第6話 懐かしい光景
自室へと戻った俺は、鑑定士という能力を生かして、まず自分自身を鑑定してみることにした。
何かを鑑定するためには、どこでもいいので対象の一部をじっと見つめればいいっていうことなので、俺は自分の手の平を凝視した。
「――あ……」
すると、ほどなくして目の前に文字がどんどん浮かび上がってくるのがわかる。
名前:アイズ・ランパード
性別:男
年齢:13
種族:人間
職業:鑑定士
攻撃能力:D
防御能力:D
魔法能力:E
回復能力:F
技量能力:SSSS
前世:リヒテル・ガルファインズ
「おお……」
能力は相変わらず酷いものだが、技量が測定不能じゃなかった。ちゃんと測れたんだな。
まあ技量能力がこれだけあるから、それで鑑定したのでこうなったのかもしれない。それでも、まさかこんなに高いとは思ってなかったが……。
あと、何より驚いたのが、前世として自分のかつての名前が載っていたことだ。
へえ、こんなものまで見られるんだな。これもSSSSに達する技量があってこそか。
……というか、体が妙に熱い。俺を早くここから出せ、といわんばかりだ。
もしかして、これは前世の頃の能力を引き出せるってことなんだろうか?
だが、仮にそれができた場合、また以前――前世のようなどうしても死ねない体になってしまう恐れもあるわけでな……。
ただ、今世のこの体は、前世の体の資質とは明らかに違う。
この体は剣豪の子息であり、以前の魔術師を輩出してきたガルファインズ家とはまったく異なる。
それなら、死ねないほど異常に強くなりすぎるってことはないんじゃないか。
万が一、そうなったとしても転生術を行使すればいいだけだ。
もちろん、あれはすぐに使えるわけじゃなくて、最低でも1000年ほど生きる必要がある。それくらいの膨大なエネルギー、すなわち魂を代償にする必要がある魔法なんだ。
というわけで、俺は前世の能力を自身に注ぎ込んでみた。
「うっ……⁉」
想定通り、俺は前世のエネルギーを感じ取ることができた。やはり、引き出すことができている。
だが、一気にやったら絶対にダメだ。それをやれば、おそらくこの体では耐えきれずに木っ端微塵になってしまうだろう。
だから……少しずつ、ほんの少しずつだ。
体が魔力に慣れてくるまでの辛抱だが、今にも意識が飛びそうになる。そうなれば、体も同じように消えてしまうだろう。
「ぐぐっ……」
だが、予想以上のエネルギーを前に、俺は既に手遅れだと感じていた。
これはもうダメかもしれない。さすがに、この体で魔力を制御しようとするのは無謀な試みだったのか。だが、俺は元はといえば、死ぬために転生したんだ。心残りがまったくないといえば嘘になるが、ここで楽になるのも悪くは――
『消えちゃダメ……リヒテル……』
「……エ、エス、ナ……?」
懐かしい人の面影が脳裏に浮かんでくるとともに、俺の前世での名を呼び掛けてきたと思ったら、俺は寸前のところで意識を取り戻すことができた。
「うっ……」
気づくと、横たわった俺の体にシルビアが覆い被さっていた。
そうか、俺が意識を取り戻せたのは彼女のおかげだったのか……。
それにしても、前世で一年だけ一緒だった人――エスナの声が聞こえてきたような。でも、そんなはずはない。気のせいだ。
エスナのことはなるべくなら思い出したくない。あいつを失ったことの痛みが強すぎて。もう二度と会えないことの喪失感は二度と味わいたくないんだ。だから、忘れられないけど考えないようにするしかないんだ。
「ア、アイズ様、大丈夫ですか⁉ なんだか、悲鳴のようなものが聞こえた気がして、それで飛んでまいりました!」
「……あ、ああ、大丈夫だ。なんか発作みたいなのが起きて、それで意識を失っただけだよ」
さすがに、前世の自分から魔力を引き出したことで死にかけたなんて言えない。それを行ったら余計に心配させてしまうし、シルビアの心臓が幾つあっても足りなくなる。
「そうなんですね……って、ま、まさか、エオルカ様に盛られた毒の影響でしょうか……? 今日は私と一緒に寝ましょう! 心配なので、絶対にどんなことがあっても一緒にいますからね!」
「わかったわかった」
シルビアが一度こう言い始めたら、もう何を言っても聞かないのはわかっていたので素直に従うことにする。
……っと、そうだ。俺は本当に前世の能力を引き出せたのかと思い、もう一度自分の能力を鑑定してみた。
名前:アイズ・ランパード
性別:男
年齢:13
種族:人間
職業:鑑定士
攻撃能力:A
防御能力:B
魔法能力:SSSSSS
回復能力:SSSSS
技量能力:SSSS
前世:リヒテル・ガルファインズ
「…………」
なるほど、これが俺の本来の意味での能力値か。凄いというより懐かしさを感じさせるものだ。
それにしても、この体でなければもっと魔法能力や回復能力が高かったのだと思うと、俺は自分のことながら恐ろしくなった。そりゃどう転んでも死ねないわけだ……。
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