4


私は息を切らしながら神社から脱出する。


「ゔぇっ」


急に走り出したせいか、途中で胃液が逆流しそうになる。横腹の傷口は、タイムリミットを示すように徐々に開き始めていた。


『ではまた後でだな!』


″手″の言葉が、耳に蘇る。


″手″が伝えてきた提案とは《地面に描いた魔法陣》と同じ魔法陣を血で描く、という事だった。


『場所は指定はしない。紙でも、手でも、地面でも。描くなら正直どこでもいいのだ』


″手″が言った言葉を忘れぬよう何度も心の中で復唱する。重要なのは、をどこかに描く事らしい。


どうやら、あの魔法陣を血で描くと直接魔界に繋がる入口になるらしい。少し小難しい話になるが、つまり魔界から魔法陣(入口)に手を突っ込んでいる、あの悪魔に会えるという事。

完全に召喚されなかった特権らしいが、最強の悪魔の癖に持ち運びに便利なのは、特別感がなくて少し腑に落ちなかった。


私は恐る恐る後ろを振り向く。

鳥居の真ん中に描いた魔法陣から″手″は出ていなかった。


肩の力が抜け、座り込みそうになる。


悪い夢だったのかも知れない。


そんな考えが頭によぎった瞬間、牽制するように唸り混じりの声が脳を震わせた。


。描かないのか?」


直接頭に響いた声はすっかり体の力が緩まり、安心し切っている私の体を再び硬直させる。


私は急いで硬直を解くと、バックからを取り出す。この紙屑は、元は大切にしていた魔法陣の本だ。

一部は捨てれず結局持ち運んでいたが、こんな所で使う羽目になるとは…。


「ええい、ままよ!」


私は虚しい気持ちを振り切り、言われた通りに魔法陣を指に着いた血で描く。


変化が見え始めたのは数秒後だった。


魔法陣の表面が水が入っているように波打ち、一瞬、天国のような景色が現れる。


一面には花が見え、青々とした空は魔界を想像させないぐらいに美しい眺めだった。


まるで、魔界とは思えない様な景色。


思わず見入っていると、角や翼が生えた龍のような姿の持ち主が翼をゆったりと揺らしながら私に向かって飛んでくるのが視界に入る。

″それ″はムカデのような多くの手足を動かしながら私に近づくと複数ある『目』を近づけ、大きな瞳として魔法陣の表面に現れた。

黄金色の瞳を囲うようにある鱗が煌めく。



驚きで呼吸が上手く出来なくなった。

″それ″はこの世界では異形とも捉えれる姿だった。なのに、少しでも触れたら壊れてしまいそうなぐらい繊細で、悪魔、というより天使に近い。





綺麗だ、と思った。

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