第6話 スランプで悩む内気な少年が初めて友人と遊びに行く
「おーい、光輝ー」
一体彼が何時名前の方で呼んでくれるようになったのか、具体的な日は覚えていない。光輝の方も友人となった彼に対して「玲央君」と自然にそう呼ぶようになっていた。
「この前の話良かったなー、けどあのシーンもうちょっと迫力欲しかったかも」
「ああ、あれかぁ…キャラの顔とか表現に後周りの風景も足りてなかったかな?」
学校の教室にて光輝に親しげな笑みを浮かべ近づくと玲央は光輝の小説について喋る、彼は素直に感想を述べていた。面白いと言う時もあれば此処のシーンは違うんじゃないかと良くない箇所を言ったりする。
光輝の方もそれを参考にして一度書き上げた物に修正を加えたり打ち直したりしていた、そのおかげかどうかは分からないがPVの方は伸びて行き累計は3桁を超えていく。
最近はPVの伸びる速度が速くなっている気がする、最初の頃は緩やかな感じだったが今は日によってはグンと伸びて多い日には1日だけど50PV稼ぐ程になった。
それでもまだ上とは雲泥の差ではあるが書き始めた初心者レベルでは健闘している方かもしれない。
「うーん…」
パソコンの前で何時ものように執筆を開始する光輝だがこの日は中々手が進まない、次の話が中々降りて来なくて思い浮かばないのだ。
最初の頃は勢い良く色々書いていたが話数を重ねてくると段々話は思いつかなくなり、続きを書くのは話数を多く重ねる程に難易度が増していく。
光輝に限らずこういう事はほとんどの作家がそうなのかもしれない。
おやつの時間になったので席を離れ、好きなショコラケーキを食し濃厚な甘さで癒されるも頭は何も浮かんで来ない。
風呂へ入って湯船に浸かりリフレッシュしても話が出て来てくれずこの日は1文字も書けなくて1日が終了する。
朝の通学路、何時も通り学校へ向かう通り道で玲央に声をかけられ光輝は2人で並び歩く。玲央と仲良くなってからはこれが当たり前となりつつあった。
「どした?何か暗い顔してるぞ」
その玲央は光輝が何処か元気が無い事を隣で歩いていて見抜く、彼に隠していてもしょうがないと光輝は正直に今抱えている悩みを打ち明けた。
「何か…思い浮かばなくて、次どういう感じに書いたらいいのかなって」
「ははぁ~、なるほどね。つまりスランプってやつだな、プロのスポーツ選手が調子悪いってなってたら実況してるのがスランプだって言ってたし、多分それだろ」
玲央はプロサッカーの試合を見ていて人気の選手が調子悪くてプレーが上手く行かない、そういう時に実況するアナウンサーがスランプだと伝えていた事を思い出す。光輝も今まさにそれと同じ状態、つまりスランプなのではないかと。
「こういうのってどうすればいいんだろ、何も書けないし…」
「そうだなぁ、書いてばかりじゃなく気晴らしに遊びに行くってのも良いんじゃね?俺らまだ2人でどっか遊びに行ったとかないしさ」
悩む光輝に玲央は遊びに行かないかと提案、執筆しようにも今の状態では進みそうにない。それに光輝としても玲央と遊びに行くというのは魅力的な誘いに聞こえ、断る理由は何もなかった。
土曜日に2人で遊ぶ約束をして何処に行こうかと光輝はその夜、布団の中でそれを考えながら夢の世界へと誘われて行く。
迎えた学校が休みな土曜日の朝。
朝食を済ませ、出かける支度をして光輝は家を出て急ぎ足で待ち合わせの駅前へと向かう。
土曜の駅前はかなり多くの人が行き来している姿があり、人の波に小柄な体が飲まれそうになりつつもなんとか広場へと辿り着くと光輝はその場で玲央を待つ。
スマホの方には特に玲央からの反応は見られない、ひょっとしたら未だに彼は夢の世界にいて大遅刻の可能性があるかもしれない。
まだかなぁと光輝が柱を背に預けて待っていると。
「悪い、遅れた!」
「玲央君…!連絡無いからまだ寝てるかと思ったよ」
「連絡?あ、急いでて気づかなかったわ」
玲央は急いで来たようでそこに意識が行きスマホで連絡というのは考えから抜け落ちていたらしい、とりあえず大遅刻という事は無く無事に合流出来たので2人はどうしようかとその場で考える。
「玲央君の事だから、休日公園でサッカーかなって思った」
「休みの日までそれをやる気は無ぇって、24時間サッカーの事しか考えなくて街中をドリブル移動とかそういうのは漫画の世界だけだし!」
サッカー部に所属している玲央だが彼はサッカー馬鹿ではない、好きではあるが休日の日までそれをしたいとは思わず学校や部活が無い自由な時間はそれ以外の好きな事がしたいと思っている。
「とりあえず歩こうぜ」
「うん」
多くの人々で賑わう駅前から一旦離れ、歩き始める光輝と玲央。
何処で遊ぶか考えるが小学生2人の予算は限られている、場所はかなり限定されてそこまでの選択肢が彼らには無いというのが現実だ。
少ない予算でゲームセンターに行って楽しむか喫茶店かファーストフード店で軽食をとるか2人が考えていると学校前を通りかかる。
2人が普段通う小学校ではない、そこは高校だ。
普段なら一般の者は入れないが今その高校で文化祭が開催されており入場出来るようになっていた。
「文化祭かぁ…よし、行ってみようー」
「あ、玲央君!」
こういう祭りには心躍る物があり、それを抑えきれない玲央は好奇心に抗えず駆け出して高校へと向かい光輝もその姿を見れば慌てて追いかけ文化祭が開催されている高校の正門を通って行った。
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