第4話 少年は小説に夢中

 あれから話数をどんどんと光輝は書き進めて行き、暇さえあれば執筆。スマホからも執筆と学校に行く以外はほとんど小説を書いたりして時間を使うようになっていた。


 学校へのスマホ持ち込みは禁止なので平日は半日ぐらい小説は書けない、そこは我慢して何時も通りの一人ぼっちな学校生活を送る事となる。



「はぁ~」


 季節は蒸し暑くジメジメする梅雨から夏の太陽が照らされ、燦々とした輝きから猛暑が発生しており外を歩く人々が団扇を扇いだり冷たい飲み物やアイスで暑さを凌ぐ中で夏休みを利用して執筆をする光輝もまた暑さに苦しめられていた。


 手に汗が滲んできてマウスやキーボードが汚れ、それを拭き取るという作業が続き暑さで集中力が乱れて上手く考えられず執筆が上手く行かない。


 着ている蒼い半袖のシャツも汗でベタついてきてしまう。


「休も…麦茶麦茶…」


 暑さで喉が乾きやすく身体が水分を欲してくる、光輝も飲みたいとなって冷蔵庫へ急ぐ。


 開けた瞬間に暑さを忘れさせてくれる冷気がひんやりとして心地良い、出来る事ならしばらくその感覚に浸りたい所だがそれは駄目だという事を光輝は分かっている。


 目的の麦茶を取り出し、コップに注いで飲めば冷えた麦茶が喉を通り暑さは和らぐ。



 なんとか考える力を少し取り戻すと光輝は気温の最も高い時間での執筆は無理にやらない方が良いと感じた、自分の部屋はリビングみたいにエアコンはついていない。せいぜい団扇で扇いで暑さを凌ぐぐらいだ。


 だったらエアコンが効くリビングでスマホから執筆しようと考え、自分の部屋での執筆は気温が下がる朝か夜辺り。



 書いていてこんな苦労まであるんだと同時に光輝は毎日休まず投稿している作家が改めて物凄いと感じた。


 厳しい暑さや寒さの中でも関係なく書いているんだなぁ、と。



 暑さからなんとか凌ぎつつ光輝はまた一つ1話を完成させると投稿、最初の一歩を踏み出してから彼の投稿ボタンをタップする手はスムーズだった。



 最初のPVは一桁から始まった光輝の書いているファイナル・パスワード、それも徐々に見る人は増えて作品をフォローしてもらうようになっていく。


 PVは二桁を突破していき50を超えて100に届くかもしれない所まで来ている。


 上の方だと累計のPVが何千万とか行く作品が数多くあり、その中には億単位にまで達するとんでもなく見られている物まであったりした。


 一体何をどうすればそこまで行くのか、今の時点でそういった世界とは全く縁の無い光輝には想像がつかない。


 そこには程遠いがPVは少しずつ伸ばしている。見てもらえている、少なくとも全く見てもらえないというレベルからは抜け出してるだろう。


 ほんの少し見てくれてる、という感じだ。



 そしてコメントはまた一つ来ていた。



「強面な探偵が渋くて格好良いです!現実でこういう探偵いたら頼って依頼したい、この先も楽しみにしています♪」



 頻繁には来ない応援、来る事は結構レアだった。


 応援のコメントを貰うと嬉しさから笑顔になれて、こういうのが来るとまた次の話を書く良いモチベーションとなってくれる。



 自分の書いた小説、そのキャラが褒められるとやっぱり嬉しいものであり光輝はその日の1日が充実出来て楽しく思えた。










 夏休み、家族3人で近所の遊園地へと遊びに出かける。


 一緒に遊びに行く友達はおらず何時も1人で小説を書いている事に秋吉や麻美子は光輝を外へ連れて遊びに行くのが良い、そう話し合って此処にやってきたのだ。


 夏休みの遊園地とあって光輝達のような家族連れの姿が目立ち、学生達やカップルも多い方。



「お、ジェットコースターでも乗るか光輝?」


「…!い、いい…乗らない…」


 遊園地でかなり派手な動きを見せて人気となっているジェットコースター、秋吉の誘いに光輝は首を横に振り断固乗らないと決める。


 ジェットコースターに乗る人々の悲鳴が光輝の恐怖心は増していき機械の故障とかレーンが手違いで、と想像するだけで恐ろしい。


 それより麻美子とメリーゴーランドの馬車に乗って回る方が好きで光輝は母と共に馬車へ乗り込んでいた。



 メリーゴーランドから見える遊園地の風景、人々の楽しそうな顔が光輝には見えてその光景は光り輝く物に感じ一つのシーンが浮かぶ。



 こういうのを自分の小説でも入れてみたい、遊園地を使った話やシーンも書いてみたいと執筆への欲求が生まれて来る。






「いやー、まいった。次まで100分待ちだそうだ」


「あらそうー、どうする?」


「まあ時間もある事だし待つよ、麻美子は光輝を休ませてあげてくれ」


「あらあら、光輝の為の遊園地のはずがあなたが夢中になって遊んでるじゃない」


 アトラクションへ向かう秋吉が子供みたいな感じに見えて麻美子はその姿が微笑ましく思えた、そんな所にも彼女は惹かれて彼と結婚し結ばれている。


 光輝はその2人の元に生まれ、2人の愛情を受けて育った。



 そんな息子の為に麻美子はアイスを二人分売店で購入し光輝とベンチで座って食べる、光輝はチョコレートアイス、麻美子はストロベリーアイスだ。


 キンキンに冷えて甘いアイスを夏に味わうと元々美味しいアイスが更に美味しく感じ、猛暑で溶けてしまう前に早めにアイスを共に完食する。



 光輝の方はスマホを取り出すと待ち時間の間に少しずつ小説の執筆をしていた。


 先程思いついた遊園地のシーンを忘れる前にある程度書いてイメージを固めるつもりだ、遊園地を楽しみつつも小説を書く事も忘れられず生活の一部にとっくになっている。




「…(あれ、雅野か?何やってんだろ、遊園地来てんのにあいつスマホばっか弄ってるし)」


 黒いキャップを被り、そこから見える銀髪。赤い半袖のパーカーに黒い短パン、光輝と同じ年ぐらいの少年で内気な光輝と違って勝気そうな顔をしている。


 光輝がスマホで何かをやってるのを同じ学校に通うクラスメイトの神堂玲央(しんどう れお)に見られている。


 その事を光輝は知らないまま1日を過ごす。

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