第10話 セシリア(1)
翌朝。わたしはすぐに、セシリアちゃんの様子を確認した。
同じ寮で暮らしているから、朝一で様子を
(うん。セシリアちゃん、
もし咬まれていたら彼女は3日間寝込むことになるはずだけど、今朝も寮の食堂で朝食をとっている。
(大丈夫、大丈夫。最初のフラグは折ったはずだ)
だけど
スノウくんの
「気をつけろ。
そんな声が聞こえたような気もするけど、よく覚えていない。もしかしたら聞き間違いだったかもしれない。そう思ったから。
ルルルラの調査結果によると、噴水の
だけど、倒されたヘビの
死骸が消えるということは、普通の生き物じゃない。
となると「誰かの〈
学園に正体不明の〈使い魔〉が
セキュリティーの見直しからという話になるだろうけど、〈ゲーム〉でこの問題がシナリオに関わってくることはなかったから、わたしが「魔王の存在」を騒ぎ立てる必要はないと思う。
むしろ悪目立ちしそうな気がするから、モブ子はモブ子らしくひっそりしていよう。
(でも、消えたっていうなら、それでいいはずだけど……)
あの
最初の「闇堕ちフラグ」を
◇
最初のフラグをへし折ってから、3日目の夕方。
これまで以上にセシリアちゃんから距離をとり、自分の後ろも
ちょうどそのとき。
コンコン
部屋にノック音が響き、
「うるさい」
自分の机でなにやら作業中のルルルラが
それを「おまえ、さっさとドアを開けてやれ」と
だけど、わたしたちの部屋のドアがノックされたのはこれが初めて。この部屋の住人には、友だちがほぼいないからな。
(誰だ?)
そう思いながらドアを開けると、そこにいたのは、
(セシリアちゃん!?)
未来の聖女さまだった。
(なにしに来たんだろう?)
普通に考えたら、
『この前のあれに文句を言いにきた』
になるだろうけど、セシリアちゃんはあの程度のことで誰かを
もし汚水をかけたのがわたしだと知っても、それを責めたり問い詰めたりしに来るとは思えなかった。
だって彼女は、そういうキャラじゃない。
前世のわたしはセシリアとして、何度も〈ゲーム〉を繰り返した。だから彼女の性格はわかっている。
セシリア・ガーノンというキャラクターは、
いちいち細かいことを気にするのは、乙女ゲームの主人公にむいてないもんね。乙女ゲーの主人公に大切なのは
いろいろ
とはいえ、思いもしなかったセシリアちゃんの
そんなわたしに彼女は、
「ありがとうございました」
丁寧に頭を下げた。
(えっと……どゆこと?)
返す言葉を探すわたしへと、
「あたしがヘビを踏まないように、助けてくれたのですよね?」
頭を上げた彼女から、言葉が続けられる。
(あっ、はい。それはそう……ですけど。でもなんで? なぜあなたに、それがわかるの!?)
疑問に答えを求めたわたしの脳内が最初に導き出したのは、
(もしかしてスノウくんが、全てを
という、実にわたし
あとになって考えると、「セシリアちゃんもわたしと同じで、異世界転生しちゃった子なの!?」が先だろうと思ったけど。
いや、別に彼女、この〈世界〉の人で異世界転生してないけど。
「誰か、そう……いったの?」
スノウくんが!?
期待をこめたわたしの質問をよそに、セシリアちゃんは首を横に振ると、
「そう感じただけです」
急速にしぼむわたしの期待。
「……わたし、見えてた?」
「いいえ。ですが感じることはできました。あの
あの感覚? なにいってるかわかんないけど、この子、個人を感覚や気配で判別できるの? それは知らんかったわー……。
「話、長くなる?」
後方からの声。いつの間にからわたしの後ろに、ルルルラが立っていた。
「なか、入れば」
ルルルラがわたしの腕を引っ張りながら、セシリアちゃんへとつげる。わたしは後ろに下がりスペースを開け、
「はい、よろしければ」
彼女を部屋に招いた。
◇
セシリアちゃんの入室を確認して、わたしは部屋のドアを閉める。
(とりあえず、どこかに座ってもらおう)
とは思うけどこの部屋、家具はわたしとルルルラの勉強机とベッドがひとつづつあるくらいで、テーブルのひとつもない。
なんか殺風景な部屋だな、ここ。もうちょい女子らしくしないと。
(どうしよ? わたしのベッドに座ってもらうのもなんだしなー)
考えているわたしをよそに、
「どうぞ」
ルルルラが自分の勉強机の椅子をセシリアちゃんへと差し出した。
はうっ! まさかルルルラに先をこされるとは! わたしの女子力、ヤバイことになってない!?
「ありがとうございます」
椅子をすすめられた彼女は、愛想笑いではない自然な笑顔をルルルラへと返す。こんな感じの笑顔のスチル〈ゲーム〉でもあったな。
まさにヒロインスマイルだ。可愛い。
椅子に座ったセシリアちゃんの対面にあるわたしのベッドに、ルルルラが腰を下ろす。
こいつも話を聞くつもりか? そう思ったけど、わたしをチラ見した彼女の瞳は、心配してくれてるように思えた。
(この子、わたしを守ってくれるつもりだ)
わたしは「ありがとう」をつたえるために
わたしのニヤけヅラにルルルラは、
「
自分の隣を示すように、ベッドをペシペシと叩く。だけど、わたしが彼女に密着するようベッドに腰を下ろすと、すっと距離がとられた。
ん? なぜに?
仲良しさんだよね? わたしたち。
「
ルルルラが問う。
「はい。ルルルラ・リリパネーラさま」
そして彼女はわたしへと顔を向け、
「マルタ・ロマリアさま」
名前を呼んで頭をさげた。
同級生とはいえわたしとルルルラは貴族で、セシリアちゃんは平民だ。彼女がわたしたちに礼をとるのはおかしくない。
別にわたし、そんなこと望んでないよ? だけど貴族と平民には見えない壁があるのは事実だ。
それに、わたしは田舎の男爵令嬢でギリギリ貴族に引っかかってるだけだけど、ルルルラはリリパネーラ侯爵家のご令嬢で身分は相当に高い。
少し緊張している様子のセシリアちゃん。
大丈夫だよ。誰もいじめたりしないし、わたしもルルルラも怖くないよ。
だけどわたしが彼女を安心させるために口を開くより先に、
「ではセシリア・ガーノン。わたくしとその
ルルルラが高位貴族のご令嬢っぽい、高飛車な雰囲気と言葉づかいでつげた。
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