第3話

 龍族は、この世界の頂点に立つと言われるほど個々の能力が高い生物だ。

 生態系の頂点に立ち、他種族を気まぐれに蹂躙し、何度も絶滅の道を辿らせてきた。

 それ故に、ひどく傲慢だった。


 そんな私の同胞が人間を攻撃したのは必然だった。

 弱く、脆く、されど知恵と繁殖力はあり、いくつかの国を創って地位を確立していた。

 だが、それだけ。

 実力主義の同胞はそんな人間を見下していた。

 事実、同胞が滅ぼした人間の国は片手では数えきれない。

 脆弱で、矮小で、上位者に狩られるだけの生物、人間。

 そんな存在が龍に滅ぼされるのは、もはや決められた運命さだめといっても差し支えないだろう。

 …………でも、人間の恐ろしいところはもっと他のところにあった。

 それに気づくのは、全てを失った後だった。


 異変はすぐに訪れた。

 日が経つにつれ、同胞の数が減っていった。

 一頭、また一頭と見かけない同胞が増えていった。

 異変が起きてからひと月経とうとした頃、ついには誰も見かけなくなった。


 ――そして、その日は訪れた。

 狩りから戻った時、棲み処には雲霞のごとき人間の大軍が待ち構えていた。

 火山の麓に位置する私の棲み処は、一部の生物のみが耐えうるほどの高温で守られている。

 人間が立ち入れない場所のはずなのに、奴らは特殊な鎧を着ているようだった。


『いたぞ!! おそらく最後のサラマンダー種だ! 大砲用意、撃てっ!!』


 鈍い爆音が響き渡り、目の前から鉛の雨が降ってきた。

 一撃一撃が体に深い傷を与え、鱗、角、牙などの部位が剥がれ落ちていった。

 あまりの痛みに耐えきれず、忽ちその場を退いた。


 必死に翼を動かして、とにかく人間たちから離れた。

 奴らは大軍で押し寄せていたのが仇となり、幸運にも私に追撃が入ることはなかった。

 しかし、初手の鉛雨の影響で翼は破れ、身は爛れ、元々の赤い体色は出血によって上塗りされていた。


 満足に飛ぶこともできないほどの怪我を負った私は、最後の気力を振り絞ってある場所へ向かった。

 龍族のあらゆる傷を治癒してくれる龍の秘湯。

 幸い秘湯は私の棲み処の近くにあり、人間にもバレていなかったその場所で傷を癒した。

 少しづつ、少しづつ塞がっていく傷跡。

 回復には膨大な時間がかかり、七日かけて飛べるだけの体力を回復させた。


 癒えた翼をはためかせて向かった棲み処には、すでに人間の姿はなかった。

 しかし、人間の攻撃の跡はまざまざと見せつけられた。

 土砂が崩れた火山、抉り取られている地面、人間の死体と夥しいほどの血痕。

 そこに、私の棲み処の面影など一切なかった。

 私の生きた証は、全て奪われていった。


 その時に悟った。

 人間の最も恐ろしい習性。

 個体数を活かした連携力、棲み処に待機して待ち構える狡猾さ、そして――



 ――――底知れぬ復讐心。

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