葬式 第八話

 爽果が躊躇っていると、朔実が代わりに答える。


「なんち言うたらいいか……。医者は窒息死だと言うちょった。毒とかそげなのも調べたが、そげなんじゃねそうだ。多分かった、アナフィラキシーかもしれん。顔が変形するくらい膨れ上がってね。気道が塞がれたんじゃろと言ってゆちょったよ」

「原因は分からないそうだ」


 成継が付け足した。


「顔が変形?」


 どういうことだろうと、山田は爽果を見た。


 爽果が、衝撃を受けているような、驚いているような、悲しんでいるような、なんとも表現できない表情を浮かべている。


 後ろに立っていた成継も朔実の横に並んだ。


「じゃっで、爽果ちゃんに頼るたよっしかないんだ。照男はんだって、最初いっばんさっから爽果ちゃんを乙女役に推しちょった。でもこげなこちなって……。こん村にとっておわたいは凄くわっぜか大切てせっな行事になった。照男はんはこん村の為に、本当にほんのこて尽力しっくれた。照男はんがいなかや、観光客も来なかったこんかったし、ましてや“橘の宝玉”も蘇らなかった。だから、残ったおいらが、照男はんの遺志を継いで、一丸となっておわたいと“橘の宝玉”の商品化を成功させる。今ここでおわたいや“橘の宝玉”をやめてしもたら、三宅は本当にほんのこて駄目になるけなっ。だから、よろしく頼みます」


 成継と朔実が再び頭を下げた。


 爽果は真面目な顔つきで、頭を下げる二人を見ていたが、そっと万智を振り返る。不安そうな母親の様子を見て、逡巡しているように見えた。


「ちょっと、母を説得してきます」


 朔実にそう言うと、爽果はこちらを心配そうに見ている万智と颯実の側に行って、耳打ちしている。


 三人はひそひそと話をしていたが、やがて話し終わったのか、爽果が朔実の元に戻ってきた。


「母と兄と話しました。母は父の遺志なら、最後までやりきったほうがいいと……」


 朔実と成継があからさまにほっとした表情を浮かべた。


「でも、父と草津さんのことがありますから、おわたいが終わったら母をそっとしておいてください」


 朔実は安堵した様子で胸をなで下ろし、爽果の頼みに快く頷いた。


「わかった。そうだな、照男はんの喪が明けてから、また話をしよう」


 その言葉を、爽果は真剣な顔をして聞いている。


 山田は、朔実も成継も強い意志を持って、おわたいを続けたいと言っているのだろうと思った。


 万智も、朔実達の立場を理解しているようだったが、さすがに夫が亡くなって、爽果が乙女役を続けることに抵抗を感じているのは確かなようだ。喪に服したい思いが顔に表れている。


早速さしつけで申し訳なかんだが、成継はんと吉宝さあとここで打ち合わせをしてほし」


 朔実の言葉に爽果が頷く。


「今からですか」

多分かった、夜には草津はんが戻ってくると思もうおもそれまでそいずいに話をして、明日のおわたいに備えてほしんだ」


 振興会の人間全員、この祭りが失敗に終わることを危惧している。爽果にとっても、おわたいの成功は一番の気がかりだろう。


 山田は、爽果の決心を見て、いかに父親である照男を尊敬し愛していたか、痛いほど感じた。


 励ましの言葉をかけてあげたい気分になったところに、後ろからのんびりとした声がした。


「やぁ、すみません」


 朔実がいきなり現れたつくもに怪訝そうな目を向ける。


「聞こえてしまったものですから。あのぅ……爽果さんと一緒におわたいの話を聞いても良いですか?」

「先生」


 山田は白の申し出に驚いて声が出た。


「あぁ、それは構わないですけど……」


 成継はそっと爽果に目をやった。


「いいですよ。私は気にしません」


 爽果が白を見た。


 白のタイミングの良さに、山田は気が抜けた。いろいろとフォローを入れてくれるのは、山田に気を遣ってくれているからなんだろうか。


「口伝を直接聞けるかもしれないね」


 楽しそうに山田に話しかけてくる白が、あまりにも無邪気だったので、気を遣っていると言うより、そういう性格なのかもしれないと思った。


 爽果におわたいのことで伝えることがあると言うことは、何か山田達には言わなかったことでもあるのかと、半ば期待してしまう。


 爽果が精進落としに集った人達に挨拶をしてから小走りで戻ってきて、山田達と一緒に公民館を出た。

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