第2話 父の死


「オイ!サッサと稼いで来んかい!おぬしがどうしても一緒になりたい。そう言いよって押しかけて来よったぜよ。早う風俗でも何でもして働いて来んかい!金が底をついとうだろうが、えーかげんにせー、おどりゃー💢」


 ボカン//✕/ ドスン/✕// グシャン///✕ 


 こんな父だったせいか敵が多く、美咲が東京に出た年に殺害されていた。どうも……ホストクラブ時代の同僚との付き合いが続いていたが、その関係者に殺害されたらしい。まだ犯人は捕まってはいないが、海外に逃亡したらしい。


 ハッキリ言って清々している。可哀そうな母を見ていられない。

 だが、警察官が葬儀の時に意味深なことを言っていた。


「お父さんの死因には不審な点が多々見受けられます」

 一体何が言いたかったのだろうか?

 まるで別に犯人がいるような………。


 それでもこんな父でも……たった一人の娘美咲にはとても優しい父だった。 



 子供の頃の美咲は成績優秀で、普通の友達からすれば手の届かない遠い存在の高嶺の花的な女の子だった。だが、こんな完璧な女の子なのに天狗になる訳でもなく、誰でも受け入れる寛大さのある優しい女の子だった。だからこんな性格が功を奏して友達が多かった。


 一方で当然のごとく、これだけの美人で成績優秀な美咲は妬みと嫉妬の対象でもあった。


 でも……それは赤の他人が美咲に対して考える事であって、美咲には全く別の考えがあった。一歩家の中に入れば学年の中でも最底辺の環境下に置かれていた自分の、どこに誇れるところがあるというのだ。


 美咲は内心、こんな両親のせいでコンプレックスの塊だった。


 それというのも父は昔ナンバー1ホストだった癖が抜けきれず、女が稼いで貢ぐのは当たり前の腐りきった人間のクズ。一方の母も同じような境遇でクラブホステスをしており、母が父に惚れ込んでホスト通いをするようになり美咲が生まれていた。


 それではナンバー1ホストだった父が何故母と結婚したかって?


 それは美咲がお腹に命を宿したことで仕方なく結婚する羽目になっただけの事。

それから……母と結婚を決意する頃には、父は既にナンバー1ホストではなくなっていた。それだけホストクラブというのは浮き沈みが有るという事だ。


 こうして早々にホストに見切りをつけて、父と母が稼いだお金を元手に、2人でホストクラブを経営したが上手くいかず、母が働く羽目になった。


 だから家はいつも貧乏のどん底だった。こんな状態なので恥ずかしくて家に友達なんか連れて来れたものではない。こんな事情もあり天狗になんかなれる訳がなかった。


 同級生の大半は堅気の商売人やサラリ-マンの子が殆ど。こんな水商売の両親の事など恥ずかしくて話せたものではない。おくびにも出さないで学校に通っていた。

 

 どんな成績の悪い子供でも父親が会社社長だったりするので、反対にこっちのほうが恐縮してしまう。


 こんな子供時代だったせいもあり、美咲は庶民派の医師として患者さんからの受けが非常に良い。



 ★☆


 医師不足の昨今、美咲は本来であれば夫ジョ-の収入で十分生活できる身でありながら今も大学病院に勤務をしている。


 それは当然病気で苦しんでいる人を一人でも多く助けたい。そんな思いからなのだが、あんなどうしようもない父のせいで可哀想な母を、こんな闇から救い出したいその一心から医師を目指したのだが、そんな父ももういない。


 それでも夫に対して申し訳ない。母一人くらい自分で稼がないと、と思い医師を続けている


 ★☆ 

 東京に出て来てもう20年近く経つ。


 あの時はどうしようもない父から母を助けたい一心で医師を目指して、東京の医学部を受験したが一年目は不合格だった。それでも一浪してなんとか合格できた。日本最高峰の東京大学医学部には当然合格出来なかったが、他の国立東都大学医学部に合格できた。それこそ死ぬ思いで勉強に取り組んで合格を勝ち取った。


 元々高知県には良い思い出などひとつもなく両親を説得して東京に出た。

「医者になって仕送りするから」この言葉を口実に両親の元を離れる事が出来た。


 内心あんな両親とも離れて暮らせるのでホッとした。


 だが、先立つもの……それはお金だ。当然親など全くあてにならない。医者になる為にはいろんな事をして金の工面をした。それこそ人に言えない事もして、やっとのこと医学部を卒業することが出来た。


 こうして無事に医者として同じ東都大学医学部付属病院で勤務することになった。そしてジョ-が搬送されて来た時の脳神経外科の担当医が美咲だった。












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