第十六章  俺の存在意義 ~踊れ、我とともに~

アスカ「瞬っ、大丈夫!? ちょっと!何なのよ!!」


?「ふーん、こんな男の方がいいのかよ。

 この俺、レヴルス・フィルムーン様よりよ!?」


瞬「フィ…ルムーンだ?」


レヴルス「伍神聖が一つ、大地と月の象徴フィルムーン家の幹部にして

    アスカの彼氏でもあるレヴルス・フィルムーンとは俺の事だ。


アスカ「バカ言わないで! 貴方と付き合ってるつもりなんてさらさらないわ!」


レヴルス「またまた照れちゃって、そこが可愛いんだよな。」


アスカ「くどいってば! 勘違いしないで!!」


レヴルス「よく言うぜ、喜んで俺様にバージン捧げたくせによ!」


アスカ「----ッ!!」


瞬「オイ、言っていい事と悪いことがあるだろう。

 状況考えろよ、デリカシー無さ過ぎだぞ。」


レヴルス「すっこんでろよ、見せかけだけの人間はよ。

    大口叩いてセヴァースに殺されかけてよ?

    あ? あそこで助けてもらわなかったら君死んでたんだぜ?

    分かるかな?」


?「ヘッ、よく言うぜ。」


レヴルス「あ!? …けっ、聡哉か。」


聡哉「セヴァースが来た時にはブルってその可愛い彼女とやらをその見せかけ任せにした分際が。

  見せかけどころかお前の場合は名前だけじゃねえか、フィルムーンの汚物が。」


レヴルス「口を慎むんだな聡哉、てめえ如き伍神聖はたやすく消せるんだからな。」


聡哉「フン、虎の威を借る何とやらだな。」


レヴルス「また地球のことわざとかいうやつか? 

    下らん知識を持つくらいならちったぁ戦闘知識でも入れるんだな。

    入るかどうかも分からんそのちっぽけな薄汚れた地球人の脳みそでな!!」


聡哉「ご忠告恐れ入るよ、見習わさせてもらわねぇとなぁ。

  人の振り見て何とやら、お前のようにだけはならないように注意させてくれるんだからな!」


レヴルス「ケッ、そりゃそうだろうよ。 アスカにひっぱたかれた挙句に振られるようじゃな!」


聡哉「ほざいてろ。

  振られて未だ未練たらたら女のケツ追っかけまわしてるどこかのアホほど

  俺は暇じゃねぇんだよ。」


そんな2人の言い合いを尻目に瞬はアスカの下に歩み寄った。

震えるアスカに瞬はただ黙って頭を撫でた。

何か言葉をかけた方がカッコイイに決まってる、でも何も思いつかなかった。


レヴルス「おいおい、瞬君よ。 俺は無視かよ!?

    勝手に人のオンナに触ってんじゃねぇよ。

    そいつは俺が初めてのオンナ何だぜ? お前が出る幕じゃねぇだろ。

    キミはアスカの今まで付き合った男の遥か後の男なんだって事がよ、分かるか?

    アスカは喜んで俺様にバージン捧げたのよ、かわいこぶってるが大した淫乱オンナだよ。

    ここぞとばかりにケツを突き出しやがる。」


聡哉「てっ、てめぇっ!!」


瞬「…聡哉、抑えて。」


聡哉「----ッ!」


薄く笑う瞬に表情が無い、それを見た聡哉は思わず一歩引いてしまう。


瞬「やけにバージンにこだわるね、そんなに大事?」


レヴルス「あぁ! 初めて俺が踏み込んだ未知の領域だからな。」


瞬「そっか、じゃあさ。 君はアスカをどれくらい知ってる?」


レヴルス「あ? それは」


瞬「サンバラシアだけに留まらず果たさなきゃならないお姫様としての使命。

 それを押しのけてまでここにいる決意と重圧、アスカが君の言う人間だったとしたって

 それが何? アスカを痛めつけて何が楽しいの? 君はサドか、ならそれだって構わない。

 今アスカは笑ってますか? だから俺は聞きたい、君はアスカの何を知ってるのかを。

 心も知らず、使命の重さも知らず、ただただ己の欲望巻くままにアスカを抱き込んで満足かい?

 君にアスカの何が分かる、言ってみろ。 今すぐ。

 俺にだって分からないよ、君の方が知ってるだろう、なら言ってみろ、自慢してみろよ。

 聡哉に言ったよね、くだらない知識とか、ちっぽけな脳みそとか。

 参考にさせてもらうよ、俺は聡哉と違って薄汚れた汚い地球人の偶像だよ。

 教えてくれよ、君がレヴルス様とおおされるのなら、教えてくださいよ。

 くそったれな地球人に今すぐあなたのような英知を僅かながらでも授けてくださいよ。

 そんな素晴らしいレヴルス様がどうしてアスカを笑わせられないの?」


レヴルス「あ? お前、何言って…」


瞬「どうしたの、返す言葉も無いかい? 虚勢張ったならそれなりのもの見せなくっちゃ。

 今さっき君が言ったじゃない、僕はセヴァースに偉そうな事言って殺されかけたって、

 あぁ、事実さ。 じゃあお手本を見せてくださいよ、それが出来ないわけないよね?

 散々あれだけ言ったんだから、あの時と状況同じだよ? 

 ここで何もしないならセヴァースが現れた時に逃げてたっていう実証だよね? 

 やたらバージンにこだわる理由も納得できるよ。

 だって僕は後の男だもの、過去にだってこだわりたいさ。

 でも君は過去から進んでいるかい? 時が止まったままじゃないかい?

 僕はアスカの全てが欲しいし知りたいさ、アスカのこと好きだもの、大好きだもの。

 アスカの彼氏になるって事はアスカの人生を負うんだよ、考えた事ありますか?

 君はフィルムーンと言う伍神聖だから辛さだってあるだろう。

 だがそれはアスカを傷つけていいという理由にはならない。

 僕は魔法が使えないから分からないけど過去は変わらないだろう。

 でもこれからの未来は変えられる、過去も今も未来もいい加減にする人間に先は無い。

 そして人の心を傷つける人間にもだ、お前にアスカを笑わせられるか?」


瞬は柔らかな表情のままにじり寄りレヴルスの首を引っつかんで黒板に叩きつける。

あまりの衝撃で黒板中にひびが入り、中心は粉々に砕ける。

レヴルスの足は浮いたままだ。


瞬「自分にはアスカしかないと今すぐ誓えますか?

 誓えるならどこだって言えるよね?

 俺は言えるし、誓える。

 俺にはアスカしかないしその為なら何だってしよう!

 君はアスカのために死ねますか? 

 聡哉にこうも言ったね、伍神聖だから貴様如きすぐに消せるって。

 やってみろよ、ん?

 今すぐ俺に向かってやって見せろよ!! 消してみろ!!

 怖くなんかねぇ!! アスカの為ならこんなちっぽけな命くらいくれてやる!!

 てめえにその覚悟があんのか!? 言ってみやがれ!!

 だがな! アスカを想うなら命を投げ出す覚悟とアスカはもちろん、

 自分の命さえ護らなきゃいけないんだ! 

 死んだらアスカが永久に心を痛めるからな!!

 考えたことあんのか!? その御大層な脳ミソでよ!? ああっ!?」


聡哉「瞬ッ! よせっ! 泡吹いてる! そいつ、死んじまうぞ!!」


瞬「言えーッ!! アスカはてめえの言うような人間なのか、どうなんだッ!?」


レヴルス「ず、ずいまぜん…、で、ま、が、ぜ…でず…。」


その言葉を聞くと瞬はレヴルスを床に落とした。


瞬「聡哉、アスカは可愛らしい女の子だってさ。」


聡哉「あ、あぁ。 そうだな。」


誰にも向かず瞬は大勢が見守る中逃げるように教室を後にした。

…そんな彼の行く場所は屋上しかなかった。

自殺したいわけじゃない。

アスカに謝りたかった、でも辛かった。

黙っておきたいことを怒りに任せてぶちまけてしまった。

聡哉には感謝したい、彼に出会わなかったらアスカが彼女になることもなかった。

心から直情を表せなかっただろう。

できるだけ人目につかないところで泣くしかなかった、理由は分からない。

悲しかった、涙が止まらなかった。

突然背中に重圧が感じられた。

息が止まるほど驚いた。


?「…やっぱここにいたんだ。」


この声は一番会いたかった人だった。

でも合わせる顔が無かった。

抱きしめられる背中の温かさは崩れそうな僕が待っていたものに違いなかった。


瞬「ごめん…。」


アスカ「何が?」


瞬「分からない、アスカを傷つけた気がするんだ。」


アスカ「ううん、そんなことない、ありがとう。 嬉しかった。

   本当に最高に嬉しかった。 本当に優しいよ、瞬は。」


瞬「もう夢中だったんだ、アスカを貶すあいつが許せなかった。」


アスカ「…確かにアイツは私の初めての相手、私の人生最大の汚点だよ。

   あいつに犯されたの。

   信じて。 他の誰が信じなくたっていい、瞬だけには信じて欲しいの。」


瞬「信じるさ、大好きなアスカだもの。」


アスカ「なら、こっち向いてよ。 お願い。」


向き直ろうとした瞬は強引に向かせようとしたアスカの力もあってか、

反転ひねった中途半端な体勢で二人は抱き合う。


瞬「…アスカに災難が続くけどさ、できる限り護るから。

 無茶しないって約束も護るから。」


アスカ「うん…。」


瞬「昨日言ったよね、今までのことはいいんだ。 全てはこれからだから。」


アスカ「うん…、うん。 ありがと、瞬。

   言っちゃえばほんとの初めては瞬が持ってっちゃったんだよ?」


瞬「え?」


アスカ「ココロ。 許したの瞬だけだもん。」


瞬「あはは、ありがとう。」


アスカ「…瞬。」


瞬「ん?」


アスカ「…大好き。」


「僕も大好きだよ。」と言いたかったのだがアスカが胸の中で息を詰まらせている。

辛かったに違いない。

いや、辛くないわけが無い。

気持ちを察して優しくアスカの頭を撫でる瞬、それに甘えて子猫のように擦り寄るアスカ。

手はお互いの背中を引き合い、お互い離さないように固く結んでいた。

少しして瞬はアスカから離れた。


アスカ「ちょっとぉ、まぁだ。」


瞬「いや、その…。」


アスカ「嫌なの?」


瞬「…後ろ、見てみ。」


アスカ「ん?」


くるりと振り返ると屋上のドアからたくさんの人が転がり込んできた。


アスカ「あら。」


瞬「出歯亀さんが多いようだね。」


その人ごみに紛れて聡哉が瞬の下に駆け寄ってきた。


聡哉「瞬ッ! ヤバいぞ! レヴルスが逆切れして暴れてるんだ!!」


アスカ「!!」


瞬「あのバカッ…!」


聡哉「それだけじゃねぇ! フィルムーンがここに攻めてきたんだ!!」


アスカ「なっ…、ほんとなの!?」


聡哉「ほんとだよ。

  あのバカヤロウ、あんな性格でもフィルムーンの幹部だ。

  どうするんだ、瞬!?」


瞬「…アスカ。」


アスカ「え?」


瞬「君はレヴルスのことが好きかい?」


アスカ「なっ、何の冗談よ!! そんなわけ無いでしょ!

   私が好きなのは瞬だけだけだよ!?」


瞬「ん、なら…。 奴を殺せるかい?」


アスカ「瞬…?」


聡哉「! 瞬てめぇまさか!」


瞬「フィルムーンを叩く。 …アスカ、一緒に戦ってくれないか?」


聡哉「馬鹿言うんじゃねぇ!!

  お前昨日サンバラシア相手に3回戦ってるんだぞ!?

  1日、2日で体力が帰ってくるもんかよ!!」


瞬「彼らは手を抜いていたよ。」


聡哉「そういう意味じゃねぇ!!

  あんな超人的速度で戦ってるお前の体の話だ!!」


瞬「…聡哉の言い分は分かるさ。

 しかしレヴルスは手に入らないと分かったアスカを殺しに来る。

 アスカ。 足手まといにならないようにする、頼む。」


アスカ「…わかった。」


聡哉「アスカ! 正気か!?」


アスカ「ただし条件があるの。」


瞬「…死ぬな、とかかな?」


アスカ「違う、もっと上の次元。

   無理だって私が判断したら、どんな手を使っても瞬を止めるよ。

   …レヴルスの彼女になってでも。」


聡哉「な!? 本末転倒じゃねぇか!!」


瞬「聡哉、違うよ。 アスカは僕に再び人生を預けてくれたんだ。

 そうしたくないならそういった戦い方をしたらいい。 …だよね?」


アスカ「分かってるね、行くよ?

   私はフィルムーンと事を交えたことが無いから未知の戦闘になるからね?」


瞬「分かってる。

 俺はアスカの剣となり盾となり、」


アスカ「私は瞬の死となり命となる。」


2人はパンッとハイタッチをする。


聡哉「校庭に来てやがる! 少ない数だが油断できないぞ!?」


桜色の戦闘衣装に身を包むフィルムーンの兵士の姿を確認する2人。

叫ぶ聡哉の横をすり抜けて瞬は屋上の鉄柵から躊躇も無く飛び降りる。


聡哉「うわーっ!」


続いてアスカが屋上を飛び降りる。


聡哉「あーっ!! ここ4階なんだぞ!?」


地面に叩きつけられそうになりそうな瞬間にアスカは魔法を発動し瞬はゆっくり着地する。


その隣に瞬と同じくらい大きな砂埃を巻き上げてアスカも着地する。


聡哉「なっ…、空を飛べるアスカは分かるぜ。

  瞬は魔法を使えねえんだろ?

  お互い何をするのか見越してたのか、アスカも瞬も!?」


レヴルス「どうあっても俺についてくる気はないのか?」


アスカ「瞬を殺せたら、考えてあげる。」


レヴルス「言ったな? その言葉忘れんなよ!?

    その邪魔なバカをぶっ殺してお前を俺のものにしてやるよアスカ!!」


アスカ「よそ見してたら怪我するわよ。」


レヴルス「あ?」


気付くと瞬の姿が無い!!


レヴルス「なっ!?」


振り返り様に瞬が背後から蹴りを一閃!!


瞬「遅い、あなたもフィルムーンの端くれならやってみせてほしいものだ。」


レヴルス「は、速い!? てめぇ!」


アスカ「よそ見は怪我につながると言ったよ!!」


レヴルス「なにっ!?」


瞬に向いていたレヴルスの背に燃え盛る炎が襲い掛かる!

間一髪でかわすレヴルス。


レヴルス「上等だ、この女!!」


レヴルスがアスカに襲い掛かる、アスカは全身の力を抜いて後ろに倒れこんだ。

予測不能の回避に空を切るレヴルスの一撃。

倒れこんだアスカを片手で受け止める瞬、

それを読んでいたアスカは構える必要も無く大きな炎をレヴルスに見舞う!!


レヴルス「ぐあああっ!! な、何なんだ!?」


支えていた片手でアスカを天高く放り上げる瞬、アスカは太陽を背に大空高く舞い上がる。

体勢を崩して背を向けた瞬にレヴルスが一撃を加える!

だが瞬もアスカのように力を抜いて転倒、レヴルスの一撃はまたも空を切る。


アスカ「太陽が姫、アスクァーシルの名の下に我請い願う。 今一度壱千度の輝きを!!

   炎の光で屠れ! シャイン・オブ・プロミネンス!!」


天から無数の炎に包まれた光のレーザーが大地めがけて降り注ぐ!!

さすがサンバラシアの姫君、あまりの威力で校庭の大地がのけぞりかえる!!


レヴルス「うおおおおおおーーーーーっ!!

    し、信じられん! 何て火力なんだっ!!

    だがっ! 空ではそんな大魔法を放てば地ほどは動けまいっ!」


離れた場所に倒れている瞬、アスカは計算してそこだけは外したのだ。

バランスを完全に失っているアスカにレヴルスは対空魔法を放つ!!

いくら瞬が速くても間に合わない!

だがレヴルスの一撃は完全にアスカをかすめてしまう。

落下するアスカを驚異的な速度で抱き止め、地に下ろす。


聡哉「なっ! 瞬から白い光が出たぞ!? あれは…テレスレイ!?」


レヴルス「あの遠距離で俺の手だけを狙うとはな…。」


聡哉「あ、あぁ…。 瞬もアスカもあの2人はバケモノだ…、信じられねえ!!

  アスカは瞬が魔法を使えるなんて知っているわけない! 

  でも何かしらの手で助けてくれると信じきって

  後ろに倒れたり空中であんな大魔法を放ったんだ!!

  あの2人はお互い別の事を考えても結果がつながってる!!

  正に一心同体! あいつらの脳は繋がってんじゃねぇのか!!?」


アスカ「魔法使えたんだ?」


瞬「今初めてだよ。」


アスカ「いい精度してるよ。」


瞬「当然、負けられないもの。」


レヴルス「てめえらっ…!! 汚ねぇぞ!」


その言葉に反応して瞬が前に出る。


瞬「じゃあかかって来たらどうだ?」


にやけるレヴルス、瞬がアスカから離れる瞬間を狙っているのは明らかだった。

他のフィルムーン兵士がアスカに回り込んだ。

しかし瞬は見向きもしないでレヴルスに襲い掛かった!


レヴルス「えっ!?」


全く予想していなかった、瞬は油断すると思っていたのだろう。

なめられたものだ。

吹き飛ぶレヴルス、吹き飛ぶ背後に回り一撃一撃、一撃。

それの繰り返し。

あまりに速かった、レヴルスは散々に打ちのめされた。

倒れるレヴルスを背後に瞬は目を獣のようにギラつかせてアスカを囲むフィルムーンに襲い掛かる。


兵士A「な、奴はバケモノか!?」


兵士B「やってられるか! 逃げろ!」


しかし瞬は許さなかった。

瞬は大きく跳躍しアスカの魔法で吹き飛ぶフィルムーンの兵士。

間髪いれずに天空から兵士めがけて攻撃を加え続け、あっという間に片をつけてしまう。


瞬「どうやら終わったようだね。」


アスカ「…瞬、貴方…限界超えてるんじゃないの?」


瞬「そう見える? そーんなにレヴルスの彼女になりたいんだ?」


アスカ「バカ、そうじゃなくて…。」


レヴルス「ク、ククク、引っかかったぁ!!」

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