第20話 休日デートイベント(1)

 学園祭が終わり、次の日は後かたづけ。

 そしてその次の日は休日で……。


 なぜこうなったのか、自分でもわからない。

 状況だけ説明すると、わたしは今、スノウくんと休日デートイベント中だ。


「王都に来た日に着ていた服だな」


 この人、女性の服装を憶えてるタイプなんだ? ちょっと……ううん、すっごく意外!

 そんなの、気にもしないと思ってた。


 確かにこれは、わたしが王都についた日、あなたと初めて会った日に着ていたものです。

 あのころより寒いから上着を一枚いちまい羽織はおっているけど、同じ服だよ。


 だってわたし、いい服ってほとんど持ってないんだよね。貧乏貴族令嬢だから。

 これなんか一張羅いっちょうらみたいなものよ? 汚したり傷めたりしたくないから、そでを通すのはあの日以来。

 

「う、うん……あっ、はい」


 わたしの隣に並ぶスノウくん。背が高いから、見上げるようにしてないと視線が合わない。

 彼の服装は〈ゲーム〉のデートイベントのと同じに見える。いかにもお貴族さまという派手なものじゃなくて、シンプルな剣士風というか、動きやすそうなものだ。さすがに剣は持ってないけど。


「ごめん……緊張しちゃって。わたし、デートって初めてだから」


 そう、これはデート。

 スノウくんは剣術試合が終わってから、


「ざんねんだったね、でもカッコよかったっ! わたし、めっちゃ応援したよっ」


 などとまとわりつくわたしに、はっきりと、


「マルタ、キミをデートに誘いたい。受けてもらえるだろうか」


 と言ってくれたから。


 デート。これはデート。

 意識すると緊張する。脚はなんとか動くけど、腕はどう動かしていいか考えちゃうよ。


「デートは、オレも初めてだ」


 それは知ってる。だってスノウくん、〈ゲーム〉での初デートイベントで、主人公に同じことをいったもん。

 もしもこの初デートが〈ゲーム〉と同じなら、昼食はカフェになるかな。

 そのあとは「初めてのデートの記念になにか贈りたい」って言われて、一緒にアクセサリーのお店に行くんだよね。そして、小さなペンダントを買ってもらうの。

 だけどこの〈世界〉での彼の初デートは、主人公じゃなくてわたしがもらっちゃったから、どうなるかなんてわからない。

 というか、わからないから楽しい。


「でもスノウくん、緊張してないでしょ?」


 わたし相手になんか。


「そんなことはない」


 ん? わたし相手に? お世辞かなー。


 並んで歩くわたしたち。王都の街並みは休日ということあって、朝から活気に満ちている。

 露店ろてんからは美味しそうなにおいや、甘いかおりがただよい、緊張で朝食が取れなかったお腹が小さく鳴いた。


(やっぱり賑やかだなー。さすが王都)


 王都で生活していると言っても、わたしはあまり学園の外に出ない。日課のストーキンギグもあるしね。


(……おっと)


 ちょっと近づきすぎたかな。スノウくんにぶつかりそうなった。

 デートって距離感がむずかしい。はなれるのもくっつくのも失礼になりそうで、どうしていいかわかんない。

 だけどそんなことに悩むのが、嬉しくて仕方ないな。


 と、身の置き場に迷いながらスノウくんを追うわたしは、


(あっ、セシリアちゃんとリアム王子だ)


 商店を眺めて歩く、デート中らしいふたりを見つけた。


(うっわ、あの子たち手つないでるよ。めっちゃいい雰囲気なんですけど!?)


 セシリアちゃんとリアム王子は、お互いに「楽しいね♡」というオーラをらして、初々ういういしいカップルみたいにデート中。

 まぁ実際、初々しいカップルなんだろうけど。

 だけど「告白イベント」はまだだし、これは「好感度UPイベント中」でしかないはずだ。


 友人が想い人とイチャコラしている幸せな光景に、足が止まるわたし。

 と、それに気がついたのか、わたしの想い人が足を止めて振り返る。


「どうした」


 そう聞かれても、どう答えて良いものか。言葉にするのは簡単だけど、していいものでしょうか。


「なにかあるなら、言って欲しい」


 ですよね。言わないと通じませんよね。

 またセシリアちゃんに怒られたくはないし、わたしは手をつないで微笑み合うセシリアちゃんとリアム王子を見ながら、


「いいなって。仲良しさんでうらやましいって、思っただけ……です」


 思っていたことを、そのまま言葉にした。


 と、次の瞬間。


 !?


「さすがに、その顔の意味はわかる」


 その顔の意味? わたしどんな顔してたの?

 自分じゃ見えないんだけど。そもそも「どの顔」かわからないんですけど!?


 でも結果として、わたしの右手はスノウくんの左手へと収められた。


 手、つかまれた。

 というか繋いでくれたの? セシリアちゃんとリアム王子みたいに。

 わたしが「うらやましい」って言ったから。


「これで、いいか?」


 彼の大きな手の中に奪われた自分の手。そこから伝わる彼の力強さと温かさが嬉しくて、恥ずかしくて……わたしはうなずくことしかできない。


 だけど、スノウくんはどうなんだろ?

 この人も照れてるのかな? よくわかんないけど、少し恥ずかしそうにも見える。

 気のせいかもしれないけど、気のせいじゃないといいな。


 ま、まぁわたしは、めっちゃ照れてる……よ?


「……あ、あり……がと」


 どうにか、それだけを返すわたし。

 いやいや、もっと言うことあるでしょ?


 この人はきっと、ちゃんと告げないとわからない人だ。

 だけど言われたことには、応えようとしてれくる人。

 わたしは彼の手を、

 

「嬉しい……です」


 強く握りかえした。

 しっかりと、がんばって、彼と手を結んだの。

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