知花蓮(20)
3月26日、
そこはヤシの木と米軍基地のフェンスに囲まれており、水平線は遠くに映るのみだった。
「なぁ蓮、今日は美浜の観覧車に乗ろうぜ!後、映画も見よう」
助手席に座った翼は蓮に話しかけた。
「いいけど、蓮。映画見るよりボーリングがいい」
蓮はデートに行くようなオシャレな格好で運転しながら翼に話した。
「わかったボーリングな」
翼はにっこり笑うと、スマホいじった。
あのフェンスに囲まれた道を抜けると、嘉手納町から北谷町になっていた。戦前、嘉手納町は北谷町(かつての北谷村)の一部だったが、戦後の分村により、独立した。他にも北中と中城、金武と宜野座がその例であり、どちらも米軍基地が関係している。
北谷の街並みは蓮達が関西にあるサガリバナ大学から沖縄に帰省するたびに変わっていた。今まで無かったホテルや高層マンション、全国チェーンの飲食店が多く並んでいた。前から変わらないのは美浜にある観覧車のみだ。
蓮は観覧車が見えると、にっこりと笑い、ウィンカーを表示して、右にハンドルを切った。
右折をした車は美浜のアメリカンビレッジに向かった。蓮達は美浜駐車場に車を停めた。
車から降りた2人は早速手を繋いでアメリカンビレッジを歩いた。
「ねぇ翼―観覧車に乗るのは夜にしよう」
蓮は翼を見つめながら甘い声で尋ねた。
「夜?そう言えばそうだな・・・昼間見ても夜景が綺麗じゃないしな」
「じゃあ他の所に行く?」
「そうする」
と言って蓮は翼と一緒に洋風でカラフルな街並みが広がる商業施設へと行き、そこでインスタ映えがする壁画で写真を撮ったり、迷路のような不思議な空間を歩いたりしていた。
「翼―次、どこ行く?」
蓮は迷宮都市のような空間で翼と手を引き、少し走っていた。
「うーん。あっ海が見える場所に行こうぜ」
「いいよ」
蓮が手を引いて翼を連れて行こうとすると、高いヒールを履いていたのか足をつまずいて転びそうになった。
その時だった。蓮は急に消えてしまったのだ。
蓮を支えようとした翼が「え?」と言う表情になり、転んでしまった。
近くで歩いてた人も「人が消えたぞ!」と騒ぎ、中にはスマホでどうがを撮るものがいた。
翼も何が起きたかわからず、思わずぼーぜんとしていた。
(蓮・・・なんで消えたば・・・昨日、ニュースでやっていた行方不明事件みたいやっしぇ)
翼は昨日、テレビで見たニュースを思い出した。ニュースでも首里城の西のアザナで観光で来ていた男子高生が突然消え、恩納村でも外出しようとした専門学生が消えたのだ。そんな事が今、自分の目の前で起きていたとは思わなかった。
「人が消えたって事は行方不明事件ですよね・・警察呼びましょうか?」
近くにいた観光客のカップルが声を掛けてきたが、翼はカップルを見て何も言わずに「うん」と頷いた。
カップルの1人が警察に通報してしばらくすると、今度はアメリカンビレッジにパトカーが来た。
パトカーからは警察が着て翼に事情聴取をしてきた。
「人が消えたと言うのはどういう事ですか?」
警察官の1人がぼーぜんと尻餅着いている翼に声を掛けた。
翼は震えた口調で「おっ、俺の彼女がデート中に消えました」と答えた。
「人が消えた?本当に?」
警察官の1人が翼に疑い目で見たが、野次馬の1人が「えー本当に人が消えたぜ」と答えていた。
「・・・・本当です。本当に彼女は消えました」
「そっか昨日の事件と同じだねぇ・・・じゃあ彼女さんの名前は?」
「知花蓮。俺と同じ関西にあるサガリバナ大学に通う3年です。彼女の家族の連絡先、知っているので連絡します」
翼が蓮の名前を言うと、警察官がメモをした。翼は早急にスマホで蓮の家族に電話をした。
______________
1916年3月26日の
(あれ?美浜じゃない?)
蓮はなんとなく美浜じゃないことに薄々気付いていたが、気絶していたため、どこなのかあやふやだった。
ただ、一緒にいたはずの翼がどこにいったかわからなかった。
すると、蓮が気絶している間に人のような足音が聞こえて来た。ずちゃ、ずちゃ、足音は明らかに美浜の整備された綺麗な道の音じゃない。でも、その人物が恋人の翼じかもしれないと思い、蓮は思わず、起き上がった。
蓮が起き上がると、そこは美浜でもない松林に囲まれた丘であり、近くには「うわっ」と声を上げ、尻餅をついた赤いチェックのシャツに黒いリュックを背負ったいかにもオタクな女性がいた。見た感じ蓮と変わらない年齢かそれより少し下だろう。
(翼ではない・・・)
蓮は女性を見ると、彼女に話しかけた。
「うける。なんで尻餅着いたの?」
蓮が尋ねると、女性は戸惑った表情で「だって急に立ち上がったから」と答えた。
蓮は変わった子だなと思いながら「そう。じゃあなんでここにいる?」と聞いた。
「那覇空港から急にこっちに来た」
オタクな女性も蓮と同じように突然、わけのわからない場所に来たようだ。
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