第11話

 薄目で銀髪、敬語口調。

 それに、私の不意打ちにしっかり反応して回避できるほどの戦闘センス。

 カインと名乗ったこの男は、間違いなく過去に戦ったことのあるバケモノだ。


「以前は体中が煤けていましたからね。今回は全力の貴方と戦えそうで、非常に楽しみです」

「私が目的なら、サルムは返してほしいんだけど?」


 サラマンダー掃討作戦。

 私の同胞が消えた一番の元凶。

 その作戦で一番の功績をあげた人物。


 サルムがアイツの近くにいる以上、全力なんて出せやしない。

 炎以外の攻撃は下手に打てない。

 それに、龍状態より数段パワーが落ちる人状態で、どうアイツを殺すか。

 時間稼ぎと分かっていても、アイツは会話を続けるはずだ。

 カインは、そういう男だ。

 その間に考えろ。


「サルムというのは、この少年のことですか? 返すわけないでしょう? まさか、私の目的を知らないわけじゃありませんよね?」


 そう言って横になっていたサルムを抱きかかえ、盾のように自分の身をサルムで隠した。

 虫唾が走る。

 アイツを消し炭にするべく炎を練り上げる。

 どうせサルムには私の炎は効かない。

 作り上げた炎を飛ばす瞬間、カインが口を開く。


「テレシア、つい先ほど――――この少年に頭痛薬を飲ませました。この意味、貴方なら理解できるでしょう?」

「…………ッ!!」

「貴方、どうやら随分と長い間人状態で情報を集めていたらしいですしね」


 サラマンダー掃討作戦で私の棲み処が襲撃された後、私は首謀者を探すため、奪われたものを取り返すために情報収集に徹した。

 そこで判明したのは、ガーデンコル帝国の有する帝国軍が攻め入ったことを知った。

 サラマンダーの炎の対処方法である防具の発明。

 傷を負わせるための攻撃手段の開発。

 大勢の長距離移動を可能にする航空技術。

 それらすべてを兼ね備え、侵攻してきた帝国軍は、まさにサラマンダーの天敵。

 サラマンダーという種族を根絶やしにするために開発されたもののほとんどは、カインによる発案だった。


 それに加え、カインは戦闘の面にも秀でていた。

 彼の操る薙刀は蛇のように敵の急所に潜り込み、一撃で殺す。

 彼独自の流派らしいそれは、龍殺流という名称らしい。

 誰も真似することができない。

 誰も対策することができない。

 彼が帝国軍の軍団長になるのは至極当然であった。


 アイツの情報を集めるほど、自分が窮地に立たされていく感覚に陥った。


「貴方は知らないでしょうが、少年に与えた頭痛薬は完成品なんですよ。数時間後に彼は――――」


 ………


「――――どうなるんでしょうね?」


 アイツの情報収集中に頭痛薬のことも耳に入ってきた。

 何人もの人間を実験台にして、命を散らせた。

 その薬を与えると、激しい頭痛に襲われて数時間後に死ぬ。

 頭痛を与えて殺す薬。頭痛薬。

 これが私の知っている情報。

 完成版と言っている辺り、ここからさらに研究して効果が変わっているだろう。


「………」

「アハハハハ! 良いですねぇ、その表情! 完成品の効果は教えませんが、数時間以内に解毒しないと不味いことになる、とだけお伝えしましょうか」

「――――ッ!」


 無駄と分かっていても、炎の弾を放つ。

 二階のフロアを埋め尽くす炎弾幕は、何の手ごたえもなく壁を破壊していった。

 壁が崩れ、ホコリや煙で見えない先にも、追加で弾を撃つ。


「そんな杜撰な攻撃じゃ当たりませんよ!」


 ………そこか。

 声のした方に向かって、拳を振るう。


 炎弾はまだでたらめな方向に打ち続けている。

 壁にあたり、爆音を鳴らす。

 これで、私の存在を感知するのは難しくなった。

 サラマンダーは熱源を察知することができる。

 煙の中でもアイツの場所は簡単に分かる。

 アイツが気づけるはずのない、二回目にして完璧な不意打ち。


 これで決まるほど、弱いと思ってないが。


「――――甘いですね」


 渾身の攻撃は片手で受け止められた。

 サルムを抱えた状態で、いともたやすく。


「情報収集したのではないのですか? 貴方のピット器官を知らないはずがないでしょう」

「寧ろ、これくらいの攻撃は止めれて当然でしょ?」


 軽く言って見せるが、正直予想外だった。

 止められるにしろ、サルムを手放さないといけないほどの威力を乗せた。

 その隙にサルムを奪還してジョーフィルを後にしようと思ったのに。


「いくら貴方といえど、人状態であればか弱い女性となんら変わりありません。龍になったらどうですか?」

「………逆に聞くけど、龍状態の私に勝てると思ってるの?」

「勝てなくてもいいのですよ。龍の御姿を見るだけで私は満足です。ならないのならば――――ここで殺しますよ」


 言って、カインの姿がブレた。


「………ッ!」


 刹那、身体に走る衝撃。

 そのまま後方に吹き飛ばされる。

 何が起きたか、全く見えなかった。


「私の攻撃が見えないのですか? ………龍種がこれとは、落ちたものですね」


 このままじゃ、私が死ぬ。

 ………やるしかないか。


「ゲホッ、ゲホッ………――――そんなに見たいなら見せてあげるよ、龍の姿」

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