第27話 魔法のアイテム

 セシリアちゃんがいなくなり、わたしとふたりになったアメジストは、


「なんでしょうか、あれ……イヤな感じがしますわ」


 不安げな顔でつぶやいた。


 かんがいいね。きっと魔王関係のなにかだよ。

 学園もセシリアちゃんが聖女候補なのはわかってるし、王国によって魔王復活の予兆よちょう観測かんそくされたのは、「聖女候補を保護している」学園にも届いているはずだから。


 アメジストに抱きついたままだったわたしは、さわ心地ごこちのいい彼女を手放して自分の席に戻る。

 魔王関係のことは話しにくい。また、話題を変えないとな。


 あっ、そういえば。


「アメジストって、学園でも指輪してるよね? わざわざ許可きょかとったの?」


 彼女は右手の薬指に金色の指輪をはめている。それは〈ゲーム〉でもこの〈世界〉でも同じだ。

 学園内でアクセサリーを装着するには、「特別な許可」が必要になる。〈ゲーム〉でそんな説明なかったけど。


「あぁ、これですか」


 わたしに見せるように、右手を上げるアメジスト。薬指で輝く黄金の指輪は、結構目立っている。

 細やかな模様もようというかデザインは、上品でアメジストには似合うけど、彼女が許可を取ってまで指輪をつけたがる性格とは思えないから、気になっていた。

 

「これは我が家の家宝、コーキの指輪ですわ。長女が身につけるものと定められておりますの」


 家宝?


「学校でも外しちゃダメなの?」


「ですわね。ロロハーヴェル家では、長女が13歳になったらはめるものと決まっております」


「13歳からって、サイズ大丈夫? 成長したら指の太さ変わるでしょ」


 アメジストは16歳にしては長身でスタイルがいいし、13歳からだと結構成長してるよね。


「普通の指輪ではございません。こう見えて光属性の魔素まそが集まったもので、物質ではないというお話です。サイズは指輪が調節してくれますので、問題ありません」


 魔素まそというのは、魔法の元になる「不思議パワー」のことだ。わたしは魔法の素質がないから、存在を感じることもできない。

 だけど、魔素まそが集まってできた指輪? なにそれ。本当に魔素の集まりなの? わたしにも見えてるけど。

 魔法の素質がないわたしには、魔素や「魔法の発動」を見ることはできないのに。


「魔法のアイテムってこと?」


「えぇ」


 魔法のアイテムか、珍しいな。初めて見た。

 魔法のアイテムはルルルラが研究している「魔導具」とは違って、「人の手による物」じゃない。


 人が作った魔法の道具が「魔導具」。

 正体不明の人智じんちを超えた「不思議アイテム」が、「魔法のアイテム」。


 そう区別されている。不思議アイテムだったら、わたしに見えるのも不思議じゃないな。


「なんの効果があるの?」


「それはわかりません。なにかの効果を発揮したという記録もございませんし。ただ、ご先祖さまのいいつけなのです。この指輪は、当家の長女に受け継がせるべし。肌身離さず身に着けさせるべしと」


 魔法のアイテムは、それぞれが「すんごい効果」を持っている……らしい。

 なにせ「神々のギフト」と言われてるからね。


 魔法のアイテムで一番有名なのは、東の大陸にある「ヴィナス国」が所有する「天使の」。

 詳しくはわからないけど、直径15cmくらいの輪っか? みたいなものらしい。その輪に所有者として認められると、不老不死になるんだって。

 実際、所有者であるヴィナス国の女王は、300年以上生きているという話だ。


「ふーん……外れないの?」


「外そうと思えば外せます。ですが、思わないですわね。大切な指輪ですから」


 それはそうだ。魔法のアイテムなんて超貴重品、なくしたら目も当てられないよ。

 それに侯爵家の家宝でしょ? 国宝級なんじゃないの。なんの効果があるかわからなくても、「魔法のアイテム」ってだけで超貴重だもん。


 お嬢さまも大変だな、そんな重要アイテムつけてないといけないなんて。わたしなら怖くて嫌になるよ。

 盗られたり落としたりしたらどうしようって、ビクビクなっちゃうだろうな。


「大変だね、お嬢さまも」


「なにがですの」


「だって珍しい指輪してるんでしょ? 盗まれたり落としたりしたら、お父さんにめっちゃ怒られるでしょ」


 あれ? あきれた顔をするアメジスト。


「この指輪は、わたくしが外そうと思わない限り外れません」


 うん。でもさ。


「人質取られて外して渡せっておどされたら? ラブレットくんとか、セシリアちゃんの命と引き換えでも、アメジストは渡さない?」


「はい? それ……は」


「渡すでしょ。もしかしたら、人質がわたしでも渡しちゃうかも」


 アメジストは友だち思いだからね。


「そのようなこと、ありえません」


「そのようなことって?」


 わたしが人質なら渡さない?


「指輪が狙われるようなこと、です」


 あぁ、そういう意味ね。わたしが人質でも、渡しちゃいそうなんだ?

 無意識にか意識的にか、アメジストは指輪を隠すように両手を重ねる。


「そうだね。ごめん、変なこと言って」


「そうですわ。まぁ……マルタは変な子ですもの、構いませんわ」


 変な子認定されるのは慣れてるし、自分でもそう思う。

 わたしは笑顔を作って、


「あ~ん」


 アメジストへと口を広げた。


「なんですの」


「あ~ん……ケーキくれるんでしょ? あ~ん♡」


 アメジストは苦笑しながらも、


「こぼさないようになさいませ」


 自分のケーキをフォークで切り、それをわたしの口元へと運んでくれた。

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