第十七章 さくらと絆 ~和解と贖罪~
瞬「!」
高笑いするレヴルスの背後に2人の男女が立っている。
アスカ「…やられた、あいつらは囮で私たちの体力を奪うのが目的だったんだ…!」
?「レヴルス、こやつらがフィルムーンにケンカを売ってきたのだな?」
レヴルス「あぁそうさ、殺ってくれ!」
?「妙ね。」
?「あぁ。」
レヴルス「何がだ?」
?「お前の話と食い違いを感じるな。」
レヴルス「何がだって言うんだ!」
?「あの男の子は恐ろしく息の合っている女の子を必死に護ってるわ、女の子も呼応してる。
貴方から奪ったとは到底思えないわね。
それにもう1つ、仮に我々にケンカを売ったとして相手に致命傷を与えないってのは妙ね?」
レヴルス「欺くための工作だ、あんなのは!」
?「ナディアールよ、ここは彼らと話を持つ必要がありそうだな。」
ナディアール「ナディアでいいって言ってるでしょ、ヴァルセイル。」
ヴァルセイル「お前こそ俺のことはヴァルセと呼べと言った筈だぞ?
まぁ、お前の言う通り、確かに話してみてから殺しても遅くは無いな。」
レヴルス「そんな呑気なこと言ってる場合かよ!」
ナディア「うるさいわね…、あんたの為にここに来たんじゃないんだからね。」
レヴルス「うっ…。」
2人が瞬とアスカの下に歩み寄る、二人は警戒して肩を合わせる。
ヴァルセ「警戒しなくていい、女の子の魔法を囮に男の子が右に散開するつもりなのだろう?」
2人は驚いて顔を見合わせる。
ナディア「それをがお互いが分かってるんだから凄いわよね。」
瞬「あ、あなたたちはフィルムーンの人ですか?」
ヴァルセ「まぁな、ヴァルセイル・フィルムーンという名があってな、フィルムーンの王を務める。
そっちは妻のナディアール・フィルムーンで妃を務めている。」
はぁい、と愛想を振りまいて瞬とアスカに手を振るナディアール。
ナディア「ごめんなさいね、レヴルスがきっといらないことをしたんでしょう?」
アスカ「え?」
ヴァルセ「我々とてあいつの横暴を見過ごしていたわけじゃない。
だが我が息子とて、もう限界だな。」
瞬「ちょっ…、なんでそうまで言い切れるんです?」
アスカ「私達の行動を読んだくらいよ、戦い方で全部悟っちゃったのよ。」
ナディア「ご名答、優しい戦い方をするのね。 えーと、何君だっけ?」
瞬「申し遅れました、如月 瞬です。」
ヴァルセ「なに!? 君があの瞬か!?」
アスカ「サンバラシアの姫、アスクァーシルです。」
ナディア「えぇっ!? サンバラシアの!?」
膝をついて敬礼するアスカに二度驚くフィルムーンのトップ。
ナディア「どうしてアスクァーシル姫がここにいるの!? どこかで見たなー、とは思ってたけど…。」
アスカ「えっと、瞬を好きになっちゃって。 えへへ。」
ヴァルセ「それだけでか!?」
アスカ「十分な理由ですよ。」
ナディア「そうよ、ヴァルセのバカ! で、瞬君?」
瞬「はい!」
ナディア「お姫様と一緒に戦ってどれくらいなの?」
瞬「…今日が初めてですが。」
ナディア「…嘘。」
ヴァルセ「ほらな、だから如月は只者ではないと言ったんだ。」
瞬「伍神聖は仲が悪いと聞きましたが…? すごくいい人に見えてしょうがないです。」
ナディア「確かに仲は悪かったわねー。
お花見の場所の取り合いとかで戦争したこともあったっけ。」
アスカ「…聞いたことある。」
ヴァルセ「まぁ、昔のことだがな。 思い返したら下らん戦争だったな。」
ナディア「そうねぇ、今はそんなに仲は悪くないわよ。
本当に悪かったらお姫様を誘拐しちゃうもの。」
ヴァルセ「そんなことしたら我々の立場が危ぶまれるだけだ、何の価値もないな。」
瞬「バーュナス家が危ないってのは?」
ヴァルセ「あそこだけは血生臭い古来の戦いをやめようとしないな。」
ナディア「そうねぇ、あそこだけはね…。
それにしてもサンバラシアのお姫様って可愛い子ねぇ、
ねぇヴァルセ、サンバラシアと仲直りしよっか?」
ヴァルセ「ん?」
ナディア「ね、ね! 瞬君もいい子だしアスクァーシル姫もいい子じゃない。
きっとチェリーシェルも好きになるわよ。
これからの世代にかけて私たちは彼らに教わるのも悪くないんじゃない?」
ヴァルセ「どうかな、チェリーシェルは兄はおろか親にさえ懐かなかったんだ。
静観してからでも遅くは無いと思うんだがな。」
ナディア「ヴァルセの頭でっかち!」
瞬「あの、チェリーシェルってどちら様ですか?」
ナディア「私達の娘よ、レヴルスの妹に当たる子なんだけど家出しちゃってさぁ。」
瞬「アスカみたい。」
アスカ「うるさいっ、もうっ。」
ヴァルセ「それでこの辺りにいるらしい情報を得たのでレヴルスの調査がてら来たのだが…、
どうやらまた徒労だったようだな。」
ナディア「瞬君知らないかなー? こんな子何だけど。」
一枚の写真を差し出すナディアール、それを見るや否や瞬の表情が一転する。
ナディア「同じ家出さんのアスクァーシル姫も知らないかな?」
アスカ「! 瞬、この子ってまさか…。」
ヴァルセ「知っているのか!?」
瞬「さくらちゃんだ!!」
ナディア「さくらちゃん? 偽名使ってたのかな?」
ヴァルセ「会わせて欲しい、今どこにいるか知らないか?」
瞬「医療棟にいます、こっちです。」
ナディア「怪我をしてるの!?」
瞬「軽傷ですから問題は無いですよ。」
ナディア「そう、ならいいんだけど…。」
案内を始め、フィルムーンの王、后を連れる瞬にナディアールは心配そうに話す。
瞬「人違いでなければゴブリンに襲われていたところを僕が助けた、らしいです。
言葉が話せないようですが…。」
ヴァルセ「ん? チェリーシェルは半端じゃない魔力を持っているはずだが…。
ゴブリン如きに遅れをとるかな?」
ナディア「見てからだっていいじゃない? 瞬君、助けたらしいってのは?」
瞬「恥ずかしい話、意識を失っているうちに体が勝手に動いていたらしいんです。」
ヴァルセ「制御不能、ということか?」
瞬「正にそうです。」
ナディア「それは聞いたことあるな、キング隊を一人で壊滅させたってあれでしょ?」
瞬「ええ。」
ナディア「それがここまで制御が利くようになってきてるんだ。」
瞬「それはクォーラシアセルさんのお陰ですよ。」
ヴァルセ「! クォラスを知っているのか!?」
瞬「はい、力を引き出してもらったんです。」
ナディア「顔広いわね~、天球人だって滅多に会えないってのに手ほどきまでされたんだ。」
ヴァルセ「-----…。」
瞬「ここになります。」
レヴルス「何してんだよ!」
ナディア「…あんたからは後でたっぷり聞きたいことがあるわ、黙って帰りなさい。」
ヴァルセ「回答次第では息子とはいえ処するからな…!!」
息子であるレヴルスが話しけてきた途端、二人の表情は鬼のように一転した。
流石と言うべきか、伍神聖と言われるものの頂点に立つ者にしか放てない殺気である。
レヴルス「何でだよ! こいつから俺に殴りかかって殺してみろって言ったんだぜ!?」
ナディア「…じゃあ殴られるまでの経緯を全て話しなさい、私達が間違ってるなら謝るわ。」
ヴァルセ「瞬君とアスクァーシル姫の前で偽り無く話してみろ。」
レヴルス「うっ…。」
ナディア「…やっぱりか、このバカ。 本当に死にたいの?」
ヴァルセ「お前には既に見張りがついている、大人しく帰って頭でも冷やすんだな!!」
その男は何も言わず立ち去っていた。
ナディア「見苦しいトコ見せちゃったわね。」
瞬「僕は、何も。」
アスカ「気になさらないでください。」
がらりと開く扉。
中の女の子は瞬を見てパッと顔を明るめたが、その瞬間表情が曇った。
ヴァルセ「チェリーシェル!!」
ナディア「探したのよ? どうしたの?」
女の子「…。」
さくらちゃんかチェリーシェルかは分からないが、女の子は口と共に表情さえ堅く閉ざしている。
両親は必死に問いかけているが反応は全く無い。
この反応を見ている限りだとこの子はチェリーシェルなのかな?
こうなると肩書きなんて関係なんて無いんだな、と思わされる。
ナディアールさんもヴァルセイルさんもフィルムーンの王、王妃である前にこの子の両親なんだ。
その姿は地球の両親と全く変わらない、…僕の両親もこうだったら幸せだったのかな。
親子の姿を遠めに見て瞬は少し羨ましくなる。
自分がこの状態を切り開こうとして瞬は女の子を抱き上げる。
女の子「!」
ナディア「ちょっと、瞬君! 危ないわよ!!」
ヴァルセ「触れば殺しにかかって来るんだぞ!?」
瞬「こーら、どうして何にも話さないの? さくらちゃん?」
両親の制止を振り切ってぐしぐし頭を撫でられて少し女の子の表情が綻ぶ。
瞬「何にも話さない子はお兄ちゃん嫌いだぞ?」
女の子「っ! あうぅ~っ…。」
一番言われたくない言葉だったのか女の子の表情が悲しそうになる。
ナディア「嘘…。」
ヴァルセ「誰一人として馴染まなかったチェリーシェルがあんな淋しそうな声を発したとは…。」
瞬「ほうら、話せるじゃないか。 いいこいいこ。」
優しく頭を撫でられて女の子は目を閉じて成すがままになっている。
瞬「ねぇ、さくらちゃん。 この人たちはパパとママなの?」
女の子「…んん。」
こくりと頷くさくらちゃん。
瞬「パパとママと仲直りしてあげてよ。
パパもママもさくらちゃんの事大好きなんだよ、分かってあげて。」
女の子「…。」
瞬「さ、ナディアさん、抱っこしてあげてください。」
ナディア「で、でも…。」
瞬「そんな事だから家出するんですよ!
家出したのだって暴れたりするのだって、喋らないのだって淋しいっていう警告なんですよ。
何も言わなくていいんです、ただ抱っこしてあげればいいんです。
肌のふれあいは言葉より重要で、言葉を超える愛情表現なんです。
ナディアールさんやヴァルセイルさんには子供が甘えたい時に
鬱陶しがって抱いてもくれなかった僕の両親のようにならないで欲しいんです。
この子に僕のような淋しさを知ってもらいたくない。
ただ単に親の愛情に甘えたいんですよ。
…さぁ。」
おそるおそる抱っこするナディアール、傍目に見たってそれはギクシャクして明らかに不自然だった。
そろりと表情を伺いながら母の胸に頬を寄せるチェリーシェル、
少し驚いていた母も髪を撫でると女の子もきゅっと母を抱く。
その横からヴァルセイルも女の子の頭を撫でる。
ほほえましい光景だった、親子が和解してあるべき姿に帰ったのだ。
ナディア「…ごめんね、チェリーシェル。」
ヴァルセ「何を言っても言い訳でしかないが…、
不出来な兄ばかり気を回していて結果こうなってしまった、すまない。」
チェリーシェル「んん。」
アスカ「…。」
瞬「すいません、子供のくせに偉そうなこと言ってしまって。」
ナディア「いいのよ、知りたかった子供の感情をその瞬君が代弁してくれたんだから。
母親失格ね。」
ヴァルセ「これから頑張っていけばいいさ。 …時に、瞬君。」
瞬「はい。」
ヴァルセ「フィルムーンに来る気はないか?」
瞬「えっ!?」
アスカ「!」
ヴァルセ「君という人間が欲しい、さっきから思っていた。
クォラスのことや君の戦い方、チェリーシェルのこと。 どれを取っても申し分が無い。」
瞬「…お誘いはすごく嬉しいですが、僕は汚れた地球人ですから血を繋げる資格はありません。
それに僕にはアスカがいますし彼女と二人で如月 瞬なので。」
ヴァルセ「…ククク、我々のこともよく考えているのか。 ますます欲しくなったな!」
母親の手をすり抜けて瞬にしがみつく女の子。
その表情にはヴァルセイルの発した言葉を強く後押しするものが感じられた。
瞬「あ、えっと。 さくらちゃん、あぁ、どうしよう。」
ナディア「あらあら、チェリーシェルったら。 確かにうちに来てくれるとありがたいんだけど、
きっとサンバラシアだって瞬君を狙ってるでしょ、全く未知の力なんだから。
クォラスが自ら手ほどきしたくらいなんだし。
これから瞬君大変だわよー。 きっとロライスターやスノウリューだって目をつけてる筈。
変な意味ではバーュナスだってきっと目をつけてる。
それにサンバラシアのお姫様とフィルムーンのお姫様に好かれてるんだから、
モテる子はつらいわね、ふふっ。」
瞬「え、えーっと。」
アスカ「何よ瞬、こんなにちっちゃい子が趣味なの?」
チェリーシェル「うーっ、あうーっ!」
瞬「そういう意味じゃないよ、さくらちゃんも怒らないの。」
ナディア「おかしいなぁ、チェリーシェルは話せたはずなんだけどな。」
瞬「きっとゴブリンに襲われたショックでしょう。 僕が言葉を教えますよ。」
チェリーシェル「ふふふーっ。」
ナディア「あ、笑ってる。 どれだけ見たかな、チェリーシェルの笑顔なんて。」
ヴァルセ「ナディア、魔法を使えばすぐ話せるようになるだろう?」
ナディア「そうね、…えいっ。」
指先から白く輝く魔法が放たれ、それはチェリーシェルに当たって一つ大きく輝いて消えた。
瞬「…チェリーシェル?」
チェリーシェル「…あー、う?」
ナディア「あれっ!?」
ヴァルセ「何をやってるんだナディア。」
ナディア「そんな筈ないわよ、おっかしいなぁ。」
ヴァルセ「仕方ないな。 チェリーシェル、帰るか。」
チェリーシェル「うあっ!? あうううう…。」
途端に悲しげな表情になるチェリーシェル、両親と和解したせいか表情が豊かだ。
ナディア「…いいわよ、ここに残っても。」
チェリーシェル「!」
ヴァルセ「ナディア! どうしてだ!?」
ナディア「瞬君はクォラスが愛娘を預けるくらいの器の子よ? 信用できるわ。
それに無理に連れ帰ったって瞬君に会えなくて寂しがるからまた出てっちゃうわよ。
ならチェリーシェルはここに預けて会いたくなったら私達が会いに来るの。
子供に寂しい思いさせたんだからそれくらいの事はしないと、ね?」
ヴァルセ「…ったく仕方ないな、では瞬君娘を頼むぞ? 泣かしたりしたら許さんからな。」
瞬「はいっ。」
ナディア「よく言うわよ、一番泣かしてた親のくせに。」
ヴァルセ「う、うるさい! 帰るぞ、ナディア!」
ナディア「待って、気になることがあるの。」
ヴァルセ「何だ、真面目な顔をして。」
ナディア「…アスクァーシル姫と2人で話がしたいの、いいかしら?」
ヴァルセ「? あぁ、わかった。」
2人を病室に残してヴァルセイルと瞬にチェリーシェルは廊下に出た。
ヴァルセ「本来ならチェリーシェルが病室にいるべきなのにな。」
瞬「きっと重要な話ですよ。」
------…。
アスカ「…お話とは何でしょうか?」
ナディア「サンバラシアのお姫様にこんな事聞いちゃ失礼だとは思うんだけど…。」
アスカ「構いませんよ、今の私はアスクァーシルである前にアスカですから。」
ナディア「ん、じゃあ聞くけどさ。 レヴルスに何か余計なことされなかった?」
アスカ「!」
ナディア「あぁっ、ごめんなさい! …最低だわ。」
アスカ「ご存知なんですか?」
ナディア「いいえ、ただあの愚息があんな余計な自信つけるものだから、
きっとろくでもないことしたんじゃないかって思ってたんだけど…。」
アスカ「…犯されちゃったんです。」
ナディア「嘘!? …いえ、嘘なんてつかないわよね。
あのバカ、とんでもないことしてくれたものね!
本当にごめんなさい、同じ女として許す事は出来ない。
でも何て謝ったらいいのよ…。
出来る事なら何だってするわ、瞬君という彼が居ながら…、ごめんなさい。」
アスカ「くすくす。」
ナディア「え?」
アスカ「もういいんです。」
ナディア「ちょっ、どういうこと?」
アスカ「私がサンバラシアの姫とみんなに知れたのはごく最近なんです。
フィルムーン家とは付き合いが殆どありませんでしたし、
多分レヴルスも知らなかったんじゃないかと思います。
正直言うと始めは恨んでました、殺したいくらい。
でも瞬はそんな私全てひっくるめて好きだって言ってくれたんです。
瞬にこんな傷物の私じゃダメだって思ってたんですけど、
全てはこれからだからいい、私が彼を想う以上に辛いのは僕じゃなくて私じゃないか、
瞬は私の支えになりたいし支えて欲しい、愛してるし愛して欲しい、甘えたいし甘えて欲しい。
そう言ってくれたんです、私の全てを護りたい、心でさえも。
命を懸けて私を護る覚悟がある、でも自分の命も護る。
死が怖いんじゃない、死んで護られた私が、私が心を死ぬまで痛めるから。
それでは私の心は護ってない、そこまで考えてくれてるんです。
気がついたら私も瞬と同じことを考えてたんです、私だって負けないくらい好きですから。
だからそんな命を賭けてくれる瞬の為に
いつまでも起きてしまった過去にこだわるのではなくて、
私も瞬と一緒にこれからを見ていこう、そう思ったんです。
もういいのは諦めじゃなくて、すでにそういった次元じゃないんです。」
ナディア「…瞬君と異常なまでに息が合った理由が分かったわ。
でもレヴルスがした事はお姫様であれなかれ許されることではないわ。
サンバラシアにだって謝罪したい。」
アスカ「大人のお付き合いの事はよく分からないですけど、お父さんだって許してくれます。
もしできるなら立ち合わせて欲しいです、フィルムーンと交友が持ちたいのが私の希望です。」
ナディア「ありがとう、何て言ったらいいか…。」
------…。
一方、廊下で待っているヴァルセイルたちもただ居るだけではなかった。
ヴァルセ「瞬君、君はサンバラシアと戦ったことがあるそうだがどうだったかな?」
瞬「うーん、強すぎますね。 手を抜いているのに僕は全く歯が立たなかったんですから。
あ、当たり前ですね。」
ヴァルセ「ははは、まぁそうだろう。 だが君の戦い方は他に類を見ないタイプなのだ。
そうでなければアスクァーシル姫と共闘何ざできるはずもない。
彼女は天球屈指の、トップテンに肩を連ねるランカーなのだからな。」
瞬「えっ!? アスカが天球界で10の指に数えられるんですか!?」
ヴァルセ「知らずに戦っていたのか? 尚更君は恐ろしいな。
まぁ、クォラスや私やナディア何かはランクは持っていないがな。」
瞬「どうしてです? いい思いができる、何て聞きましたが。」
ヴァルセ「! ハハハ、ストレートに言ってくれるな。
正直あまり興味が無いのだ、今のままでも損はないし天球上に降りることも少ない。」
瞬「そうなんですか。 あの、ちょっと聞きたいのですが。」
ヴァルセ「うん? 何だ?」
瞬「伍神聖にはロライスターやスノウリューにバーュナスがいると聞きました。
一体どんな人達なのでしょうか?」
ヴァルセ「聞いてどうするんだ? まず会えんぞ?」
瞬「そ、そうですけどこういった機会でもない限り知れないことですから。」
ヴァルセ「それもそうだな。 いいだろう。
バーュナスは先に言った通り危険な存在だ、我々が束になって抑えているくらい強い。
中でも一番恐れられているのがリィエン・バーュナスという姫だ。
殺人嗜好が半端ではない、血や殺される者の断末魔を好んでいる。
彼女の気分と指先一つで生死が決する、まさに一騎当千というやつだ。
そしてロライスターにも姫がいる、名はカルハーシュ・ロライスター。
常に冷静沈着で、感情に流されないバーュナスと違った冷酷さがあるな。
力押しするリィエンを抑えられるのは彼女の卓越した頭脳と計算によるものだ。
恐るべき洞察力と観察、危機回避能力を持っている。
策士、何て言葉は彼女のためにあるのかも知れん。
確か…、姉にルゥカフィリア・ロライスターという姫が居た記憶があるな。
スノウリューについては未知の部分が多い。
どことも付き合いを持っていないからな。
にもかかわらず今日まで存在しているのにはそれなりのものが伴っているのだろう。
確かキュミリア・スノウリューという姫が居たと記憶しているが、正確かは微妙だ。
私の知っている事はこれくらい…、おっと。
サンバラシアにはアスクァーシル姫の他にも姫がいるんだった。
サーリッシュ・サンバラシアとサザンクレッシル・サンバラシアの2名。
アスクァーシル姫は次女だ、サーリッシュ姫は四女でサザンクレッシル姫は長女だな。
三女の事については良く分かっていない。
ただ、皆とも行方不明だそうだ。 何かと家出の多いのが伍神聖の特徴でな。
チェリーシェルもこんなに小さいのに家出したしな。
真面目に親元にいるのはカルハーシュ姫くらいなものだろう。
おもしろい事に、ルゥカフィリア姫も家にいないらしいからな。
伍神聖には他にも兄弟はおるかも知れん。
あくまで私の記憶として記憶に留めておいてくれたら幸いだな。」
瞬「詳しく教えてくださってありがとうございます。
チェリーシェルちゃん、もう出てっちゃダメだぞ?」
チェリーシェル「んん。」
こくりと頷くチェリーシェルは瞬の足にしがみついたままだ。
ヴァルセ「この様子じゃ心配はいらんと思うがな。
恥ずかしい話を重ねるとな、チェリーシェルの姉も現在不在なのだ。」
瞬「え!? さくらちゃんにお姉さんがいるんですか!?」
ヴァルセ「名はリフィーユ・フィルムーンと言う。
うちのバカ長男のレヴルスはリフィーユの弟に当たる。
リフィーユは完全に家出と言うわけではなく、たまーに思い出したように帰ってくるのだがね。
こやつがまた特異な人間でな。」
瞬「と言いますと?」
ヴァルセ「誰が言い始めたのかは分からんのだが、
そのあまりの戦いぶりから”居眠り破壊神”という二つ名がついている。
伍神聖の中で特に恐れられ、何時の間にやらそう呼ばれているのだ。」
瞬「こ、怖っ!」
ヴァルセ「まぁ、そうそう簡単に会えるとも思えんがな。」
瞬「なるほど…。」
そうこうしているうちに病室のドアが開いてアスカとナディアールが出てきた。
どうもナディアールさんの顔色がよくない気がする。
ナディア「ヴァルセ、ちょっといいかしら。」
ヴァルセ「ん? どうした、顔色が優れないようだが?」
そう話すヴァルセイルにナディアールが耳打ちする。
みるみるうちに表情が険しくなるヴァルセイル、瞬とチェリーシェルだけが状況を理解できなかった。
ヴァルセ「すまない、アスクァーシル姫…。」
全身を怒りに震わせて当事者のアスカに向き直って頭を下げるフィルムーンの王。
アスカ「頭を上げてください、もう過ぎたことですからいいですよ。」
ナディア「今からすぐにサンバラシア城に向かいましょう、ヴァルセイル。」
ヴァルセ「そうだな、覚悟がいる。 全く、あのろくでなしが!」
瞬「??」
何かは分からなかった、でも雰囲気から聞く事は出来なかった。
アスカ「ねぇ、瞬。 もう一度お父さんに会って欲しいの、いいかな?」
瞬「うん、いいよ。」
ヴァルセ「チェリーシェルは待っ…」
そう言いかかってヴァルセイルは止めた、チェリーシェルは唇をきゅっとしめて父親に訴えていた。
ヴァルセ「…いや、チェリーシェルにはいい機会かも知れんな。」
その言葉を聞いて瞬はチェリーシェルを抱き上げた。
嬉しそうにニコニコしている。
瞬「学校は大丈夫かな?」
アスカ「大丈夫よ、その辺は説明するから。
まぁ、しなくたって誰も文句は言わないけどね。」
ヴァルセ「ナディアはレヴルスを連れてきてくれ、我々は先にサンバラシア城に向かう。」
ナディア「分かったわ。」
言い残すか残さないうちに瞬時にその場から消え去るナディアール。
さすがはフィルムーンのトップだ。
ヴァルセ「ではアスクァーシル姫、瞬君、参りますぞ。」
テレビの砂嵐のように風景がぼやけていく。
言ってみれば車酔いに近い感触があったが、気付けばとんでもなく大きい城の前に佇んでいたのだ。
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