしな。お主に何度フラれても諦めていないのだぞ。妾以外の女がお主に近づくのは許せん。」


「心配するな。俺はお前以外の誰にもなびかないからな。」


俺の素直な気持ちをダリアに伝えると、ニチャァ~~~と、とてつもない悪い笑みをダリアが浮かべたよ。魔王モードの笑い方だよ。


「どさくさ紛れにあ奴も殺しておこうか?後腐れも無いよう4人揃ってこのダンジョンで行方不明に・・・」


「ちょい待ち!」


慌ててダリアの口を塞ぐ。


「物騒な事は止めてくれ!今も言ったように、俺はお前以外には誰も受け入れる気は無いからな!」


「うふふ・・・」


俺に口を塞がれているダリアだったが蕩けたような顔になって俺に視線を向けた。


もう勘弁してくれ・・・

話が進まん!


ダリアの口から手を放し、目の前の空間に手を伸ばす。


ブン!


いきなり空間が割れ、漆黒のどこまでも暗い空間が現れた。


ズズズ・・・


その空間から、空間と同じくらいに真っ黒な巨大な剣が現れる。

まるで闇を凝縮したような剣だ。

刀身だけで俺の身長近くはあるだろう。


しかし!


その剣を握り構えるが、重さは全く感じない。


「さすがはアレンだな。我が分身でもある闇の剣『オプシダンソード』をここまで使いこなせるとは・・・、妾の権能を共有しているだけあるな。」


確かにこの剣は元々がダリアの固有能力で生み出された剣だ。

かつて俺とダリアが戦った時、ダリアが使っていた剣でもある。

しかし、今の俺はこの剣を召喚し自由に使える。

これもダリアのおかげだけどな。


「さぁあああああああ!アレン!仕上げだ!」


ダリアの声を合図にグッと剣を上段に構え一気に飛び上がる。

10メートルはあろう巨人よりも更に遥か高く飛び上がった。


(こんなバカみたいな身体能力・・・)


スキルのおかげだけど、俺は本当に人間?と思いたくなるよ。

この能力をあの魔王セドリックが狙っていた。


「絶対に奴に渡さん!今度は俺がぁあああああああああ!奴を倒す!」


頭から巨人へと落ちていく。

剣を前に突き出し、闘気を剣に集中させる。



「皇破!降龍斬!」



漆黒の刀身から巨大な黒龍の顔が現れた。巨人よりも遥かに大きな龍の顔だ。

その黒龍は大きな口を開け、巨人を呑み込もうとする。



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!



黒龍は巨人を呑み込み、そのまま床へとぶち当たったが、大きな爆発音が響きそのまま床に大きな穴が開いた。


「アレンよぉおおおおおお!いくらなんでもやり過ぎじゃぁああああああ!ダンジョンの床をぶち抜くバカがどこにいるぅううううううううううううううううううううう!」

「どわぁあああああああああああ!」


俺もダリアも一緒に穴へと落ちてしまった。



そして、魔王セドリックと2度目の邂逅を果たすのだった。



18年経った今でも決して忘れる事のない出来事を思い出す。

1度目の人生でのダリアの出会い、そして最後に裏切られて死んだ俺・・・

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