第五章 命の灯火 ~キエナイデ~
それは時が止まった様にさえ感じられた、自分全てが破壊されていく瞬間。
数あるゴブリンの中で一匹だけ背が高い奴なんていなかった、でも、存在していた。
あるはずの無い存在、でも、存在していた。
…彼もまた。
誰にだって恐怖を感じられずにはいられなかった。
誰にだって無力感を感じられずにはいられなかった。
誰にだって死を感じられずにはいられなかった。
…こんな状況下では!!!
少女を囲むゴブリン達の円の中には誰も入ることはできなかった、先生であっても。
力なく首をうなだれるゴブリンは背は他と同じだった。
でも少女しかいないはずの円の中に人間がいた。
その人こそ如月 瞬だった!!
…そう、ゴブリンの背が高いかに見えたのは首を片手に全身を持ち上げられていた事に他ならない!
キング「なッ…!! 馬鹿な!!?」
グシュッ。 …ドサ。
首を握りつぶされたゴブリンは頭部と胴体を裂斬して青い血を吹きながら地面に転がり落ちた。
ギギッ!?
ゴブリン達は尋常ではない事態にたじろいでしまう。
キング「…な、何でここに、、どこから来やがったんだ…、上から来たとでも言うのか!?」
下を向いてうなだれていた瞬は半分顔を上げる。
双眼からは不気味に紅い光がこぼれていた。
それを見た瞬間、さっきのゴブリンのように頭部と胴体を裂斬されてしまうのだ!!
瞬は無言で次々とゴブリンの兵隊を瞬殺していく!!
次第に少女と瞬を囲む円は大きくなっていった、…それはゴブリンがだじろいだからではない。
円の大きさに比例してゴブリンの死体の円が大きくなっているのだ!!
ゴブリンの一匹が瞬に斬りかかった、間違いなく死角だった、真後ろ、見えてはいないはず。
瞬は大きく跳躍した、人外の領域だった。 10メートルは飛んでいた。
空を切るゴブリンの斬撃、ふわりと瞬はゴブリンの後ろに回る、慌ててゴブリンは後ろを向いた。
ゴブリンにしてはいい勘と、判断力だった。
…だが相手があまりに悪すぎた。
瞬が手の甲でゴブリンの頬をパチンとはたいたと思ったら、
ゴブリンの頭は形容しがたい鈍い音を立ててザクロの様にはじけた。
100匹…、いや、もっといたはずだ。
それはゆっくりとした時間に感じられた。
しかし、わずか10分足らずでゴブリン隊はキングを残すのみとなった。
…秒間3~4匹以上を殺していたことになる。
キング「…、驚いた。 こいつは想像以上だ…。」
キングは瞬に近づいた。
キング「どうだ? 魔族に来ないか? いい思いができ…。」
グシュッ。
キング「…!!! 」
キングの腹部に瞬の右腕が深々と突き刺さっている。
ゾンッ、 ドタッ。
キングは上半身を裂斬されて地面に落ちた、…後から思い出したように下半身も倒れた。
キング「な、…何故だ! お前を追い出した奴らに肩入れするのか…!?」
崩れ落ちたキングを背に瞬は女の子をそっと抱きかかえた。
キング「…、そ、そうか。 そういうっ、事だったのか…! 迂闊だったっ…!」
そう言うとキングは断末魔の叫びを上げて絶命した。
?「ちょっ…! 何なのよこの惨状は!?」
先生「…ッ! ア、アスカ君!! 生きていたんですか!?」
我に返ったように先生はアスカに向き直って言う。
驚くことばかりだ。
アスカ「誰が死んだのよ、誰が! …まぁ、ちょっと前まで怪我で静養はしてたけどさ。
それより! これ、何よ!?」
先生「…。」
アスカ「…まさか、瞬一人で…!?」
黙って先生は頷いた、反論する生徒は誰もいない。
死んだと思われた彼女の帰還より半端ではないインパクトがあったのは言うまでも無い。
アスカ「嘘!! キングは!?」
先生「瞬君の傍にいますよ、…一撃でした。」
アスカ「------ッ!!!」
ゆっくりと瞬は先生とアスカの下に近づいてきた。
さすがに恐怖を覚えたが二人は身構えなかった。
瞬はただ黙って女の子を先生に差し出した。
先生「…、しかしこの子は…ッ …!?」
息をしている、生きているのだ! 多少いたぶられた傷こそあるものの命に別状は無かった。
あの血飛沫はゴブリンのものだったのだ。
…どうやら”その”瞬間に助けたらしい。
少女はその瞬間、恐怖のあまり気絶した、というわけだ。
先生に少女を手渡すと双眼の紅い光は消えて瞬は力を失ったように倒れた。
そんな青い血まみれの瞬をアスカは抱き止めた。
先生「アスカ君、瞬君には絶対何かあるとは思っていましたが…、人智を遥かに超えていましたよ…。」
アスカ「…そのようね、…でもその割りになーんて満足そうな寝顔してんだろ、くすくす…。」
小さく微笑むアスカ。
それから少しして最後の抵抗のつもりか、キングの断末魔に駆けつけたゴブリン軍団だったが、
キングを失い統率力を皆無としたゴブリン軍団が敵う術などあるはずが無い。
そして、時を同じくして鉢合わせた天球防衛軍にあっけなく滅ぼされてしまったという…。
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