第9話
アーシャさんの宿屋から出て入り組んだ小道に戻る。
テレシアさん曰く、人通りが少ないこの道には怪しいお店しかないらしい。
確かに、影が多いし道も狭いからあんまり人気が出そうな場所ではないのかも。
「テレシアさん。何でアーシャさんはあの場所で宿屋をやってるの?」
「う~ん………なんでなんだろうね」
「テレシアさんも知らないの?」
「うん。でもああいう場所のおかげで、来る人が少なくて私は会いに行きやすいけどね」
「確かに。そうだね」
会話しながら、テレシアさんは来た時と同じように、迷うことなく小道を進んでいく。
何も考えずについて行っちゃったから、僕一人じゃアーシャさんの宿屋には戻れない。
テレシアさんとはぐれないように気を付けないと。
歩いていくにつれてどんどん人の声が大きくなって、気付いたら最初の大通りに出てた。
最初に来たときはすぐに小道に入っちゃったけど、実際はこんなに人が多かったんだ。
男性女性、子供からお年寄りまで色んな人がいる場所を見るのは初めて。
住んでいた村には子供がほとんどいなくて大人ばっかりだったから、特に珍しい。
そんな理由で子供をじっと見ていたら、今から友達と一緒に遊ぶみたい。
………友達、か。
僕にはもちろんいない。
だから、すごく羨ましい。
「あっ、着いた着いた! ここで買い物できるよ~――………って、どうしたの?」
目的のお店に着いたみたいで、こっちに振り向くテレシアさん。
その時に、僕が子供のことを見ていたのに気付いたみたい。
なんでもない、と言いつつ僕もそのお店を目に入れる。
周りのシンプルな建物と違って、すっごく変わった色の建物だった。
しかも、変わっていたのは色だけじゃなかった。
三階建てみたいなんだけど、二階だけ膨らんでるみたいに大きくなってた。
こういうお店の方が小道にあるべきなんじゃないの?
「ここで何買うの?」
「サルムのお洋服とか、料理道具とかかな~。サルムも何か欲しいものあったら遠慮せずに教えてね」
「うん。あったらね」
本当にちゃんとしたお店なの……?
少し怖いけど、テレシアさんと二人で入店する。
外からだと確認できなかったけど、お店の中にはたくさんの商品が置かれていた。
テレシアさんが言ってたように服とか料理道具っぽいのもあるけど、全部一緒の棚に並んでいた。
他にも食材とか、花とか、変な四角のブロックとか、鎌とかも同じ棚に並べられてた。
このお店、なんでも売ってるんだなー。
テレシアさんは慣れているようでスタスタとその棚に歩いていきながら、
「私はこの辺で商品見てるから、サルムも気になった場所見てきていいよ~」
と言ってくれた。
分かった、と返しつつもどこに行こうか迷う。
確かに商品がたくさん置いてあるけど、何がどこにあるか分からない。
そもそも、商品のほとんどはどうやって使うものなのかも知らない。
歩きながら見ていると、とある商品の前で足が止まる。
それは、とある生物の木彫りの商品だった。
人間でもイノシシでもないそれは、初めて見る生物だった。
大きな翼があって、鋭いキバがあって、しっぽが長くて、ウロコで覆われてるように見える。
ウロコと、キバ……って。
もしかして――――
「お客様。その木彫りにご興味が?」
その時、後ろから声を掛けられた。
振り返った先には変な色の服を着て、変わった髪色をしたおじさんがいた。
さっきの大通りにいても見失わなさそうな見た目。
服の色、見覚えがあると思ったら外から見たこのお店とそっくりだった。
ということは、店員さんなのか。
「うん。これって、龍?」
「よくご存知ですね。これは龍の中でも特に珍しいとされる『ピュートーン』と呼ばれる種類を模した木彫りになります」
やっぱり龍なんだ。
というか、龍って何種類もいるんだ。
「龍って他にどんなのがいるの?」
「ピュートーン以外となると……そうですね、海を操るリヴァイアサン、あらゆる毒を吐き出すヨルムンガンド……」
店員さんはそのまま龍の種類を教えてくれる。
聞いていて思ったことは、龍の特徴がはっきり分かれていてびっくりした。
もしかしたらテレシアさんみたいな龍も話してくれるかもしれない。
店員さんの言葉に耳を傾けてしっかり聞く。
その時は、急に訪れた。
「あとは、炎を自在に操るサラ――「サラマンダー」」
一瞬、自分が喋ったことに気付かなかった。
自分が何を言ったのかも分からなかった。
店員さんの言葉を遮って、僕の口からは無意識にその言葉が出ていた。
「おぉ、サラマンダーはご存知でしたか」
店員さんの返事で自分の言葉が間違っていないことが分かった。
サラマンダー。
そんな言葉、知らない。
知らないはずなのに、知ってる。
見たことも聞いたこともないのに、分かる。
サラマンダーは、炎を操る龍であること。
……………ッ。
……まただ。
また、この頭痛だ。
もう少しサラマンダーについて考えたかったけど、ちょっと無理かも。
「お客様、どうかされましたか?」
「………ちょっと、頭が痛い」
「それは大変ですね。この店には休憩室もございますので、ご案内いたしますよ」
そう言われて、頭に手を当てながら店員さんについていく。
休憩室は上の階にあるみたいで、階段を上って二階に向かう。
二階には商品が何も置いてなくて、たくさんの部屋に分かれていた。
「お客様、こちらが休憩室です。幸いにも当店の看護担当は私ですので、一緒に部屋に入りましょう」
店員さんが案内してくれた部屋の扉には、確かに休憩室と書かれていた。
この頭痛はすぐに収まることが多かったけど、今回は長引いているからすごく辛い。
頭はぼーっとしていて、何も疑うことなく入っていく。
扉の先にはベッドが一つとイスが二つ。
そこに店員さんと一緒に座る。
その店員さんはニコニコしながら、僕に名前を教えてくれた。
「改めまして私、当店の看護担当であるカインと申します」
ニコニコしているけど、どこか安心できないような笑顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます