第十零章 悩まざるべき決断 ~太陽神の姫君~
昼を過ぎたくらいだった。
昼御飯を食べながら瞬と聡哉が思い出話に花を咲かせていると、学校が何やら騒がしくなった。
瞬「…、ん? ゴブリンか何かかな?」
聡哉「…、いや、違う。 人間みてぇだな。 こりゃまた随分ハデな衣裳だな。
あれは一度どっかで見たことあったような…? …おっ、思い出した!!
…オイ瞬! ド偉いもんがおいでなすったみたいだぜ!!」
瞬「あの何人かで来てる人達の事?」
聡哉「おうよ! ありゃあ確か”伍神聖”の一族だ。」
瞬「ごしんせい?」
聡哉「戦闘のエキスパートって言ったら分かっかな?
しかもその中でも最高の能力を持つ血筋、サラブレッドみたいなものだな。
一部の精鋭部隊のみで構成される一族が”アレ”だ。
色々あって今は伍の流派、国に落ち着いてるってぇ話だがな。」
瞬「エキスパートが伍国もあるの!?」
聡哉「ここは力さえあったら何でもありだからな。
俺ら地球人にしては古臭ぇ血のための政略結婚なんてのもやってるらしい。」
瞬「どんな人達なんだろう?」
聡哉「出たよ、瞬の旺盛な好奇心。 関わらない方が賢明な選択ってやつだよ。
まぁ、あのナリじゃ”バーュナス家”じゃないからちょびっとは安心だろうが…。」
瞬「ばーゅなすけ? …聡哉、知ってるの?」
聡哉「あぁ、数年も居ずしたって嫌でも耳に入るほど有名さ。
俺は自分の事で手一杯で興味なかったから大したことは知らねぇんだが、
”家”ってな”一族”って意味だ。
まず、星と闇の加護を受けし”ロライスター家”。
水や風を司る”スノウリュー家”。
大地と月の象徴”フィルムーン家”。
光と炎を象る”サンバラシア家”。
んでさっき言った”バーュナス家”、神に選ばれし”神徒”だったな。
これが一番ヤベェ、目的のためには手段ってのを選ばねぇ、残忍で冷酷だ。
これらは気づいてるかも知れねえが名字みてぇなもんだ。
バーュナスの筆頭は確か”リィエン・バーュナス”って奴だったな。
直接見たことはねぇが、かなり酷い性格してるらしくて印象深かったな。
伍神聖同士はすんごい仲が悪いって噂だ。
ま、それだけしか覚えちゃいないんだけどよ。」
瞬「神に選ばれた割には手段を選ばないとか、えげつないね…。」
聡哉「言えてる、…そいで今ここにおいでなすったのは最近落ち目の”サンバラシア家”だな。
見た感じ、雰囲気でわかるだろ? 暖色の戦闘衣装なんだ。
本物は初めて見たが…、嫌な気だ。 全く隙が無い。
にしてもこんなとこに一体何の用なんだろうな?
それどころじゃ無いとか噂で聞いてるんだがな…。」
瞬「ほへー…。」
数人で学校に入って行く人達は聡哉の言うように光と炎を象る様なオレンジを基調とした
戦闘効率のよさそうな格好をしている。
僕には兵の覇気とかいうものは全く分からなかった。
分かってせいぜい背筋がピンとしていて、堂々と歩いてる、くらいだった。
でも聡哉が言うなら隙が無いと言うのなら只者では無いはずだ。
瞬「…、聡哉。 僕ちょっと見てくる!」
聡哉「お、おいっ! …あーぁ、行っちまったか。
全く、あいつのいっつも余計なことに首突っ込みたがるトコはさっぱり変わってねぇな。
ま、そこがあいつのイイトコなんだけっどよ。 さて、と。」
大慌てで瞬がサンバラシア家と言われる者達を追って行くと彼らは職員室に入っていった。
野次馬は多数いて、ただ事ではない印象を受ける。
瞬「…。 (一体どうしたんだろう? あの人達表情が険しかった気がする…。
この騒ぎようじゃ何か重大なことがあるようにしか感じられない。)」
職員室では何やら言い争っているようだ。
瞬「何て言ってるのかなぁ?」
人ごみを分け入って聞き耳を欹ててみると…。
瞬「-----ッ!!? 何て事をッ…!!」
アスカ「あっ、瞬だっ! おーいっ!」
瞬「----ッ!」
何人かの女友達の中から呼びかけるアスカに気づいた瞬間だった。
瞬はアスカの手を引いて攫う様に強引に連れ去って行く!
アスカ「ちょっ、瞬ッ!? どうしたのッ!? 離してよ!!」
だが遅かった。
少し広いホールに出たところでサンバラシア家の1人に立ち塞がれた。
?「少年、…何のつもりだ。」
その人は年配のお爺さんだった、優しい雰囲気とは裏腹にとんでもない恐怖を感じる。
体の細胞全てがここを引けと言わんばかりに鳥肌立つ。
聡哉「あの馬鹿! サンバラシアに喧嘩売ったってのか!?」
瞬を追ってきた聡哉もホールに駆けつけてきた。
?「…少年、我が名はセヴァース・サンバラシア。
太陽神を象りしサンバラシア家の一老兵である。
大方さっきの話を聞いたのだろうだが、勇気は買おう。
…だがあまりに愚かしい。
悪いことは言わぬ、そのそばにおられる御方をこちらに引き渡していただこう。」
瞬「…納得いく説明が欲しい、アスカを連れて行く理由を!」
2人の会話に辺り一帯がどよめく、アスカは瞬と手を繋いだまま俯いている。
セヴァース「…ふっ、お主はその御方の何なのかは存ぜぬが…、
たまには昔話も悪くは無いな、いいだろう。」
聡哉「サンバラシア家がこんなとこにいていいのかよ?
アスカを攫ってる場合じゃないって俺は聞いてるがね?」
セヴァース「攫う? 違うな、確かに我らは非常事態に苛まれている。
我らが頭領、クォーラシアセル・サンバラシアの次女にして姫君であられる
”アスクァーシル様”が行方不明になったという事態がな。
…だがそれもこの瞬間に終わる。
偽名を使われても血からは逃れられませぬぞ?
太陽神”サンバラシルス”の祝福を受け、”アスクァーシル・サンバラシア姫”として!
次期頭領として! 我らを束ねていただかねばなりませぬ、陽河 アスカ殿!!」
どよめきは一気に搔き消された!! ”アスカが伍神聖一国の姫”であるという現実!!
聡哉「マ、マジかよ!? 瞬! 本当ならお前のやってることはとんだ見当違いだぞ!?」
セヴァース「分かっていただけましたかな?
さぁ、姫様をお渡しくだされ。
我らサンバラシアとて無益な殺生は好みはせぬ。
お主も何故そこまで姫様に拘られるのか理解に苦しむが、
姫様をその手から放せば今まで通りの生活が待っている。
何ら不利益があるとは思えませんがな?」
老兵は年齢による衰えを感じさせない強烈な威圧を瞬にかける。
瞬「で、でもっ…!!」
アスカ「もういいよ、ありがと瞬。」
2人の会話に終止符を打つべく会話を切り出したのは話の中心人物、アスカだった。
瞬「アスカ…。」
アスカ「こんなに早く見つかっちゃうなんて思わなかったけど。」
セヴァース「何をおっしゃられますか! 6年も行方を眩まされておられたのですぞ!?
アスクァーシル様を失った我々は統率を欠いております。」
瞬「アスカ…、やっぱり本当なのか…?」
アスカ「えへへ、ごめんね。
騙す気持ちはこれっぽっちも無かったんだけどさ、どうしても言いたくなかったんだ。
伍神聖一国のお姫様なんて知られたらみんなの反応が変わるの怖くてさ。」
生徒A「アスカちゃんがサンバラシアの姫だって!?」
生徒B「そんな、信じられない!」
生徒C「最近落ち目のサンバラシアのアスカちゃんを使った人気取りって事かよ!?」
聡哉「て、てめぇらっ…!!」
アスカの正体に周囲の生徒達から酷い陰口が飛び交う。
セヴァース「確かにこの伍神聖をやってれば、少々手段を選ばぬことはあるが、
何とでも言うがいいわ。 さあ参りましょう、アスクァーシル様。」
アスカ「--ん。」
瞬の手をすり抜けてセヴァースの下に向かうアスカ。
聡哉「…。 (しゃあねぇよな。
サンバラシア家は一番穏健とはいえ、他の伍神聖に引けをとらねぇ。
相手にするには比喩し難いほどの実力差がある。)」
”悩まざるべき決断。”
瞬「---くな…。」
聡哉「!」
瞬「行くな!! アスカッ!!」
行きかかったアスカの手を掴み瞬は自分の下に引き戻す!!
アスカ「ちょっ…、瞬!?」
セヴァース「…何のおつもりかな? 小僧…。」
瞬「僕はまだアスカの気持ちを聞いていない。」
セヴァース「ぬかせ!! 聞くまでも無いわっ!!」
瞬「お前には聞いてねぇっ!!」
セヴァース「ぬっ…!! (こ、こやつっ…!!)」
あまりの瞬の威圧感に老兵が一瞬、引いた。
聡哉「…へっ、あのやろう…っ!」
にやける聡哉を背に、瞬はセヴァースを睨みつけながらアスカに向き直らずに静かに尋ねる。
瞬「…、アスカ。 一度だけ聞くよ? ”君は”どうしたい?」
アスカ「私が魔法を教わった”じい”には勝ち目はないよ。
…それにまず第一こうなった以上、ここには居られないよ。」
瞬「例え君が伍神聖、サンバラシアの姫であっても”アスカであることは変わりはない。”
それに俺は、今の状況じゃなくて”君の意思”を聞いている。 …もう一度だけ聞く。
”君は、君がどうしたい?”
”陽河 アスカとアスクァーシル・サンバラシアのどちらになりたい?”」
アスカ「…私は…。 私はっ…。 私はここにいたいっ!! 私は陽河 アスカでいたいよっ!!」
セヴァース「姫様ッ!?」
瞬「…答えは出ました。 セヴァース・サンバラシア、お引取り願います。」
セヴァース「…ククク。 ハーッハッハッハ!! 血迷ったか!?
我は太陽神のを象りしサンバラシアぞ!? 帰れといわれて帰ると思うてか!?」
瞬「そんな事、こちらは知らないですよ。
これは貴方達姫君の意思です、関係が無いと解して戴く他ない。」
セヴァース「…どうやら姫様はこの脆弱な魔力を持つ男に誑かされたらしいな。
我等サンバラシアに楯突いたことを死をもって後悔させてくれる!!」
その言葉に反応して聡哉も瞬の傍に駆け込んできた。
聡哉「言うじゃねぇか瞬! やっぱお前幼稚園の時と変わってねぇよ!」
瞬「さぁ、どうだろう?
ねぇ聡哉、…僕一人でやらせてくれないかな? 立場はその時の僕だと思うからさ。」
アスカ「ちょっ…、何考えてるのよ! じいは滅茶苦茶に強いのよ!?
私と聡哉の三人合わせてだって勝てないのは目に見えてるのに!!」
聡哉「ケケケ、やっぱそう言う思ったぜ。
だがな、今回は俺も訳あって引けねぇのよ。
共闘させてもらうぜ!」
アスカ「へっ!?」
聡哉「さ、アスカ。 お前が望んだ人間になる時間だぜ。」
アスカ「ちょっ、ちょっと…!!」
瞬「…ありがとう、聡哉。」
セヴァース「3人で来たとして無意味なことを…。
亡骸が増えるだけにすぎぬ。」
瞬「ま、そうだろうな。 俺が万一勝ったらアスカは諦めてもらうよ。」
セヴァース「地球人如きが我らに勝てるとも思えんが、まぁいいだろう。
お主が敗れれば姫様を返していただく。
…まぁ、その時は死んでおるだろうがな。」
瞬「決まりだね。」
アスカ「ねぇ聡哉、瞬に何か秘策でもあるの?」
聡哉「あん? 無いだろそんなもんは。」
アスカ「じゃ何で瞬は闘いを挑んだのよ!?
幼馴染みの聡哉なら分かるでしょう!?」
聡哉「ぜーんぜん、こればっかはサッパリ。」
アスカ「このままじゃ瞬も貴方も死んじゃうのよ!?」
聡哉「簡単には殺らせねぇさ。」
アスカ「何で!? 私に何をさせる気なの!? 相手は私の師匠なのよ!?」
聡哉「頼むから3人でやらせてくれ。 アイツが望んでることだ。」
アスカ「どうしてよ…、あなた瞬の親友なんでしょ!?」
聡哉「だからだよ。」
こうして遂に3人とセヴァースとのあまり無謀で先の見えた戦いが始まったのであった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます