第31話 ルート分岐(2)
『あたし、後悔するのは嫌。後悔はもう嫌っ! 強くなるの、ならないといけないの』
などと、勇気フルバーストなセリフを
「だ、大丈夫……かな?」
いざ告白を前にして、
気持ちはわかるけどさ、う~ん……。
西校舎裏の庭。ベンチに
ここには花が咲く整えられた
でもこの裏庭は、セシリアちゃんとリアム王子の思い出の場所だ。学園祭イベントの進行中、疲れてるリアムに彼女が
それ
今日のお昼、セシリアちゃんはリアムに、
「放課後、お話しがあります。いつものベンチで待ってます」
そう伝えた。
いつものベンチ。場所はそれで通じる。なのでもうすぐ、彼はここにやってくるはずだ。
ついに来たぞ、「告白イベント」。
ルート
個別ルートへの分岐確定で、「バッドエンド」は
バシッと決めちゃって、セシリアちゃん。
「もうすぐ来ちゃうでしょ、リアム王子。わたし、あそこにいるから」
わたしがアメジストが身を隠してる校舎の角を指差すと、角から顔を半分のぞかせたアメジストがサムズアップしてみせた。
あんた、そんなサイン知ってたんだ? ちょっと意外だよ。
「マっ、マルタちゃん……」
なんでそんな泣きそうな顔してるの。
「大丈夫だって。ダメでもともとでしょ?」
「大丈夫なの!? ダメなの!? どっちっ」
セシリアちゃんがすがりついてくる。
「大丈夫、絶対。あなたはかわいい。ほら笑顔」
わたしが笑顔を見せると、彼女は引きつった感じの笑みを作った。
◇
2年生になって100日ほどが経過して、「共通ルート」から「個別ルート」への分岐となる「告白イベント」が近づいていた。
(そろそろだと思うんだけど……)
主人公のステータスとこれまで消化したイベントで、「告白イベント」の時期は前後する。だけど2年の前半に発生するイベントだから、そろそろなんだよな。
そう思っていたら、
「あ、あのね……あたし、リアムさまに告白する。マルタちゃんとアメジストちゃんに、見守っててほしいの」
いつもの3人での放課後お茶会で、セシリアちゃんがいった。
「いいんですの?」
アメジストの確認に、
「うん。お願い」
彼女は強い目で答える。
セシリアちゃんは「わたしの告白イベント」も「アメジストの告白イベント」見てるし、そう考えるのも不思議じゃない。もともとわたしは、覗き見するつもりだったけど。
「それは、かまいませんけれど……」
セシリアちゃんが心配なのは心配だけど、アメジストはきっと「リアム王子に悪い」と感じている。そういう生真面目さを持った子だから。
「マルタちゃんとアメジストちゃんに見ててもらえるなら、きっとできる。あたしリアムさまに、好きですって伝えたい」
告白は彼女にとって、強くなるために乗り越えないといけない儀式。
そのくらい出来ないと、魔王になんて立ち向かえない。
「リアムさまの
真剣な様子のセシリアちゃんに、
「それはいい考えです。わかりましたわ」
アメジストは満足顔でうんうん頷いている。
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。リアム王子、セシリアちゃんにデレデレだもん」
わたしもフォローしとくよ。
「そ、そんなこと……ないよ」
「ありますわよ。セシリアを見る王子のお顔、それはもう……あれですわよ? あれです」
あれって……わかりにくい表現をするアメジスト。「
そんなわけでセシリアちゃんの「リアム王子への告白」は、友だちの力も借りてってことになったんだけど……。
◇
「あっ、来ましたわ」
ひとりベンチに座るセシリアちゃんへと、リアムが近づいていく。
言葉を交わすふたりだけど、なにをいってるか聞こえない。リアムがセシリアちゃんの隣に座り、ふたりは
すでにもう、告白前から完全にカップルなんですけど。
「ねぇ、アメジスト。ふたりの声聞こえる魔法使えない? 遠くの声が耳元で聞こえるやつ。あなたの告白シーンでセシリアちゃんが使ったの、
彼女は驚いた様子で目を見開き、
「あなたたち、そのような高位魔法を使ったのですか。ちなみに盗聴魔法などという
「名称なんてどうでもいいけど、使ったのはセシリアちゃん。わたし魔法使えないって。ねぇ、使えない?」
「ムリに決まってるでしょ。それは光と風の2属性魔法ですわ、セシリアが使えるのもおかしいですわよ」
あー……そうなのか。セシリアちゃん聖女に覚醒しつつあるから、光以外の属性魔法も少しだけど使えるようになってきてるんだよね。
ゲーム的に主人公の「徐々にパワーアップ」は
しょうがない。多分〈ゲーム〉での、「リアムルートへの分岐」と違いはないだろう。
と、セシリアちゃんが立ち上がり、リアムの正面に移動する。
おっ、ついに来たぞ。アメジストも事態の動きを感じたのか、コクンっと唾を飲みこむ。唾を飲む音まで上品だな。
そのとき、風が花びらを空中に舞わせながら、
「好き……です。あたしは、リアムさまが好きですっ!」
彼女の声をわたしたちへと届けてくれた。
左手の甲を、リアムへと差し出すセリシアちゃん。
そこにキスがもらえるとカップル成立なわけだけど、〈ゲーム〉で「主人公からの告白」が失敗することはない。
そもそもリアムの好感度が低いと、告白イベント自体が発生しない。
リアムはセシリアちゃんの正面に立つと、
「こうしてキミの手がもらえることを、願っていた」
小さくて聞こえなかったけど、〈ゲーム〉の告白イベントと同じセリフだったように思えた。
王子はセシリアちゃんへと片膝をついて、自分へと与えられた左手を下から持ち上げる。
そして、
「私を選んでくれたこと、後悔はさせない」
彼女の左手の甲に、そっと唇を落とした。
その瞬間!
目がおかしくなったかと思った。
突然、〈世界〉の
目に映る〈世界〉の色づきが
セシリアちゃんに目を向けと、彼女は「告白成功」のスチルと同じ泣き笑いで、
「嬉しい……大好きっ!」
手をつないだまま、立ち上がったリアムの胸へと飛びこんだ。
〈世界〉が輝きに満ちる。
間違いない、「ルート分岐」したんだ。
「すっ、すごいですわ……セシリア」
〈世界〉の色は変化した。だけどセシリアちゃん自身が、なにか変わったという感じはない。
いつも通り、小さくてかわいい女の子のまま。わたしにはそう見えてるんだけど、
「なにがすごいの?」
アメジストには、わたしとは「違うなにか」が見えているみたい。
「マルタにはわからないでしょうが、
聖女の存在は、魔王の復活と繋がっている。
複雑な顔をするアメジストとは対象に、〈世界〉は輝き、未来の聖女を祝福していた。
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