第26話 シロちゃん登場

 2年生になって10日目の放課後。場所は学園内にあるカフェテラス。

 わたしとアメジストとセシリアちゃんは、ひとつのテーブルを3人で使い、ティータイムを楽しんでいた。


 本日最初の話題提供者として、セシリアちゃんが口を開く。


「なんかね、女の子なのに男子の制服着てるすっごくかわいい新入生から、お姉さまってよんでいいですかって言われたの。どうしたらいいかな?」


 あーっ……それはアレだ。最後の攻略キャラ「シロちゃん」だよ。


「いいんじゃないですの? お姉さま。女の子なのでしょ? その子」


 アメジストが気軽に答える。貴族社会では女子が憧れのご令嬢を「お姉さま」呼びするのは、それほど珍しくない。


(違うよアメジスト、それ本当に男子。男のだよ。見た目は女の子だけど、肉体は完全に男性。心は半分女の子で、半分は男の子)


「だと思うんだけどなー? 声はちょっと男の子っぽかったけど、顔は女の子だったから」


(うん、そう見えたよね。でも男子だよ。男のっていうの、それ)


 この話題、あんまり広げたくないな。しばらくの間セシリアちゃんには、「シロちゃんは女の子」だって勘違いしてもらわないといけない。

 シロちゃんのイベント的に、「実は男の子でした♡」ってのが必須ひっすになるから。

 というわけで、


「アメジストのケーキ、新作だよね。おいしそ〜♡」


 話題を変えよう。


「マルタも注文すればよろしいでしょ」


「さすがにケーキ2個は、お金がムリ」


 わたし貧乏貴族の娘だから、さすがに1日でケーキ2個は贅沢ぜいたくすぎ。


「マルタちゃんはいいじゃないっ! 食べても太らないじゃないっ」


 なんだ? セシリアちゃんが急にキレたぞ。

 まぁわたし、食べても太らないんだよね。ガリガリだし貧乳だし。それは前世でも同じだったけど。


 そういえばセシリアちゃん、今日はお茶だけだ。デザートはなし。最近ちょっと、ふっくらおなりですものねー。

 隣国の王子と順調じゅんちょうな関係ですし、しあわぶとりでしょうか?


「セシリア、イライラには甘いものですわよ? ほら」


 新作ケーキにフォークを入れ、最初の一口をセシリアちゃんにさし出すアメジスト。


「だ、ダメだよあたし……制服のサイズが……」


「それは、おっぱいが大きくなったというご自慢ですかにゃ?」


「あらあらセシリア。そのような自慢は、マルタがすねてしまいますわ」

 

 いや、あんたのほうがセシリアちゃんよりおっきいでしょ。きょを通り越してばくってるでしょ!?


「違うよ~っ! 本当にお腹の……おへその下が……」


 多少ぷにぷにしてるほうが、男の子受けはいいでしょ。ガリガリしてると触り心地がよろしくない……って、わたしなに自爆してるの?


「おへその下、どなたかにお見せしますの? どなたにとは申しませんけど」


「ちっ、違う見せないよっ! まだ見せられないよぉ~っ」


 顔を赤くするセシリアちゃん。「なにも知りません」って顔してるくせに結構おませだよね。


「大丈夫です、セシリアはかわいいです。甘いものを食べたくてイライラしてるほうが、かわいくありませんわよ」


「……そ、そう? って、あたしイライラしてないっ!」


「してる。今日はかわいさ3割引だよ。ね? アメジスト」


「ですわ。むしろ5割引ですわ」


 返す言葉もなく、涙ぐむセシリアちゃん。

 あざとかわいい。萌え♡


「ほら、あーんしなさいな。あーん」


 差し向けられる新作ケーキの誘惑に、これ以上の抵抗は無理。セシリアちゃんは、


「あ~ん」


 色鮮やかな唇を上下に開いた。

 なんだかんだというわりに、うれしそうに大口を開けてるな。アメジストはそのお口へと、フォークに乗せたケーキの欠片を放りこむ。


 もぎゅもぎゅっ♡


 幸せにとろける、セシリアちゃんの表情。美味しいですか? よかったね。


「なにニヤニヤしてますの、マルタ。気持ち悪いですわよ」


 ニヤニヤって……それは、アメジストとセシリアちゃんが仲良くしているんだよ? これこそわたしが妄想していた、〈if〉展開そのものっ!


とうといよね? 美少女ふたりの仲よし♡」


 わたしの感想に、


「なんですの、それ。気持ち悪いですわ本当に。いえ、本当に」


 眉をひそめるアメジスト。本当にって2回も言わなくていいよ。


「マルタにもさしあげますから、気持ち悪いこと言うのはおやめなさい」


 アメジストが自分のケーキにフォークをいれる。言葉通り、わたしにも「あ~ん」させてくれるんだろう。

 だけどわたしは、


「だって嬉しいんだもん。アメジストと仲よしになれて、嬉しいの♡」


 アメジストの側に移動して、彼女に抱きついた。

 うっわ、めっちゃ柔らかい。あと、やっぱりおっぱいが大きい。同い年とは思えない。ずるい。


 セシリアちゃんもわたしと同じように、


「嬉しいです♡」


 アメジストに抱きつく。


「ちょっ、ちょっとあなたちっ♡」


「アメジスト大好きっ♡」


「アメジストちゃん、大好きですっ♡」


「わ、わかりましたから、離れな……さい」


 そうは言いつつ、アメジストは身体に力が入らない様子で、なんの抵抗もしない。わたしとセシリアちゃんに、ほっぺスリスリされ放題。

 と、


「いやぁ~、素晴らしいね。女の子同士のたわむれは」


 お邪魔虫登場。


「なんですか、マシュ先生。女の子同士の戯れ見学は有料ですけど。ケーキセット3つです」


 わたしの7割本気の言葉は無視して、


「ガーノン、少しいいか。よくなくても来てもらうが」


 セシリアちゃんにつげる。ニヤけヅラの割に、声は真面目だな。


「あ、はい」


 セシリアちゃんはアメジストから離れ、


「ごめんね。また明日」


 置いてあったカバンを手にして、わたしたちにあいているほうの手を振ると、先に歩き出したマシュ先生の後を追う。

 その直前、半分残っていた紅茶を、


 ぐびびいぃ~っ! ごくごくごくっ


 していったのはあまりお行儀が良くなかったけど、同じ状況だとわたしもするだろうし見逃すことにした。

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