小野寺海音(15)


 未来が那覇空港に来る1日前、小野寺海音おのでらかいとは春休みを利用して年の離れた弟や叔母一家と共に沖縄を訪れていた。しかし、海音はそんな沖縄旅行に乗り気では無かった。というのも海音は東日本大震災で祖父母と両親を亡くし、叔母一家の元で暮らしていたからだ。叔母達は海音達を冷遇しなかったが、海音の方が気を遣ってやや距離を置いていた。

 那覇空港についた海音達は叔母夫婦の強い希望により、空港からゆいレール(モノレール)に乗って首里城しゅりじょうに向かう事になった。


「どうしたの海音?せっかくの旅行なのにどうしたの?」


 那覇空港駅から首里駅へと向かうゆいレールの中で叔母が海音の肩を置いた。


 海音は俯きながら多くの観光客が乗るゆいレールの中でぼーと何かを見つめていた。


「お母さんー!首里城じゃなくて美ら海に行きたい!」


 従妹がモノレールの窓を見つめながら話すと、「陽菜!美ら海は明日、お父さんがレンタカー借りて行くからね!それとモノレールの中で靴脱がない!他のお客さんに迷惑でしょ!」としかると、従妹は「はぁい」と不服そうな顔で靴を履くと、ゲーム機を触った。


「圭介も靴脱がないでね」


 叔母は弟にも注意すると、弟はゲームをしながら「うん」と頷いた。


「叔母さん、大丈夫だよ。何でもないから」


 海音はそういうと、前を向いた。叔母はその様子を見て(海音、学校で何かあったのかな?)と心配そうな顔をしていた。


 首里駅に着くと、海音達はスーツケースをコインロッカーに預けた後、そこから路線バスに乗って守礼門しゅれいもんの前にあるバス停に着いた。


「着いたぞー!ここを歩くと守礼門みたいだ」


 海音の義叔父が歩き出すと、従妹が「えーお父さん、歩くのー」と言いながら歩き始めた。


「仕方ないでしょ。守礼門につくにはここをあるかないといけないわけだし」


 叔母も歩き始めると、従妹は「えー」と言った。


「圭介、俺達も行こうか」


「うん」


「守礼門まで競争だ」


 海音が言うと、弟は「うん」と答えると、2人は義叔父と従妹を追い抜いて守礼の門の前までたどり着いた。


「やった俺の勝ち」


 弟はにっこりと笑うと、海音は弟の頭に手を置いて微笑んだ。弟は海音の行動に「?」だった。


「ちょっと海音、圭介!先に走らないでよー」


 後から来た叔母一家が守礼門の前に歩いて来た。


「ごめん。つい競争がしたくて。あの、ここで記念写真撮らない?」


 圭介が鞄からスマホを取り出して写真を取ろうとすると、叔母が「大丈夫。こっちのスマホで取るから」と叔母が鞄の中から自身のスマホと三脚を取り出し、義叔父と共に三脚を組み立てた。海音はやや遠慮しがちにスマホを鞄にしまった。叔母夫婦が写真を撮る準備をすると、海音達は守礼門の前で一列に並んだ。


「じゃあ写真撮るよー!」


 叔母がスマホのボタンを押すと、義叔父と共に並び、「はいチーズ」と言って「ぱしゃ」と写真を撮った。


 撮影すると、叔母が「じゃあ次は首里城の前でね」と言ってスマホと三脚を片付けると、叔母は家族LINEで記念写真を送った。海音はスマホを見ると、そこには守礼門で撮った家族写真が写っていた。海音は(もっと楽な方法があるのに)と思いながら写真を保存すると、弟と叔母一家と共に守礼門をくぐった。近くの園比屋武御嶽石門そのひゃんうたきいしもんでは70代前後の女性2人が門の前で座り、手を合わせていた。海音はそこがどこかわからなかったので、単にユタが祈りを捧げる拝所だろうなと思いながらそこを通り過ぎた。その様子を中国人のカップルが驚き、動画を撮影していたが、海音は彼らとは関わりたくない為、そっぽ向き、弟や叔母一家と共に歓会門をくぐった。



 _______



 歓会門、瑞泉門、漏刻門、広福門をくぐった後、叔母一家達は首里城茶屋で休憩していた。海音もしばらくそっちで休憩していたが、海音が叔母に「ちょっと俺、行きたい場所があるから行っていい?」海音が叔母夫婦に言うと、義叔父は「いいよ」と答えた。が、叔母は海音の様子が変だと思ったので「どこ行くの?」と聞いた。


 海音は普通に「ちょっと景色をみてくる」と言った。すると、弟が「兄ちゃん、俺も行く」と追ってきたが、海音は「1人にしてくれ」とその場から去った。


 海音は広福門を出ると、観光客が多い人ごみの中で何かを探していた。そう海音は自分が飛び降り自殺をできるような場所を探していたのだ。


(どこか死ねる場所が無いかな・・・・・あの塀に登ったら、きっと騒がれるよな・・・)


 海音は広福門から引き返して首里城茶屋を通って西のアザナへと向かった。それを見ていた叔母は「?」とやや怪しそうな表情をした。



 海音は西のアザナにつくと少しほっとしたような表情をしていた。


 やっと、やっとここで死ねると。海音は前々から自殺をしようと考えていたが、学校には屋上も無いためできなかった。


 そして海音は西アザナにある展望台の柵を飛び越えて石垣の上に飛び乗ると、「圭介、1人にしてごめんな」と呟き、西のアザナから飛び降りた。


 海音はこれでいいと思った。飛び降りれば死んだ両親や祖父母にも会えるし、苦しい事も考えずに済む。そして自分の存在が消えてなくなる。



 震災で両親を亡くし、辛い避難所生活が終わったかと思えば今度は「自由な校風」と謳われていたはずの櫻崎学園でいじめられていた福島出身の子を助けようとした自分がいじめられた。幸い先生や生徒が止めてくれたし、加害者はそのまま退学になったが、その傷は癒える事は無かった。そこで去年、佐藤俊という女子大生の先輩と出会った事がきかっけとなり、「更衣室サークル」という怪しいサークルに入るが、本当にそのサークルが楽しいのかどうかがわからなかった。


 海音はその苦しみから解放されるなら死んだほうがいいやと思っていた。


 が、海音の自殺はそう上手くはいかなかった。


 なぜなら遠くから「ぃえーそこの大和人やまとぅんちゅどうしたのか?」という声が聞こえたからだ。


 海音が目を覚ますと、そこには学生服を着た自分と変わらない年頃の少年が海音の表情をのぞいていた。


「は!死んでない!ここはどこなんだ!」


 海音は自らの手を見て学生服を着た少年に尋ねた。


「何言っている?首里城だよ。わからんのか?」


 学生服を着た少年が笑うと、海音は少年の服装を見て変だなと思っていた。というのも首里城の近くに学校があるなとなんとなく知っていたが、今時、学帽を被る学生なんていないからだ。


「首里城は知っているよ。あのその、なんでこんな変な格好しているのかな?って思ったんだ」


「変な格好?これは師範学校の制服だぞ。それにお前も変な格好しているぜ!さてはハイカラか?」


 学生服の少年に言い返されると、海音は「あっ」という表情になった。


「さてはお前、東京からきているんだろ?」


 学生服の少年が指を指すと、「はい」と答えた。


「やっぱりな。沖縄じゃ洋装は目立つんだよな」


 学生服の少年はおかしなことを言っていた。沖縄で洋装が目立つ?師範学校?どれも海音にとって聞きなれない言葉だった。


「いえ、全然そんな事は」


「目立つんだよ。それによーお前の仲間みたいな奴がいるぜ」


 学生服の少年が後ろを向くと、そこにはロングヘアの韓流ファッションをした女性が立っていた。


 え?仲間?全然、知らない人だけど・・・と海音は思ったが、そこは学生服の少年に合わせる事にした。


 韓流ファッションの女性は海音を見るなり声を掛けて来た。


「うけるーなんか仲間だってーえっとこの人さー麗奈ーを助けてくれた永一さんってひとだわけよー」


 麗奈を名乗る女性が学生服の少年の名前を言うと、学生服の少年が「俺は師範学校

 2年の石垣永一だ」と帽子を取ってお辞儀した。


 海音は「師範学校」の意味がわからなかったので、「師範学校って何?」と聞いた。


 永一は海音の質問に「先生を目指す学校」と答えた。


「じゃあ先生を目指す学校があるって事はここは今じゃないって事?」


 海音の質問に永一は混乱しながら「まぁお前が言っている事は意味わからんけど、ここは大正5年3月25日だよ」と答えた。


「えーじゃあ俺達はタイムスリップして来たって事!」


 海音が驚いた表情をすると、麗奈が笑いながら「うける」と笑っていた。






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