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え?
″何か虐められる理由があったんじゃないのか″って?……愚問な質問。
私だって柚月に好きで嫌われている訳ではない。何なら被害者だ。
きっかけは入学初日。
柚月に魔法陣についての本を眺めているところを見られたことから始まったんだろうと思うーー…多分。
呪いのように大量に描かれた魔法陣の本を見た、その時の柚月の顔は忘れもしない。
驚きと軽蔑を含んだ顔。
流石にその顔はないと思った。
私は眺めていた本をすぐに隠した。
が、時すでに遅し。
次の日にはあっという間にこの噂が広まり、私が虐められる原因にもなった、というわけだ。
※
「…魔物とか好きなんじゃね、あいつ。
厨二病じゃん」
取り巻きが柚月の顔色を伺いながら嘲笑う。
私は魔物が好きな訳ではなく魔法陣のフォルムが好きなだけだ。
そう反論したくなったが一応口を紡ぎ、柚月を睨むだけで留めた。柚月は意地悪く口角を上げ、冷淡な瞳で私を見下ろす。
「……ほんと、早く学校辞めれば良いのにね」
うるさい。
私は表情を汲み取られないよう顔を俯ける。
しかし瞳に溜まっていた涙は限界を迎え、大洪水を起こした。言葉も心から溢れ出す。
うるさい、ウルサイ、五月蝿い!
学校なんて行きたくて行ってる訳ないじゃないか。虐めるお前らも、見て見ぬふりするクラスメイトも、先生も、大嫌いだ。
これだから、
この世界なんて私は大嫌いなんだ。
「ーー葉々木さん、大丈夫?」
突如自分の名前を呼ばれ、私は我に帰る。いつの間にか
「…うん、大丈夫」
目の前の少女は心配そうに私の顔を伺う。
私は出来るだけ平然を装い、起きあがろうと腰を上げた。
「いてっ」
が、異常なまでに体が痛み、私は豪快に尻餅をつく。特に痛む部位、腕を捲ると複数箇所に抑えつけられたような痕跡が残っていた。
「……もしかして私、何かやらかした?」
柚月に殴りかかろうとでもしたんだろうか。
私が問うと顔で察しろと言わんばかりに、少女は引き攣った笑顔を私に見せた。
とにかく、何かやらかしたのは確定だろう。
「…何か、ごめん」
いたたまれなくなり思わず謝罪する。
少女は大きな溜め息を吐くと、手を差し出した。
「私こそ。……うちのお姉ちゃんがごめんね」
少女の名は、柚月 美穂と言う。
つまりは柚月の妹。
栗色の髪は真っ赤なリボンで無造作に束ね、下がった目尻は優しそうな印象を植え付ける。
「…別に。お姉ちゃんとか、そんなの美穂さんは関係ないじゃん」
私は目の前の手を握ると、よろめきながら立ち上がる。美穂さんはそうだけどさ、と顔を伏せた。
「…友達だから、心配じゃん。」
照れ臭そうに呟く美穂さん。
そんな所が彼女を恨めない理由の一つなのだ。私は気恥ずかしい気持ちを抑えながら、目線を紙屑が詰まった机へとずらした。
「…何それ。あいつらがやったの?」
目線に気づいた美穂さんは憤慨していた。
まるで自分の事のように怒ってくれているようで、何だか嬉しい気持ちを否めない。
私は紙屑を取り出しながら答えた。
「そうだよ」
元々、嫌な予感はしていた。
紙屑を広げると大量の魔法陣が見え、嫌な予感は確証へと変わった。
《魔法陣》と描かれた文字に、呪いのように大量に描かれた魔法陣。
間違いない。
この紙屑は、私の本だ。
大切に保管していた筈の、魔法陣の本。
場所は、美穂さんと私しか知らない筈なのに。
美穂さんは怒りを露わに声を荒げた。
「…許せない」
正直のところ私は怒りより先に呆れを感じていた。
《あいつ》が書いたのであろう、紙に殴り書きされた文字を読み上げる。
「《7ジニコウモンへコイ》。」
魔法陣を塗り潰すように書いてある文字を頭の中で変換し、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う。
《7時に校門へ来い》か。
これは、挑戦状というやつだろうか。
私を嵌めるつもりでも?
ーーホント、馬鹿馬鹿しい。
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