第19話 学園祭(4)

 セント・アリュー学園の学園祭では、最終日に「剣術試合」が行われる。ファンタジー系学園乙女ゲーでは定番のイベントだ。

 〈ゲーム〉では主人公が出場することもあったけど、セシリアちゃんは出場しないみたい。


 セシリアちゃんのステータスの上げ方を見ていると、彼女は「魔法剣士」ではなく「魔法使い」へと進んでいる。

 体力よりも知力のステータスを上げてるって感じかな。


 知力はあとで大切になってくるから、わたしとしても安心できる成長方針だ。体力は聖剣をゲットしちゃえば、「聖剣補正」でどうにかなるからね。

 体力がないと病気になりやすいから、そこは気をつけないといけないだろうけど。


 これから始まる剣術試合には「剣術部門」と「剣魔術部門」があって、「剣術部門」は魔法を使っちゃダメで、「剣魔術部門」は魔法を使っていいの。

 わたしのお目当ては、もちろんスノウくん。剣士系の彼は「剣術部門」に出場する。「剣魔術部門」は、どちらかといえば魔法がメインの試合だから。


 午前中のできごとがなかったら、剣術試合を見に来るつもりはなかった。

 スノウくんが出場するのはわかってたけど、もし、彼がわたしの姿を見つけて気分を悪くして、実力を出せなかったら嫌だったから。

 それに、彼を思い切り応援できないのも寂ししいし……。


 だけどもう、そんな心配はないよね。だってわたし、スノウくんと仲直りできたんだもん。

 友だちが助けてくれたんだもんっ!


 わたしを助けてくれた「お友だちその1」であるセシリアちゃんは、午後から予定があるから試合会場には来ていない。今は彼女の想い人、リアム王子と一緒のはずだ。

 だからわたしは、助けてくれた「お友だちその2」のアメジストと一緒に、剣術大会を観戦することになった。


 剣術大会の会場は、運動場の隣にある武術場。

 野外だけど場内を囲むように防御魔法が施されていて、場内での「物理攻撃」や「魔法攻撃」が外部に影響を与えることはない。

 周りへの影響を心配することなく、思う存分、実力を発揮できるってわけ。


 危なげなく準決勝まで進んだ彼だけど、わたしはこのイベントの結末をしっている。

 セシリアちゃんへの好感度がある数値以上ないと、彼はここで負けちゃうの。


 勝負の結果は、たぶん〈ゲーム〉と変わらないだろう。わたしとしては、変わらないほうが安心だけど。

 だってそれは、〈世界〉が〈ゲーム〉通りに進んでいる証拠だから。

 でもわたしは、


「スノウくーんっ! がんばれーっ」


 声の限りに応援した。

 スノウくんに声が届いているかはわからない。きっと聞こえてないだろう。だけど、


「スノウくーんっ! スノーくーんっ」


 目一杯めいっぱい声援せいえんを送る。


「マルタ、うるさいですわ」


 隣のアメジストがあきれるほどに。


「で、でもスノっ、スノウくんっ! スノーくんがんばれえぇ~っ!」


 結果的にわたしの応援はなんの意味もなかったようで、予想通り彼は負けちゃった。

 スノウくんに勝利したのは、ごっつい体型の先輩。体型も顔もゴリラみたいなのに、素人しろうとのわたしでもわかるほど剣の技がえていた。

 贔屓目ひいきめでも、スノウくんに勝ち目がないとわかったよ。


「あぁ~、負けちゃったぁ~……」


 予想はついていたけど、好きな人の敗北をたりにするのはイヤな気分だ。

 自分がどうこうでなくて、彼の気持ちを考えてしまって(実際はスノウくん、相手の力量が自分の上なのは理解できたし、とても勉強になったと喜んでいたらしい)。


「あのかた、聖騎士団長の弟君ですわ。兄君と同じで輝いておりますわね」


 アメジストが、ゴリラ先輩のプロフィールを教えてくれる。


「スノウくんだってレイルウッド将軍のご子息ですけどっ!」


「それはそうでしょうけれど、レイルウッド閣下は指揮官であられて、剣術の腕前はそこそこだというお話ですわよ?」


 負けちゃったのは残念だけど、応援できたのは嬉しい。アメジストにあきれられるほど必死に応援できて、嬉しかった。


「ですが、剣術大会は来年もあるでしょ」


「うん……そうだね」


「わたくしたち、まだ1年生です。来年どころか再来年もありますわ」


 うっ、再来年かー。

 それはない……かな? このままいくと魔王が復活するの、わたしたちが3年生になってすぐだもん。


 乙女ゲーム「紅蓮ぐれん聖女せいじょ花束はなたば騎士きし」は、大きくわけて2部構成になっている。


 1・2年目の「学園編」と、3年目の「聖女編」。


 学園編は攻略キャラと交流しながら、自分のステータスを上げていくスタイル。

 そして主人公が聖女として目覚めたあとの聖女編は、彼女を守護する5人騎士たちとともに冒険する、RPGスタイル。

 5つのダンジョンを攻略して自分たちを強化し、聖剣の力を解放するための〈鍵〉を集め、魔王との最終決戦にそなえる。


 だから3年生になると、学園祭をやっている暇はないと思う。実際〈ゲーム〉でも、聖女編に学園祭はなかった。


 でも……そう、だな。

 わたしは聖女編での学園が、どういう状態だったのかよくしらない。ぐれたば公式設定資料集にも、詳しく記されていなかった。


 ただ、普通に授業をしていたとは思えない。魔王が復活したんだよ?

 とりあえずは聖剣の力で「異空間に閉じ込められている」とはいえ、〈世界〉の命運は聖女と騎士たちに委ねられているんだもん。


 そんな状況で、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんたちが、のんびり学園生活を続けているとは思えない。

 ルルルラは聖女編でも、学園で魔王に対抗する魔導具を開発していた。それはしってる。

 だけどそれ以上のことを、わたしはしらない。

 〈ゲーム〉だと「前世のわたし」は、「聖女」として〈鍵〉の入手のために旅をしていたんだから。

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