安富祖麗奈(19)


 海音がタイムスリップしたその日、県内の専門学校に通う安冨祖麗奈あふそれなも恩納村にある自宅で中学、高校時代の友人に会うために家の玄関から出て車に乗ろうとした。


(早く友達とライカムに行かなきゃ)


 メイクをばっちりきめ、韓流ファションに身を包んだ麗奈は靴を履き、玄関を出て外に出た。が、途中でつまづいてしまい、その場で転びそうになると、景色が急に変わるような気がした。


「あぃ!麗奈!」


 その瞬間をたまたま農作業から戻って来た祖父が孫娘がその場で消えてしまったのを目撃していたため、祖父は慌てて110番をした。


 麗奈は気が付くと、首里城の守礼門の前にいた。が、今の守礼門と違い、木目調というかあまり綺麗ではなかった。


「え?なんで首里にいるの?」


 麗奈はなぜ、自身が首里にいるのかわからなかった。


 すると後ろから「ぃえーぃやーぬーそが?」という若い男性の声が聞こえてきた。


 麗奈は後ろを振り向くと、そこには学生帽を被り、学生服を着た少年が立っていた。


 少年は見る限り麗奈より年下であり、よく見るとはっきりした顔立ちの少年だった。


「ぬーそがーってあんたおじぃーかヤンキーみたいな話し方するねー」


 麗奈は少年の話し方が自分達と違っていた。



「おじぃー?ぃやーも大和人やまとぅんちゅみたいな話し方をするじゃないか?」


 なんと少年は本土の人の事を「大和人」と言ってきた。え?何なんだこの人、ちょっと変わった人なのか?と思った。


「大和人?本土の人の事?麗奈―全然、内地の人みたいな話し方していないよー」


「そっか。でも派手な洋装をしているじゃないか?なんでこんな格好をしているんだ?」


 少年は麗奈の服装をじろじろ見るなり、質問して来た。


「何でってこれは韓国のファッション。友達と遊びに行くためにこんな格好しているの」


 麗奈は韓流ファッションを少年に説明すると、少年は「韓国」の事を知っていたのか


「『韓国』って言ったら我ん『韓国併合』しか知らないし、そんなの嘘だろ」


 と言った。どうやら少年は


「嘘じゃないしーってかって何?」


 麗奈は少年とは逆に韓国併合の事を知らなかった。


「韓国併合も知らんばーあれは6年前に大韓帝国が日本に滅ぼされたんだ。30朝鮮の人は我ったーのように植民地支配に苦しんでいるみたいだ」


「へぇーで、あんたの名前何って言うの?教えてー」


 麗奈は韓国併合や琉球併合よりも少年の事に関心があったので、少年の名前を聞いた。


「我んの名前か?我んは石垣永一。首里城の近くにある師範学校の2年生だ。みんな我んの事をホクリと言うが、ぃやーが呼びたい名前でいい」


 石垣永一と名乗る少年がつぶやくと、麗奈は「わかったじゃあ永一って呼ぶよ」と答えた。


「そっかーお前、大和人みたいだもんな」


「大和人じゃないしーってか何でここにいるの?」


「今は休み時間だからな。守礼門をくぐるぞ」


 永一が言うと、2人は守礼門をくぐった。



 _________



 守礼門をくぐり、首里城内を歩いていると、永一は麗奈に「ぃえーちなみにお前の名前は何ていうのか?」と永一は麗奈の名前を聞いてきた。


安冨祖麗奈あふそれな。恩納村の出身だよ」


「安冨祖?あげっ、え?うちなーんちゅやっしぇ、恩納村って事は北部か?」


「うん」


「麗奈ってまた変わった名前だな」


 永一は「麗奈」という名前が外国人のような変わった名前だなと思っていた。


「お母さんが付けたから」


ぶねーお母さんが付けたのかーあっ、ぶねーって言うのは沖縄で言うあんまーの事で・・・我ん八重山出身だからつい・・・」永一が照れくさそうに自分の出身地を話した。


「八重山って石垣島?」


 麗奈が質問すると、永一は「うん」と答えた。


「後さー永一って師範学校に通っているって言っていたさー師範学校って何?」


 麗奈は「師範学校」が何か知らなかった。


「師範学校っていうのは小学校の先生になるための学校。小学校を卒業して高等小学校に進学したら行けるよ。で、全寮制だから全島から来るよ。我んもそのうちの1人だ」


 永一が師範学校の説明をすると、麗奈が「じゃあさー高等小学校って何?小学校の進化系?」と質問して来た。


「高等小学校は小学校を卒業したら入るもんだ。同じように小学校を卒業したら中学校や女学校に入るけど、あっちは金がないと入れない」


 麗奈は中学校はなんとなくわかるが、女学校は聞いた事がなかった。どうやら今の中学校と違うようだ。


「そうなんだ。じゃあは?」


 歴史を良く知らない麗奈は


「高校?


 永一は麗奈に沖縄に高校はないと答えた。当時の高校は麗奈が思う現在の後期中等教育機関ではなく、れっきとした高等教育機関だ。今でいう大学の前期と言った方がいいかもしれない。


「えー高校って無いの?じゃあ小中だけ?大学は?」


沖縄に高等教育なんて無いんだよ」


「大学も無いって琉大とか無いの?」


「無いよ。ん?なんか西のアザナで人が倒れているな」


 永一は西のアザナで人が倒れているのを見ると、すぐさまその場所へ駆けつけた。


「え?どこ行くの?待って」


 麗奈は永一の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る