第22話 リアムルートへ(1)

 休日デートでイチャコラしていたといっても、セシリアちゃんとリアム王子は「恋人関係」じゃない……はずだ。

 〈ゲーム〉の「告白イベント」は2年生になってからだし、そもそも今は「共通ルート」が続いていて「個別ルート」に入っていない。

 彼女が「リアムに一途いちず」だから、他の攻略対象とのイベント関係がちょっとおかしくなってるのは事実だけど、重要な「フラグ」に関係してこないからこのままでいいと思う。

 

 恋人なんてこと言ったら、わたしとスノウくんだって、ねぇ♡

 先日のデートで左手に落とされた彼の唇の熱さは消えることなく、ずっとわたしをハイテンションにしたままだ。

 また、デートに誘ってくれるって言った。

 いつだろう? いつかな? とっても楽しみで、少しだけ……不安。


     ◇


 放課後の図書館に人影はまばらで、わたしとセシリアちゃんが座る席からは誰も見えない。というかここ、いつも人が少ない。


 どうしよう? 確認してみようかな。現状の把握も大切だろうし。 

 少し迷ったけど、

 

「ねぇ、セシリアちゃん。リアム王子とお付き合いしてるの?」


 直球を投げつけてみた。


「し、し、してないっ! まだしてないよっ」


 慌て顔で大きく腕を振るセシリアちゃん。この子はいちいち動作が可愛いな。


「ふーん……まだ、なんだ?」


「ち、ちがっ、まだっていうかそのっ!」


 なにも違ってないでしょうし、それでなんの問題もございませんよ。

 いいんじゃないですか? 一途で。〈ゲーム〉の「効率こうりつプレイ」をしてるわけじゃないし。


「リアム王子はいい人だと思うよ。悪い人じゃないよね」


 男性を「いい人」と評するのは、女性的には「どうでもいい人」と思ってるって意味だ。女の子同士なら普通に通じるだろう。


「リアムさまはステキな人だよ。優しいし、お料理も上手なのっ! ケーキだって作れるんだよ? ステキだよねっ」


 ステキって2回も言ったな。

 

「料理上手なんだ? 意外だね、王子なのに」


 ごめん。ヤツが料理得意なの知ってた。設定資料集どころか、説明書のプロフィールにも「趣味:料理・お菓子作り」って書いてあるから。


「でしょ!? ステキだよね♡」


 また、「ステキ♡」だ。

 わたしは「ステキ」なんて言ってないけど、ニヤけ顔で作ってもらった料理の味を思い出してるっぽい彼女が可愛いから、黙っておこう。

 わたしだって「リアムの魅力」はわかるつもりだよ。〈ゲーム〉でだけど攻略したからね。だからセシリアちゃんにふさわしい男だってわかってる。

 安心して「友だち」をまかせられる男だって。


 この通り、この〈世界〉の主人公はリアム王子の攻略に一直線で、「他の攻略対象」には興味もしめしていない。

 今のところ、登場している攻略対象たちとは「お友だち」みたいだけど、キラッキラの目で見てるのはリアムだけだ。

 スノウくんなんか完全に「お友だち(わたし)といい感じの人」というあつかいだし、アメジストが好きなローアくんも、「小柄な同級生。ときどきおしゃべりする人」くらいの認識でしかないっぽい。

 

 セシリアちゃんがリアム王子の次に仲のいい攻略対象は、魔術学の教師である「マシェ先生」だろう。

 それでも生徒と教師以上の関係じゃないし、むしろ、優等生とちょっと困った感じの若い先生的な関係だ。


「先生、もっと真面目に授業してくださいっ!(マジ顔)」


 みたいな感じの。


 リアム王子、スノウくん、ローアきゅんにマシュ先生。

 乙女ゲーム「紅蓮の聖女と花束の騎士」の攻略対象は5人だから、残るはあとひとり。


 その残るひとりの名前は、「シラサキ・スズラン」くん。

 ファンには「シロちゃん」と呼ばれていて、身分は「シラサキ公爵家の次男」。


 実は彼、シロちゃん。まだ入学していない。下級生キャラだからね。

 ちなみにこの国では「名前→家名」の順で名乗るのが普通なんだけど、シラサキ公爵家は「初代シラサキ公爵が異世界のニホンという国から来た」となっていて、初代にあやかって「家名→名前」の順で名乗っている。


 シロちゃんは「乙女ゲー」では変化球キャラで、家庭の事情で「女の子」として育てられた「いわゆる男の」キャラだ。

 見た目も言動も完全な美少女。


 髪は長くて毛先がお尻にまで、小顔でお目めぱっちりな女の子顔。

 体型も男子の制服を着ているのが違和感でしかないほど女性的で、主人公を「お姉さま」と呼んでなついてくれる。


 だけど彼、「花束の騎士」の中では一番強いかな。〈ゲーム〉ではスノウくんよりよっぽど頼りになった。

 生まれながらに「花の大精霊」の加護を受けていて、精霊魔法が使えるからね。全体攻撃魔法の「狂い咲け青薔薇」が強力なの。

 彼は、というか彼女は? 素直でかわいい子なんだけど、個別ルートのシナリオが百合(ゆり)っぽいから好みが分かれるところで、わたしは「結構よかった派」だけど、


「無理無理無理無理ッ! シロは絶対無理ッ。声が女性声優なのは許せるけど、自分がお姉さまな展開になるのは求めてない」


 という人もいた。

 わからなくはない。わたしも「百合系乙女ゲー」は、よっぽど絵が好みじゃなかったら手を出さなかったから。


 だけどシロちゃんを演じていた声優さんは、ベテランで演技が上手だった。

 男の子でも女の子でもない「男ののシロちゃん」を違和感なく演じてくれたから、「この子は女の子」って油断してると唐突に出てくる「男の子の部分」にゾクっとさせられるというか、なんだか不思議な感覚だった。


 シロちゃんで「トゥルーエンド」を迎えた結婚式のシーンなんか、主人公とシロちゃん、ふたりでウエディングドレス着てるんだよ? 花嫁さんがふたりの結婚式なの。

 それはね、受け入れられない人もいるっしょ。“ぐれたば”は「普通の乙女ゲー」なんだから。


 まっ、わたしは大丈夫でしたけどねっ! むしろえましたけどねっ!

 Fin画面のキススチルなんて、もだえましたけどねっ!


 シロちゃんは、まぁ……いいや。これからセシリアちゃんが、攻略対象をシロちゃんに変えるとは思えないし。

 来年度会えるといいな。シロちゃん。この〈世界〉でも、かっわいぃ~んだろうなぁ~♡


 それにしてもセシリアちゃん、リアム以外の攻略対象とも、もう少し親密になってもいいんじゃないかな? 一緒に「聖剣を復活させる」ための旅をする仲間だよ?

 でもねー、わたしは「彼女の未来」を知っているからそう思うけど、女子的には「好きな人以外の男の子に、興味はありません」ってのも納得できちゃうしなー。難しいね。


 まぁ、そこはおいおい考えるとして、


「この前の休日、リアム王子とデートしたよね? 手繋いでるの見たよー」


 突っ込んで聞いてみる。ここまでで、どのくらい親密になってるのか知りたい。

 理由は、彼女のリアムへの想いの強さが、3つ目の「闇堕ちフラグ」に関わってくるから。


「あ、あれはリアムさまが……」


 めっちゃオドオドというか、キョドキョドというか、ストーキングがバレた不審者みたいな様子のセシリアちゃん。

 うん、これはあれだな。やっぱり彼女には、3つ目の「闇堕ちフラグ」が一番の関門だろう。


 まだ時間はあるけど、意識改革が必要かも。

 3つ目の「闇堕ちフラグ」の回避、思ってたより難しいかもしれない。あれって〈ゲーム〉だとただの選択肢だけど、現実だと大変だよね。


 そう、女子には大変なのだ。

 好きな人に、


『自分から告白する』


 というのは。

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