第三章  崩滅序曲 ~Emergency~

瞬「ここだな…、えーと。 校長室はここか。」


こんこん、と校長室の扉をノックする、すると、「どうぞ。」 と言う返事が返ってきた。


瞬「あのー、ここに来るように言われたんですが…。」


校長「クラスは? カード持ってないかい?」


瞬「はぁ、これです。」


カードを見るや否や校長の表情が変わった。


校長「あぁ、何だ。 それじゃこっち行ってくれ。」


…、大した優遇だ。 軽蔑されている感じさえ受ける。 

指定されたクラスに行くと何やら暗い雰囲気…。

先生「おや、新入りかな?」

笑顔で迎えてくれた30代の男の先生、姫龍 先生(ひりゅう さきお)。

彼は瞬の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。

読んで字のごとくだが、みんな親しみを込めて”せんせい”と呼んでいるようだ。

やはりここは天球で、この辺りはウルグランドという島の北、ノースウルグ地方というらしい。

魔力の無い人間は軽蔑されていて、力があるほどいいそうだ。

何とも不愉快だ。

天球人に魔力が無いのは極めて稀だが、ここに来た地球人などに魔法なんか使えるはずも無い。

言ってみたらここはゴミ箱のようなクラスに当たるわけだ。


瞬「…っ! 力が全てなんて…っ!」


先生「まあ、仕方ないですよ、これが現実ですからね。

   地道に頑張りましょう。」


それから、夢のひとつであった魔法を使うべく努力したが魔法は使えなかった。 

先生の言うにコツは”想い”が力を生むらしいのだが…。


生徒A「バーカ、何年俺らがやっても出来ねーもんがいきなりお前に出来るかってーの。」


瞬「…。 (諦めない限り不可能は無い! 光龍が言ってたんだ!)」


だが、瞬の思いとは裏腹に1ヶ月、2ヶ月経っても一向に進歩しなかった。 

ある日瞬はある決意をしていた。


瞬「先生! お願いがあります!」


先生「君はマジメですね~。

   殆どの子は1週間足らずで諦めてしまうというのに。 …何ですか?」


瞬「僕の体を介して魔法を放って欲しいんです。」


先生「何ですって!?」


瞬「先生が打ち出す魔力を僕の体から打ち出せばコツを体感できると思ったんです!」


先生「バカ言うんじゃない! 本気で言っているのですか!? 

   体にある潜在能力を無理矢理飛び起こす、ということです。

   下手をしたら死んでしまうんですよ!?」


瞬「このままじゃ先や結果は知れてます、ならば僕は最大限の努力をしたい!!」


先生「…、しかし…!」


瞬「先生! お願いします!!」


先生「…分かりました。 私はここまでやろうとする生徒は初めて出会いましたよ。 

   ずっと訓練も怠らなかった。

   …よし、君ならやれる、私も最大限サポートしましょう!」


先生はそう言うと瞬の背に手を当てた。


先生「右手を開き前に出して壁に向けて集中しなさい!

   最も基本的な魔法です、いいですか!?」


瞬「大丈夫です!! お願いします!!」


先生「テレス・レイ!」


先生が叫ぶと瞬の右手から白いレーザーが打ち出された!


同時に瞬の手と腕が焼きつく!


瞬「ぐはあああぁぁぁぁっ!! …っぐううぅぅ…。」


先生「痛みに負けてはいけない!

   君を信じた私の期待に答えてください!!」


ビーッ! ビーッ!


けたたましくサイレンが学校内に鳴り響く。


先生「…っ!! 何てことだ! よりによってこんな時に…!!」


瞬「い…、一体何なんですか…?」


先生「モンスターの襲来です!

   瞬君は隠れていてください!」


瞬が満身創痍の体を引きずって隠れると同時に教室にモンスターが現れた! 

以前に襲われた奴と同じ様なゴブリンだ。


ゴブリン「ここに新顔のやついるだろう、…そいつ出せ!」


先生「(瞬君のことを知っている…? しかも彼を追っているのか…?) 

   …知りませんね! 何用ですか!?」


ゴブリン「あいつ”俺ら側”に近いやつ、だから連れに来た! あいつ強くなる、キング言った!」


先生「どうだか、お前らみたいな獣と同等な扱いにくくって欲しくありませんね。」


ゴブリン「お前、知ってるな? 言え!」


先生「嫌ですね、化け物め!」


ゴブリン「嫌なら吐かす。」


そのゴブリンの後ろからゾロゾロと援軍がやってきた。


先生「…っ! 数で攻めますか。」


ゴブリン「今話したら命は助ける。」


先生「笑止! バカ言うんじゃありません!

   可愛い生徒を見殺しにして助かりたいと思う程私はお前らのように卑怯ではないっ!」


ゴブリン「…、死ね!」


先生「テレス・レイ!!」


バチイッ! ギャアァァッ!


先生「つうっ! 後から後からキリが無いですね!」


?「バーニングフレアーッ!!」


ボオウッ! ギイヤアアァァッ!


先生「…っ! アスカ君! 来てくれたんですか!」


アスカ「当ったり前でしょ! 先生! 怪我…っ!」


先生「大したことは…、…っ! アスカ君!!」


アスカ「えっ…。」


トガッ!!

油断していたアスカに一撃!!


アスカ「きゃあぁぁぁっ!!」


先生「ア、アスカ君!!」


アスカ「か、数が多すぎるっ…。」


ゴブリン「けえっけっけっけっ!!」


先生「万事休す、ですか…!!」


突然、ゴウ、と激しい風が吹き荒れた。

…温度の無い風、魔力だ。

…それも半端なものでは無い。


ゴブリン「!? 何っ!?」


先生「!?」


アスカ「!?」


瞬「…。」


先生「瞬君! 君は隠れていなさ…、え?…」


アスカ「嘘…、あれが瞬!?」


ゴブリン「そんな馬鹿な! これほどまでの魔力がある人間が天球上にいるのかっ…!?」


瞬「…。」


ゆらりと瞬が倒れ込む。


先生「おっと、っと。」


倒れ掛かった瞬を先生が抱き止めた。


アスカ「---嘘…。」


先生「彼はこの瞬間まで全く力は無かったはず、どこからこの威力が出たのか…。」


ゴブリン「ハッタリか? …、それにしても素晴らしい力だ…!!」


アスカ「…、ッ!! 先生…、まだいる…!!」


先生「…どうしましょうかねぇ…。」


アスカ「あんた達!! 瞬が何だってのよ!?」


ゴブリン「お前ら、何も知らないのか、ならそいつの心、分からない。」


先生「何っ?」


ゴブリン「そいつ、心の闇、大きい。 俺達に近い存在、お前らには瞬の心、分からない。」


アスカ「何でも知ってる、ってーみたいな言い方ね、気に入らないなぁ…!!」


?「クックック、愚かな…。」


先生「!? …ま、まさか!!」


ゴブリン「キング!!」


周りのゴブリン達がキングの登場を迎えるがごとく声を連ねて吠えまくった。


キング「さっきから手下が言ってるだろう、…瞬を渡しな!!」


先生「まさか、キング直々に出てくるとは! それ程の事ですか!?」


キング「そうさ、瞬は我々魔族が生前より目をつけていた貴重な存在…。

    その力はさっき見ただろう?

    瞬の生い立ちを分かりもしないで大した言い分だが…まぁ、いい。 

    お前達が知る必要は無い、さっさと瞬を渡すんだ!!」


その言葉に呼応するようにゴブリンたちは再び吠え立てた。


アスカ「魔族に貴重な存在!? 馬鹿な事言わないで欲しいわね! バーニング…ッ!?」


キング「…遅い。」


アスカが魔法を唱えようとした瞬間キングはアスカの懐にいた!!


ドカッ!!


アスカ「がっ…!!」


先生「アスカ君!? 天球では屈指の力を持っているというのに…!!」


キング「人間にしちゃあやるよ、認めてやろう。

    我らの精鋭を相手にできるのだからな。 

    …だが、それはあくまで”人間”レベルの話だったがな!!」


ドゴッ!! ゴガッ!!


アスカ「ごほっ!! っはぁ…、最低。 この陽河アスカさんが負けちゃうなんて…。

    天球ランカーが聞いてあきれるわ…。」


キング「身取得ランカーの魔族何てザラにいるさ、それにお前は魔法だけだろう? 

    戦闘に慣れが無さすぎだな。 …まだ若い。

    そっちの先生とやらは中々やったほうだがな。

    残念だったなぁ!? まとめて己の無力感に苛まれて死ねぇっ!!」


アスカ「!!?」


キングは爆風を呼び起こした!


瞬「…ッ!?」


アスカ「きゃああぁぁぁっ…!!!」


先生「アッ…、アスカくーーん!!」


アスカは瞬と先生を庇うようにして爆風に巻き込まれた。

舞い上がった粉塵が消えた後にアスカの姿は無かった…。


瞬「…!!? あ、あぁ…っ!!」


キング「ヒャヒャヒャ!! 消し飛んだぁ!!」


?「化け物共、覚悟しろっ!」


キング「…天球防衛軍か!

    おしゃべりが過ぎたようだな。

    まぁ、いい。 いつでもさらいに来れるからな。 

    野郎共! 引き上げだ!!」


ウオオオォォォォーーーッ!!!

ゴブリン達は一気に引き上げていった。

その後先生と瞬は天球防衛軍なるものに助けられた。

しかし、瞬は初めて”死”を目の当たりにしたため、放心状態であったと言う…。

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