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重い瞼を開けると、一番に目に入ったのは化け物の様な『手』だった。体が全てが魔法陣に入りきらなかった、とでも言うのであろうか。龍の様な鱗に囲まれた『手』だけが滑稽に魔法陣の中から飛び出している。
見た目だけで言うと、よくある異世界アニメやなろう系の魔物の様なカッコいい姿ではなく貫禄もクソも無い見た目だ。漫画の見過ぎで、変な妄想でもしているんだろうか。
私は現実か夢か判断する為、頬を思い切りつねる。
……ちゃんと痛い。
きっと、幻視でもない限り、これは現実なんだろう。
──いや、でも待て待て待て。
だとしても普通、魔物とかならもっとカッコいい姿で登場するものでは無いか。
何か私が想像してた魔物と違う。期待外れだ。
残念な気持ちに苛まれながら、私は『手』に向かって話しかける。
「…あなた、誰ですか?」
誰、というか何者なのか。
魔物だろうか?
ここは神社だから神様だろうか?
再び頭を回転させていると、辺り周辺の空気を揺るがす雄叫びが響いた。
「我はサイキョーの悪魔だぁ!!!」
……は?
最強の悪魔。
私は『手』が言った言葉を心の中で復唱する。
「…む。なんだ、その微妙な反応は…。」
私の反応がよほど不満だったのか、『手』は悲しそうに項垂れる。
そりゃそうだ。
こんな姿で言われても、私にはいまいち実感が沸かなかった。
「…お主、なぜ我を呼んだのだ?」
『手』は何やら不満な様子で不思議そうに聞いてくる。
……どうせ、あの傷じゃ助からないだろう。
死ぬのもきっと時間の問題だ。
自暴自棄になった私はこの奇妙な物体に最後の望みを託して今まであったことを全て話すことにした。
「復讐したい人がいるの」と言って。
第一章
ぐわん、と視界が揺れる。
一瞬、目眩かと心配したが、小刻みに動く自分の机を確認してあぁ地震だ、と納得した。
地震が起こると、周りにいる人間の反応は同じ。皆、騒ぎ、恐れ、恐怖に打ちひしがれるはずだろう。
──だが、それももう遠く昔のお話。
「ぎゃっ!」
天井が崩れ落ちる音と共に鈍い悲鳴が上がる。
振り向くと、一人のクラスメイトが頭から血を流し、床にうつ伏せになって倒れ込んでいた。
多分、崩れ落ちた時の天井の破片が頭にでもぶつかってしまったのだろう。
しかし、周りの反応は素朴なものだった。
騒ぎを起こす者も、悲鳴を上げる者も、
駆け寄る者も。大半を除いていない。
この学校は、毎日起こる地震の影響で少しの衝撃で簡単に床やら天井やらが崩れ落ちる。
何も珍しい事ではないのだ。
みんな生きる為に必死なのも。
私は手元にある先程配られた、学校新聞に目を通す。新聞には《寿命》5歳下回るの見出しと共に、地震の影響で崩れ落ち、至る所で燃え盛る街の写真が記載されていた。
私はそれを見て、つい溜息を洩らす。
ほんと、いつから日本はこうなったんだろ…。
私は現実逃避するように目線を空に向けると、宙に向かって人差し指で円を描いた。ゆっくりと、感覚を味わうように円の中に星の形をなぞる。思わず笑みが溢れた。
……魔法陣、完成。
「葉々木?何してんの?」
吐き気を催す声が聞こえる。
悪寒を感じ、私は身震いした。
いつも聞いてる、嫌な声。
せっかく良い気持ちだったのに、サイヤクだ。
私は顔を顰めて声の先を睨みつけた。
「何?そこ、私の席なんだけど」
おっと、しくじった。最悪のミスだ。
やらかした、と頭を抱える私の横では金髪にゴリゴリのピアスをつけた、いかにもギャルっぽいクラスメイトが凄い剣幕で見下ろしていた。
──こいつの名前は柚月と言う。
言うなれば、こいつはこのクラスの一軍だ。
つまり、こいつに突っかかれば少々面倒くさいことになる、ということ。
柚月は不愉快そうに、耳たぶにつけたピアスをいじった。
「何、挑発?」
挑発?いやいやいや。勿論違いますよ。
と、苦笑いで誤魔化すものの表情には出ていたのか柚月は不満げに眉を寄せた。
…間違って座った机が柚月のだったなんて早々にサイヤクだ。
私は反抗心を剥き出しにしながらも、すぐに頭を下げ、謝った。これ、重要ね。
「…ごめん」
パチン、と乾いた音が鼓膜を震わせる。
同時に、騒がしかった教室は急に静まった。
私の頬にはじわじわと痛みが伝わる。
「…今度から気をつけてよね」
私は集中するクラスメイトの視線を感じながら、「ごめん」ともう一度謝る。
じんじんと痛む頬を抑えながら私は前の席へと移った。
前の席に移りおえると、屈辱のあまり机を思いきり叩いた。
クソクソクソクソ!!!
あいつ、頬叩きやがった!
悔しさのあまり唇を食いしばると、鉄の味が口中に広がった。
しかも、私の机に紙屑詰まってるし。
お前の仲間が私の机座ってたから間違えたんだろーが!
※
先に自己紹介させて頂く。
私の名前は葉々木 凛。
私が今住んでいる日本では年間一万人を超す災害関連の死傷者がいる。
政府は災害に対応するのに精一杯。
そのせいか、「いじめ」、「貧困」、「病気」は蔑ろにされるようになってきていた。
そこで問題。
私は今、柚月というクラスメイトに絶賛虐められ中である。当然、生きるのに必死な(と、までは言わないが)クラスメイトからは無視をされ続けている。
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