第六章  光と闇と… ~戦ヒ争フ~

兵士「…報告致します。

  キングを率いたゴブリン隊300余りの事で御座いますが、

  如月 瞬と思われる人間1人に壊滅させられた模様です。」


?「…!? …あら、想像以上の実力じゃない。 もういいわ、下がって。」


兵士「ハッ! 失礼しました!!」


?「…キングが手こずったのではないでしょうか、レヴィジャス総帥。」


レヴィジャス「…仮にそうだとしてよ?

      一小隊300を如月一人では倒せないでしょう? サーラ…。」


サーラ「…。 確かに。 …総帥、聞いたところ、如月 瞬は地球人でしたね?」


レヴィジャス「えぇ、貴女とは違うけどね。

      何としても彼を我々魔族の一員としないと…。」


サーラ「…”E2”を遣わせましょう。」


レヴィジャス「…いや、彼らを使うにはまだ早いわ。」


サーラ「進捗は順調そのものですが…。」


レヴィジャス「そうなの?

     …さて、どうしたものかしら。

     しばらく様子を見るのも一手かな。」


サーラ「総帥!

   そんなぬるいことをおっしゃっていては彼はあちらについてしまいます!!」


レヴィジャス「…私が何の考えも無しに言っていると思う? サーラ…。」


サーラ「い、いえ、そのような事は…。」


レヴィジャス「ククク、まぁ、いいわ。

      ところでサーラ、”そのE2”の開発はどうなっているの?」


サーラ「もう実用化に入ります。

   3体マインドコントロールが完了し、完成しております。」


レヴィジャス「あら、思った以上に早かったわね…。」


サーラ「その3体を地球人の町に向かわせたく思います。

   テストが必要かと。」


レヴィジャス「そう?

      それと、如月についてだけど、監視がついているでしょう? 

      行動命令を出して。

      彼の素性をつかみ、魔族に引き込む下準備を始めましょう。」


サーラ「なるほど、流石ですね。

   …ところで、

   最近天球転送ポッドで逃亡したあの男の処分は如何致しましょう?」


レヴィジャス「あぁ、”秋元譲あきもとゆずる”のこと?」


サーラ「申し訳ありません。」


レヴィジャス「貴女のせいではないでしょう?」


サーラ「しかし、私の監督不行き届きの結果です。」


レヴィジャス「何もかもが上手く行ってはつまらないわ。

      そう責任を感じるないで、貴女はよく働いてくれているわ。」


サーラ「!! …そんな、勿体無いお言葉です。」


レヴィジャス「うふふ…。」



……--------。

先生「…アスカ君、どこに行くんですか?」


アスカ「ん? 瞬のお見舞いだよ~。」


先生「あぁ、そうですか、ではお願いします。 私は瞬君の記録を見たいので。」


アスカ「はーい、まっかせといて!」


アスカは瞬の眠る保健室に向かった。 

瞬は何事も無かったようにすうすうと寝息を立てていた。


アスカ「…。

    (何であんな力が、それもどこから出たのかなぁ?

    分からないことだらけ。

    何か分かるといいけど…、

    それよりも何よりも瞬が無事なのが一番だよね…。)」


瞬「う…ん。」


アスカ「ん? 起きるかな?」


瞬「ん…、ー…、ーすー…っ、ーすーーーっ…。」


アスカ「-----。 …大丈夫そう、よかった。」



……---------。

瞬「…ん? ここは、どこだ…?」


夜だった、どうやら眠っていたらしい。


瞬「??

 (あれからどうなったんだ?

 あの女の子が斬られて…、そこから何も覚えてない…。

 僕はまた結局何も出来なかった…。)」


ふらりとベッドから起き上がると見慣れた窓から空を仰いだ。

…月だ、天球からは月も地球も見える。 夜の闇に彩られて月は蒼く輝いていた。

窓を開けると頬をさっと涼しい夜風が通り抜ける。


瞬「…!? (まさか、ここは学校!?)」


どうりで見慣れていたわけだ! ここは瞬の学校だ!!


瞬「(何で僕はここにいるんだ?

 いくら記憶が無いとはいえ学校には来ないはず…。)」


少し考えただけでいくらでも沸き起こりそうな疑問をあえて抑え、

瞬は部屋の外に出た。


瞬「(…、やっぱり学校だ。

 アスカを…、殺しちゃったんだよな、僕…。)」


奥のほうに明かりがついている、誰かいるのだろうか?


?「しかし!」


?「だが現実にあの小さい女の子は助かっているんだろう?

 これは決定事項だ。」


?「でもそんなの勝手よ!」


女の子が助かった…?

まさかあの子じゃあないよな?

教室に入ってみようかな。

何やら揉めてるようだし、

と思いながら瞬がそっとそこに入ると皆が驚いて瞬に向き直った。


瞬「!? あれっ!? 陽河さん、無事だったの!?」


アスカ「へっ…。」


先生「(アスカ君を見ていた筈…、まさか瞬君にはあの時の記憶が無いのか…?) 

  …瞬君。 もう大丈夫なのですか?」


瞬「…え? 何がですか?」


先生「! (…やはりっ!!)」


アスカ「え? 何がってそれは…」


先生「!! アスカ君!」


アスカ「ん? 何?」


?「どうあれ決まった事だ、いいな!」


そう言いながら立ち去ったあの人は見たことがある。 …校長だ。


瞬「?? 先生、どうしたんですか?」


今ひとつ理解できずよく分からない瞬は校長を見送るように後ろを向く瞬。

校長が部屋を出ると先生に向き直って質問をしてみたものの…、


先生「う…む。」


先生は瞬が天球に来たときのようにはすんなり答えてくれず、

先生らしからぬ、即答を渋った。


瞬「どうしたんですか?

 こんな夜の時間に集まるほどの事態なんですか?」


先生「…瞬君、少し外してもらえないですか?」


瞬「…はぁ。 分かりました。」


瞬が部屋の外に出ると中で何やら話し合いを始めたようだ。

…よくは聞こえない。


先生「…どうやら瞬君には記憶が無いようですね。」


アスカ「なら尚更校長先生の決定はあんまりでしょう!?」


先生「瞬君にはうまく言います。

  それより…、瞬君には彼自身の力については黙っていましょう。」


アスカ「何でよ!? あんなに凄い力があるのに!?」


先生「…細かくは言えませんが、瞬君は優しい子だ。

  もし…、彼が一瞬でゴブリンを200以上を”殺した”ともなれば彼はショックを受けかねない。

  彼を”ただの力”として見るつもりはありませんが…、

  彼の反応次第では最悪の場合、彼の素晴らしい力は霧に埋もれてしまう。

  安心してください、私が何とかしますよ。

  これでも先生ですからね。」


アスカ「…、そうっかあ。 でもさ、あの女の子が瞬を覚えてたら?」


先生「有り得なくは無いですが、その時素直に話しましょう、今では早すぎる。」


生徒A「先生、瞬は僕達を許してくれるでしょうか?」


先生「大丈夫ですよ。」


生徒B「でもアスカちゃんを殺したって…!」


アスカ「! なぁ~にぃ~? あなた達瞬にそんな事言ったの!?」


生徒A「ごっ、ごめんよ!!」


アスカ「あれは私がとっさに庇ったってーのに、もう。」


先生「…では、瞬を呼びますよ。 皆話を合わせてくださいね。」


先生は念を押すと瞬に部屋に入るように促した。


瞬「…えーっと、で、校長の言っていた決定事項って何ですか?」


アスカ「! (うわぁー、いきなり核心を捕らえる発言…。)」


先生「ふむ、今から1ヵ月後にバトルクルーバーと言う武闘大会があります。

  実は校長命令で瞬にその大会に出て貰いたいのです。」


瞬「はっ…、えぇーっ!? 魔法も使えないのに何でですか!?」


先生「ま、いい経験になると思います。

  どうしても嫌であれば校長に拒否させますよ。」


優しく笑いながら瞬に話しかける先生。


瞬「うーん。 一回出てみようかなぁ…、どうしようかなぁ…。」


アスカ「出るか出ないかハッキリしなさいよ!」


瞬「それよりも陽河さん、無事でよかったよ。 でも一体どうやって?」


アスカ「だから”アスカ”でいいったらぁ。

   まぁ先生と瞬には悪かったけどワープしたのよ。

   死んだように見せかけるつもりだったんだけど、

   これが見事に当たっちゃってさぁ。」


バツが悪そうに笑うアスカに加えて先生が口を挟んだ。


先生「アスカ君の判断は正しかった、瞬君、アスカ君を責めないで欲しい。」


瞬「そんな馬鹿な! 僕は弱いんですから。」


俯きながら照れ笑いをしている瞬。


瞬「あの陽河さ…、


アスカ「アスカでいいっての!」


瞬「あ、ごめん。 アスカ…さんは大丈夫だったの?」


アスカ「何でそこで”さん”がつくのよ~。」


瞬「い、いやその、照れるからさ…。」


アスカ「はっ? 何で?」


瞬「な、何でって…、何て言ったらいいか…。」


アスカ「瞬が言わないなら私はなぁんにも答えないっ。」


小悪魔みたいに笑って初めて出会った時みたいに瞬をからかうアスカはやっぱり可愛らしかった。


瞬「う…。

 だ、だって女の子とあんまり話したこと無いから何て接したらいいか分からなくて…。」


アスカ「! そぉなんだぁ、いいよ、呼び捨てにして。 っていうかそうしてよ。」


瞬「分かったよ。」


アスカ「はい、じゃあもう一回聞いてっ!」


瞬「え?」


アスカ「え、じゃなーっい!

   ほら、言ってみ?

   アスカちゃ~んって。」


さらに悪戯っぽさに拍車をかける小悪魔的なアスカの笑み。


瞬「いっ!? え、えーと、アスカはあの爆発で大丈夫だったの?」


アスカ「クククッ、まぁちょっと前まで怪我こそしてたんだけど

   簡単には死なないわよ~。」


瞬「そ、そっかぁ。」


生徒A「あ、あのさ。 瞬…、その、ごめんな。」


瞬「ん? 何が?」


アスカ「何か瞬が手引きをして私を殺したなんて吹聴してたそうじゃない。

   それの事よ。」


瞬「あぁ。

 アスカが無事だったからもういいよそんな事はさ。

 逃げた僕にだって非はあるし。」


照れ笑いをしながら瞬は答える。


自身が情けなくて仕方がなかった瞬。

だが、その姿から彼の優しさを感じられないものはこの場において誰一人としていなかった。


アスカ「…ふぅ ん。」


先生「さて、もう夜も遅くなってきていますからこの辺で解散しましょう。」


先生のその一言で全員が解散となった。 


先生「瞬君、よかったらまた私の家に来てください。」


瞬「えっ!? いいんですか!?」


先生「大したもてなしはできませんが。」


瞬「あ、ありがとうございますっ!」


そんなこんなで先生と先生の家まで二人でのんびり家路につく。


先生「でも最近までどうやって生活していたんですか?」


瞬「木の実とか拾って適当に生活してました。」


また照れ笑いする瞬。


先生「よく無事でいてくれましたよ。

  あ、そうそう。 瞬君に一つお知らせです。

  校長先生が言っていた事なんですが、瞬君のクラスアップが決定しました。」


瞬「へ、どうしてですか?」


先生「…瞬君、これを。」


そう言って先生が差し出したのは瞬へと宛てられた一通の透明で蒼い綺麗な封筒だった。


くるりと裏を返すと”HEIGA 極秘戦闘研究組織 Liriga Roude”と書かれていた。


瞬「…、極秘戦闘研究組織?」


先生は神妙な面持ちで瞬に語り始めた。


先生「…Liriga Roude。

  リリガ・ルードと呼ばれていますが、

これは活動内容、目的が一切明かされる事の無い

  天球下生粋の極秘戦闘組織です。

  そもそもHEIGAとは略称で、

  正しくはHeveness Earth Inperial Garder Armysと言って

  それぞれの語句の頭文字を取って”HEIGA・ヘイガ”と呼ばれています。

  瞬君も耳にしたことはあると思いますが、

  いわゆる”天球防衛軍”からの手紙です。」


瞬「! そんなに大きな組織が何で僕に?」


先生「…、瞬君には以前私から凄い力があるのだと話したことがあったのは覚えていますか?」


瞬「はい。」


先生「…、多分色々腑に落ちない点があると思います。 よければお話しましょう。」


瞬「…、たくさんありますが聞いてもいいですか?」


先生「どうぞ。」


瞬「…アスカは少し前まで怪我を負っていたと言っていましたよね?」


先生「えぇ。」


瞬「最近またキングの率いたゴブリン軍団が学校に来ていたのは知っています。

  アスカはやっぱりいなかった、

  あの女の子が囲まれたとき先生たちは懸命に応戦してらした。

  でもあのゴブリン達が取り囲んでいた輪の中心までは10メートル以上もあった。

  でも残念な事に女の子は斬られた、そこまでは覚えています。

  …でも校長先生は”あの小さい女の子は助かっている”って言ってらした。

  噂ではそのゴブリン軍団はキングもろとも壊滅したって…、

  天球防衛軍が一介の力を持ってたにしたって出動には時間はかかります。

  先生には失礼な事を言ってしまい申し訳ないですが、

  僕は学校から少し離れていたところの大きな木の上から隠れて見ていたのですが…、

  女の子が助かる理由が無い、というより有り得ない気がするんです。

  あの瞬間に一体何があったんです?」  


先生「!? 大きな木の上から!? まさか…、あの木ですか!?」


冷静な先生の表情が一転して振り返って大きく緑に茂る木を指差して言う。


瞬が頷くと先生と瞬は学校から少し離れた大きな木と円の中心までの距離を見てみた。

…が、あの先生が驚くのも無理は無い、40メートル以上はゆうに離れていたのだから。


瞬「それに学校でさっき話をしてた時みんな何か態度がよそよそしかった。

 力の無い僕にバトルクルーバーでしたか? 

 校長先生が出ろ、何て。 それにクラスアップ。

 まだおかしい点があります、恥ずかしながら僕は学校から逃げたんです。

 なのに気づいたら、目を覚ましたら学校にいた…、これは明らかに変ですよ!

 おまけに天球防衛軍の極秘組織から僕宛の手紙…。

 皆、何か僕に隠し事をしていませんか?」


先生「…、隠すつもりはありません。

  瞬君が望むのなら全て答えましょう。 …”覚悟があるのなら。”」


瞬「か…、くご…?」


先生は黙ってうなずき足を止めた、瞬もまた足を止めて大きな木を向うに先生と向き合う。

風がザァッと大きな木の木の葉を揺らして瞬と先生とを裂くようにして通り抜けて行く。

瞬は少しして黙ってひとつ頷いた。

暗闇の中で頷き何てそうそう気がつかない、…でも先生は気がついた。

それほど二人は緊張していたし、空気も張り詰めていた。


先生「分かりました、単刀直入に言います。

  キングと共にゴブリン軍団を壊滅させたのは、瞬君、君だ。」


瞬「----え?」


先生「君がほぼ…、いやもうこれは一人でやってしまったと言っていい。

  瞬君が女の子が斬られたと言っていたその瞬間に君は現れた。

  あのゴブリン軍団の輪の中心に。

  女の子は軽傷だった、命に全く別状、支障共に無い。

  キングは一撃で、

  そして君はものの10分足らずでゴブリン軍団を壊滅させたのです。」


瞬「-----えっ? 先生? 何を言ってるのか分かりませんが…。」


先生「あのゴブリン軍団は前から手を焼いていました。

  ですから何か打開策を、と戦闘の記録を録っていました。

  今回の戦闘も記録してあります。

  …、見てみますか?」


瞬「-----はい。」


論より証拠だ、見てみたら全てが分かる。

先生と瞬は来た方向を変えて学校に戻り、そして視聴覚室に入った。

戦闘のビデオ記録があるらしいのだ。


先生「いいですか?」


瞬がうなずくと先生は記録をスクリーンに映し出した。

始めは先生たちの応戦が映し出されていた。

遠くで全く聞こえなかった会話が聞こえる。

キングは僕を探しているようだった。

僕を魔族に入れたいのか? この戦いに終止符を打つ力? 分からない。

2、3問答をした後、僕がいないことを知って引き上げた。

その途中に女の子がいてゴブリンが取り囲み、先生達は救出のために応戦を始めた。

でもその応戦も空しく女の子が斬られた。

嫌味のようにゴブリン達はその瞬間にわざわざ道を空けて先生たちに見えるようにしたのだ。

そう、ここまでは見たから知ってる。 …ここからだった。

女の子を斬ったはずのゴブリンが突然持ち上がった、持っているのは…、僕だ。

一瞬黒いノイズが入り込んだかと思った瞬間だった。

それからの光景はあまりに残酷で見るに耐えないものだった。

でも、僕は見た。 今まで逃げていた自分を切り捨てるために。

今の僕を”光”に例えるなら、記憶の無い”闇”であろう自分という真実に向き合うために。

でも正直ショックだった、数じゃない、”僕が他の生命を殺した”と言う現実。

眼が両方とも不気味に紅く光っているのも無言なのも怖かった、とんでもない速度で殺していく。

使える手足頭、体何でも振り回して当たった先からゴブリンは弾ける、落とした水風船みたいに。

でも何かゆっくりだった、時間の経過が鈍って感じる。

10メートルも跳躍して全く死角の斬撃をかわし手の甲でゴブリンを撫でたら頭部が無くなった。

散々殺した光景を目の当たりにして遂に最後に残って歩み寄ったキング。

有無も言わさず上半身と下半身は分かれ、気づくように倒れる下半身。

最悪だった、皆を傷つけるかもしれないかと思うと殺人鬼の様な自分を殺したくなった。

だけどもう逃げない、絶対逃げない、もう二度と!!

イジメというから現実のあった地球から逃げてここに来た、ここでさえ逃げたら僕はダメになる。

僕はただ黙って泣いた、ボロボロに泣いた、泣きまくった。

色んな感情が一度に押し寄せた、津波のように込みあがるあって無いような感情。

その感情が大きすぎて天地が逆さまになった感じがした。

スクリーンの僕が女の子に迫る、何をするんだ! もうやめてくれ!!

…ところがそんな瞬の考えを一掃する事が目の前に起こった。

スクリーンの僕は横たわっていた女の子をそっと抱きかかえたのだ。

そして先生とアスカの下に歩み寄って女の子を先生に預けると力なく崩れ落ちた。

…記録はここで終わっていた。

先生と瞬はしばらく沈黙していたが、涙をぬぐいながら切り出したのは瞬だった。


瞬「…、先生は僕のこの力を知ってらしたんですか?」


先生「えぇ、瞬君にとって初めてゴブリンが学校に来た日のことですが、

  あなたはほんとに一瞬でしたがこの力の前触れであろう魔力を発揮しています。

  ですが、おそらく記憶に無かったのではないでしょうか?」


瞬「はい…。」


先生「だから私は瞬君に凄い力があるのですよ、と言ったんです。

  でも君は学校を去った、記憶があるなら君は他の生徒に対抗していたかもしれない。

  だがそれを君に伝えていいものか見極めようと思っていたら、この記録の通りです。

  悩みました、君に話してショックを受けないか怖かった。

  失礼だとは思いましたが、瞬君の事を調べさせてもらいました。

  君は私の知りうる限りではとても優しい子だ、だから、だからっ…!」


涙を流す先生を見て瞬は薄く笑って答えた。


瞬「ありがとうございます、先生。」


先生「…え?」


瞬「気遣ってくださったんですね、ありがとうございます。

 正直言うとショックでした。

 でも僕は現実に向き合いたい、もう負けたくないんです。

 だから戦います、僕には記憶がないので全然そんな感覚は無いですけれど。

 それでも。

 偶然かもしれない、でも少なくとも記憶の無い時の僕は女の子や皆を助けた。

 天球は想いが力になるのだと聞きました。

 でも、僕には女の子が斬られたところから記憶が無いんです。

 きっと、この力は神様がくださったものなのかも知れない。

 争うんじゃない、護るために戦いたい。

 それが死んだ地球の僕への償いになると思います。」


先生「…君は強いですね。」


瞬「そんなことはありません。

 怖くて仕方ないですし僕は自分を変えたい一心です。

 空元気ですよ、情けないです。」


先生「空元気でも出るだけマシですよ。

  瞬君の気持ちを分かることは困難かもしれませんが、

  君が望むのなら私は最大限サポートしたい。

  …その手紙もまたそうなんですよ。」


思い出したように瞬は握り締めていたHEIGAの封筒を見つめる。


先生「さ、家に帰りましょうか。」


瞬「はいっ!!」


瞬はひときわいい返事をすると先生と瞬は家路についた。

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