第二十零章  惜別と決意 ~大好きだよ、お父さん~

アスカ「はい、これを着るんだよ。」


差し出してくれた一着の衣装、それはそうなんだが着方が分からない。

普通の服ではないのだ。


瞬「どうやって着るの、これ?」


アスカ「あ、そっか。 難しいよね、じゃ、脱いで。」


瞬「あ、やっぱそうなる?」


アスカ「裸になれって言ってるわけじゃないんだから照れる必要もないでしょ、ほら。」


促されるままに着衣を解いていくがやはり抵抗がある。


アスカ「なぁに? 脱がせて欲しいの?」


にこにこしているが小悪魔な笑いが含まれている、面白い子だ。


瞬「い、今脱ぐよ!」


何とかアスカに手伝ってもらってサンバラシアの衣装を纏ったのはいいが何かイメージが違う。

はて、学校で見たサンバラシア兵の衣装より些か、いやとんでもなく派手なんですけど。


瞬「何か派手じゃないか?」


アスカ「これで合ってるよ、サイズもちょうどだし。

   うんうん、似合う似合う! さ、お父さんのところに行こっか。」


腕をとって我さきと歩み始めるアスカ、引っ張られるままに王の間に着いたわけなのだが、

そこにいた門番の表情がやけににこやかなのが気になる。

中に入ると似たような表情で出迎える二人。


セヴァース「おぉ、よくお似合いですぞ。」


クォラス「そうだな! 次期サンバラシア国王らしい格好だ!」


瞬「ゑ?」

気付くのが遅かった、よく見ればクォーラシアセルと同じ格好だったのだ!


瞬「あーっ! 道理で派手だと思ったんだ、僕は地球人なんですよ!?」


クォラス「それは否定理由にならんなぁ、アスクァーシルを好きでないなら話は変わるが。」


アスカ「…そうなの?」


瞬「バカッ。 そんなわけ無いだろ。」


アスカ「えへへ。」


その言葉を聞いて頬を少し染めて微笑むアスカ。


瞬「いいんですか、血縁が大事なのでは?」


クォラス「何を言う、極端に言わずして言ってしまえばその血こそ欲しいのだよ。」


瞬「そ、そうですか。」


クォラス「まぁ、俺はアスクァーシルと幸せになってもらいたいだけなんだがなー。」


アスカ「ちょっと、何て事言うのよ! き、気が早いよ…。」


クォラス「ハッハッハ! まぁいいだろう。

    瞬君、付いてきてくれ。 城内を案内しようじゃないか。」


瞬「は、はい! お願いします!」


アスカ「私もついていくよ。」


セヴァース「それでは、お気をつけて。」


そっと王の間の扉を開けてくれるセヴァースの言葉を背にサンバラシア城の案内が始まった。

最初に案内されたのは広い部屋の中でもひときわ広い器具などが置かれている場所だった。


クォラス「まずここは戦闘や訓練をする場所だ。」


瞬「いっぱいよく分からない機械がありますね。」


そう言ってクォーラシアセルがパシパシ叩いていた器具はパンチングマシーンみたいだった。


瞬「あ、これ地球にあるやつとそっくりだ。」


アスカ「うん、かなり精度が高いものだよ。 素手の破壊力を調べるものなの。」


クォラス「そうだな、瞬君。 これを叩いてみてくれ。」


瞬「はい、…はっ!」


乾いた音を立てて叩いてみたのはいいが、結果は52キログラム。


瞬「うわっ、ゲーセンと一緒だよ。」


クォラス「改めてみると恐ろしい結果だな、これが通常の破壊値か。」


アスカ「瞬の細い体つきならこれくらいが当たり前だよ。」


クォラス「だから恐ろしいんだよ。」


瞬「どういうことです?」


クォラス「少なくともセヴァースと戦っている時はこんなに弱くは無いのだ。

    あれほどの動きは足にとて筋力がないと無理なのは言うまでも無い。」


アスカ「つまり、瞬は想いが強すぎるんだよ。

   想いに比例して一時的にだけど身体の能力が飛躍するみたいなのよ。」


瞬「へ?」


クォラス「…実証した方がよさそうだな。 アスクァーシル、いいかな?」


アスカ「はーい。」


大きなスカートを翻してクォーラシアセルに向き直った。


瞬「ちょっと? 何をするんですか!?」


突然クォーラシアセルがアスカに殴りかかった!


ぎりぎりで回避するアスカ。

瞬「ちょっと! なんの冗談ですか!?」


クォラス「本気で護らんとアスクァーシルの顔が悲惨なことになるぞ!!」


ただならぬ恐怖感と殺気に苛まれた瞬は両の手を広げてクォーラシアセルに襲い掛かった。

牽制の一撃を浴びせる瞬の攻撃をかわすクォーラシアセル、その一撃は機械に当たった。

軽い音ではなかった、空気さえ響かせる重苦しい音。

途端にクォーラシアセルの動きが止まった。


瞬「!?」


クォラス「…試されてると気付いていたようだな、あの状況では仕方が無いが…。

    この結果は氷山の一角として見ておくといい、恐らくは10%程度の能力だろう。」


表示されている数字は348キログラム!!


瞬「6倍以上!? ま、まさかっ…!」


アスカ「私じゃ本気だってこんな数字は出せないよ。

   お父さんの言うように疑って攻撃してたからこれでも本気じゃないんじゃないかな。」


クォラス「分かるかな? 本気なら正に未知数だ。

    君の場合、連戦による体力の低下だってある。

    それに想いに体の能力がついていってない事が最大の要因なのだ。

    想いの力の大半が体の能力に割り当てられているのではないかと俺は睨む。

    これが最大限に生かされたらどうなる?

    とてもじゃないが想像など出来んな。」


瞬「…僕にそんな力が?」


アスカ「きっとあるよ。

   瞬が私をこんなにも分かって好きになってくれるんだから。」


瞬「そんなもんかな。」


アスカ「ふふっ、きっとね。」


そんなことを話している瞬たちの下に男女がやってきた、少し前に去ったばかりの者だ。


ヴァルセ「クォラス! 大変だ! リィエンがっ…!!」


クォラス「何だと!?」


?「ここにいちゃいけないって言うわけ?」


いつの間にやら訓練所には金色のセミロングの髪を持つ女の子が笑いながら立っている。


クォラス「事前連絡もなしに城内に入るとは不躾な事だな、バーュナスの姫よ!」


リィエン「あらぁ、瞬がここにいるって聞いたからわざわざ出向いたのにとんだお出迎え、

    何か頭にきちゃったな、殺すよ?」


クォラス「くっ…、用事は瞬君か!」


リィエン「まぁね、何かサンバラシアの衣装を着てるけど…。

    ふぅん、サンバラシアの跡継ぎなの? 

    瞬、分からなくは無いけどあなたの居場所はここじゃないわよ。」


瞬「いや、ここだ。」


リィエン「サンバラシアに何か思い入れでもあるの? 何か弱みでも握られた?」


クォラス「…。

     (瞬君の魔力が上昇している、しかし伸び幅が著しく小さい。

     連戦の疲労が全く抜けていないせいだな。

     恐るべきはそれでも通常の3倍の力を叩き出すその想い!

     だが、リィエンはおろかセヴァースにさえ敵う力ではない。)」


瞬「それは無い、皆いい人たちだ。 俺がここにいたい理由は」


リィエン「アスクァーシルか。」


瞬「!」


リィエン「やっぱりね、それくらいの理由は当然あるわよね。

    でも私と争うなんてバカなこと考えないほうがいいわよ。

    確かに覚醒した貴方の力は侮れないわ。

    でもそれはまだ生まれたての雛みたいなもの。

    地球にいる最高の力を持つ人間だって貴方には敵わないわ。

    でも今の貴方は生まれたての上に歩き疲れたはぐれ雛よ、だからここに来たのだから。」


瞬「くっ…。」


クォラス「これほどまでに瞬君が付け狙われるとはな!」


リィエン「あら、自分の事笠に着て人聞き悪い事を言わないで欲しいわね。

    カルハーシュだったら読めたんでしょうけど今回の軍配は私に上がるわね。」


瞬「----…。」


ヴァルセ「…。

     (瞬君の魔力がまだ上昇している…、だがまだっ…!!)」


リィエン「…時にクォーラシアセル?」


クォラス「何だ、バーュナスの姫よ。」


リィエン「ここにいる跡継ぎさんをいただきたいの。」


クォラス「何?」


リィエン「私だってバーュナスが大事だもの。

    瞬が欲しいなら抑えにお姫様は人質になるけどね。」


瞬「勝手な事ばかり言い並べないで欲しいもんだね…!」


リィエン「! へぇ…、怒りで魔力を底上げするなんて聞いたこと無いわ。

    でもまだまだね、天球じゃ地球より可能な事柄が圧倒的に多いんだから。」


クォラス「…俺は瞬君が欲しいな。」


瞬「! 正気ですかクォーラシアセルさん!?

 何を言ってらしてるかお分かりですか!?」


アスカ「ありがと、大好きだよお父さん。」


瞬「アスカ!?」


リィエン「娘よりサンバラシアを取ったか。

    ま、そうだろうね。

    どっちにしたって私にはマイナスにならないけど。」


そっとアスカの下に向かうリィエン。

だが、瞬がそんなこと許せるはずが無い。

有無も言わさず瞬はリィエンの前に立ちふさがった。


瞬「姫は諦めて頂く、どうしてもと仰るのであれば俺が相手になる。」


ナディア「瞬君よして! 死んじゃうわ!」


リィエン「ふぅん…。

    地球には論より証拠、何て言葉があったわね。

    あの言葉結構好きよ、相手してあげる。

    あなたの力がどれほど通用するかその身で感じるといいわ。」 


パチンと指を鳴らすリィエン、その瞬間瞬は壁に叩きつけられた!


瞬「ご…、あっ…!!」

な、何だこの力は。 半端じゃない。

セヴァースさんもクォーラシアセルさんも強かった、でもこの人間の強さは別のところにある。

そんな気がしてならなかった。

死よりも先に白く冷たい未知への恐怖感が頭を走る。


リィエン「驚いた、躱そうとしたなんて…。

    噂以上の実力! 見込みはあるわね。

    本当に君が欲しいな~。

    ま、死んじゃったら元も子もないから手加減はしたけど、時には引く事だって重要よ。

    貴方、命さえ懸ければいつだって勝てると思ってる。

    確かに命を懸けた想いなんて半端じゃないけど、

    通常から命を懸けてるようじゃ身が持たないわよ?」


サンバラシアの姫の手を取るリィエン、巻き起こる風…。


瞬「例えそうであれ許せることとそうじゃないことがある…!

 俺を連れていけば済むことだろう!?」


リィエン「そうも言ってられないのが実情よ?

    ただでさえ落ち目で苦しいんだから瞬を連れてったらサンバラシア、滅んじゃうよ? 

    お姫様は跡継ぎになった瞬を抑えるための人質なんだから。

    物事を戦いで済ませなくてすむならそれでいいじゃない。

    別にお姫様をどうこうするわけじゃないんだし、サンバラシアとの休戦協定みたいなものよ。」


アスカ「ん、だから瞬。 ありがと、お願いだから今は引いてサンバラシアをお願いね。」


瞬「ぐっ…----!!」


リィエン「物分りのいいお姫様でよかったわ。」

全身を怒りに震わせ俯いて割れそうなくらいの歯軋りをする瞬、耐えられなかった。

にこやかに振舞うアスカ。

でも僕には何も出来ない、リィエンを殺せない、力が無い。

一番愛している人の願いだったら聞くしかなかった。

明らかに僕を気遣っているアスカやサンバラシアやフィルムーンの皆。

有り得ないほど腕に力が入る、握り締める拳、掌に爪がぶしゅ、と入る。


リィエン「あ、そうそう。 どうしてもお姫様が欲しかったらバーュナスを相手取るか

    瞬がバーュナスの一員になるかのいずれかのみよ。

    じゃ、ばいばーい!」


そういってリィエンはアスカを連れて消えた。


クォラス「行ったか…。

    瞬君、許してくれ。

    この瞬間、我々にはこうするしかなかったのだ。

    兵にだって家族はいる、こちらの都合だけで俺を敬ってくれるサンバラシアを壊せんのだ。」


瞬「わかっています…!!」


やり場の無い怒りを348と表示する機械に殴りかける。

表示された数値は2.861。

皮肉だった、その数値に驚きなど無かった。

何もかも許せなかった。

いや、正確には自分全てにだった。

力さえあればアスカは今頃ここにいてありがとうと抱きついていてくれたに違いないのだ。

こんな事で何が護るだ!


セヴァース「…クォーラシアセル様。」


クォラス「…カルハーシュ姫の尽力を借りねばなるまい。

    最も、今回は私情だから借りれるかどうかの確率はほぼ皆無だがな。

    しかし、それでもやってみねばなるまい。」


瞬「セヴァースさん…、すいません。 俺…!俺ッ…!!」


セヴァース「瞬殿、姫様は笑っておられましたかな?」


瞬「あんなの作り笑いだ…! 俺は護るといいながらアスカを…、リィエンを倒せなかった!!」


セヴァース「半人前が生半可な事を言うものではありませぬ!」


瞬「!」


セヴァース「ならば力をつけなされい!

     姫様は笑っておられた、それでよいではありませぬか。

     本当に嫌であるならば確率の高い共闘だってなされたはず。

     なのにそれをなさらなかったということは瞬殿に全てを託されたのです!

     姫様のお心を! サンバラシア王国を! 

     何より愛された瞬殿のお命を無駄になさるおつもりか!

     おっしゃられたのは貴方様でありましょう? 全てを護られると!

     今こその誓いを果される時ではないのですか、違いますかな!?」


瞬「セヴァースさん…、はいっ!」


セヴァース「うむ、よき返事ですな。」


クォラス「瞬君はアスクァーシルを取り返しに行くつもりか?」


瞬「はい、アスカは”今は”引けと言いましたが、来るなとは言っていないですから。」


クォラス「…。

     (もう冷静さを取り戻したか、大したものだ…。)

     だがそれはバーュナスに対するサンバラシアの宣戦布告と取れる。

     それでもか?」


瞬「----っ。」


クォラス「答えられないか! 気に入った、いいだろう!」


瞬「え?」


クォラス「サンバラシアを考えれば答えられるはずが無いんだ。

    ましてアスクァーシルを見捨てるはずは無いからな、君には王の器量がある。」


瞬「僕個人で行きたいのが本音ですけれど…。」


クォラス「それは無理だ、バーュナスの兵力は半端ではない。

    いずれこうなる事は分かっていた、それが今になっただけの事でな。

    この戦いでサンバラシアは滅びるかも知れん。

    それでも瞬君、俺は君にサンバラシアの名を継いでもらいたい、いいか?」


瞬「はい!」


クォラス「俺も出来る限りの事はしよう、リィエンの狙いは瞬君だ。

    アスクァーシルをさらったのは瞬君を是が非でもバーュナスに取り込むためだろう。

    そうすれば瞬君は確実にアスクァーシルを取り返しにバーュナスに来るからな。」


瞬「確実にサンバラシアを滅ぼすための下準備、ですか。」


クォラス「恐らくな。

    それに敵地に行くともなれば瞬君の怒りを呼ぶものを用意するはずだ。

    あれで結構汚い奴だ。

    今日はこんなに穏便に終わったが、今まではこんな事は無かった。

    瞬君にはこれから精神肉体共に過酷な訓練が必要になるだろう。

    バーュナスに行きたいのなら話は別だがな。」


瞬「見くびらないでください!」


クォラス「その元気を聞いて安心したぞ。

    場合によってはバーュナスと全面戦争になるだろう。

    君の腕にサンバラシアがの全てが掛かっている上、

    アスクァーシルと国の為に瞬君は死ねないのだから相当な覚悟がいるぞ?」


瞬「望むところです!

 それはそうと、僕はやらなければならないことがありますから天球に降りたいのですが…。」


クォラス「それは構わないが瞬君よ、少し時間をくれないか。

    兵達に君を紹介したいのだ。」


瞬「は、はい。」


クォラス「よし、瞬君を紹介した後の行動だが、

    セヴァースは衣装を変えて瞬と共に天球に降りて彼の修行をしろ。

    俺はカルハーシュ姫の知恵を借りに行く、兵達の意志も聞かねばならん。

    その後で向かおう。」


セヴァース「御意。」


ヴァルセ「クォラス、我々も同行しよう。」


クォラス「ヴァルセが来る必要は無い、これはサンバラシアの問題だ。」


ナディア「あら、言ってくれるじゃない。 

    チェリーシェルの事があるんだからうちの問題でもあるのよ? 

    第一瞬君は私達のものでもあるんだから何かさせてくれてもいいんじゃない?」


クォラス「仮にでもだ、万一フィルムーンまで滅んでしまったら俺はフィオラに合わす顔が無い!」


ヴァルセ「案ずるな、瞬君が好きな私達がやりたいだけだ。 

    勝手に滅んだら我々が阿呆だったということだ。」


ナディア「時間は多くは無いけど少なくも無いわ。

    サンバラシアと力を合わせれば滅んじゃう確率だって減るんだから。

    申し訳ないのは瞬君頼りになるのが大前提なんだけどね…。」


瞬「僕の事は気になさらないでください。

 皆さん、あと時間はどれくらいありますか?」 


クォラス「俺は1週間くらいだと思うのだがどうだろう?」


ヴァルセ「そうだな、あまり長く経ってしまってはそれこそアスクァーシル姫の危険性が出てくる。

    瞬君には過酷ではあるが7日で何とかしていただきたい。」


ナディア「無理を承知でついでを言っちゃうなら瞬君にフィルムーンに来てもらいたいの。」


ヴァルセ「ナディア、瞬君には時間が無いのだ。」


瞬「構いませんよ、何でしょうか?」


ナディア「クォラスと一緒、フィルムーンの兵士に瞬君を紹介したいの。」


ヴァルセ「!? ナディア! 何を考えている!?」 


ナディア「瞬君にはサンバラシアとフィルムーンのこの戦いの総指揮官を務めてもらいたいの。」       


クォラス「俺としては構わないことだが…、ヴァルセはどうだ?」


ヴァルセ「う、む…。」


ナディア「何よ、嫌なの?」


ヴァルセ「そうではない、そうした方がいいかも知れんが瞬君の負担が増えるだろう。

    それによって瞬君の力や想いが分散するのは望ましくない。」


瞬「…きっとそれは僕にとって負担ではなく、2つの国の命運を握るという励みになります。

 出来るなら勤めさせてはいただけませんか。 

 正直言うと不安でいっぱいです。

 ですが、少しでも自分を追い込むことで発揮される力なら大事なことです。

 ただ、国の一大事にこのような心境で望んでよいかどうかは疑問が残りますが…。」


クォラス「ハッハッハ!」


ヴァルセ「ハハハハッ!」


瞬「え? え?」


クォラス「正直すぎるんだよ、瞬君は。 

    そんな大役、戦闘経験も浅い君が不安がらないはずが無い。 当たり前だ。」


ヴァルセ「なのに自分を追い詰めて頑張ってみたいなんざ、普通の人間なら言うことさえ苦痛だ。

    クォラス、決まったな!」


クォラス「そうだな! 総司令は瞬君に任せよう!」


瞬「い、いいんですか!?」


クォラス「あぁ、2つの国を君が動かすのだ。

    俺たちだって尽力しようじゃないか。」


ヴァルセ「フィルムーンとサンバラシアを頼むぞ、瞬君!」


瞬「分かりました!」


クォラス「それでは瞬君、俺の椅子がある部屋まで行こうか。」


瞬「はい!」


サンバラシア全体に招集がかけられ、広い王の間には溢れんばかりの兵士で埋め尽くされた。


クォラス「聞け、兵たちよ!

    これより我々サンバラシアはフィルムーンと手を取り合い、

    さらわれた我らの姫である

    アスクァーシルを救い出す戦いをバーュナスに対して執り行う!

    期限は7日後だ! これは国の存亡を賭けた戦いになるだろう!

    よって強制はしない! ついてきたい馬鹿者だけこの戦いに参加しろ!

    ただし、この戦いにおける指揮官は俺の隣にいる如月 瞬だ!

    お前達も名前くらいは聞いた事があるだろう。

    俺の娘のアスクァーシルの心を奪った時期サンバラシアの王だ!

    不満のあるものはさっきも言ったが外れてくれて一向に構わない!

    信じるものだけ来い! 中途半端な意志の者が来られては迷惑だ!

    以上、何か質問のあるものはいないか!?」


兵士「クォーラシアセル様! 瞬殿にはそれほどの力があるのですか?」


クォラス「無いッ!!」


ざわつく会場を一蹴するクォーラシアセルの一声。


クォラス「だが、7日待て。 きっと我ら太陽神が誇るサンバラシアの王に相応しい力をつけるだろう!

    それだけの事をやってのける男なのだ! 

    アスクァーシルがこの男に命と国を託してバーュナスに自ら囚われの身となったのだ!

    この俺が保証しよう!! 

    フィオラーシルの日なたのような優しき心を持つこれほどの男は唯一無二だ!

    この男は信じられる! いや、信じろ!!」    


一気に盛り上がる王の間、ものすごい熱気と士気だ。


クォラス「瞬君、君からも何か言ってくれ。」


瞬「僕がですか?」


クォラス「胸中の熱い血潮に任せればいいのだ、さあ!」


瞬「…僕は、ここにいる誰よりも戦闘経験はありませんしここにいる誰よりも力はありません。」


しん、とする王の間。 不思議と緊張していなかった。


瞬「でも、7日下さい。

 必ずアスクァーシル姫を救う力をつけます、方法なんて分かりません。

 是が非でもつけます、約束します!

 アスクァーシル姫を救い出す阻害になるものなら例え今回敗れたリィエンだって殺してみせる!

 もう何も出来ない悔しさだけは味わいたくないし、サンバラシアやその姫にだって味合わせない!

 絶対という約束をここに誓う! お願いです、僕に力を貸してください!!」


さっきと寸分違わない歓声が王の間を再び包んだ。

フィルムーンでも同じように話し、期待の歓声に包まれた。

それに応える瞬はただただ目に涙を浮かべて頭を下げることしか出来なかった。

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