第5話 試験の合否
エオルカとアレクは、神の啓示に対する不正を訴えたことで、神父を含めた教会関係者、それにランパード家の親戚から大目玉を食らうことになった。
準男爵といっても、教会から睨まれると大司祭の命令によって教会兵から指導や調査が入るんだとか。
それによって、俺が鳥小屋に押し込まれていたことも判明し、教会はエオルカたちに謹慎処分と罰金刑を言い渡した。奴隷でさえもちゃんとした人の暮らしをさせるようにと指導されるわけだから猶更だ。
もちろん、能力鑑定の儀式を欠席した遊び人の叔父のジョルクも巻き添えになった。
ジョルクの部屋から雷みたいな物凄い怒鳴り声がしたから、多分エオルカもアレクも相当に絞られたはずだ。これで当面の間は大人しくなるだろう。多分。
こうしてランパード家の跡継ぎ問題は当分先送りとなった格好だ。いや、むしろ今のところ俺が有利なのか。
俺は正直、いつ死んでもいいと思っていた。転生したのはそれが目的だっていうのもあったが、シルビアと知り合ってからは平穏に生きるのも悪くないと感じた。そのためには、この家の跡継ぎになってエオルカたちを追い払うべきだとも。
それでも、一応姻戚関係なわけで、容易くそれが叶うはずもない。なので、あえて泳がせておこうと思う。向こうがさらなる悪巧みを仕掛けてくるまで放置するんだ。
その決定的証拠を掴んだら、一気に攻め立ててやつらの悪事を世間に暴露するという手筈だ。
「アイズ様、おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう、シルビア」
そんなこんなで、俺はとうとう13歳になった。鳥小屋での暮らしは劣悪だったものの、シルビアがずっと傍にいてくれたし、巨鳥たちも懐いてくれたので悪くなかった。
表面的ではあるがエオルカたちが大人しくなったのもあって、俺は巨鳥の背中に乗ってシルビアと追いかけっこしたり水浴びしたりして、とても充実した日々だった。
「それじゃ、試験を受けに行ってくるよ」
「はい! 吉報をお待ちしております!」
試験というのは、鑑定士になるための試験のことだ。13歳になったら受けることができるようになる。といっても13歳で合格した人は存在せず、社会勉強の意味合いが強いらしいが。
今から3年ほど前、13歳になったアレクが剣士の試験に落ちたとき、泣きながら帰ってきて、母親と一緒に俺を睨んできたのを覚えている。なんでも、俺が呪ったせいで落ちたんだとか。意味不明。
それでもアレクはつい最近、16歳になってから合格して、庭で俺たちを威嚇するかのようにドヤ顔で素振りしているのを見かけたから、隙あらば命を狙うつもりかもしれない。すぐ疲れて倒れ込むところを見るとまだまだだろうが。
シルビアは言っていた。俺の名前は、実母のアイシャが人を見る目を持ち、豊かな人生になるようにとつけた名前なんだとか。そこに運命を感じた俺は、母のように鑑定士になろうと決意したんだ。
「おい、待てよ、愚弟アイズ! どこ行くんだよ!」
うわ、屋敷の敷地内を出ようとしたところで、義兄のアレクに絡まれてしまった。
「えっと、アレク兄様。鑑定士の試験を受けに……」
「はあ? まだ13歳のお前なんかが合格できるわけないだろ!」
「一応勉強したので」
「勉強って、あほか! ろくに学校にも行ってない癖に! 天才と言われた母上でも、錬金術師の試験に合格したのは15歳なんだぞ⁉」
「…………」
うるさいやつだなあ。学校に行かせないどころか、鳥小屋の中に押し込めたのはどこのどいつだよと。
「シルビアから貰った本で勉強したから……」
「へ、へえ。アホでも字が読めるんだな。というか、お前なんかが試験を受けるのは無駄だからこっち来いって。僕の剣の練習相手になれ!」
「え、でも……」
「その辺にしておきなさい、アレク」
「「あ……」」
「アレクったら、そんなことを言ったら、アイズが可哀想ですよ。この子が試験に落ちたとき、ちゃんと兄として慰めてあげないといけません。あなたは出来が違うのですから、アイズが少し足りない子であっても、生暖かく見守ってあげるべきです」
「そ、それはそうですね。母上! 兄に勝る弟などおりません!」
「それはどうも。行ってきます」
この状況でのエオルカは俺を見下して優越感に浸りたいだけなんだろうし、そもそも試験に受かるわけもないと踏んでるんだろう。あの技量値の測定不能も何かの間違いだって思いたいはず。
とにかく助けられた格好の俺は、急ぎ足で鑑定士ギルドへと向かった。
毒によって技量以外の能力は大分減らされてるわけで、剣の練習なんかさせられたらそれこそ事故に見せかけて殺されるかもしれないしな……。
試験を受けた日の夕方、俺は沈んだ顔で帰ってきた。試験の合否は、試験を受けてすぐ言い渡される。
「ア、アイズ様、不合格だったのですか? で、でも、次がありますから……!」
「ほら、いったことか! アハハッ! 僕の予想通りだ。シルビア、そういうわけだから、そんな無能は捨てて、こっちへ来い! 僕がうんと可愛がってやる!」
「お断りします!」
「むっ、むぐぐ……な、なんで有能な僕より、そんな無能がいいのか、本当に理解に苦しむ……」
「アレク、やめなさい。そんな下賤なメイドは放っておけばよいのですよ。足りない子と相性がピッタリなのでしょう」
「は、母上ぇ……!」
シルビアに振られたアレクがエオルカに泣きつくいつもの光景。
「あ、勘違いしてるようですけど、俺合格しましたから」
「「え……?」」
ぽかんとした顔をしたのち、二人はプルプルと肩を震わせる。
「そ、そんなわけがないだろ! 嘘をつくな、愚弟!」
「そうですよ。アイズ、どうしてそのような嘘をつくのです? いくら悔しいといっても、そのような妄言は見苦しいのでおやめなさい」
「これを見ればわかります」
俺は鑑定士のバッジを掲げてみせた。
「……ア、アイズ様、本当に合格しておられたのですねっ!」
シルビアが涙目で抱き着いてくる。
「沈んだ様子でしたので、てっきり不合格とばかり……」
「あぁ、それは、不合格になったらアレク兄様に慰めてもらえるって思ってたのに、それが叶わなかったから」
「「……」」
エオルカとアレクの顔がみるみる険しくなっていく。
「さ、お茶でも飲もうか、シルビア」
「そうですね! 今なら、私の手作りクッキーもおつけしますよ!」
「シルビア。それ、最高」
「ふふっ」
シルビアのクッキーもだが、いよいよこれから鑑定士として本領を発揮できると思うと、俺は嬉しくてしょうがなかった。
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