第5話 内気な少年が小説を見せるとクラスの人気者と初めての友達になる

 神堂玲央はサッカーが上手いクラスの人気者。


 背は低い方で格好良いと可愛いが同居していて女子からの人気も高く、社交的で明るい少年と光輝から見れば自分とは正反対に思えた。


 その光輝も可愛い顔をしていて本人にその自覚は無いが。



 体育でサッカーの授業となり彼がボールを操ると女子だけでなく男子も惹き付けるような魅力がそこにあり、光輝も目でその姿を追って行く。


 暗く孤独な世界に居る光輝とは対照的に自分の名前のように光り輝く世界に居る玲央、そんな彼が自分と関わる時などその日までは無いだろうと思われた。



「なあ、雅野」


 夏休みが終わって最初の登校日、授業が終わって帰ろうとしていた所へ玲央に声をかけられて光輝は玲央へと振り向く。


 珍しく自分へと話しかけてきた玲央は一体どんな用があるのかと内心緊張し、彼の次に発して来る言葉を待つ。




「夏休みの時お前さ、ワイワイパークいなかったか?」


 ワイワイパークは夏休みに光輝が家族で行っていた遊園地の名だ、そこに行ったのは確かなので光輝は「うん」と頷いて答える。


「俺もその時家族で来てたんだけど雅野、ずっとスマホ弄ってたよな。遊園地で一体ずっと何してたのかなって」


 近くに行ってスマホを覗き見する訳にはいかない、だが気になっていた。普段学校で1人の光輝が一体スマホを使って何をしているのか、玲央にはその好奇心に抗う事が出来ず本人に聞けばすぐ分かると思ってこうして訪ねた訳だ。



「えっと…小説、書いてたんだ…」


 別に小説を書いているというのは内緒にはしていない、知られて困るという事は特に無いので光輝は玲央へと正直に教える。誰かにこうして小説の執筆をしてると伝えるのはこれが初めてというのもあって光輝の声は緊張していた。


「小説って、文字いっぱいで学校の作文みたいにひたすらびっしりと文字を書いていくあれか?」


「そう…なのかな。作文と違って文字で物語を書いて…絵が見えない漫画みたいな感じ…かな?」


 どうも上手く説明が出来ないと感じ、これで伝わるのか不安に思いつつも光輝は小説について玲央へと伝えている。



「漫画はしょっちゅう見てるけどなぁ、小説は…う~ん。見た事無いからどんなんか分かんねぇや」


 玲央の部屋の本棚には主に漫画が置いてあり小説の類は無い、彼もパソコンやスマホを持っているが利用方法は主に大手の動画サイトでお笑いやグループの動画を見たりゲームをするのに使うぐらいだ。


「じゃあ学校終わったらスマホ持ってこようか…?見てもらう方が早いと思うから…」


「ん?おお、そうだな。んじゃ公園で待ち合わせな」


 そう言うと玲央は先に教室を出て帰宅して行った、この後再び玲央に会う。


 思えば誰かと待ち合わせをする事など今まで同年代相手では無かった、このまま友達になれるのかと光輝は期待に胸膨らんでくるが彼に小説を見せて受け入れられずつまらないとなったらこの縁は一瞬にして切れてしまう。


 何時もなら帰宅するとそのまま家からは出ないのだが、この日は初めて帰宅してランドセルを置いた後にスマホを持って再び外の世界へ自ら出向いて行った。






 自然と足は急いでいて夏の残暑が残る秋空の下、光輝は息を切らしながらも走る。


 玲央を待たせたくないと思い1秒でも速く公園へとたどり着きたかった。


 近所の公園はかなり大きく緑豊かであり、光輝より小さい子供が母親に付き添ってもらって遊具で遊ぶ姿が主に目立つ。


 キョロキョロと周囲を見る光輝、見た限り玲央の姿は無い。公園の場所を間違えたのかと頭の中でそんな考えが過ぎると。



「速いなー、もう来てたのか」


 光輝の後ろから声が聞こえてきて振り返れば玲央がそこに立っていた、どうやら光輝の方が若干早く来ていただけのようだ。


 2人は空いているベンチに座り、光輝がスマホを取り出すと小説サイトのページへと飛び自らの小説を玲央へと見せる。


「これが僕の作品だから…」


「ファイナル・パスワード、舞台が俺らの居る世界と同じ日本なんだな。主人公が高校生のハッカーで仲間が強面な探偵のおっさんに女性刑事のお姉さんと」


 光輝がスマホでそのサイトに行ったのを見て玲央も自らのスマホで小説サイトへと飛んで光輝の作品ページを見てみる、キャラの紹介を見てみれば彼によって考え生み出されたキャラ達のプロフィールが書かれてあった。



 そして玲央はその作品を読み始めれば無言になる。


 公園では子供の遊ぶ声が主に聞こえていて光輝と玲央の間に会話はなく、玲央が小説を読んでいる間に光輝は公園の景色を見ているぐらいしか出来なかった。


 あまり玲央の方をジロジロ見ても彼の集中力を奪うだけになりそう、気になりはしつつ光輝は終始落ち着かない様子だ。


「なあ」


「え?」


 急に玲央から声をかけられ光輝の身体はビクッと跳ねて驚く。


「これ、続きは?この後は?」


「こ、この後?えっと…まだ書いてなくて…」


「次の話何時出て来るんだよ?」


「その日によるから分かんないけど…早かったら明日、かな?」


 玲央は光輝へと詰め寄っていた、彼は1話から最新話まで読み進めており続きはないのかとその作者に質問責めだ。



「これ、面白いから先気になる。お前面白い話書くんだなぁ」


「そう?」


 光輝の事を凄いと思う眼差しで見る玲央に光輝は照れたように笑う、現実で目の前で小説を見てもらうのは何処か恥ずかしさもあったが見てくれて面白いと思ってくれた事が何よりも嬉しく思えた。


「あー、でも…刑事のお姉さんはちょっとなぁ」


「え?な、何か気に入らない事でも?」


 作品を褒めたかと思えば玲央は女性キャラに何か思う事があるらしく、光輝は何かダメ出しでもされるのかと思い先程褒められて嬉しかったのが一転し緊張感が一気に出て来る。




「体型とかそういうのが何か分かりづらいし、キャラ紹介にスリーサイズとかそういうの書いたらもっと分かりやすく伝わるんじゃね?」


「スリーサイズ…って」


 その言葉の意味を光輝は知っていた。女性の身体のサイズを意味している事は理解しており光輝も異性に興味を持つ年頃であるが彼は言葉を聞いて想像したのか顔が赤くなってくる。


 それは残暑の暑さによるものではないだろう。


「あー、何想像してんだよー?」


「し、してないから…!スリーサイズは、えっと…考えてみる…」


 玲央にからかわれつつも彼の意見を参考にし、キャラ紹介を付け加える必要は出て来た。文字ばかりで絵が無くイメージは伝わりづらいのでなるべく読者に文字で自分の描くイメージを分かりやすく伝える必要はある。



「とりあえず俺、此処ブクマして作品フォローしとくな。続き楽しみにしてるからさ!」


「あ、うん…明日ぐらいには仕上げてみるよ」


 リアルで応援してくれる声というのは応援コメントとまた違った嬉しさがあり、光輝と玲央は互いに笑い合う。この後スマホで互いの連絡先を交換し帰宅。



 小説を書いて初めての友人が出来た、これに光輝はモチベーションが上がり明日には仕上げると玲央には伝えたのがその日の内に1話を完成させて最新話を投稿する。



 小説の活動を始めて行くうちに光輝の現実においての環境にも変化が起き始めていた。

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