国に裏切られ死んだ底辺勇者は恋人となった魔王と回帰し最強になる。
やすくん
プロローグ
第1話 プロローグ①
ドォオオオオオオオオオオオオン!
巨大な扉が吹き飛び、奥から2人の人影が現われる。
ジャキ!
鏡のように磨き抜かれた刀身の剣を掲げ、視線の先にいる人物へと切っ先を向けた。
「古の魔王!これ以上はあなたの好きにはさせないわ!光の勇者であるこの私、ジークリンデ・ハルモニアが貴様を滅ぼし、この世界に平和を取り戻す!」
黄金に輝く甲冑を纏い、鎧の輝きにも負けない煌びやかな金髪をなびかせ立っていた。
「姫様!ちょっと待って下さいよ!護衛の俺よりも先に行かれたら俺の立場が無いッスよ!」
ハーフプレートに大型の盾を持った大柄な男がはぁはぁ言いながら金髪の女性の後ろへと続いた。
少し疲れた表情だったが、真剣な表情に戻りザッと女性の前に立ち大盾を構えた。
「ふふふ・・・、それでもしっかりと自分の役割を努めているし、盾の勇者の名前は伊達じゃないわね。」
「姫様が先走り過ぎなんですよ。皇帝の近衛隊なのにいつの間にか姫様の専属護衛にされてますからね。アクティブな姫様に付き合わされる身になって下さいよ・・・」
しかし、姫と呼ばれた女性がニヤッと笑った。
「盾の勇者の名を持つお前が何の泣き言をいっているの?私の陰に隠れて楽をしようなんて許さないわよ。あなたの実力を知らない訳じゃないんだからね。」
今度は男がニヤリと笑った。
「いやはや・・・、バレていましたか。流石、姫様の目は誤魔化せませんね。」
「だったらちゃんと仕事をしなさい。私達を先に進ませる為にガーディアンと戦っている彼らが来るまでは、私達は倒れる訳にはいかないのよ!彼らが存分に戦えるように、少しでも魔王にダメージを与えるのだから。」
「ゴミどもが・・・」
彼女達の視線の先にはこの大きな部屋の奥にある祭壇の上で、祭壇と同じくらいに豪華な椅子に漆黒のローブを着た男が無表情で座っている。
見た目はかなり高齢の老人に見えるが、全身から放たれる威圧感は周りの者全てがひれ伏すだろうと思える程に圧倒的だった。
「く!これが魔王・・・、何て存在感なのよ・・・」
魔王の威圧感に耐えただけでもやっとの状態だ。
2人がギリギリと魔王を睨む。
玉座に座ったままの魔王がスッと右手を掲げた。
「力無きゴミよ、死ね・・・」
ブワッ!
魔王の頭上には直径5メートルは下らないだろう巨大な炎の玉が出現する。
「う・・・、嘘だろう?あんなファイヤーボールなんてデタラメだぞ・・・」
その炎の玉が勢いよく2人に向かって飛び出した。
「く!くそ!俺の盾でアレが防げるか?」
「マズいわ・・・、魔王がここまで強大だったなんて・・・、せめて、エリザとマッシュを待って突入すれば・・・」
絶望的な表情を浮かべた2人に対し、無慈悲にも炎の玉が迫って来る。
「ホーリー!シールド!」
カッ!
ボシュゥウウウウウウ・・・
2人の前に白い大きな輝く盾が浮かび上がり、炎の王を受け止め対消滅したかのように炎の玉も輝く盾も消え去った。
「この盾はぁあああ!」
魔王が叫ぶとギン!と視線が鋭くなる。
その視線は彼女達の後ろ、吹き飛んだ扉の方に向いていた。
「忌々しい聖女めぇぇぇ・・・」
その視線の先には真っ白な法衣を来たジークリンデと同じ様な年齢の若い女性が両手を前に突き出している。
「エリザ!」
ジークリンデが叫ぶとエリザと呼ばれた女性がニコッと微笑んだ。
「どうやら間に合ったようですね。」
「ホント、僕達の身体能力はあなた方に比べて高くないのですよ。間に合ったから良かったものの、もう少し僕達のペースに合わせてもらいたいですね。」
エリザの後ろに煌びやかな杖を持ち赤いローブを着た若い男が立っている。
「おい!マッシュ!お前がマイペース過ぎなだけだろうが!」
盾を構えた男が叫んだが、マッシュと呼ばれた男は飄々とした表情を崩していない。
「ロイ、酷い事を言わないでよ。僕は肉体労働は苦手なんだし、こうして頭脳労働がメインなんだからね。」
ズズズズズ・・・
一瞬にしてマッシュの頭上に十数本の長さは3メートルはあろう氷の槍が浮かぶ。
「アイスジャベリン!」
手をサッと前に突き出すと、浮いていた氷の槍全てが一斉に魔王へと高速で飛んでいく。
「ふん!」
ガガガガガッ!
魔王の正面に半透明の黒い障壁が現われ、全ての氷の攻撃を防いだ。
「児戯よのぉ・・・」
ニヤリと魔王が笑った。
「しかしだ、このような脆弱な者共が最強のガーディアンであるグラシャラボラスを突破する事はあり得んと思うが?貴様達、どのようなイカサマを使って余の前に来たのだ?」
「そう言われても、来ちゃったものは来ちゃいましたからねぇ~~~」
マッシュが少し戯けた仕草で魔王へと返事をする。
「ゴミがぁぁぁ・・・、ふざけるな・・・」
魔王から尋常でない殺気が放たれる。
流石にマッシュもマズいと思ったのか、戯けた表情を止め真剣な表情で魔王を睨んだ。
「これはヤバいね。ジークリンデ皇女、もう少し思慮深く行動すればここまで危ない状況にならなかったのに・・・」
「そんな事!言わないでよ!まるで私が全部悪いみたいじゃないの!?」
ジークリンデが額からダラダラと汗を流しながら焦っている。
「やっぱり姫が悪い。」
「そうね、皇女とは名ばかりの猪娘よ。生まれる時に母親の中に慎ましさを忘れた噂は本当みたいね。突撃以外の選択肢が無いのも困りものだわ。」
ロイとエリザが腕を組みながらうんうんと頷いている。
「そんな事、言われてもどうしようないの!こうなったら覚悟を決めて特攻よ!」
グッとジークリンデが剣を構え腰を低く構える。
「私が道を切り開くわ!ロイ!盾役は任せたわ。骨は拾ってあげるね。」
ロイに向かって可愛くウインクをする。
「選択肢は特攻一択しかないんですか?戦略的撤退ってのもアリでは?結局俺が一番酷い目に?勘弁して下さいよぉぉぉ・・・」
「余の前でよくもここまでふざけてくれるものよ。」
魔王の目が血走り、全身が震え、その全身から更にどす黒いオーラが吹き上がる。
「楽には殺さん・・・、死を懇願する程の最上の苦痛を与えてやろう!」
「ひぇえええええええ!奴さん、完全にキレているッスよ!誰があんなに怒らせたんです?」
ガタガタとロイが震えている。
「あんたでしょうが!」
ギロッとジークリンデがロイを絶対零度の視線で睨む。
「異議なし。」
「自業自得ね。」
マッシュもエリザも呆れた顔でロイを見ていた。
「とほほ・・・何で全部が俺のせいに・・・」
おいおいと泣き真似をしていたが、突然、真剣な表情に変わった。
「どうやら間に合ったようだ。まさか、あのガーディアンをたった2人でこんなに早く倒すなんてな。」
「そうね、悔しいけど今の私じゃ彼の隣には立てない。同じ勇者なのにこんなに差があるなんて、笑うしかないわ。」
ジークリンデがギュッと歯を喰いしばり、とても高い天井を見上げる。
「だけど、私は諦めないわよ。今まで欲しいものは全て手に入れたんだし、あなたも絶対に私に振り向かせる・・・」
「どうした?あまりの恐怖で気が触れたか?」
血走った目をしていた魔王がニヤリと笑ったが、対してジークリンデ達も魔王と同じようにニヤリとした。
「あら?気付いていないの?あなたに滅びを与える存在がここに来る音が?」
ズズゥゥン・・・
微かに部屋全体が揺れる。
「どういう事だ!このセイグリット城の地下ダンジョンが揺れるなんてあり得ん!」
ズズズゥウウウン!
更に大きく部屋が揺れる。
パラパラと天井から小石が落ちてきた。
「ば、馬鹿な!何が起きている!?」
魔王が立ち上がり頭上の天井を見上げた。
ドガガガガガァアアアアアアアアアアアッン!
「!!!」
派手な爆発音が天井から聞こえ、大量の石や土が落ちてくる。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!
地震のように床が大きく揺れた。
魔王のいるこの広間全体が土煙に覆われている。
「そ!そんな!」
しばらくすると土煙が晴れ、部屋全体が見渡せるようになる。
魔王とジークリンデ達の間に何か大きな物体が横たわっているのが見え始めた。
その光景は・・・
人間の5倍はあろう巨人が全身を血だらけにして横たわっていた。
ピクリとも動かない。どうやら死んでいるようだ。
その巨人の横に2人の人影が見えた。
1人は巨大な漆黒の大剣を肩に担ぎ立っている金髪の男。
もう1人はこの世の人間かと思えるほどの美貌を湛えた黒髪の女が並んで立っていた。
「随分と派手にやったわねぇ~~~」
ジークリンデが呆れた表情で2人を見つめている。
「まさか、上の階層の床をぶち抜いてここに来るなんて、常識外れにも程があるわよ。あんた、本当に人間?まぁ、もう1人も元魔王だって話も信じられないけどね。」
金髪の男が肩に担いていた大剣を構え、魔王へと対峙する。
「みんな、遅れてスマン。ここからは俺が引き継ぐ。」
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