過ぐる日の過ち（宴の終焉）

第6話 父の人生

　忙しい中美咲は自分が診察できなかったことへの償いとして、被害者家族の会社「パックン」本店に向かった。そこには跡継ぎの息子賢三氏とその妻ががいた。本来ならば父で店主の夫にも同席してもらうのが筋ではあるが、実は店主の夫は交通事故で既に3年前に他界していた。

　だが、息子の賢三氏は美咲を見るなり何か……抑えきれない胸騒ぎを感じた。

（これは……何だろう？どこかで……どこかで……それがどこなのか？皆目見当がつかない。一体どこでこの女性と会っているのだろうか？）

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「この男……この男を殺して欲しい」

「分かったが……テメエちゃんと仕事してくれよな？」

「当たり前ですよ」

　この言葉は誰と誰の会話なのだろうか？

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　昔から美咲の父は金には汚い男で、金の為だったらどんな事でもする男だったが、強いものには巻かれろで、弱い者虐めは徹底しているどうしようもない男で、弱い立場の者から金をむしゃぼり尽くしていた。

　それでは美咲の父は、どのような人生を歩んできたのだろうか？

　高校を卒業して地元高地県土佐市で父親の仕事「カツオのひき縄漁」を始めたのだが、漁業用宣伝ポスタ－にたまたま写った龍馬が、余りにも目立っていたので東京のモデル事務所から声が掛かった。飛び抜けた高身長と抜群のスタイルに、東京のモデル事務所から声がかかり東京に出る事になった。

　そしてこの「龍馬」の名前の由来なのだが、同じ地元高知県土佐市出身の坂本龍馬の名前にちなんで付けられた名前だった。

　東京に出たは良いが、モデルだけでは食べて行けずにお金に困り軽い気持ちでホストを始めた龍馬だったが、これがつまずきの第一歩であった

　ホストの世界では人のお客様と連絡先を聞いたり、アプローチするのは”爆弾”と呼ばれてご法度だった。

　それは分かっていたが、まだ若い龍馬は人間関係で翻弄されることとなる。

　その当時の源氏名「龍」は、名前の龍馬から取ったものだった。

　実は……龍が、ヘルプに付いていた18歳の頃の話だ。際立ったルックスだった事もありナンバー1ホストジンにヘルプについた時に、トイレに立ったジンのお客様から「連絡先教えてよ。指名あなたに変えてあげる」と誘惑されてうっかり電話番号を教えてしまった。

　ルール違反をした龍は後日コテンパンに殴り蹴りされ、怖くなってホストクラブを辞めた。こうして以前スカウトされた事のある新たなホストクラブで働きだした。

　何故モデルの仕事がありながらホストを選んだのかというと、ホストのスカウトに声を掛けられ「夜ほんの数時間働くだけで高収入が保証されるよ」と聞いて、この世界に飛び込んだ。

　だが、龍が以前勤めていたホストクラブ「マジック」のお客様の３/１が龍がいなくなった事で、現在のホストクラブ「アイドルスター」に流出してしまった。

いつもニコニコ高身長でイケメンの龍がいなくなった事は、お客さんにすれば大きな落胆だった。

　もともと「マジック」のオーナーは、裏社会との関係が非常に深く、彼自身もまた暴力団員同然のオーナーだった。このような事から「マジック」のオーナーから恨まれとんでもない状態になった龍。

　殴る蹴るは当たり前、言う事を聞かないホストには、生きたままの魚をへっちゃらで口にぶち込むし、店の売り上げが悪くなったと難癖付けて店長に『指をつめろ』と迫るし、実際に詰めさせられた店長もいたらしいとんでもないオーナーだった。　

　当然のことマジックのナンバー1ホスト「ジン」もブチ切れた。それはあんなオーナーなので締め付けが厳しい。その為ジンは、部下に龍を襲撃させた。だが、龍を襲撃した時にはホスト仲間が一緒だったので、多くの怪我人が出た。

「てめえ人の客を奪っておきながら、この俺様に何の挨拶なしに、勝手に辞めやがってオイ！ヤレ！」

　ボカン／/✕/　ドスン／✕／/　グシャン/／/✕　

「止めて下さいよ。ジンさんが暴力振るったからじゃないですか？」

「何を―――――ッ！カカレ―――ッ！」

ドッカン／/✕/ガッシャン/／/✕　ボカン／/✕/　ドスン／✕／/　グシャン/／/✕　

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　こんな過去がある美咲の父龍馬は、弱い者には徹底的に刃向かうが、その反対に強いものには、からきし弱い情けない男だった。このような父龍馬だったので、知らぬ間に恨みを買っていた恐れがある。

　こうして父龍馬はこのような性格が災いして、いくらルックスが完璧でも裏街道を歩くこととなった。

　だが……ここで疑問に残ることがある。父はホストクラブを辞めて15年以上も経っているのに事件が発生した。何故今更過去の呪縛に囚われなくてはいけないのか？

　恨みは薄れて行くだろうに………。

　警察官が葬儀の時に意味深なことを言っていた、あの言葉が意味するものとは？。

「お父さんの死因には不審な点が多々見受けられます」

　一体何が言いたかったのだろうか？

　まるで…ホストクラブ時代ではない……何かを暗示しているような……あたかも別に犯人がいるような……？

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　美咲の父はパチンコの帰りに夜道で殺害された。

　あんな父だったせいか敵が多く、美咲が東京に出た年に殺害されていた。どうも……ホストクラブ時代の同僚との付き合いが続いていたが、その関係者に殺害されたらしい。まだ犯人は捕まってはいないが、海外に逃亡したらしい。

　ところがだが、調べていく内に敵対関係にあったホストクラブオーナ－は既に亡くなっているらしい。という事はやはりホストクラブ時代のホスト同士の人間関係のもつれなのだろうか？

　また、防犯カメラが設置されていたにも拘らず夜の映像全体がまったく映らなかった。そこで原因として考えられたのが、防犯カメラのナイトモードに何かしらの不具合が生じている。LEDライトの電池が切れている。微光監視型防犯カメラにも関わらず光源がまったくない。防犯カメラの前にゴミや障害物がある。

　父親が殺害されたこの事件は2000年当時の事件なので、従来の安価で手に入る防犯カメラだったせいもあり映っていなかった。

　こうして犯人は法の網をかいくぐり海外へ逃亡したものとみられていたが、知らべを進めていく内に別の犯人が浮上してきた。