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「ねぇ、 たっくん」
「え?」
「最近なんていうか……、 見過ぎじゃない?」
「誰を」
「その……部長を……」
その言葉で俺がずっと部長を観察していたことを自覚した。
「グリコ、なかなか冴えてるじゃないか」
「グリコ言うな」
そういうとグリコこと、森永が訝しげな目をこちらに向けてきた。
「多分、鈍感だから気づいてないけど私と瀬戸くんは気づいてるよ」
瀬戸の方を向いてみると胡乱な目をして俺をまじまじと見ていた。
「いや、別に部長を観察してるとかじゃないし。 ただ、よく寝てるなぁとかそんな感じで見てるわけであって視姦とかそんなじゃ」
「いきなり早口になるじゃん……。 別にそういう風には見てないよ」
部室には部長と俺とグリコこと森永、それと俺と同じ時期に入った瀬戸だけだった。
森永はまだ名前が完全には覚えられない新入生の頃、瀬戸が頑張って思い出したのが「えーと、グリコ?」から始まって馴染みつつある。
もちろん本人はそう呼ばれるたびに森永だ!って言い返すがもはや様式美と化している。
瀬戸に関しては同じクラスで後ろの席だったこともあり初めから仲良くなって部活を選ぶときに茶飲み部じゃんということで一緒に入部した。 元々、中学ではスポーツをしていたが文芸部を選ぶことになって良かったのか本人に聞いたら
「動くのがだるい」
とのことで今では律儀に小説なり随筆なりと手慰み程度に楽しんでいるようだ。
「たっくん、どうしたの? 部長になんかついてる?」
「霊的なもの?」
「それだったら早く祓ってくれない」
「今の所憑いてはなさそう」
「霊感あるんだ……」
全く霊感なんてものはないけどとりあえず話を逸らしたかったからかふざけて返答してみる。
森永の勘もなかなかなもので特技は失せ物探しらしい。
ここはひとつ森永に頼ってみるか。
「なぁ森永」
「なに?」
「森永から見て部長ってどう見える?」
俺の質問に面食らったようで少し考えるそぶりをした後、こう答えた。
「いっつも寝てる人。 起きてたらぼーっと外見てたり私たち見てたり」
「だよなぁ」
「なになに? 惚れた? 惚れたの? たっくん」
「そんなんじゃねぇし」
しまった。 藪蛇だったか。
そう言われると意識してしまうだろ。 男の子だぞ。
ふと部長の方を見ると俺たちのことを見ていた。
しかも目があった。 なんとなく気恥ずかしくなって逸らしたくなる。
「よーし、グリコ! 飲み物欲しいんだよな? 何がいい? ドクペ?」
「あ、逃げた」
「お前もいくよな! よし行こう、 すぐ行こう!」
「あ、ちょっと! 私別にいくなんて……」
そういうやすぐに森永を連れ出して部室を出た。
部長のポカンとした顔と瀬戸が笑いを堪えて肩を小さく揺らすのが見えた。
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